地獄旅2(今度は本当の地獄めぐり)


5/28(金)
@サンフランシスコ
 仕事もほどほどに片づけ、あわただしくサンフランシスコに来ている。今回は〈ホット・ドッグ・プレス〉の取材。山田五郎編集長から「『地獄のアメリカ観光』みたいなのうちでもやってくれない?」と依頼を受けたのであった。ただし諸般の事情で町山は参加できないので、書くのはぼく一人。必然的にバカよりも暗黒系に寄ったセレクションになる。

 今日のハイライトは『地獄のアメリカ観光』にも紹介されているLSD Museumのマイク。宇川くんに教わった住所に行ってみるが、看板はおろか表札すら出ていない。恐る恐るドアをノックすると、びっくりまなこの白人が出てきて、「イエス?」
「あのー、日本にいる友達から聞いてきたんですけど……」
「おー! おまえ友達がいるのか。そりゃいい。サイコーだ」
 これ別に皮肉じゃないってところが凄すぎる。中には部屋一杯のアシッド・ペーパー。こっちの素性も聞かずに中に入れてくれ、ひととおり説明してくれたうえ、煙草までまわしてくれるんだからもう……いるあいだにも何人か客が来てソファを我がもので占拠していた(うち一人は『ファビュラス・ファリー・フリーク・ブラザーズ』の作者)が、ラリった目で見ているビデオはなぜか『セーラームーン』なのだった。

 夜はアルカトラズ島に出かける。刑務所跡地はウォークマンを聴きながらのツアーでまわれるのだが、このテープがなかなか傑作。なんせナレーションがすべて元囚人と看守。有名な“アルカトラズ暴動”について当時の刑務所長が「バカな奴らだ。逃げられるわけがない。最後は死ぬんだよ、どんなやり方でもな」なんてコメントしてしまうのだ。格好良すぎる。
 帰りの船は満天の星に桑港の百万ドルの夜景、背後にはアルカトラズ灯台のサーチライト。映画のように美しい。


5/29(土)
 ヴァレンシア・ストリートにあるグッド・ヴァイブレーションなる女性向け大人のおもちゃ屋を取材。全身からダイク(タチ)臭さを発揮しているオーナーから親切な説明を受ける。彼女主演のSM指導ビデオがあったんで、一応購入。
「いちばん人気のヴァイブレーターは日立製よ!」っていうんで「そんなんあったのか!?」と驚いてたら、見せられたのはマッサージ器であった。

 その後同じくヴァレンシアのビデオ屋Leather Toungeってとこを覗いたけど、ここはなかなか。デヴィッド・リンチの初期作品(8ミリ)なんかも置いていた。そう言えばパイ投げのビデオもあったが、といっても秘宝の人たちが出てくるわけではない。


5/30(日)
@ロサンジェルス
 朝の飛行機で移動。午後、"Charlie's Family"という映画を作ったオハイオの自主映画作家Jim Vanbberにインタビューする。映画は実はまだ未完成なんだけど、マンソン・ファミリーに関する映画の決定版として早くから好事家のあいだで話題になっていたものだ(まあ、「マンソン・ファミリーに関する映画」自体そんなに数があるわけじゃないので……)
 彼のマネージャーをやってる女性リサの旦那がユニバーサルに勤めていて、そのオフィスが使えるというので車でユニバーサルに移動する。先導されて入ったところは……なんとサム・ライミのオフィスだった!「大丈夫、ライミは編集に忙殺されてて当分来ないから」って言ってましたが。机の上には愛娘の写真が飾ってあったよ。
 ライミのビデオで映画を鑑賞したあと(いや、充分公開に堪えうる作品だった)、ジムにインタビュー。というかマンソン事件について論じる。彼はdemistify派で、マンソンを崇拝するガキとかはバカだと思っている。いや、その点には全面的に賛同するのだが、ただぼくは神話化のプロセス自体に興味があるし、そこにひどく興味をひかれるものがあるんだよな。だから、ちょっと話が合わない部分もある。

 今回の取材では、いろんなマンソンおたくに話を聞いてみようと考えて連絡をとってみた。おかげでマンソン・アンダーグラウンドとでもいうべき犯罪マニアのネットワークに足を半分くらい踏みこんでしまった。これがまた深く、複雑に絡みあっていて、信じがたい偶然とシンクロニシティが横溢する世界なのである。これもマンソンの魔力かなあ、と言いたくなってしまうのはやはり幻想にとらわれているからなのか。


6/1 (月)
 メモリアル・デイ(関係ないけど)。

 メルローズのNecromanceという店を取材。GothなおねーちゃんがやってるGothな店である。動物の標本とか、頭蓋骨とか、死体写真とか、そういうものを売っている。もう9年間もやっているというのに、この取材まで存在を知らなかった。不思議だ。最初にLAに来たときに行っててもよさそうなもんなんだが。
「有名人のお客とか来た?」と聞いたら「こないだマリリン・マンソンが来たわ」って言ったのには笑った。もっと意外性のある行動しろっての。取材が終わったあと、「ねえ、ひとつ頼まれていい? 荷物降ろして欲しいんだけど」と言うんで何かと思ったら、電気椅子の模型だった。店のディスプレイに使うらしい。

 いつものようにAMOKを表敬訪問したあと(今回はパトリシア・ハースト関係の本を大量購入)、シルバーレイクのトッシュ&ルンナ・バーマン邸に出かけ、マジック・ランタン・サイクル鑑賞大会。一応準備にこしたことはない。


6/2(火)
 午前中、LA Coroner(検死局)のギフトショップに出かける。Skelton in the Closetにはなかなか素敵なグッズが揃っており、いろいろ大量に買いこむ。死体をかたどったチョークをデザインした、キース・ヘリングっぽいグッズがあって、これがなかなかかっちょいいのである。バスタオルとか。等身大なら良かったんだがなあ。

 5時からケネス・アンガーのインタビューである。映画評論家人生にあって、これほど自分に深い影響を与えた人に会うこともないだろう。しかも相手はアングラの帝王で悪魔主義者、いったいどんなことになるかわかったもんじゃない! というんで緊張しながらバーマン邸で準備をしている。カメラマンと編集者はフィルムを買うためにお出かけ。と! 外に出てみるとそこにアンガー爺さんが立っているではないか(予定より1時間も早いのに)! 一人でタクシーに乗って来たらしい。というわけでアンガーの解説つきで『真夏の夜の夢』(マックス・ラインハルトの奴)を見るという超豪華な経験をすることになったのである。アンガーは上機嫌で喋りに喋り、結局ムッソ&フランクでのディナーまで4時間にわたってボビー・ボーソレイユからリン・チン・チンまでありとあらゆる有名人についての信じがたい逸話を聞かせてくれた。ああ、楽しかった。

 ちなみに内容については8/10発売の〈ホットドッグ・プレス〉で紹介されるでしょう。問題はHDPの読者にはこのありがたみがまったく理解できないだろうってことだな。


6/3(水)
@サンディエゴ
 今回の取材で最大の難関は乗り切ったので、あとはバカンス気分である。今日は南、サンディエゴへ出かける。主要目的はサンディエゴのMuseum of Deathなのだが、ついでにそのまわりも巡ってこようという寸法だ。ひとつはUnarius。これは学芸会みたいなコスプレやビデオで有名なUFO教団である。信仰はそんなに独創的ではなく、オリオンかどっかの宇宙人が1万年ほど昔に地球にやってきて、猿を人類に進化させたとかそういうの。問題は2001年に宇宙人の再来があると主張しているってことで、もう2年しか猶予はないんだけど、そのときが来たらどうするんだろうねえ(もちろん、彼らの方が正しいという可能性はつねに残っている)。ちなみに円盤が来るって言ってたおばさん教祖は93年にうまいこと「より高い存在」に行っちまったんで、責任を問われる心配はない。そこらにいたおばさんに気軽に話しかけたら、一時間ばかし息継ぎなしに話を聞かされて参った。

 時間があまったのでサンディエゴで飯を食い、Museum of Death。どんなのかと思っていたが、要するに死体写真と連続殺人鬼のアートワークを飾ってあるものだった。こういうのは得意である。異様にハイなオーナーの二人と連続殺人話で盛りあがる。要するに連続殺人鬼メモラビリア・コレクターで、自分のコレクションを展示しているということらしい。マンソンから囚人服をもらったこともある、と言っていた。好きな殺人鬼は?「ベラ・キス」そりゃまたマイナーな。まあそう言われてわかる方もわかる方なんですがね。


6/4(木)
@ヘレンデール
 そこはラスヴェガスまでの道程の中間にある田舎町。なぜこんなことに行こうと思ったかというと、それはストリッパーの歴史を語るExotic Worldがあるからだ。運営しているのは昔はモンローのそっくりさんストリッパーとしてブイブイ言わせていたディキシー・エヴァンス。そのころの写真はなかなかのものである。で、今でも当時の芸(モンローの真似)とかやってくれるんだが、いやまあその……可愛らしいばあさんだったよ。
 展示物は雑然としているが、なかなか大したものだった。いや、少なくともアメリカのストリップをいくらかでもかじったことがあれば、絶対に覚えている名前がいくつも出てくるんで、絶対に退屈はしないはずだ。ジプシー・ローズ・リーとかブレイズ・スターとか。テンペスト・ストームの最近の写真があったが、見てびっくり。40歳と言ってもとおりそう。この人、ラス・メイヤー親爺が「(奥さん捨てて)逐電しようかと思った」って言ってた相手だよ。

 今回行ったところはどこも人があまり訪ねていかない僻地である。必然的にみな話し相手に飢えていて、どこへ行っても大歓待されてしまうのであった。


6/5(金)
@ラスヴェガス
 本来はいくつか妙なところをまわるつもりだったんだが、スポンサーからの要望でヴェガスは当たり前の取材にしてくれということに。したがってぼくはなんもやることがなくなって、一日自由行動となってしまった。ラッキー!

 というわけでかけずりまわっている編集者やカメラマンを尻目に、たっぷり朝寝してからラスヴェガス美術館に出かける。ま、普通ラスヴェガスに来る人は美術館なんか行かないわけで、必然的にあるのはものすごく遠いところ。バスの運転手に聞いても「え? そんなのないよ」とか言われてしまう。いざ乗って行ってみたら一時間くらいかかった。もう大変なものである。
 そんな思いまでして行ったのはEnd Is Near!という企画展。世紀末を祝うにあたって地獄の底を開けたようなアーティストを集めてみましたという感じである。ぼくはジョー・コールマンを見たくて出かけたのだが、他にも円盤に発信器をインプラントされてタイム・マシンの設計図を描いてる人とか、黙示録を壁画にしている人とかいて、もう大変な感じである。みんな、世界の浄化を待ち望んでいるんだなあ。心に残ったのはノーバート・コックスの(やはり)黙示録絵。
 ギフトショップで働いているおばさんが「みんなねえ、立派な方たちばかりですわよ。でもネガティヴなことばかり描くのがどうもねえ。こういう(と言って受胎告知の絵を指す)ポジティヴな絵も描いていただきたいですわよねえ」とか言ってておかしかった。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com