■背景のサウンドはサティ作曲「グノシェンヌ」です。
回漕船
海に船をうかべてはこぶ
柩をまんなかにして
父とわたしはすわりこむ
海はすこし荒れて
ときどきしぶきがかかる
こんなとき
むこうからやってくる船もある
しぶきは素足にもかかる
せなかにもかかる
しぶきは柩にもかかる
すると
おおさむいとだれかがおもう
とうとうここまできてしまった
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青海島の中の浜 母親はこの浜辺で焼かれた。
作品の背景
長門市・青海島(おおみじま)にわたしの実家はある。金子みすゞの父はここの出身だ。この海の色彩の
美しさは譬えようもない。海に浸って底をのぞくと、子供のわたしはエメラルド色の空を羽ばたく鳥になっ
た。ここには病院はない。現在は橋が架かっているが、当時は重い病いにかかると船で仙崎(みすゞの
生まれた町)の病院に入院する。死ぬと船で運ばれ、島の浜辺で焼かれた。わたしは高校を卒業後、東
京に出て、置き去りのかたちで母親を死なせた。 この作品はそのときのことをかいたものである。
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作品評
「母」とそれとはいわずに、肉の母と寄りそうている「回漕船」は輓近の傑作である。詩人にとりつき、詩
人のからだを通過するものに、詩人は耐えて、寡黙に、このように、かろうじて、喩としての言葉を発する
ほかはないのである。 (及川均) 「新・日本現代詩文庫」解説より
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