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[2002→2003]
●プロローグ
中央競馬の場合、夏休みはあっても冬休みはない。
古馬の一流どころは厳寒期に無理をしないだけで完全に体を緩めることは少ないし、
年が明けるとクラシックの予選が本格化するので3歳馬は寒いからといってのんびりしていられない。
まるで受験生みたいだ。
最近では2月、3月にもG1が組まれるようになったから、
スケジュールの密度が落ちることはなく、高いテンションのまま冬競馬は継続していく。
冬はダートだ、スプリントだ!
というのはやっぱり建前で、ファンも関係者も有馬記念が終わると
張っていた気持ちが緩むのが人情だろう。
年が明けると去年の成績はオールクリアーされて見えなくなる。
替わりに新しい一年間がほとんど手つかずで残されている、という嬉しさと不安感。
なにかフワフワとした不思議な空気が一月の競馬場には流れている。
人間が「一年」という時間の単位を実感として意識できるのは、じつは年末年始だけだと言う。
そんな時期だからこそ、マクロな視点に立って競馬を眺めることも可能になるわけだ。
今回の血統バトルロワイヤルは、マクロもマクロだ。
メインテーマは「主流血統としてのターントゥ系の命脈」だから、
10年というスパンを視野に入れての大論争になっている。
年表を見てもらえばわかると思うが、
近年の日本ダービーはターントゥ系の馬でなければほとんど勝てなくなっている。
わずかにトニービンが対抗しているくらいで、
武豊とクロフネをもってしても牙城を崩すことはできなかった。
そんなターントゥ系黄金期を支えた一方の雄のサンデーサイレンスが死亡して、
入れ替わるように新種牡馬・タイキシャトルが鮮烈なデビューを飾った、
というのが2002年という年だった。
なにかが動き出している気配がある。
流動化している世界の中で、競馬界ももちろん例外ではない。
今、語らなければ手遅れになる…、という絶好のタイミングを得て、
今年も血統バトルロワイヤルの季節がやってきた。
●本論
(略)
●エピローグ
今回のテーマはターントゥ系になります、という話を編集部から聞いて、
ふーんとうなずきつつも、漠然とした不安を感じていた。
というのは、ターントゥ系みたいに系統樹の奥の方で分けるやり方は、
近年の流行であるけど、全ての論者に理解を得られるわけではないと思ったからだ。
また、ヘイロー、ロベルトは良いとしても、
ハビタットまで含めてターントゥで括ってしまうのには違和感を感じる向きもあるだろう。
僕はと言えば、そういうマクロな認識の方法自体が苦手である。
というのは基本がパドック者だから。
一頭一頭、個別の馬について意見は持っていても、
それを一般化する作業を求められると、父馬や母馬の段階までが精一杯。
あくまで一頭の馬から出発するという帰納主義的なスタンスでは、持てる展望の広さは限られている。
ターントゥだのノーザンダンサーだのという大系統の話は、
歴史上の出来事みたいに縁の薄いものに感じていた。
しかし、どんな場所であれ、与えられたリングで戦うのがバトルロワイヤルである。
いつどんなとき、誰の挑戦でも…、というアントニオ猪木的な戦う気持ちが各論者にあって、
こちらが出した勝手なお題に真正面から取り組んでいただいた。
言ってみれば今回は「競馬王本位のテーマ」を論者にぶつけたわけだ。
このメンバーで回を重ねてきて、手の内がわかってきたことでもあるし、
ここは一発際どいコースで勝負したみた。
「引っ掛かり」があるテーマだっただけに、それぞれが熱い答えを返してくれた。
中には当然、設問の仕方自体に疑問符を投げかけるような回答もあったりして、
各人のスタンスの違いが明白に表れる結果になった。
じつは、ターントゥというお題がミソなのだ。
これがノーザンダンサーとかミスタープロスペクターだと、
根本的な立場の違いを問うところまではなかなかいかない。
僕の印象で申し訳ないが、ターントゥというのはドーナツの穴みたいなものだと思う。
ターントゥとはこうだ、という明確な特徴とか自己主張は見えにくい。
他の血統の力を借りて初めて意味を持つようなところがターントゥにはある。
だけど、ノーザンダンサーでもない、ナスルーラでもない、ミスプロでもない、
ターントゥという系統はたしかに存在する。
とくに日本の芝競馬では、ターントゥを持たないと果たしにくい仕事というものが存在していて、
そのひとつが日本ダービー制覇ということになるだろう。
ブルーイレヴンが負けたラジオたんぱ賞を見ていて、その想いを強くした。
ご存じのとおり、高い確率でダービーに結びつくレースである。
多頭数のスローからトップギアまで入れていく、という作業をしていく上で、
東京の2400で要求される才能の重要な部分が発現しやすいからだと思う。
やっぱり、サッカーボーイではどうにもならない領域が存在するのかもしれない。
ラジオたんぱ賞を勝ったザッツザプレンティがクラシック戦線を引っ張ることは間違いない。
朝日杯2着のサクラプレジデントも、能力は足りるが本質がマイラーに近いので、
ダービーでの逆転という夢を託せる馬は、同じ小島厩舎のブラックカフェの方だと思う。
まだ実の入りが足りないが、馬は良い。
成長力でどこまで間に合うか、という時間との戦いになるだろう。
牝馬はオークス馬に擬していたタイムウィルテルが休み明けで馬体を減らして出てきたので、
これは少し評価を下げたい。
変わって、同じブライアンズタイム産駒のマイネヌーヴェルを推す。
つくりの大きな馬で、当然まだ荒削りだが、
腰の強さでグイグイと進んで行く姿には本格中距離馬の相がある。
本格的すぎる可能性もあるが。
2002年12月21日(『競馬王』2003年2月号掲載)