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あとの祭り

重賞回顧アーカイブ


●有馬記念

ザッツザプレンティにとって中山競馬場は鬼門なのだろうか?
1周目のスタンド前からカツンと引っ掛かって
よもやのハイペースで隊列を引っ張る、という最悪の形になった。
中山に来ると思った通りのレースができず、いつも不完全燃焼に終わってしまう。

もっとも、異変はパドックの段階で表れていた。
腰の状態が一息だったようで、後肢の踏み込みが左右バラバラだった。

もともとが身体をいっぱいに使って大きく走る馬なので
一度バランスが崩れてしまうと、災厄もまた大がかりなものになる。
上手くリズムをとれず、加減して走れずに、その結果として掛かったのだと思う。

これが、いわゆる「秋三戦の疲労」ということか!
しかも近走は長い距離のG1を2回、それも目一杯の競馬をしている。
馬の気持ちは燃えていたものの、疲労物質は体内に蓄積されていたのだろう。

激しいレース展開は、スタミナ自慢のタップダンスシチーの友達のはずだった。
オーバーペースになるのを回避するため、前の争いからは距離を置いていたが
それでも、タップダンスシチーは行きたがっていたと思う。
前の馬をずっと睨んでいて、完全には息が入っていなかったように僕には見えた。

体調面はおそらくピークであり、スピードの乗りは充分だったと思うが
今考えれば、それが逆に徒になったのかもしれない。

ペースが落ち着いた3角では早くも後続が追い付いてきて、息つく暇もない。
去年、ファインモーションを陥れた罠に自分が嵌ってしまった格好だ。
つまり、スピードを追求した結果、自慢のスタミナに綻びが生じたわけ。
まさに、因果は巡ると言うしかない。

自在な競馬ができるかのような錯覚が一部にあったが、とんでもない。
本質的には身体が硬くて、自分のリズムで押していくしかない馬だ。
そのために、レースにおける疲労も激しくなる。
ここらへんが、血統の古さゆえの限界なのだと思う。

逆に、身体が柔らかい馬はレース展開への対応力に優れる。
それを実証したのが、自在のレース運びから2着に食い込んだリンカーンである。

初コースの乱ペースもなんのその。
完璧に折り合った上に、勝負所では自分から動いて
タップダンスシチーを潰しに行くというしたたかな競馬だった。
まあ、鞍上も上手いんだけどね。

見るからにまだ馬は若く、筋肉の張りなどはまだもの足りないが
それでも、背丈で見るとこのメンバーの中でもまったく劣っていなかった。
体重ではもっとも軽い部類なのに、驚くべきスケールの大きさである。

これからどこまで肉がついてくるか。
まだ未完成の状態で今回の堂々たる競馬ぶりだから、末恐ろしい馬である。

馬の完成度ということではゼンノロブロイの方が断然上だった。
体重は大きく増えていたものの、馬体に太め感はまったくなかった。
初めての古馬混合戦だったが、ふだん同様の落ち着きぶりで
いつも通り楽々と流れに乗って、スパートのタイミングを計っていた。

しかし、武豊の強気の仕掛けによって状況は暗転する。
4角で内に閉じこめられて、バテて下がってくるザッツとタップで蓋をされてしまった。
またもや、菊花賞同様の悪夢である。

内を立ち回れる器用さはこの馬の大きな武器だが
しかし、消耗する馬が出るような激しいレースになると
それが裏目に出ることも多々ある、ということなんだろう。

外に出して態勢を立て直し、直線に向くと追撃を開始したが
しかしリンカーンとの差は焦れったいほどになかなか詰まらない。
ストライドの伸びは、この馬よりも身体が柔らかいリンカーンの方が良いのだ。
ゼンノロブロイにとって、前を大きく追い掛けるようなレースは本領でない。

折合が良いために長い距離も問題なくこなす馬ではあるが
動きの質の高さを活かすためには、全体に速く流れる中距離戦がベストだと思う。
あるいは、マイル路線へ行っても良い戦いができるのではないか。
秋の後半は不完全燃焼だったが、この馬には明るい未来が約束されている。

そして最後はシンボリクリスエスがまた空を飛んで、今年の中央競馬を締めくくった。
「シンボリクリスエスはクロフネ級だ」と言ってきた僕にとって
引退レースでクロフネ的なパフォーマンスを見せてくれたことが、なによりも嬉しい。

良馬場の芝G1での9馬身差は驚異的な着差だが、馬を見ると涼しい顔をしている。
藤澤厩舎としては例を見ないような厳しい調教でここに臨んだのに
ピリピリするどころか、相変わらずののんびりムードだった。

めったに闘志を表に出さない馬で、最後まで子どもっぽいままだったと思う。
それも無理はない。レースで勝つために本気を出す必要がないのだから。

相手をもてあそぶような競馬を続けていて、それで痛い目に遭うこともあった。
そのひとつが前走のジャパンカップだったわけだ。
新聞報道によると、帰りの馬運車でシンボリクリスエスは怒って暴れたらしい。
この馬としては珍しいことで、それを読んだ段階で僕は有馬の勝利を確信した。
気持ちさえ切れていなければ、現役馬の中にこの馬の敵は存在しない。

たぶん、今までで一番手強い相手は、ダービーで敗れたタニノギムレットだったはず。
ダービーのときは、この馬はあまりにも若すぎた。
あえて仕上げない藤澤スタイルで、3歳の春は苦汁をなめたが
そのぶん、馬が完成を迎える4歳の秋に、ここまでのピークを極めることができた。

これだけの大型馬が、故障せずに予定通りのスケジュールをこなせたことは
今までの日本競馬の文脈で考えると、ほとんど奇跡に近い難事業だったと思う。
まず、心身が健康であること。
それがあったからこそ、すべての可能性を引き出すことができた。

海外遠征を含めて、競走馬としてなすべき仕事は数多く残っているが
しかし、ここまでの圧倒的な能力を見せつけたあとに
これ以上なにを示す必要があるのだ? とも言えるだろう。

余力を残しての引退というのは、種牡馬として考えると理想的である。
血統を考えても、ポスト・サンデーサイレンスの本命に躍り出たと言える。

まあ、種牡馬価値はさておくとしても
競走馬として完全燃焼して牧場に帰れるのは、なによりの幸せだと思う。
おめでとう、シンボリクリスエス。


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