[シービスケットに関する「へぇー」な話]
まず第一に、名前が良い。
シービスケット。
意味はよくわからないけど、ビスケットってあのビスケットでしょう?
おもわず口に出して読みたくなる名前だ、シービスケット。
口にしやすいということは、人々の話題に上りやすいということ。
つまり、愛されるための必要条件を満たしているわけ。
たとえば、ハルウララがそうだ。
あの馬がこれほどまでに人々に愛されている原因のひとつは
間違いなくその美しい名前にある。
シービスケット。
人々の心を捉えて放さない馬である。
1930年代のアメリカにおいても、21世紀の日本においても。
いや、あれはほんとうに60年以上も前の競走馬なのだろうか?
ときどき、疑問に思うことさえある。
なにか、ついこの間競馬場でああいう馬を見たような気がする。
ああいう馬の話題で、みんなと盛り上がったような気がする。
まるでつい最近の馬であるかのような親近感を
僕たち競馬ファンはシービスケットに抱いてしまうのだ。
シービスケットに関する「へぇー」な話・その1
脚が短く寸胴でコロッとした体形の馬だった。
世間の低い評価を覆すためにアメリカ中の競馬場を旅して回った。
まるで、アグネスデジタルみたいだ。
シービスケットは短足でずんぐりとした馬体をしていたらしい。
悪く言えば見映えがしないが、良く言えば愛らしい体形だった。
スマートな馬は大跳びでスイスイと走るが
脚の短い馬はピッチ走法でジタバタと走って、一生懸命さを感じさせる。
体形的なイメージは、ちょうどアグネスデジタルを彷彿とさせる。
また、レースを求めて全米各地を旅して回り
一度は国外(メキシコ)まで飛び出したというのも
アグネスデジタルの競争生活に通じるものがある。
二頭とも利口な馬で、移動をまったく苦にしなかった。
シービスケットに関する「へぇー」な話・その2
シービスケットとライバルのウォーアドミラルは
名馬マンノウォーの孫と息子に当たる。
二頭の対決はザッツザプレンティとネオユニヴァースの菊花賞のようなものだった。
マンノウォーとは名馬の中の名馬といえる存在で
例の「100馬身差の圧勝」という伝説を残した馬だ。
競走成績もグレートならば種牡馬としての影響もまたグレートで
わずかな期間に自身の系統を築き上げてしまった。
現在の日本におけるサンデーサイレンスのような種牡馬だったと考えていいだろう。
シービスケットの父はハードタックという。
気性の荒さが度を超していたため
生産者に敬遠されて産駒を多く残すことができず
種牡馬としては二級の存在だったが
その父はマンノウォーだから血統自体は一流だった。
シービスケットのライバルと目されていたウォーアドミラルの方はというと
こちらはマンノウォーの直子だ。
つまり、名種牡馬の孫と息子という間柄だった。
わかりやすい例でいうなら
ザッツザプレンティとネオユニヴァースのようなものである。
だから、二頭が戦ったマッチレースは
現在の日本でいえば昨年の菊花賞だったのである。
シービスケットに関する「へぇー」な話・その3
シービスケットには内ラチに寄っていく悪癖があったが
ブリンカーを着用することによってそれを矯正した。
ステイゴールドとそっくりだ。
スミス調教師に見出される前のシービスケットは
人間の指示に逆らおうとばかりして、まったく真面目に走らない馬だった。
スミス師の根気ある訓練によって、悪癖がひとつひとつ取り除かれていくところが
シービスケット物語の大きな見せ場になっている。
なかでも、内ラチに接近することに異常な執着を持っているのが大きな問題だった。
これは最後まで完全には解消しなかったらしいが
深いブリンカーを着けてラチを見せなくすることによって
ある程度まで矯正することができた。
真っ直ぐ走らない馬をブリンカーの着用によって矯正する
というのは現在の日本でも行われている。
最近では、ステイゴールドの例がある。
左にもたれる癖が顕著になったので
7歳秋のジャパンカップから左側だけにブリンカーを着けてレースに出走している。
そして、次走の香港ヴァーズを見事に快勝して
最高の形で現役生活を締めくくることができた。
シービスケットに関する「へぇー」な話・その4
馬場状態や故障を理由に
大レースへの出走をキャンセルすることがたびたびあった。
期待を盛り上げておいて肩すかしを食らわせるとは
現役時代のトウカイテイオーばりである。
アメリカでは日本と違って
馬場状態を理由にレースへの出走を取り消すことが認められている。
シービスケットは雨が降って軟弱になった馬場を苦手にしていたので
陣営は馬場状態に対して非常に神経質になっており
それで出走を取り消すことも何度かあった。
また、もともと膝に難点があった馬でもあり
直前になって脚を痛めてレースを回避することもまたあった。
さあ、いよいよライバルとの対決が実現するぞ!
とさんざん期待感を盛り上げておきながら
レース直前でやっぱりダメになりました、ということが何度か続いたので
当時のアメリカのファンもうんざりするところはあったようだ。
ちょうど、現役自体のトウカイテイオーに似ている。
あの馬の現役時代は故障との戦いの連続だった。
今度こそ復帰するぞと期待させてはまた故障が再発する
という繰り返しで、実現せずに終わった対決はいくつもあった。
しかしまた、再起不能と思われた故障から復活してきたという点でも
この二頭はよく似ている。
そして、その不屈の闘志が多くの競馬ファンの感動を呼んだところも。
2004年1月21日(『競馬王』2004年3月号掲載)
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