世襲企業


タイトル:世襲企業
作者:清水一行
出版元:角川文庫
発行日:1982年2月20日
形式、ページ数:文庫、325ページ
難解度:★★
ためになる度:★★
感動出来る度:★★★
面白さ度:★★★
おすすめ度:★★★

あらすじ

 広島の自動車メーカー、大東自動車はオーナーの三沢一族が代々社長を受け継いできた世襲企業。二代目社長の三沢辰雄は、息子の直治 にどうしても社長の座を託したいと思うのだが、広島随一の名家である三沢家で生まれ育ってきた直治は、目上の者にも物怖じせず 言いたいことを言う傲慢な性格になってしまっていて、どうも後事を託すには覚束ない。子会社の社長から、とりあえず副社長として 大東自動車に入社する直治。早速辰雄は直治に実績をと思い、ロータリーエンジンの開発責任者として直治をその任に就かせる。しかし、 ”悪魔の爪あと”との悪戦苦闘の日々が続き、事態は一行に好転しなかった。

感想

 プロジェクトXでも紹介された、あのロータリーエンジンの開発秘話をメインにした小説・・・かと思いきや、タイトルは世襲企業。 これはどういうことかといえば、なんとロータリーエンジンの開発はあくまでひとつのエピソードに過ぎず、本筋としてはタイトル通りの、 オーナー社長の世襲の物語を実在する企業をモデルにして書いています。

 私はよく知りませんでしたが、広島に本社を置くこの自動車会社、モデルは「マツダ」であって、ロータリーエンジンを開発したあの 会社だそうです。また、社長のモデルとなった人物も実在していました。史実と物語の中とでは、多少の差異があるようですが、それは小説 的に娯楽性と言うか、読み手としての面白さを追求した結果だと思います。

 こういうことを言うと水を差すような結果になりかねないのですが、恐らくこの物語を、他の作者、特に高杉良が書いたとしたら、内容は 全く違ったものになっていたと思います。なにより、世襲というのは現代日本の企業経営についてはあんまりいいイメージがなく、高杉氏 自身もそう思っているところがあるので、高杉氏がこの物語を「世襲」というテーマで取り上げる事はないと思われます。あえて取り上げる ならば、ロータリーエンジンの開発の苦労話を美談として書いていくのではないかなと思われます。

 同じ企業の歴史をどう見ていくか。その角度的な問題なのでしょうが、世の中を少し斜に構えた見方をする清水氏は、マツダという自動車 会社に対して、どちらかといえば消極的な見方をされている「世襲」という部分にスポットを当てて、企業小説を人間物語にして書いて いました。ただし、だからと言って企業小説的な部分、企業経営の悲喜こもごもや、経営状況をデータ的に分析する部分なども、きちんと 書いていて、そういう面でも優れた小説かしらと。

 小説の主人公である三沢直治氏について。彼のモデルとなった人物は、マツダの社長としてはあまり評価されておらず、 幹事銀行(融資取引のメインバンク)より不信任を突きつけられてしまい、就任後10年経たずに会長へと押し出されてしまいました。 雇われ社長であれば、1期2年でも珍しくない(私の会社がそんな感じです)在任期間ですが、それからしたら長いといえるのかもしれません。 しかし先代の2代目、また初代社長とくらべたら、その在任期間の短さもさることながら、それ以上にその功績の手薄さが目立ってしまう 社長であったようです。それでも広島カープのオーナーとしてはかなり評価されているようで、カープファンからしたらよきオーナーだった そうです。

まだまだ、清水一行氏の作品は片手を少し超える程度しか読んでいませんが、氏の初期の作品と比べて、格段に面白くなっているし、 経済小説の世界全体として見てみても、相当にポテンシャルの高い作品ではないかなと思われます。お勧めの作品です。

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