95年8月上旬
8/1(火)
留守電を聞いてみたら、とんでもない事態が起こっている事実が判明。『TVBros』に送ったはずの原稿が届いていなかったようなのだ。校了は明日、というんで泣き声の留守電がいっぱい入っている。いかん。のんびり休んでいる場合ではなかった。一日早く切りあげて、翌日帰ることにする(これ幸いと……ということはないよ)。
8/2(水)
7時の新幹線で帰宅。郵便を片づけ、原稿を送り直し、ビールを飲んで読書。一応まだ夏休みだしね。京極夏彦の『魍魎の匣』を読みふける。いやーおもしろいわ。でもなんでこれ読んだのか、自分でもわからないんですよ。たしかみんな褒めてたと思って買ってみただけなんです。だからどういう作家なのか全然知らないのだ。誰か教えて。
8/3(木)
今日ものんびり……と思ったが矢継ぎ早の電話催促でそうも言ってられないことに。もう飽きたよエド・ウッドの原稿書くのは。しかし、考えてみたらここんとこ全然映画見てない。これでも一応映画日記なのに。でも来週まではそれどころじゃなさそう。
8/4(金)
ぼくの恥ずかしい姿が全国的に放映される。でも知り合いはみんな見忘れてたみたい。いいんだよ、それで。
8/5(土)
2時からシャドウの秘密会議で広尾。地下鉄で隣に座っていた女性は、膝上30センチの超ミニに白のノースリーブのサマーセーターという姿で、スポーツバッグいっぱいに競馬新聞をつめて一部読んでいたんだが、あれはなんなんだろう? ターフライターって奴か? 桝山さん、nt氏、大森望らたくさんの人が集まって、シャドウの謎を解くという中身については秘密(単に面倒くさいだけだったりして)。でもピクスピ就職のひみつは知ってしまったからいいのだ。
8/11(金)
午後、茅場町のギャラリー・マキへトミー・トランティーノ展を見に行く。トランティーノは死刑囚の詩人/画家。ヘンリー・ミラーと文通しているそうです。ほとんどジャック・ヘンリー・アボットだ。絵は予想通りのものでした。未熟な暴力の噴出。これに金を払うくらいなら15万円でダイアン・アーバスを買ってます。
東銀座のマガジンハウスへ行って、『ブルータス』の滝本氏に会う。例の疑惑の原稿(7/19参照)は一応承知の上だったことが判明。『ロニー・ロケット』とブラック・ダリア事件の記事が載っているLAマガジンを交換。その後新宿・伊勢丹で手塚治虫展を見る。ほとんど単なる原画展だが、それだけでも全然かまわない感じ。昔の日記とか昆虫図鑑とかがものすごくて、これが天才ってもんなんだろう。
ほとんど一週間分遊んだ感じだけど、なおも東中野のBOX東中野でやる『史上最低映画祭』を覗きに行く。江戸木純とひとしきり最近の映画の悪口。「ここでやってもいいくらい」というのが合い言葉になってしまった。「『イースト・ミーツ・ウェスト』見た?」「ここでやればいいような奴だよ」『ピンク・フラミンゴ』を1時間くらい見て、終電で帰宅。
8/13-16
連日『SHOAH』を見る。ホロコーストについての9時間半のドキュメンタリー。仕事完全ストップの夏休み状態。参ったなあって話、二つ。(1)トレブリンカかどっかの収容所で使用したガス・トラックの改良を命じる命令書。徹頭徹尾事務的に書かれているのが恐怖感を増す。「……後部ドアを閉じると、積載物が一気にドアに殺到するので、重量バランスが崩れる恐れがある。このため、室内にライトを灯すべき……」(2)収容所へのユダヤ人の移送を、ドイツ国鉄は運賃を取って行っていた。払うのは依頼先であるゲシュタポ。運賃ですから、もちろん子供半額、4歳以下は無料! しかも財政難だったゲシュタポは、団体運賃の適用を交渉し、許可された。なんだろう、このリアリズムは。どんな想像力も追いつかないすさまじいブラック・ユーモア。
16日。『ジャッジ・ドレッド』を見る。「ここでやってもいいよ」と江戸木純は言っていた(笑)。まあ立派なバカ映画である。それにしてもサントラがすごすぎる。The
Cure, THE
THEにチャゲ飛である。ひょっとしてチャゲもアメリカではオルタナなのかな。ザ・ザのライヴにいさんで出かけたぼくの立場はどうなってしまうんでしょう。頭痛い。その後TCCで『金玉満堂』を。ツイ・ハーク監督、レスリー・チャン&アニタ・ユン。中身は完全に『料理の鉄人』(まあ『包丁人味平』の方が近いか)。この徹底したパクリ精神がないから、日本映画はダメなんだよな。予想通りの落ちまで大笑い。
8/19(土)
千駄木の全生庵まで〈円朝まつり〉に出かける。円朝が集めた幽霊画のコレクションの公開と、本堂で三遊亭一門の落語会がある。となるとてっきり怪談話をやるもんだと思うじゃないか。ぜーんぜん違うでやんの、インチキ。鳳楽は『唐茄子屋清談』(つまらん)。幽霊画の方は見物で、芳年が描いた肺病病みの芸者ってのがさすがに凄みあり。月岡芳年は今各方面からチェックが入っていて、今後株の高騰が予想されるのことよ。
8/20(日)
『GOJIRO』読了。ぼくのレビュウを読んでも買う気にならなかった人は、せめて訳者後書きだけでも読んで欲しい。熱狂的トカ友たる31歳の男としては、ちょっとたまらないエンディングだった。そう、ゴジラは神なんだよ。誰がなんと言おうとさ。
8/21(月)
『ワイアード』が届いたので読む。つまらん。加速度的につまらなくなっていくような気がするのはぼくだけか。カバー・ストーリーは一太郎(!)だが、このセンスよりも何よりも、一太郎自体についての分析をまったくしてないってとこが信じられない。だいたい、一太郎が松に勝ったのってコピープロテクトをしてなかったからでしょ。ジャストシステムは日本人のモラル意識の低さを逆手にとってシェアを拡大したのだ(まあ偶然かもしれないけど)。そこんところに触れないで、一太郎の何を語るというのだ。
偉そうに「【TRIED】オジさんたちがデジタル革命やネットワーク社会の未来像を求めて、頑張ってWIREDを読もうと挑戦すること」なんて書いてあるが、ぼくにはそれを目指してた雑誌だとしか見えないのだが。
それから川崎和哉さんぼくはSurfwatchとかは支持します。
8/22(火)
午前中、自転車で茗荷谷の区営プールまで出かける。最近は週一ペースで。でもババアと中学生ばっかのプールに漬かってると、マジでプロレタリアートって感じー。たいして泳いでないのに疲れ切ってしまって、一日うだうだしてたら終わってしまった。
8/23(水)
今日から妻に騙されて受けることになった予防歯科(歯の磨き方の練習)じゃ。どうも奥歯の方が歯槽膿漏気味らしい。最高に弱まったぼくの歯茎を見せようかと思ったが、レントゲン写真をくれなかったのでなし。それにしても、免許の関係でレントゲンを撮れない歯科衛生士のお姉さんが、シャッターだけ横で他の患者を治療中の医師に押してもらってるのがおかしかった。「はい、じゃあ先生お願いします」「カシャッ」なんならぼくが押してあげても良かったのだが。午後、エーアイ出版の二階堂氏、その後川勝さんとASAYANの打ち合わせ。
8/24(木)
『超常現象事件・Xファイルの謎』が届く。中には大森望とかオスマン・サンポとか三村美衣とかrimにフックしている人たちとの座談会が載っている。おもしろいのかどうかは知らんよ、無責任だけども。にしても「評者未見につきレヴュウなし」ってなんだよ(>サンポ)
あとエド・ウッド・コレクションのパンフも。中身はほとんどぼくと江戸木純二人で書いた。同人誌のようなものだ(笑)。と思っていると江戸木から電話があり、週プレの原稿の代打を頼まれる。なんと水疱瘡にかかって特殊メイク入らず状態だそうな。「すべてサイテー映画祭(8/11)のせいだー」とうめいている。そりゃまったくサイテー(笑)
8/25(金)
『BRUTUS』の取材でトンデモ本座談会。山本弘会長、唐沢俊一氏と五反田・UFOライブラリーで待ち合わせる。『BRUTUS』の編集者が普通とちょっと違う反応をしめす人(トンデモ編集者か?)だったので、どんなものだか見るのがいちばんの楽しみだったと言われている(だって、「と学会の方ってどういう食事がお好きですか?」とか聞くんだぜ。やっぱ「メガ・ヴィタミンとスマート・ドラッグで毎日バリバリです!」とか答えなきゃいけなかったかなあ)。
変な写真を撮られ、その後白金の高そうなレストランに移動してお食事しながら話す。ちなみにぼくは『パンダと覚醒剤』と『私の父は食人種』、それにエド・ウッドが書いた本を持ってゆく。まあ受けたから良かったかな。やはり、ミンダ女王とサイルナイルデビルの宇宙の存亡をかけた漫才は受けていたようである。帰ると映画『エド・ウッド』のパンフ届いている。実はとうの昔に公開していたバカ対談が載っているのであった。公開、延びに延びまくったからね。
我孫子さんの日記を読んでいて大笑い。いや、そういうことなら『GEB』の訳者でもぼくは別にかまいません(笑)。
8/26(土)
ニューセレクトのネクロ叶井に誘われて二子玉川園まで花火を見に行く。朝からバーベQしてるからと言うんで手ぶらでいったら食い物まるでなし。しょうがないんで空きっ腹にビール入れてたら悪酔いして寝てしまった。あーあ。しかしそれでも花火はすごかった。ほとんど目の前というか頭上で爆発してたもんなあ。なんか火の粉が顔にかかったような気もしたくらい。心なしか頭が熱いような・・・帰り道はものすごい人出に参った参った。
家に帰るとかっちょいい映画同人誌『レフ』が届いている。松本大洋の表紙がかっちょいいぞ。なお、ぼくの原稿(フライシャーの自伝の翻訳)が遅れたせいで発行が遅れたというデマを発行人が流しているそうだが、けっしてそのようなことはない、はずである。もちろん締め切り通りに原稿を入れたわけじゃないけど。
8/27(日)
新宿のロフト・プラスワンでとうじ魔とうじの放送禁止曲DJがあるんで、妻と待ち合わせて出かける。唐十郎のなんとかいう曲のレコードは元状況劇場のトレンディ俳優Sが唐家から盗み出したものらしい(笑)。その後、とうじ魔さんと話す。待望の2世(♂)は8/10誕生で、名前は麦太。おめでとうございます。しかしせっかく名字がとうじ魔なのだからとうじ魔あく魔とかとうじ魔とん魔とかとうじ魔あん魔とかそういう名前をつけて欲しかったものである(笑)。なお、名盤解放同盟・湯浅学も子供ができてから人が変わって、用もないのに子供の顔を見に来たり、いろんなものをくれたりするそうな。「人間らしくなってきた」と驚くとうじ魔氏であった。
8/28(月)
『TVbros』から取材される。インタビュアーは京浜兄弟社の岸野雄一氏。え? 岸野さんがぼくを取材すんの? なんか間違ってないか世の中。「昔東京タワーズ見ましたよ」とか言ってみたが、どうも盛り上がりに欠けるインタビューだったことはいなめないな。妙なテーマで取材を振ってきた編集者にも責任があるのは明らかだが。
リチャード・カーンの『Fingered』の字幕翻訳をやっていたら、ワープロを見た妻が「ヘンタイ野郎!」と騒いでいる。別にやってることはいつもと変わんないんですけど(笑)。でも「おまえが***おっぴろげて汁ダラダラの女か?」(エクソン法に配慮して自主規制しました)なんて字幕が出るだけでも一見の価値がある?
8/30(水)
『デジタル・ボーイ』の和田氏が来て、取材を受ける。ピントのずれたインタビュー再び。先方は「なぜインターネットで世界に向かって殺人情報なんかを発信しているのか」ということを知りたいらしいんだが、そんなのおもしろいかなあと思った、としか言えないよねえ。殺人鬼の話とか、いつもやってることだしさあ。
Atomik Booksから本が届く。Murder Can Be
Funの新しい号とか、P・T・バーナム(アメリカの興行王)の伝記など。見せ物界の大立者が殺された事件を扱ったノンフィクション"Lobster
Boy"が目玉かな。こいつは是非訳すことにしよう。なんせフリーク総出演の殺人実録もの、ぼくのために書かれたような本だ。あと『息子ジェフリー・ダーマーとの日々』(ライオネル・ダーマー)が来る。ダーマー本としてはいまいちっつーか、一番おもしろいのはやっぱ"The
Shrine of Jefferey
Dahmer"だよねえ。なんでこれ訳したのかなあ。『ASAYAN』、『Internet
Surfer』など届く。
8/31(木)
ジェフ・ライマンの『夢の終わりに・・・』届く。古沢先生、いつもありがとうございます。夜、勇気をふりしぼって(すいません、小心者なんです)トロントに電話。通じない英語を駆使して、なんとか映画祭への参加とホテルの予約を取り付ける。つうわけで
柳下は9/7-18のあいだ国外逃亡が決定しました。
ただし日記は更新する予定なので、トロント映画祭リアルタイム・レポートをお楽しみに。
Kiichiro Yanashita /
柳下毅一郎 / PDE01513@niftyserve.or.jp