1月22日
- 本日は日曜日。
- 予報どおり週末は雨が降った。
- 我が家は父がずれた瓦を動かして元の位置に戻したり、壁のひびにはパテを流し込んだりして、とりあえず応急措置は済ませた。
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- どこから手に入れたのか、工事用の青いビニールシートが屋根全体を覆っている家がちらほら見られる。
- そういえば昨日Yの家に行く途中、どこかの民家の玄関先に
- 「工事用ビニールシートあります。お気軽に声をかけてください」
- と、いう貼り紙がしてあった。
- そういうところから手に入れたり、外から来る人に頼んで買ってきてもらったりするのだろう。
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- Yに電話を入れる。
- 「うちはお父さん全然動かないねん。なんかすっかりまいっちゃっててねえ。
- 雨漏りするから屋根にビニールシートかぶせようよ、て言っても『危ないからダメだ』て言って自分も動かないし、もちろん私らが動くのも許可しない。おかげで雨漏りしだしたよー。」
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- 応急措置とはいえ、どうやら我が家は雨漏りはしていないようだ。
- もっとも私の部屋は崩れた荷物が山積していて壁なんて見えない。
- 雨漏りがしていてもわからない。
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- 夕べ父はまた仕事に出ていった。
- 運よくタクシーがつかまれば港までそれで行けるが、つかまらなかった場合は歩いて行くしかない。
- 地震後初めて行った時は1時間強かかったと言う。
- 同じ会社で垂水区に住んでいる人がやはり港まで歩いて行ったそうだ。
- 「4時間かかったらしいよ。」
- やはり須磨区に住む父の友人も歩こうとしたがこちらは途中で断念、家に引き返したと言う。
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- 自分の部屋はとてもじゃないが足の踏み場がないので留守を幸い、父の部屋に入り込んでくつろぐことにする。
- 今朝も何事もなかったかのように早朝に新聞が届いていた。
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- 新聞といえば相変わらず大きくとりあげられる地震関連のニュースの中に、『新たに判明した犠牲者』の欄がある。
- こんなところに目を通して知り合いがいたらいやだなあと思いつつも目を通してしまう。
- M先輩らしき人物の名前を見つけたのは2、3日前。
- どうやら本人らしいというのもその後の友人との電話のやりとりでわかってきた・・・。
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- 何もない時だったらもっと驚いたろうと思う。
- 「え、先輩亡くなったの?なんで?」と。
- でもこんな状況では変な話、死んでいても全然おかしくない、という思いがある。
- 先輩の死を知ってもものすごいショック、というほどには感じなかったのだ。(もっとも本人かどうかまだはっきりわかっていないから、というのもあるけれど)
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- 「神戸の人ね、友達や近所の人に会ったら、最初の挨拶が『あんた生きてたの!』なんだって。すごいねえ。」
- これはその後私が大阪に出た時、耳にした会話である。
- ホントにそんな挨拶をしていた。
- 友人に電話を入れては本人が出るたびに
- 「よかったあ!生きてたのねえ。」とか、
- 「おお、生きてたか!」などとつい言ってしまう。
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- 『判明した犠牲者』の欄に目がとまる。
- 「T.N.」
- M先輩と違ってありふれた名前ではない。
- 住んでいる区、年齢、たぶんまちがいなく高校時代の友人T.N.ちゃんだろう。
- 彼女は灘区でも特に被害の大きかった地区に住んでいたし、こんなことになっても不思議ではない。
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- 意外にもショックの少ない自分に気がつく。
- 未曾有の大惨事、こんな事が起きてもおかしくない。
- ある程度覚悟していたせいだろうか。
- いや、まだ現実感がないのだ、きっと。
- 新聞に名前が載っているぐらいで、そうか、亡くなったのね・・・と、すんなり受けとめられないのだと思う。
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- Yから電話がかかってきた。
- 午後から同期のT宅に行く予定なので待ち合わせ場所と時間の確認だと言う。
- 「そのままTの家に泊まって明日はそこから出社するんだよ。」
- ん?いつの間にそんな話になっていたのだろう?
- 私はお風呂を借りに行くだけのつもりでいたのだが。
- でも確かに今や大阪は日帰りできる場所ではなくなっているのだ。
- それにいくら何でもそろそろ会社にも一度顔を出しておかないと。
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- 私がT.N.ちゃんが亡くなったことを伝えると、
- 「そう、T.N.ちゃんダメだったの・・・。」とだけ返した。
- やはりというか、YもT.N.ちゃんの死に大して驚いている様子ではない。
- 何があってもおかしくないような状況だから、ある程度の覚悟もしていたのだろう・・・。
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- 待ち合わせ場所は阪急六甲駅。
- 駅の柱にも大きく亀裂が入っていたので、駅の一角にあるバス停に近寄るのもなんだかこわかった。
- Yも私も地震以後あまり遠出をしておらず、今日6日目にしていきなり大阪まで出ることにかなり緊張していた。
- 先週まではあたりまえのように毎日大阪まで出かけていたのに、今は知らない遠くの町に初めて足を運ぶような、そんな気持ちなのだ。
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- こんな状況の中、バス道沿いのお風呂屋さんが一軒営業をしている。
- 井戸水とプロパンガスを使っているのだろうか。
- お風呂屋さんの前は長蛇の列だ。
- 後日そのお風呂屋さんに行った人から聞いたのだが、
- 「待ち時間4時間、入浴時間は30分」だったのだそうだ。
- が、「でもあんな時だったからホント気持ちよかったよ。4時間並んだかいはあったと思ったね。」
- と、言っていた。
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- 新神戸駅で地下鉄に乗り換える。
- 三宮駅が大破した神戸市営地下鉄はやっと新神戸-谷上間が開通したばかりだ。
- 電車は思ったほど混んではおらず、乗っている人はみな一様に疲れた顔をしていた。
- 大きなリュックにジーパン、運動靴。ヘルメットを携えている人も何人かいる。
- ミニスカートにパンプス、スーツにネクタイなどという格好をした人はどこにもいない。
- いや、化粧をした人すらいない。
- 普段なら異様な光景が、今ではごくごくありふれた普通の光景となっている。
- スキー用のキャリーバッグを引っ張っている人もいる。あれなら荷物がたくさん入るし便利だ。
- スキーウェアを着込んでいる人もいる。あれは雪山用の服だから暖かい。
- アウトドアブーム、スキーブームなど、流行は一度は追っておく方がいいのかもしれない。
- テントやアウトドアグッズは避難生活に役立ちそうだし、スキーグッズも然り。
- と、妙なことに感心しながら新神戸トンネルをぬけていく。
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- 谷上で神戸電鉄に乗り換える。
- この辺りからドッと人が増え、電車はすし詰めの状態になる。
- ここ、北区ではところどころ崩れかけた崖などもあるが、灘区に比べればかなりきれいな状態だ。
- 「売店が営業しているよー。」
- 灘区では売店どころかコンビニエンスストアに行列つくって食料を手に入れるような状態だ。
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- 三田に着くころには小さなローカル線がパンクしそうなほどに乗客が増えていた。
- 駅に着くとみんな隣のJR三田駅に向かって脇目もふらずに進んでいく。
- JR三田駅では臨時切符売り場も出ており、大変な混雑ぶりだ。
- この辺りまで来ると水も使えるのでトイレもひどく混んでいる。
- 姫路方面に行く人はJRに乗って和田山経由で行かなければならないので、大阪とは反対方向のプラットホームに立つ人も多い。
- 被災地からの脱出組と被災地への見舞い組とは顔の表情や服装などを見れば歴然と差が出ているのですぐわかる。
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- 大阪駅は地震前とそれほど変わっていなかった。
- 「あんまり普段どおりなんで腹立つよ。」
- 私達より先に大阪に出ていた友人から電話で聞いていたが本当に何事もなかったようだ。
- たった1週間前までなら珍しくもない、いつもどおりの光景のはずなのに、今こうして見る大阪は別世界だ。
- いや、ショックですらある。なんでこんなに何もかもが普通どおりなの??
- 「ね、ね、スキーの受け付けまでやってるよ!」
- 私の腕にぶら下がりながらYが言う。
- 西田ひかるのポスターが受け付け横に飾られている。
- 何の苦もなそうな笑顔がうらやましい。
- ポスターの横には各地の積雪情報まで掲示されている。
- 「ホントに何もなかったようだねえ。神戸から40kmほどしか離れていないだけでこうも違うのねえ。ところでTの家にはここからどうやって行くの?あんたをあてにしているんだからね。」
- と、私が言うと
- 「わかんないよう!」と、絶叫した。
- Yもこの大阪の光景に混乱しているようだ。
- なんとかなだめて場所を聞き出し地下鉄に乗り換える。
- 車内にはさまざまなイベントや新刊の本の案内、結婚式場の案内などの広告が貼られている。
- なんというのどかさ!
- 同じ阪神圏でこうも違うなんて。
- 気がつくと大阪駅に向かうまでは全然異質ではなかった私達の服装も荷物も、周りからは浮き上がった状態になっている。
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- 緑地公園駅で下車。
- 改札口へ行くにはいったん地下に降りなければならない。
- と、今乗っていた電車がゴーッという轟音を上げて頭上を走っていった。
- 「キャーッ!」
- 思わず二人で叫んでしまい、Yは私にしがみついてきた。
- 電車の轟音が、本震後ずーっと続いてきた地鳴りの音にそっくりだったのだ。
- しばらくは電車の音にさえも怯えねばならないのだろうか。
- たぶん電車の音だけではない、当分は今までは気にならなかったいろんな音にびくびくしながら過ごさねばならなくなるだろう。
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- Tの家は駅から歩いて3分程度のところにあった。
- 部屋は2つあってダイニングルームも広め。一人暮らしにしてはなかなか好条件だ。
- 彼女の家にはやはり西宮で被災した、彼女の大学時代の友人が数日前から転がり込んでいた。
- 1日だけとはいえ、Tは被災者3人の面倒を一気に引き受けることとなったである。
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- 荷物を置いて横を見ると小ぶりの食器棚が置いてある。
- 茶碗やカップ、お皿などがあり、棚の縁ギリギリに高価そうなグラスが置いてある。
- (地震が来たら割れちゃうじゃないの!)
- 私は思わずグラスを中の方に押し込んだ。
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- 6日目にしてやっとシャワーを浴びることができた。
- 自宅では温かいシャワーどころか水さえも出ない。
- 歯を磨くのだって汲み置きの水からコップ1杯水を汲んできてそれで磨くのだ。
- そういえば今日は雨が降ったので、家中のバケツや洗面器などをかき集め、庭に据えていた。
- 雨樋をはずしてその先をバケツに入れると水はあっという間に溜まった。
- その水はまず風呂桶にはり、少しずつトイレのタンクに移して使うのだ。
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- 会社の同期Fが様子を見にやってきた。
- 安否を確かめる電話が入っていたので私達が無事であることがわかってはいたが、実際に顔を見て安心したいのだと言う。
- 持つべき者は友人である。
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- 「きっと涙の再会になるだろうと思っていたのに、二人ともなんだか淡々としているわねえ。」
- 淡々というよりは茫然自失という方がふさわしい。
- 「涙の再会」なんて、そんな感情を表すこと自体、今では余裕の行動に思える。
- 特に、
- 「生まれてはじめて家の倒れる音を聞いた」Yは、はしゃいだり黙り込んだりと、やはり様子が変だ。
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- ところでFは震災発生4日後、私の家に来ようとしていたらしい。
- しかし、
- 「別の友達を見舞うために避難所に立ち寄ったらいつのまにかそこでボランティアをやっていた」んだそうだ。
- そして次の日、改めて私の家を訪れるべく、私に電話を入れてきたのだが、
- 「いやあ、灘区といってもほとんど被害なかったんよ。お見舞いするならもっと被害の大きい所から行ってよ。」と、珍しく殊勝な私の言葉を受け入れ、やはり避難所にボランティアに出かけたのだと言った。
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- 4人で食べる食事はおいしい。
- いや、味もさることながら
- 「ガスがつくよ!」
- 「水道をひねったら水が出る!」
- ついついはしゃいでしまう。
- こんな当たり前の生活がこんなに新鮮だなんて・・・。
- 普通の生活のありがたさがしみじみ身にしみる。
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- 新人研修の頃、座禅研修が縁で、我々と知り合ったMさんという人に安否の電話を入れようということになり、さっそく電話を入れる。
- 彼は東灘区の山手に住んでいる。
- 「いやあ、俺のマンションをはさんで東の一画と西の一画は崖崩れで避難勧告が出てるんだよー。ここのマンションもこわいけどね、避難勧告が出てないから一応とどまってるんだ。
- エレベーターのワイヤーが切れて一番下でメチャクチャにこわれちゃってるんで、階段の上り下りが大変だよ。」
- 東京に住んでいた彼の友人が実家である神戸に帰ってきて、この震災で帰らぬ人になったんだ、と淡々と語った。
- 「それがホントは30歳なのに新聞には40歳って出てたんで数日ほど引き取り手がなかったんだよ。」
- 今回の死亡率は神戸市民の300人に一人の割合に相当するらしい、などという話をして電話は切れた。
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- 「悪いね、布団が足りないから、一人はこたつ布団を使ってもらわないといけないの。」
- 自宅でテレビやタンスの降ってくる間合いを計算しながら、服を着たままこたつで眠るのに比べたらその程度の不自由さはどうってことはない。
- 父などは「天井から梁が降ってくる。」と、言って、自分の頭上にベニヤ板を渡して寝ているし、
- 母は母で「一階ではこわくて寝られない。」と、二階の私の部屋に布団を持ち込み、頭を押し入れに突っ込んで眠るという念の入れようだ。
- 普通で考えたらあまりにも異常な状態だ。
- でも今ではこれが普通。
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- ここで普通に眠ると言ってもやはりタンスなどの家具が倒れてくる間合いはちゃんと計算して然るべき場所に布団を敷かねば。
- 「よねちゃん、ちゃんと懐中電灯、手近に置いてある?」
- Yが声をかけてくる。
- もちろん。かの充電式の懐中電灯も抜かりなくたっぷり充電してある。
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- 頻繁にあった地鳴りや余震がまったくないというのもかえって不気味なものだ。
- エネルギーをためこんでまた一気に大きな地震がくるのかも。
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- 何度か寝返りをうつうちにT.N.ちゃんのことが思い出されてくる。
- 彼女の歳は25と新聞に書かれていた。
- 私とは同い年だから、この1〜3月の間に26になるはずだったのだろう。
- 26歳を目前に死んでいったことがなぜだかひどく哀しく思われた。
- 圧死だろうか、焼死だろうか。
- 死因なんて知ったところでどうしようもないのだけれど。
- せめて苦しまずに死んだのだったらいいけれど。
- いや、もしかしたらこの混乱の中だもの。
- 人違いってこともありうる。
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- 明日は10日ぶりに出勤。
- 初出勤みたいにドキドキするなあ。
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