あらすじ
東京南部、環状7号線のすぐそばに住んでいたサブローは、東京西部の名も無い大学の「ツブシしかきかない」経済学部の学生となり、 ハチャメチャやらかす。卒業して、仙台の私立高校の教師の職を得るが、持ち前のハチャメチャ精神で、学校を大混乱に導く。
感想
最初の導入は、作者であるビートたけしが「夏目漱石の坊っちゃんをパクった訳ではない」というパクリ宣言をするところから始まります。 そういう導入からしてふざけきっているのですが、内容も相当ふざけています。一応、夏目漱石の坊っちゃんのオマージュであることは 分かるのですが、それ以外は全て、おふざけ全開のたけし節がキラキラ光り輝いています。
主人公のサブローは、東京南部、どうやら大田区あたりの、環状7号線の近くに住んでいます。住んでいる、というよりも、新しく環状 7号線を通す”軌道上”に家があったようで、結局粘ったが立ち退かざるを得なくなってしまいます。このあたりは、作者本人の体験(ビート たけしは足立区の梅島界隈に実家があり、環状7号線の工事の際、立ち退き騒動に巻き込まれたそうです)を基にしています。作者は足立区、 サブローは大田区、どちらも東京の下町で、どちらかといえばパッとしない土地です。
そんなサブローは、恐らく八王子の先の山のほうの、一応東京だけど、それは名ばかりでひたすら山の中にあるような大学に入学。この あたり、東京の地価高騰により、新設大学は郊外に設置せざるを得ないという、時代背景を巧みに表現しています。また、ここから60年安保 だか70年安保だかの話になり、しかしノンポリのサブローは、とにかくお祭り騒ぎを狙い、また己の利益になる事のみを追求するという、 恐らく安保闘争の時代でも、確実にいたであろう、末端の闘士になるという、このあたりもさすが、社会情勢を織り込みつつ、人間の本来の 姿をも投射しています(褒めすぎ?)。
仙台に新任教師として赴任したところでも、仙台とは田舎である!というサブローの固定概念を打ち崩す、ハイソで洗練された仙台っ子の 現状。東京人は、とかく地方を田舎呼ばわりしますが、こと仙台などの大都市は、むしろ東京並か、またはそれ以上の情報発信源となり、 文化の中心でもあるという、東京人の世間知らずを表現しています。
仙台での教師生活が残りの物語を構成していますが、夏目漱石とは違うのは、最後は自分にうるさくつきまとう女をダムに突き落として 殺そうと画策するという、ちょっとシャレにならない展開になるところ。結局女は死ぬことはないですが、その影でバカだと思っていた 成金の不動産屋の息子が、実は利害の計算をきちんとできる”成績は悪いが切れる男”であったという真実を目の当たりにして、サブローは 恐れおののいてしまいます。たけしは、全編をバカで満載にしたバカ小説を書いているようなふりをしながら、その裏できちっと、しかも ”バカな読者衆”でもわかるように、わかりやすく世の中の条理というものを説いています。結局のところ、この小説が何を言いたいのかは、 「人生行き当たりばったりでもなんとかなる」みたいな感じだと思うのですが、それもまた真なりと。
作中に、何度も登場するのが、小気味よいテンポで繰り出される、昔のCMや流行言葉などをひたすら並べたてるシーン。作者の芸能、 文化に至る知識の深さを感じますが、これってむしろ、読者に対して「おまえらどこまで知ってんだよ?このくらい知らなきゃ世間知らず だぞバカヤロー」という読者への挑戦に感じました。私は・・・正直古すぎるような言葉も多くてよく分からないところもありましたが、 それなりに分かりました。分かると、これがまたむちゃくちゃ面白くて、つまり知識が人生を豊かにするという真理をも説いていると、 こういう過大評価をしてみたりするわけです。
本当にバカばっかりのバカ小説ですが、その分面白さは抜群で、意外と知識人でもウーと唸るような場面も用意されています。さすがは たけし。単なるお笑い芸人ではありません。個人的に、相当なオススメではありますが、この小説を人前で読むと、どんな低レベルのバカだ と思われるかもしれませんので、外で読む際にはご注意ください。