メキシコ編
3/8(土)
LA→チワワ
午後4時半のUAでLAXへ。アメリカ系の航空会社に乗るのはずいぶん久しぶりだもんで、飯がどんだけまずくて、サービスがどんだけおざなりかすっかり忘れていた。LA着は朝の8時。同行はエスクワイアの編集者T、カメラマンのMという三人。乗り継ぎまで時間があるので、LAXの中央にある展望レストランに行ってみる。エレベーターに乗るとスペイシーな音楽が流れ、内装は『宇宙家族』をモチーフにしたとかいうなかなかナイスな場所だった。なんかエド・ウッド風。
1時半のエアロメヒコ機でメキシコはエルモシージョへ。ここで乗り継ぎになる。砂漠のド真ん中、なーんもないところに空港だけある。飛行機は滑走路の真ん中で止まって、ターミナルまでは歩きというアバウトさ。これで「2番ゲートにお並びください」って言われてもなあ(どうせまた飛行機までは歩きだ)。30分くらい予定から遅れて、7時チワワ。
とりあえずホテルにチェックインしてから周囲を探索。しかしチワワの夜は早い。9時過ぎなのにほとんどの店が閉まっている。ホテル前のレストランでタコスとステーキを食い、就寝。12時。
3/9(日)
チワワ
朝起き、まずはカテドラルを覗く。殉教者像の前に膝まづき、熱心に祈りを捧げる人々の姿に打たれる。ここはカウボーイ・カントリーなので、男はみんなブーツに革ベルト、テンガロン・ハットという姿だ。9時、タクシーで〈革命博物館(パンチョ・ヴィジャの家)〉へ。メキシコ革命の英雄、パンチョ・ヴィジャの家が大量の遺品を集めた博物館になっている。今からでもゲリラ戦をはじめられそうなくらいのライフルがコレクションしてある。あとは殺されたときに乗っていた車(銃弾の跡つき)。おみやげにデスマスクの写真を買う。同行2名は通行人の若いのをナンパし、FILAのCM撮影をしている。ぼくは荷物番かな。
午後はまず州政庁で壁画見学。そのあと買い物など。犯罪実録写真漫画を大量に買い込む。しかしスーパーが3時に閉まってしまうのに気づかず、それ以外のブツは買えず。店がぜんぜん開いてないんだもんなあ。日曜日だからかしら。人目をはばからずイチャつく大量のカップルはどこへ行っているのであろうか(映画館はあったけど、やってたのはポルノ映画だった)。レストランもほとんど開いておらず、結局は昨日と同じ店に入ってしまった。チワワ牛のステーキをたらふく食う。ホテルの電話には実はモデム端子がある!んだが、接続ポイントを調べてこなかった。愚かすぎる。
3/10(月)
クリール
朝6時起床。外は雷雨。雷が鳴っている。しのつく雨の中を駅まで車で行き、今回の旅行のハイライト、チワワ太平洋鉄道に乗車する。列車は7時発車。もちろんまだまわりは真っ暗だ。何もない砂漠の中を延々走っていく。最初のうちは牛がいると「バーカ、バカ(スペイン語で牛はバカという)」とかって喜んでたんだが、じきに飽きてぼーっと外を見てるだけになる。窓は開かないのだが、連結部のドアは上下に別れて開くようになっているので、体を半分乗り出して撮影できる(その気なら、走っている最中に飛び降りることも)。ものすごく危険かもしれないが、超爽快だった。最後部にも出してもらったし、さすがメキシコの列車である。
エスクワイアのTは隣に座ったメキシコ人のおっさんにナンパされている。
12時半、クリールの駅に着く。メイン・ストリートが一本あるだけで、ソカロにも何もなし。なんか観光客人口が高い感じだなあ。チワワ鉄道にはアメ公の観光客多し。どうせみんなテキサスの田舎者だけど。
荷物を置いてからツアーへ。いまだに穴居人生活をしているというタラウマラ・インディオの見物。そしてクサラレ滝へ(車で1時間、歩いて小一時間)。奇岩がそびえる中を歩いていく気持ちのいいハイキング。途中、タラウマラ族の住居に行きあう。もちろん穴居生活をいているのは一部だけなんだろうけど、薮に洗濯物を干しているのは妙にリアルだった。そして滝に到着すると例によってギリギリのところまで行ってみて高所恐怖を思いっきり。
3/11(火)
ディビサデロ
午前中はクリールの繁華街を探索(といってもメイン・ストリートが百メートルほどあるだけですが)、そして町を見おろす小高い丘に立っているイエス像を見ようと、けもの道のような急傾斜を登って一汗かく。どうしてこう、高所恐怖症のくせに高いところが好きなのかなあ。最後手すりのない階段を、今度は冷たい方の汗をかきながら登る。膝が笑ってるときに落ちたら死ぬのが確実という段を登るのはなかなかスリルだね。
12時半、クリールから昨日の続きに乗車、しかし次の駅のディビサデロで降りる。ここが今回のハイライト、駅からグランド・キャニオンの4倍の規模という銅峡谷が一望できるのだ。と言うとまるでガイドブックのセリフみたいだけど、本当にそうだった。崖に立って、下を見おろすと200メートル下が見える。ものすごいことに思えるが、本当にそうなんだから参る。宿のロビーの外には餌筒が下げてあり、夕方になるとハチドリが飛んでくる。天国とはこういうところなのかもしれない。
問題はそこには大量のアメリカ人観光客が来ているということ。しかもテキサス人。のジジイとババア。当然みんなデブ。うるさいはとろいは首からシェリフのバッジつけてる奴はいるわ、もう大変。あの壮大な風景を前に、お喋りしかできないなんて信じられない。うんざりしたのでTと二人で近くの岩まで登ることにする。ただし、ちゃんとした登山コースがあるわけではない。例によってけもの道をたどっていく。どうも長いなあと思ったが、とりあえず踏み跡をたどる。なんか人声が聞こえるなあ、と、眼下にタラウマラ族の小学校が見える。そうかこの道は登山路じゃなくて通学路だったか。山の向こう側である。慌てて戻るが、すでに完全に方向感覚を失っている。これはひょっとしてすげえヤバイことになったのでわ。とりあえず、道に迷ったら高いところに登れ、の鉄則にしたがって稜線に出て、谷を回りこむ作戦に出る。水も飲んでしまったし食料も少ない。いや、それより夜を明かすことになったら凍死だ……山の陽は早く落ちる……運良く、だいたいの見当が当たっていて、15分ほどでホテルが見つかる。いや、長い15分間でした。ホテルからそのまま上がってきたから気づかなかったが、よく考えたらぼくらはキャニオン・トレッキングというものをいていたのか? 30分くらいかけて降りたホテルから見た夕陽は格別でした。生まれて見たいちばんきれいな夕焼けだ。
3/12(水)
ディビサデロ→ロス・モチス
午前中はさらにキャニオン・トレッキング。ただし、今日は前日の教訓を生かし、道のあるところを歩く。少し歩くと眺望が開け、崖ぎりぎりまで行ってひと休み。またしばらく歩く……のくりかえし。この二日間ですっかり崖が恐くなくなってしまった。もう手すりのあるところなんか物足りなすぎる(調子に乗ってたらアルマーニのサングラス落とした。絶対に取りに戻れないところに)。バランシング・ロックの先にはタラウマラ族の村があり、梯子で降りてゆく。当然行きたいんだが、この梯子ってのが荒木を打ちつけただけで、崖に固定されてるわけがないーという強烈なもの。さすがに一瞬逡巡する。しかし恐いものなどないカメラマンMとぼくのデッドリー・デュオは当然ながら降りる。崖を転がり落ちること30分。そこには犬の皮を干しているインディオが住んでいた。中身は食ったらしい。食料は他に4匹いた。
2時、列車に戻って旅を再開。どこにも途中下車しないで行けば、全行程は14時間かかるはずである。列車は奇岩のあいだを抜けて走る。この風景が売り物なのだが、ディビサデロで最高のものを見てしまったせいで、たいていの風景には驚かない。良くも悪くも。
終点ロス・モチスはどうも愛想のない町でがっかり。ひたすら大通りが碁盤目で走っているだけ。近くのレストランに入ったら見事にファミレスだった。人の話を聞いていないウェイトレス、粗末な内装、味が濃く、量だけはたらふくある料理。なんか、メキシコに来たって感じー。でももう帰るんだけどさー
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Kiichiro Yanashita /
柳下毅一郎 / yanasita@gol.com