1月25日


本日からいよいよウィークリーマンションに移動。
朝、Yの彼氏が車でやってきた。
 
昨夜、Yは電話をかけてきた。
「よねちゃんも重い荷物は運ぶの大変でしょう?
明日の朝、車で行くから荷物まとめておいてね。ただし大量には無理だから。
私、しばらくウィークリーマンションに住む覚悟で自分の荷物はほとんど全部持って行くつもりだから・・・。」
 
私は必要最低限の荷物をまとめた。
ほぼ半壊といってもいいYとは状況の違う私。荷物も少ない。
ライフラインが戻りさえすれば1秒でも早く自宅に戻りたい。
西九条界隈はあまり治安が良くないとも聞いているし。
それにいくら気心の知れている友人とはいえ、長期にわたっての同居はしんどそうだ。
部屋のスペースもワンルームだと聞いているし。
 
もちろん、こんな不満は今の状況では贅沢すぎる。
一部では私の会社のように法人でホテルやウィークリーマンションをおさえて社員に提供しているところもあるようだが数は限られている。
ましてこんな不景気の中、そんな措置すらとれないところも多いだろう。
だからたいていの人は自宅から何時間もかけて通勤することになる。
 
「会社側は辞めてほしいみたい・・・。
そりゃそうよね。こんな不景気の中、ちゃんとした時間に来ることもできない女子社員なんかに賃金を払いたくないだろうからねえ。」
昨日、三田に向かう電車を待つ大阪駅のプラットホームでこんな話をしている女性を見かけた。
歳は私ぐらいに見えたから20代半ばといったところだろう。
 
「うちの会社もそんな措置とってくれないの。
私、交渉してみたんだけどね。せめて一週間ホテルとってくれって。
会社は聞く耳持たずよ。
もうこっちも意地になって自宅から通ってるわよ、5時間もかけて!
フレックスだから何時に出社してもいいってのが幸いしているけど、ひどいと思わない?」
大学時代の友人もそうこぼしていた。
 
さて、車がやってきたので荷物を運び込んだのだが、なるほどすごい荷物だ。
後部座席は天井までいっぱいに荷物が積まれている。
「私の荷物、入るかしら。」
「あ、この程度なら大丈夫。」
Yの彼氏I君は、空いたスペースに器用に荷物を押し込んだ。
「これも乗せられるのなら乗せてほしいんだけれど・・・。」
私はアルトサックスの入ったケースを持ち込んだ。
「大丈夫。入ります!」
彼はあっさりと受け取り、車に詰め込んだ。
そう言えば昨日はサックスのレッスン日だった。
みんなレッスンに来てたのかな。
来てただろうな。
だって大阪はあんなに無事だったんだもの。
会社へ出ることもままならない私と、いつも通り趣味のレッスンに出てこられる人達。
なんという差だろう!
来週は行けるかな?物理的には可能だけれど精神的余裕がないから来週も行かれないだろうな。
そういえば、レッスン仲間には芦屋に住んでいる人もいた。
この人には直接電話して無事を確認している。
賃貸で住んでいたマンションは全壊したらしいが。
 
レッスンといえば4カ月間の短期レッスンでバイオリン講座も通っていた私。
この1月で修了だったはずなのに、当然これで打ち切りだろうな。
打ち切りどころか、レッスン場は住吉駅の隣にあったから建物自体ダメになってしまったかも。
いや、生徒のほとんどが神戸市民だったから全員無事かどうかもわからない。
先生だって職員だって無事なのかわからない。
 
「じゃ、荷物運んでおきます。」
車は荷物でいっぱいになった。
とてもじゃないけれど私の乗るスペースなんか作れる状態ではないので、電車で行くことにした。
 
Yは助手席に座っていたのだが終始黙然と座っていた。
車から出てくる気配もないし、一言もしゃべらない。
「なんだかね、機嫌が悪いんですよ。」
機嫌が悪いというよりはショックで口も聞きたくない心境なのだろう。
I君はしかし、Yがこんな風でも特に気にする風でもないようだった。
本当に気にしてないことはないのだろうが、少なくとも傍目にはそう見えた。
こんな時一緒に落ち込んだり、一生懸命なぐさめたりするよりは彼のようにひょうひょうとしていた方が救いになるような気がした。
一緒に落ち込むようでは当人の気が滅入るばかりだ。
 
車が走り去ってすぐに私は軽い持ち物ばかりを集めてリュックに詰めた。
いよいよマンションに出発だ。
たかが大阪に行くぐらいのことなのに、「いよいよ出発」という気合いの入ったものになる。
交通の便が悪く、今や大阪に出るのも一苦労だから、というのもあるが
いつライフラインが復旧するかわからない状況でどのくらいの期間そこで暮らすのか、という不安もあったからだと思う。
 
新神戸からいったん北区に出て三田でJRに乗り換え、3時間かけて大阪に出る。
かなり時間がかかるが確実だ。
いつ乗れるかわからない、いつ着くかもわからない代替バスに乗るよりましというものだ。
 
西九条は雑然とした町だった。その割には活気が感じられない。
駅を降りて商店街を突っきったところにウイークリーマンションはあった。
小さいが汚くはない。
 
「ああ、Fの人ね。」
管理人は2階の1室を開けてくれた。
部屋はワンルームだ。
こんな時ながら、本当にこんな時ながら、この部屋に二人は狭すぎると思った。
ベッドの横にはふとんが一組持ち込まれていた。
もう、それだけでなんだか狭すぎるという印象がするのに、これからYがたくさん荷物を運び込む。
足の踏み場もなくなるだろう。
「一人一部屋にした方がいいんじゃないか、てお宅の会社には言ったんだけどねえ、二人一部屋でいいって言われてね・・・。」
管理人もこれから更に狭くなるであろう部屋の状況が容易に想像ついたのか、そう言った。
 
ほどなくYの乗った車が到着。
みんなで彼女の荷物を部屋に運び込んだ。
引っ越すつもりで来た、というだけあって、なるほど私とは格段に荷物の量が違う。
服など、めぼしいものはほとんど持って来ている。
荷物を部屋の隅に積み上げ、少しでもスペースを余計にとる努力をしながらなんとか部屋を整理した。
 
明日からは、ここから通常出勤。
ほとんど何事もなかったこの辺の人達と同じように、普通に起きて普通に電車に乗って出勤するのだ。
すべて世は事もなし。
うーん、なんだか不思議。
今朝までは水にすら困っていたのに、もう今からは不自由のない生活できるなんて。
神戸の他の人がまだまだ不自由な生活を強いられているというのに、私達だけこんなところで何事もなかったように生活していていいのだろうか。ふと、そう思った。
とりあえず、家族も心配だし、週末になったら実家に帰らなくては・・・。
不自由でもホントは住み慣れた自分の家にいたいんだけれどね・・・。

 


 
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