エッセイ集
アウトドアクッキング
2003年1月
田舎暮らしというのは、いろいろと楽しいことがあるのだが、その一つに野外での料理がある。今風にいうと「アウトドアクッキング」であるが、昔風にいえば「飯盒炊爨」ともいえる。この昔風の言葉の意味などは、今の若者には多分まったくわからないだろう。だいたい飯盒というものをみたことがないという世代になっているのだから・・・・。
さて、野外料理というには、いささか気が引けるが、落ち葉を集めて焚き火をたき、そのなかにサツマイモを放り込んで焼きたての芋を味わうというのも、立派なアウトドアクッキングの入門である。これをやると孫の世代の子供たちは、ひどく喜ぶ。焼き芋を焼くという行為そのもの、つまりは焚き火を燃すということが田舎暮らしの環境でなければもはや不可能になっているからだろう。そして、できあがった焼き芋を、フウフウいいながら食べる、その熱さと旨さにまた感動するようである。
アウトドアクッキングの定番は、やはりバーベキューだろう。これはあまりにも一般化してしまい、いまや面白くもおかしくもない料理の一つとなってしまった。その理由は、バーベキュー用のコンロが普及したことで、普通の家庭の、芝生の上でもバーベキューができるようになったことによる。しかし、このバーベキューも専用コンロなどを使わないで、地面の上で焚き火をし、その残り火のオキを利用してバーベキューをすると、また一味違った味わいがある。
わが家では、戸外に大きな囲炉裏を作り、そこで盛大な焚き火をしたあとの残り火に炭を放り込み、その上に大きな網を載せて焼くのがバーベキューの定番となっている。この囲炉裏には自在鍵があるので、そこから大きな鉄鍋を吊るし、これできのこ鍋や芋煮などをやることもある。使う大鍋は日本の誇る鋳鉄製品、南部鉄である。鉄鍋でつくる料理は鉄の風味が入り込んできて一種独特の味わいがあるところがたまらない。
鋳鉄製品の鍋といえば、最近急速にその人気が出てきているダッチオーブン(DO)にふれないわけにはいかない。Dutch Ovenの名前から想像されるようなオランダ製の鍋ではない。これはれっきとしたアメリカ製の鍋である。その昔、西部開拓史の時代に幌馬車生活の人たちが好んで使用した鍋である。多分、西部劇映画で一度はお目にかかっているはずのものである。なぜDOなのかというと、この時代、この鍋を一手に販売していたのがオランダ人であったからだといわれている。
この鍋が最近は、一般家庭でも人気者となってきた。その理由は簡単である。この鍋を使うと料理の腕がそれほどでなくても、料理の味が驚くほどに美味しくなることによる。なぜ美味しくなるのかというと、その鍋の構造によるのだろう。厚手の鋳物の容器は熱がじっくりとまわり、焦げ付きが少ない。そしてその厚くて重い蓋は圧力鍋としての機能を発揮するので、料理素材への熱の通りかたが普通の鍋とは違ってくる。ともかく重い鍋である。わたしが使っている直径10インチ(約25センチ)の鍋で6kgである。12インチ(約31センチ)の鍋の場合だと9kgになる。こうした鍋を使いこなすのは、やはり男の仕事になってしまう。わが家でもカミサンは、重すぎるといって一切これに手を触れない。いきおい料理するのもあとの始末をするのもわたし自身の仕事となる。
DOにはそのサイズの違いだけでなく、大きく分けて2つのタイプがある。一つはキッチンタイプであり、もう一つはアウトドアタイプである。前者は普通の鍋だが、後者は足のついた鍋であり、この足があるために地面の炭火に直接乗せても座りが良い。そのうえ蓋にへりがついているので、蓋の上に炭火を載せることができる。つまり、下からだけでなく上からも加熱ができるという優れものである。名前のとおりにオーブンとしての機能が発揮される。もっとも初期のDOはビーンポットといわれる足もなく蓋のへりもないタイプのもので、いまでいうキッチンタイプのようなかたちだったらしい。
この鍋の泣きどころはメンテナンスにある。余分な加工なしの生粋の鋳物なので、使ったあとそのままにしようものなら赤錆だらけになってしまう。ようするに使ったあとの手入れが必須であるということだ。新品を手に入れたらまずはシーズニングと称する「馴らし運転」をやらないといけない。ともかく、この鍋は使い込むほどに黒光りして、色艶が良くなり、しっかりと使い込んだ黒い鍋はブラックポットと称している。こうした鍋を使って料理を始めると、この鍋を吊るすための三脚や、どこでも焚き火や炭火が使える専用の焚き火台などが欲しくなり、いきおいアウトドアクッキングにも本格的にのめり込むこととなってしまう。
最近、鋳物の鍋の良さが再認識されたのか、フランス製のラ・クルーゼという鋳鉄にホウロウ引きした鍋の人気が出てきたようである。この鍋は、DOのように無骨一辺倒とは大いにおもむきをことにし、ホウロウに鮮やかな彩色がほどこされた、しゃれた鍋である。いかにもフランス製という雰囲気をもっており、これなら食事のときにテーブルの上に、鍋そのままで出してもまったく抵抗がない。しかし、この鍋には取っ手はあるが吊り下げ金具がないので、野外の焚き火や炭火の上に吊り下げて使うわけにはいかない。
やはり、アウトドアクッキングでは、鉄製三脚からDOをぶら下げて、チロチロと燃える焚き火や真っ赤におきた炭火を囲んで、酒を酌み交わしながら料理ができあがるのを、ゆったりと待つという、その時の流れを楽しむのが最高である。