DIG!DIG!DIG!
’00フジテレビヤングシナリオ大賞応募作品(二次選考落選)
(解説)
久々のクラス会のためにタイムカプセルを掘る3人の女の話。
子供の夢は頃の夢をちゃんと覚えてる?
自分を見つめ直すとき、3人はどう変わっていくのか。
もっと重い作品にしたかったが何かが足りないと思う。
一時間じゃ短かった?
人 物
橘晴香(26)中学教師
染井由紀乃(26)漫画家アシスタント
小田島麻耶(26)会社員
丸山俊樹(23)中学教師
蘇我金治(50)中学教師
川嶋貴也(26)風俗店々員
三上健児(15)中学生
三上令子(45)健児の母親
田中(41)父兄
教頭(55)
校長(59)
刑事A(41)
刑事B(29)
風俗店々長(40)
編集部員(35)
医師(40)
私の名前は染井由紀乃。漫画家のアシスタントをやりながらせっせとデビューを
目指しています。今は同窓会に向けて小学校の時に埋めたタイムカプセルを
小田島麻耶ちゃんと掘り当てる毎日です。
今日は私の親友の橘晴香についてお話します。晴香は長いこと塾講師を
やっていましたが今度、私立中学の教師として採用されました。正月明けという
変な時期で私も心配をしましたがそれが見事に的中してしまいました。晴香が
受け持ったクラスは生徒の半数以上が不登校でした。責任感の強い晴香は
クラスを立て直そうと家出中の生徒を捜索したりもしましたがこれは学校に
とっては逆効果だったようでPTA役員の子供の喫煙を注意したことから罠に
はめられてしまいました。副担任の丸山って若僧も彼女の足を引っ張ったようで
とにかく一度は教師の道を諦めました。
さて私のほうはどうかといいますと漫画でも恋愛漫画が描けずにいました。
それは一種のトラウマとでもいいましょうか。過去の恋愛の傷が癒えないまま
なのです。そこで決着をつけるため昔の彼を殺そうと決意したのですがボコボコ
にする程度しか出来ませんでした。でも大丈夫、これで傷は癒えたはず。
ちょっと苦しいですが恋愛漫画もバリバリと描くつもりです。
晴香はその後、自分の小さい頃の夢が学校の先生だと知ってもう一度
やり直すみたいです。小さい頃の夢を叶えるって素敵なことですもんね。
心残りなのは麻耶ちゃん。彼女は結局玉の輿婚をキャンセルしました。
何か人生を見つめ直す気になったようです。どうやら私と晴香の生き方が
影響したようです。生き方なんて語れる生き方はしてないんだけど。
そんな感じで私たち三人はまた新しい道を歩きはじめました。次の
同窓会ではそれぞれがどう変わっているのか、今からとっても楽しみです。
○ 山林
静かに停車するパトカー。
無線(声)「現場にて不審人物を発見。このまま監視を続けます」
× × ×
パトカーの先には由紀乃と麻耶。
二人はスコップで穴を掘っている。吐く息が白い。
麻耶の指には婚約指輪。
麻耶「そうなんだ。晴香ちゃんも頑張ってるんだ。夢だったもんね」
由紀乃「夢?」
麻耶「小さい頃、言ってたもん。晴香ちゃん。学校の先生になるんだ、って」
由紀乃「そうなんだ」
麻耶「(頷く)それって凄いと思う」
由紀乃「でも私立中学の臨時採用だからね。いろいろ大変なんじゃないの。
晴香もああ見えて結構神経質だし」
麻耶「由紀ちゃんはどうなの?何かやってたでしょ。漫画家だっけ?」
由紀乃「(ため息)ぼちぼち。自立にはまだほど遠いけど」
麻耶「有名になったら私のことモデルにして。結婚を取るか仕事を取るか
悩みに悩むうら若き乙女の物語とか。結局は結婚が勝っちゃいそう
なんだけどね」
由紀乃「うーん。恋愛モノはパス」
麻耶「どうして?」
由紀乃「不得意分野」
麻耶「だったら私の半生を描いてよ。雑草みたいに生き抜いてみせるから」
由紀乃「(笑い)麻耶ちゃんの半生?短かすぎるよ」
× × ×
パトカー。
無線(声)「どうやら掘り返して移送する模様。現場を押さえます」
刑事が二人降りてくる。
× × ×
由紀乃と麻耶。
麻耶は息切れ。
由紀乃「大丈夫?少し休んだら?」
麻耶「平気平気。こんなんで弱音吐いてる場合じゃないし」
由紀乃「麻耶ちゃんは学級委員だしね」
麻耶「でもさ、貴也君も学級委員なんだよな。ったくどこで何やってるんだか」
ひたすら掘り続ける由紀乃。
麻耶「由紀ちゃん知らない?」
由紀乃「(顔色を変え)さっさと掘って持ってっちゃお」
麻耶のスコップに金属音。
麻耶「あっ!」
そこに現れる二人の刑事。
刑事A「そこで何をしている」
由紀乃「え?」
刑事B「ちゃんと質問に答えろ!」
由紀乃「穴掘ってるんですけど」
刑事A「そんなことは分かっている。掘り出したものをどこに持っていくのかを
聞いてるんだ」
由紀乃「どこだっていいでしょう。そんなの私たちの勝手だし」
刑事B「そんな勝手が日本で許されると思ってんのか!」
由紀乃「勝手って…わけ分かんないよ…」
麻耶「(囁く)もしかしてここ、誰かの私有地だったんじゃない?」
刑事B「違う!」
刑事A「君たち青木鉄次郎を知ってるな」
由紀乃「青木?誰それ?(麻耶を見る)」
麻耶「(頭を振る)」
刑事B「知らばっくれんじゃねえ!この下にはな、奴の供述で埋まってる
はずなんだよ!」
由紀乃「何が?」
刑事A「死体だ」
由紀乃・麻耶「げっ!」
○ 相模川警察署・外観
○ 同・取調室
由紀乃と麻耶。刑事二人。
刑事A「タイムカプセル?」
由紀乃「(頷く)」
麻耶「(しかめっ面)まずいよね…」
刑事B「ウソつくんじゃねえ!」
由紀乃「ウソじゃないよ。ほんとにウソつくんだったらもっとマシなこと考えるって」
刑事B「ウソつけこの!タイムカプセルってのは普通、校庭に埋めるもんだろう!」
由紀乃「だから!誰にも見つからないところを選んだの!」
麻耶「(しかめっ面)まずいよね…」
刑事A「見つからない場所か。確かに死体を隠すような場所だから一理あるか」
刑事B「ちょっと先輩!何言ってんすか!そんなのウソに決まってるでしょう!」
刑事A「落ち着けこの!瞬間湯沸器!」
刑事B「これが落ち着いていらいでか!」
刑事たち取っ組み合い。
由紀乃「早く帰して欲しいんだけどなあ…同窓会も近いんだし(麻耶を見る)」
麻耶「どうしよう…何か当たったんだけど、あれ、死体だったのかなあ…」
由紀乃「(ため息)こんな時、晴香がいてくれたらなあ…」
○ 堀江学園中学校・外観
○ 同校・職員室
晴香がいる。
周囲の教師の視線は冷たい。蘇我も。
校長と教頭が入ってくる。
晴香、立ち上がり、礼。
教頭「お待たせしました」
校長「お掛けください」
教頭「ようこそ我が校に。この度は急な募集に反応していただきありがとう
ございました。お聞きになってるとは思いますが前任者が急死しまして…
通常なら副担任が昇格するんですが何しろ若輩者で。そこであなたに
担任をお願いしたいと」
晴香「あの…」
教頭「何ですか?」
晴香「私…その…経験がないんですけど。担任とか、教師も初めてで…」
教頭「(校長と顔を見合わせ)免許、持ってるんでしょ?」
晴香「…はい」
教頭「教育実習を経験してれば充分です。大丈夫、あのクラスの生徒たちを
立派に巣立たせてやって下さい」
晴香「…」
教頭「(校長と顔を見合わせ)では、以上です。では、ホームルームの方、
お願いします」
校長、教頭、立ち去ろうとするが、
晴香「待って下さい」
教頭「まだ何か?」
晴香「これだけなんですか?」
教頭「これだけ?ああ、忘れてました。丸山君!」
丸山、走ってくる。机の角に足をぶつけて痛そう。動きもそそっかしい。
周囲の教師に笑われる。
教頭「副担任の丸山君。クラスで分からないことがあれば彼に聞くといい」
丸山「よろしくお願いします」
晴香「違うんです。名簿とか、成績表とか、クラスに関する資料が何もない
じゃないですか」
教頭「(校長と顔を見合わせ)そんな必要はないでしょう」
晴香「?」
教頭「さっきも言ったでしょ?あなたの仕事はそのまま子供達を卒業させて
くれればいいんです。まあたった三ヶ月ではやりたくても何も出来ないでしょうが」
晴香「?」
教頭「あなたは塾講師としては長いキャリアがあります。その点からいうと
ちょっと物足りないかもしれませんがね」
丸山が入ってくる。
丸山「まじっすか?塾講師?まじっすか?すごいなあ」
教頭「我が校の校訓は独立自尊です。生徒の個性を重視しています。
あまりでしゃばらないように気をつけて下さい」
教頭、周囲を見て、
教頭「今度新しく仲間に加わってもらいました橘先生です。みなさん優しく
アドバイスをお願いします」
教員たち、イヤイヤ拍手。
丸山は精一杯拍手。
校長「(晴香に)まあ、肩肘やらずに適当にやって下さいよ」
晴香「…」
○ 同校・廊下
晴香と丸山。
丸山「まじ、どこの塾っすか?」
晴香「…」
丸山「教えてくださいよ、まじで」
晴香「(ため息)飯田橋」
丸山「飯田橋予備校?まじですか?俺通いましたよ。現役の頃から」
晴香「(ため息)」
丸山「懐かしいな。もしかしたら習ってるかもしれませんね。現国の横澤先生
って知ってますか?」
晴香「あのさ…」
丸山「懐かしいなあ」
晴香「話の途中で悪いんだけど。他に話すことがあるでしょ?」
丸山「?」
晴香「クラスのこととか。私何も知らないんだから」
丸山「そうでしたね。(笑う)クラスには全く問題はありません。まあ頭の
レベルは最低ですが」
晴香「…」
丸山「あとは、体育祭、球技大会での成績は優秀です(笑う)頭を
使いませんからね」
晴香「(立ち止まる)丸山君」
丸山「はい?」
晴香「もっとましな情報はないの?」
蘇我がゆっくりと歩いてくる。チンピラのような歩き方。
蘇我「(舐めるように見る)あんたが新入りの姉ちゃんか」
晴香「(睨む)」
蘇我「そんな怖い顔するなって。お手柔らかに」
蘇我は手を差し出すが晴香は無視。そのまま歩いていく。
蘇我「(笑う)」
○ 同校・三年二組
荒れている。席にもつかず歩き回る生徒達。
晴香と丸山が入ってきても全く気にしない。
晴香「席について!」
丸山は全く動こうとしない。
晴香は暫く生徒の様子を眺めているが、大きく息を吸い込んで、
晴香「座れっつってんだろ!」
静まり返る室内。ゾロゾロと席につく生徒たち。だが半分もいない。
晴香「(丸山に)どういうこと?」
丸山「…問題ありません」
晴香「(睨む)」
丸山「ありません」
丸山を引っ張っていく晴香。
○ 同校・廊下
晴香と丸山。
晴香「説明してよ!」
丸山「ですから、問題ありません」
丸山の胸倉を掴む晴香。
晴香「(睨む)」
丸山「…四十五名中、二十名が不登校。うち五名が親元を離れています」
晴香「それって家出ってこと?」
丸山「…被害届は出てません。学校やPTAも問題として扱ってない以上問題は…」
晴香「あるでしょ、充分」
晴香、教室に戻ろうとするが、
丸山「無理しないほうがいいですよ。前の人、自殺しちゃったんですから(笑う)」
晴香「!」
○ メインタイトル
○ 風天閣・外観
結婚式場。
○ 同・朱雀の間
相模川小学校昭和六十二年度卒業生同窓会。
由紀乃は食べてばかり。麻耶。
他の男女はタイムカプセルに群がっている。
麻耶「見て見て!みんな結構おっさんになってるよ。ほら、原田君なんか
目も当てられない」
由紀乃「名前分かるだけ幸せなんじゃないの?」
麻耶「ほらほら!ミスクラスメートの康子ちゃん。オバンオバン!」
由紀乃「オバンってあんた…」
麻耶「もう!由紀ちゃん食べてばっかり」
由紀乃「もったいないじゃん。みんなあれに釘付けで何も手つけないんだから」
麻耶「(目輝かせ)それにしてもすごいよね。あんなに探しても見つからなかった
のに晴香ちゃんに頼んだら一日で。どこに埋まってたんだろう」
由紀乃「あれ、ハッタレ。適当に作ったみたい。だから来てないでしょ?晴香」
麻耶「(驚く)全部?未来の自分への手紙とかも?」
由紀乃「男は総理大臣と野球選手。女は看護婦と保母さん。将来の夢は
そのどっちかになってるはず。筆跡変えるんで手しびれさせたり、
左手使ったりして。ああいうことさせたら天才だよ、晴香」
二人の『未来の自分への手紙』将来の夢はそれぞれ看護婦と保母。
由紀乃「ね?」
麻耶「…バレるよ、絶対」
由紀乃「大丈夫だって」
麻耶「やっぱり貴也君に連絡とればよかった。
どうにかしてでも」
由紀乃「(顔色が変わる)」
麻耶「由紀ちゃん?」
由紀乃「さっさと食べよ」
○ 路上
晴香。丸山がやってくる。
晴香「いた?」
丸山「いません」
晴香「じゃあもっと範囲を広げて」
晴香、走りだそうとするが、
丸山「多分無駄だと思いますよ」
晴香「?」
丸山「見つけたからって学校来るわけじゃないですし」
晴香「(睨む)嫌なら帰っていいのよ」
走りだす晴香。公然とタバコを吸う三上を発見。
晴香「ちょっと何してんの?」
三上「あ?」
晴香、タバコを取り上げ自分で吸う。
晴香「未成年でしょ。周りの人間は注意しな
くても私は見逃さないよ」
三上「あっちいけよ!」
三上の手のひらを見る晴香。
晴香「常習ね。どこの学校?」
三上「大人。ちゃんと生えてるよ。見る?」
晴香「ふざけないで」
三上「東京…大学…」
晴香、三上の胸倉を掴む。
晴香「ちゃんと答えないと警察に突き出すわよ」
三上「(ふてくされて)堀江学園中学…三上健児」
晴香「!」
三上「もういいだろ」
晴香「よかないよ。学校はどうしたの?」
三上「今日は休み」
逃げようとする三上を引っ張る晴香。
晴香「説明しなさい!」
三上「ちょっと!あんたにこんなことされる筋合いないんだけど」
晴香「あるんだよ(睨む)私はあんたの担任だから」
三上「(うすら笑い)面白れえじゃん」
○ 堀江学園中学校・外観
○ 同校・職員室
晴香と丸山、教頭。
教頭「わがまま言わないで下さいよ」
晴香「わがまま?私はちゃんと見たんですから。三上健児が喫煙してるのを」
教頭「でも本人も父兄も認めてませんし」
晴香「不登校の生徒と教師、どっちを信じるんですか?」
教頭「そんなに熱くならないで。最初に言ったでしょう?あなたは子供達を
卒業させるだけでいいんですから」
晴香「(呆れる)」
教頭「あんまり変な問題を起こさないで下さいよ」
晴香、出ていく。
丸山も後を追うが、蘇我。
蘇我「よせよせ。そんなに仕事熱心になるこたあねえよ。若いうちは女と
セックスしてればいいんだよ。おバカさん」
蘇我、ポケットウイスキーをあおる。
丸山「…」
丸山、出ていく。
○ 同校・廊下
晴香の後を追う丸山。
丸山「三上健児の母親はPTA役員なんです」
晴香「だから何なの?」
丸山「学園への寄付金を取りまとめてるんです」
晴香、進む。
丸山「お願いしますよ!」
晴香「そんなの関係ないでしょ。立派な法律違反なんだから」
晴香、歩いていく。
○ 同校・三年二組
晴香と丸山が入ってくる。
生徒達は皆、窓の外を見ている。
晴香「?」
生徒達は歌いはじめる。
最後列の三上は歌わない生徒をコンパスで刺す。
周囲にも睨みをきかせている。
晴香「どういうつもり?」
歌は止まらない。
○ 同校・職員室
晴香の後を追ってくる丸山。
晴香はコートを着る。
晴香「許せない!」
丸山「無駄ですよ」
晴香「あなたは無駄無駄っていつも言うけど、ちゃんと行動したことあるの?」
丸山「…」
晴香「名簿貸して」
丸山「…」
晴香「名簿!」
丸山「…」
晴香「ないの?」
丸山「…」
晴香「もういい。自分で探す」
晴香、出ていく。
冷ややかな周囲の視線。
丸山も出ていこうとするが、
教頭「丸山先生」
○ 交番・前
晴香が出てくる。
晴香「ありがとうございました」
歩き出そうとするが携帯電話が鳴る。
晴香「もしもし…え?生徒がラブホテル?(周囲を気にして)何でそんなとこ
にいるわけ?」
○ 堀江学園中学校・会議室
丸山、携帯電話。
丸山「タレコミがありました。誰からかは分かりません。今は中学生がそういう
ところにいても不思議ではないですからね」
○ 交番・前
晴香、携帯電話。
晴香「(困る)で、どこなの?」
○ 堀江学園中学校・会議室
丸山、電話を置く。額に汗。
教頭が肩を叩く。
教頭「君は世渡りが上手いな。将来有望だ」
丸山「(笑い)ええ、まあ」
教頭は教師Aと視線を合わせる。
教師A、出ていく。
○ ラブホテル・前
晴香が出てくる。
左右を見て他のホテルに駆け込む。
物陰に教師A。カメラを持っている。
○ 山林
麻耶と由紀乃が穴を掘っている。
由紀乃「ねえ、もういいじゃん」
麻耶「ダメだよ。バレちゃったんだから…ここじゃないのかなあ」
由紀乃「(困る)地図とかに残してないの?」
麻耶「(頭を振る)」
由紀乃「目印とかは?」
麻耶「そっか!」
由紀乃「まじ?何?木?」
麻耶「石」
周囲を見渡す由紀乃、石ばっかり。
由紀乃「(ため息)」
麻耶「貴也君なら分かると思うんだけど。場所決めたの彼だし」
由紀乃「(つぶやく)もうちょっと場所考えろよ」
麻耶「ねえねえ、ちょっと聞いていい?貴也君と何かあったの?」
由紀乃「(顔色を変え)別に」
麻耶「ふーん」
そこに派手なスポーツカー。貴也が降りてくる。すっかりホスト風。
貴也「よぉ」
麻耶「貴也…君?」
由紀乃「!」
麻耶「ちょっとお、探してたんだよ。連絡ぐらいくれても」
貴也「悪い悪い。何かと忙しくてさ。橘晴香に連絡したらここじゃないかって」
由紀乃「(天を仰ぐ)」
貴也「あ、そこじゃなくてもうちょっと手前のほうじゃなかな。このへん」
歩いてくる貴也と由紀乃の視線が合う。
貴也「よぉ。元気そうだな」
由紀乃「…どうも」
由紀乃の鼓動が激しくなる。
貴也「(麻耶に)この辺だよ。道路から五メートルって感じだったから」
由紀乃「じゃああたし帰るね」
麻耶「由紀ちゃん」
由紀乃「ほら、場所も分かったし。もういいでしょ」
貴也「由紀乃」
由紀乃「…じゃあね」
麻耶「一緒に掘ろうよ」
由紀乃「ごめん、二人で勝手にやって。悪いけど私、飽きちゃった」
麻耶「…由紀ちゃん」
歩いていく由紀乃。息遣いも荒く足元もふらついている。
貴也が腕を掴み、
貴也「由紀乃!」
由紀乃「かまわないで(腕を振り払い)呼び捨てにしないでよ」
由紀乃、歩いていく。
麻耶「ねえ、二人、何かあったの?」
貴也「何で?」
麻耶「変だよ」
貴也「変?失礼な。確かに変態プレイは好きだけど」
麻耶「バカ」
貴也「(笑う)」
由紀乃は貴也が気になる。
○ 堀江学園中学校・外観
登校風景。
○ 同校・会議室
教頭。
晴香が入ってくる。
晴香「(怪訝)」
教頭は写真を差し出す。ラブホテルから出てくる晴香の写真。
教頭「どういうことですかな?」
晴香「?」
教頭「困るんですよね。教師ともあろうものがこのような副業を」
晴香「は?副業?」
教頭「やってないという証拠はあるんですか?」
晴香「証拠?私はただ生徒を探しに行っただけで」
教頭「その生徒はいましたか?(笑う)我が校の生徒に限ってそのような
ところに出入りするなどとは考えられません」
晴香「ちょっと!」
教頭「困るんですよね。PTA総会も近いことですし」
教頭、校長と視線を合わせ。
教頭「丸山君」
丸山、入ってくる。晴香とは視線を合わそうとしない。
晴香「!」
教頭「橘先生、あなたは当分お休みをお取りになって結構です。心身ともに
お疲れでしょうから。担任はこちらの丸山先生にお願いすることにします」
晴香、丸山を睨みつける。
丸山はひたすら視線を逸らす。
教頭「丸山先生は長くあのクラスの副担任を務めてますからどうぞご心配なく。
きっと立派に生徒達を巣立たせてくれることでしょう。そうですよね、先生」
丸山「(困る)」
教頭「そんな顔しないで。我々が全力でサポートしますから」
晴香「…よかった」
丸山「?」
晴香「正直、私も殺されるかと思ったよ」
丸山「…」
晴香「余計なことかもしれないけど、あんたがしっかりサポートすれば前の
担任も死なずに済んだんじゃない?」
教頭「何を言うんだ!前任者は病気で」
晴香「いや、殺されたんだ。あんた達に」
丸山「…」
晴香「しっかりやりな」
晴香、出ていく。
丸山、追う。
○ 同校・廊下
晴香の後を追う丸山。
晴香「何?」
丸山「(頭を下げる)」
晴香「謝るんなら最初からするな」
丸山「まさかこんなことになるとは…僕はただ…」
晴香「言い訳もするな!」
丸山「…」
晴香「(笑い)これから大変だよ。くれぐれも命だけは大切に。自殺なんか
するな(腹を殴る)」
丸山、棒立ちで失禁。
○ アパート・外観(夜)
○ 同・由紀乃の部屋(夜)
電気スタンドだけで机に向かう由紀乃。
額は汗まみれ。息遣いも荒く鼓動も早い。
○ 大東京出版・編集部(回想)
由紀乃と編集部員。
編集部員は生原稿に赤ペンで×印をしていく。
編集部員「ここもだめ、これもだめ(ため息)もっとさ、活き活きとした恋愛は
描けないの?十代の女の子ってさ、頭の中恋愛でいっぱいなんだよ。
そういう需要に応えられるものを描いてくれないと…難しいんじゃない?」
由紀乃「…」
編集部員「遊びならもう来ないで」
真っ赤な原稿を渡される由紀乃。
○ もとの部屋(夜)
由紀乃。さらに息遣いは荒くなる。イ
ンク瓶をこぼして原稿が黒く染まる。
由紀乃「…大丈夫…絶対…」
床を這う。
由紀乃「…大丈夫…由紀乃…何してるの…ほら…大丈夫だから…絶対に…」
朦朧としはじめる。
由紀乃「…大丈夫…絶対描けるから…」
けいれん。
由紀乃の白目。
○ 橋(夜)
夜景を見つめている晴香。
携帯電話が鳴る。
晴香「!」
○ 相模川中央病院・外観(夜)
○ 同病院・病室(夜)
晴香と麻耶、医師。
由紀乃は眠っている。
医師「一時的なショックによるものです。身体的なものというよりは精神的な
ものですから二、三日様子を見ましょう」
晴香「精神的なもの?」
麻耶「(頷く)由紀ちゃん、時々うなされてるんだ。大丈夫、絶対描ける、とか。
まるで自分に言い聞かせるみたいに」
由紀乃「(うなされる)…大丈夫…大丈夫だから…」
麻耶「由紀ちゃん!」
由紀乃「(うなされる)…大丈夫…描けるよ…絶対…」
晴香「(驚く)」
○ 同・外(夜)
長椅子に座る晴香。タバコを吸う。
麻耶がやってくる。
麻耶「お母さんが明日の午前の飛行機で来るって」
晴香「そっか」
麻耶「由紀ちゃんのご両親、離婚してたんだね」
晴香「(頷く)」
麻耶「全然知らなかった。明るそうに見えて苦労してるんだ」
晴香「あいつの苦労は人並みじゃないよ」
麻耶「ねえ、さっきのやつだけど」
晴香「ん?」
麻耶「由紀ちゃん」
晴香「ああ」
麻耶「もしかして貴也君と関係あるんじゃない?」
晴香「どうして?」
麻耶「昨日、来たんだ。貴也君。穴掘りに。結局見つからなかったんだけどね、
その時も何か変だった」
晴香「…」
麻耶「そうなんでしょ?」
晴香「由紀乃もバカなんだよ。貴也に捨てられたのをずっと根に持ってて。
人間くっついたり離れたりするのは自然なことだって割り切ればいいのに」
麻耶「そうじゃないと思うな。人間って簡単に計算して生きていける動物じゃないと
思うし。それは晴香ちゃんがサバサバし過ぎなんじゃないの?もっとさ、噛めば
噛むほど味の出る女になったほうがいいよ」
晴香「あたしはスルメかい」
煙を吐く晴香。
麻耶「晴香ちゃん、もう遅いから帰っていいよ。私朝までいるから」
晴香「大丈夫だよ」
麻耶「明日仕事でしょ」
晴香、右手で首をはねる。
麻耶「ほんとに?」
晴香「明日から職安通い」
麻耶「すごいね」
晴香「?」
麻耶「何か波乱万丈って感じ。何もないのは私だけ」
晴香「結婚生活は波乱に満ちてるよ、きっと」
麻耶「それは違うと思うな。親が決めた相手と結婚して、子供産んで育てる。
墓場まで線路ひかれたようなもんだよ」
晴香「寂しいこと言うねえ。そんなのおかしいと思えば途中で軌道修正すりゃ
いいんだよ」
麻耶「そんな余地なし。親同士も仲がいいから。まあどちらかと言えば幸せ
なんだけどね。お医者さんだし」
晴香「(呆れる)」
麻耶「でもね、身近に身体張って生きてる人がいるとさ、考えちゃうんだよね。
いろいろと」
晴香「悪い友達を持ったもんだ」
麻耶「(頷く)すっごく悪い。超ワル」
晴香・麻耶「!」
由紀乃が立っている。
由紀乃「…お願いがあるの」
○ 堀江学園中学校・外観
○ 同校・三年二組
生徒達の私語、徘徊、携帯電話、メール、居眠りで収拾がつかない。
丸山「(戸惑う)」
三上がメリーさんの羊を歌いはじめる。睨みを利かすと周囲も同調。
教室内は大合唱。
三上「ああこれじゃ勉強できねえよな!勉強してえなあ。このままじゃ
高校行けねえよ」
丸山「…」
三上「何だよ、注意も出来ねえんじゃ話になんねえな。やっぱこいつ使えねえ、
下がれ下がれ!」
○ 同校・職員室
丸山がやってくる。教頭を見つけ、
丸山「教頭先生!」
教頭「!」
丸山「相談があるんです。待って下さい!」
教頭は足早に消える。
丸山の背後に蘇我。
蘇我「安心しな。誰もかまっちゃくれねえよ」
丸山「?」
蘇我「あんたは若いから分かんねえだろうけど、教師ってえのはな、そんなに
甘くはねえんだよ」
蘇我、ポケットウイスキーをあおり、
蘇我「教師は自分に厳しかったら負けなんだよ。どこか適当で、自分に甘く
他人に厳しく。そんなところがないと長生き出来ねえんだ」
丸山「ぼ、僕は…」
蘇我「残念でした。あんたもだまされたんだよ。学校の都合のいいように
あしらわれて。あの姉ちゃんみたいにな(笑う)」
丸山「…」
丸山、着席。頭を抱える。
ふと見ると棚にノート表紙に『マル秘』
丸山、ノートを開く。
丸山(声)「丸山君、いや丸山先生…君がこのノートを読む時は相当ヘコんで
いることと思います。それは…」
晴香(声)「…それは君が」
○ 同校・三年二組(回想)
激しくぶつかりあう晴香、丸山。
晴香(声)「陰に隠れてコソコソと生きてるから。いつもいつも。地中を縦横無尽に
走るモグラも太陽の下では生きていけないでしょ?」
○ 路上(回想)
走る晴香と丸山。
晴香(声)「もし君が真剣に教師になろうと思うのならこれから先のページに
進んでください。塾講師としてですが私がこれまで培ってきたものを
お教えします」
○ もとの職員室
丸山、ページをめくろうとするが、
晴香(声)「ただし、これから先に進んだら決して後戻りはしないこと。やっても
ないのに出来ないと拒んだり、些細なことで落ち込んでしまうのなら
ここまでで終わって下さい」
丸山「(考える)」
ゆっくりとページをめくる丸山。
○ ハローワーク・外観
○ 同・中
賑わっている。特に中年男性が目立つ。
○ 同・喫煙所
中年男性に混じってタバコを吸う晴香。
携帯電話が鳴る。
晴香「もしもし(驚く)えっ?逃げた?あんたまさか…」
○ 相模川中央病院・ロビー
受話器を持つ麻耶。
麻耶「どうしてもって言われたから断りきれなくて。ごめんね、ほんとごめん」
その場に泣き崩れる麻耶。
○ 繁華街
メモ片手にゆっくりと歩いてくる由紀乃。雑居ビルの前で立ち止まる。
イメクラ『マラニアム打線』の看板。
由紀乃の懐にはナイフ。
○ イメクラ『マラニアム打線』・前
雑居ビル内の店舗。
店長が観葉植物に水やり。
店長「(背中越し)オープンはまだだよ」
由紀乃「あの…」
店長「(振り返り)あ?面接?だったら中に入って。さ、さ」
由紀乃「あの…貴也はいますか?」
店長「?」
由紀乃「川嶋貴也です」
店長「(残念)何だ。(店の中に)貴也、おい!」
由紀乃の懐に入れた手が震える。
貴也、出てくる。
貴也「(驚き)由紀乃!」
由紀乃「(緊張)」
貴也「どうした?」
由紀乃「(苦しそう)」
由紀乃、ナイフを出せない。
貴也「(店長を見る)」
店長「分かったよ。開店までには戻って来いよ」
貴也「すみません」
貴也、由紀乃を連れ出そうとするが店長が引き止め、
店長「お前の女か?」
貴也「いや…」
店長「だったら説得して連れて来い」
貴也「?」
店長「結構上玉だし。ああいう素人っぽい子を好む男は多い。だましても
いいから連れて来い。分かったな」
店長、貴也の背中を押す。
○ 洋風居酒屋『摩天楼』・外観
○ 同・中
向かい合わせの貴也と由紀乃。
貴也「悪いな。このへんはこういう殺風景なところしかないんだよ。ビールでいいか?」
由紀乃「…」
店員、やってくる。
貴也「(店員に)ビール二つ。あと枝豆と冷奴。(由紀乃に)魚ダメなんだよな?」
由紀乃「…」
貴也「じゃあお好み焼き。ミックスで」
由紀乃「…」
貴也、ポケットから通帳と印鑑。
由紀乃「…」
貴也「好きなだけ下ろせ」
由紀乃「…」
貴也「困ってるんだろ?」
由紀乃「…」
貴也「違うのか?」
由紀乃「…」
貴也「何だよ」
由紀乃「(俯く)」
貴也、通帳と印鑑をしまう。
貴也「漫画、まだやってるんだってな」
由紀乃「…」
貴也「困ったことがあればいつでも言ってくれ。俺たちこれでも…」
ビール到着。
貴也「さ、飲もうぜ」
由紀乃「…」
貴也「俺は飲むからな、とことん」
一人で乾杯。
由紀乃「…」
○ 繁華街(夜)
貴也。その後ろに由紀乃。
貴也は酔っている。
貴也「今日は楽しかったよ。由紀乃も元気そうだし」
由紀乃「…」
貴也「じゃあこの辺で(右手を差し出し)がんばれよ。元気でな」
由紀乃「…」
貴也が無理矢理手を握ると由紀乃は泣き崩れる。
由紀乃「ごめん…やっぱりダメだ、私…」
貴也「?」
由紀乃「…私…」
貴也「何がダメなんだ?」
由紀乃「…私…貴也に負けないようにって生
きてきたけど、やっぱりダメだ。
何も変わってない」
貴也「?」
由紀乃「貴也のこと、一生懸命忘れようとした。憎んで憎んで。でもね、ダメだった。
どんな大きな憎しみを作っても貴也の顔見ると吹っ飛ぶんだよ…」
貴也「由紀乃には漫画があるだろ?」
由紀乃「もういい、漫画なんか…」
貴也「(ため息)そっか」
沈黙。
貴也「じゃ、行こうか」
由紀乃「?」
貴也「(胸を掴み)そんな言い訳並べても結局ヤリたいから来たんだろ?」
由紀乃「!」
貴也「ヤセ我慢すんなよ、ほら、昔みたいに」
由紀乃、ビンタ。
貴也「俺は悪いけどな、お前を好きだったんじゃない。お前の身体を愛して
たんだよ」
由紀乃「バカにしないでよ!」
貴也「強がり言っちゃって(抱き寄せ)頭は強気でも身体は正直なんだろ?」
由紀乃、殴る。吹っ飛ぶ貴也。そのまま殴る、蹴る。
由紀乃「情けない…これが貴也なの?何でも一番じゃないと気がすまなかった
貴也なの?私の好きだった…」
貴也「…」
由紀乃、懐に手を入れる。ナイフを振り上げるが…
晴香が由紀乃の手を掴む。麻耶。
晴香「もう気が済んだろ」
由紀乃「やだ!殺してやる!」
晴香「殺してどうなるんだよ!」
由紀乃「いいの!貴也を殺して私も死ぬ!」
麻耶、由紀乃にビンタ。
麻耶「聞き分けのないことを言わないの!貴也君殺してどうなるの?由紀乃
ちゃんが死んでどうなるの?だいたい、過去の恋愛引き摺ってるから
恋愛漫画が描けないなんか言い訳だよ!」
由紀乃「…」
麻耶「悔しかったら見返してやればいいんだよ。面白いもの描いて、見返して
やればいいんだよ!」
由紀乃「(泣く)」
麻耶は由紀乃を抱きかかえて立ち去ろうとするが…
由紀乃「ちょっと待って」
由紀乃、貴也の顔に唾を吐きかけて歩いていく。
晴香は貴也に手を貸そうとするが振り払われる。
貴也「これでいいんだよ」
晴香「…貴也君」
貴也「(立ち上がり)頑張ってるんだってな。先生」
晴香「頑張ってないよ、全然」
貴也「今のところお前だけだ。ちゃんと夢叶えてるのは」
晴香「?」
貴也「タイムカプセルの手紙、将来の夢は先生。全員の分覚えてるんだ。
詰めたのは俺だから」
歩きだす貴也。
晴香「由紀乃は?」
貴也「いいって言っただろ。あいつとは住む世界が違うんだ」
晴香「…」
貴也「由紀乃の夢は漫画家。あいつは俺と一緒にいるとダメになる」
晴香「…貴也くん」
貴也「頑張ってくれよ、俺たちの分も」
貴也、よろよろと歩いていく。
晴香「…」
○ 堀江学園中学校・外観
○ 同校・渡り廊下
体育館へと続く。
晴香の後を追う教頭。
教頭「待ちなさい。あなたは謹慎中のはずだ」
晴香「自宅待機と聞いてるだけですが」
教頭「だったら家でおとなしく」
晴香「私は学校が家だと思ってますんで」
教頭「そんな屁理屈…だいたいこんな日に学校に来なくてもいいじゃないか!」
晴香「(不敵な笑み)」
足早に進む晴香。
教頭「誰か、止めてくれ!」
体育館の入口には丸山。
晴香「(睨む)」
丸山「…」
丸山は視線を合わせず移動。
晴香「(微笑む)」
○ 同校・体育館
PTA総会々場。
晴香がズンズン歩いてくる。
役員席の令子、田中。
令子「ちょっと、その女よ、その女。そいつがうちの息子に濡れ衣を着せたの」
晴香、令子の前に。
どよめく場内。ヤジも飛ぶ。
晴香「あんたが三上健児の母親か」
令子「な、何よ、だから何なのよ」
晴香「(ニヤリ)この母親にしてあの子あり、か」
令子「お陰でうちの息子、家で落ち込んじゃって大変なのよ。内申下がって
もうろくな高校に行けないって。子供の将来踏みにじったのによく平気な
顔してられるわね」
田中「それに担任が売春してたことが受験先の高校に知れると少なからず
影響が出てくる。三上さんの息子さんだけじゃなくクラス全体の問題だ」
ヤジ「そうだ!どうしてくれんだ!」
令子「この商売女!責任取ってよ!」
教頭。
教頭「まあそう興奮なさらずに」
令子「あなたがたの責任もあってよ」
ヤジ「そうだ!責任を取れ!」
田中「そうだ。今回の件について説明してださい。教頭」
田中、教頭にマイクを差し出す。
教頭「(汗)まあそれはですねえ」
ヤジ「ちゃんと説明しろ!」
晴香「(ため息)」
晴香、壇上に上がりマイクを使い、
晴香「ふたこと目には内申だの受験だのって。あんたら子供の脳味噌見た
ことあんのか?」
どよめく場内。
晴香「そんなに子供の進学を気にするんだったら(見渡す)…合格させてやるよ。
あたしが。責任持って」
どよめく場内。
晴香「その代わり、子供を責任持って登校させること。勉強もしつけも何でも
かんでも学校に押し付けてきたあんたらだ。それぐらいは朝飯前だろ?」
田中「…」
晴香「この話、ノるならやってやるよ。このクビかけて」
教頭「…」
令子「!」
令子がマイクを持って反論しようとするが、スイッチが入らない。
調整室でアンプの電源を落としたのは丸山。
教頭は壇上に駆け上がろうとするが校長が制止。
校長「面白いじゃないですか」
教頭「ですが…」
校長「お手並み拝見といきましょう」
○ 同校・体育館入口。
ゾロゾロと出ていく父兄たち。
丸山が立っている。
最後に晴香が出てくる。
丸山「(バツが悪そうに)あの…」
晴香「数学、引き受けてくれる?」
丸山「あ、あの、僕、理科も大丈夫です。同じ理系ですし」
晴香「考えとくよ」
○ 同校・外観
チャイムが鳴る。
○ 同校・職員室
立ち上がり出ていく晴香。丸山も後を追う。
教頭らは冷ややかな視線。
蘇我は笑っている。
○ 同校・廊下
晴香と丸山。
丸山「かっこいいっすね」
晴香「何が?」
丸山「そうやって一直線になれるところ。僕には到底…」
晴香「一直線ね。君よか東大に言われたほうがよっぽどうれしいんだけど」
丸山「?」
晴香「(笑い)分かんないか。やっぱり」
三年二組の前で立ち止まり、
晴香「(深呼吸)さあ、はじめよっか」
丸山「…」
晴香「どうしたの?」
丸山「…僕は…僕は橘先生を見て思いました」
晴香「は?」
丸山「…その…教師って、学校の先生って、ほんとはいい職業なんじゃないか
って。だから僕は…僕は頑張ります、頑張って、頑張って…」
晴香「あのさ、そういうのはいちいち宣言しなくていいの。決意ってのはさ、
心の奥に秘めて、こうバーッと爆発させるもんなの。分かる?四六時中
ガス出してたら便秘になる、あれと同じこと」
丸山「(あ然)はぁ…」
晴香「分かったら始めるよ」
丸山「は、はい」
晴香「元気よく」
丸山「はい!」
○ 同校・三年二組
晴香が入ってくる。
生徒達は騒いでいるが着席すると三分の二は埋まっている。
晴香「(つぶやく)初日としては上々かな」
だが、三上はいない。
晴香「はい、静かにして。君たち、話は聞いてるとは思うけど今日から授業は
スペシャルプログラムになります。従って休み時間
もありません。
トイレに行きたい人だけ五〇分に一回教室の外に出られます」
どよめく生徒達。逃げ出そうとするが扉や窓は閉められ外から
カギが掛けられる。
晴香「(ニヤリ)では、最初は国語から」
○ 同・外
カギを手にほくそ笑む丸山。
そこに令子、田中ら数人の父兄がやってくる。
令子「こういうのは許せない!人権無視よ!」
丸山、制止しようとするが、
令子「訴えてやるわ。田中さんの弟さん、弁護士なんだから」
そこに数人の生徒が現れる。健児も。
令子「健ちゃん、こんなとこに来ちゃだめよ。何考えてるの?」
健児「うるせえよ…」
令子「健ちゃん…」
健児「みんなに抜け駆けされたくねえんだよ。ほら、先生、カギ開けてくれよ」
令子「ダメよ、そのカギ、渡しなさい」
もみくちゃにされる丸山、カギを奪われるが…奪ったのは蘇我。
蘇我「俺も仲間に入れてもらうぜ」
丸山「?」
蘇我「あの姉ちゃんは国語、あんたは数学と理科。俺は社会…それに…
(笑い)俺は帰国子女なんだよ実は。ハゥドゥユゥドゥ?でもとりあえずは…」
蘇我はカギを持って走りだす。
令子ら父兄は後を追う。
蘇我から丸山に鍵のロングパス。
丸山「(あ然)」
健児「早く開けてくれよ!」
丸山「は、はい!」
○ 山林
穴を掘る由紀乃と麻耶。
麻耶「ねえ、どうなったの?」
由紀乃「何?」
麻耶「恋愛漫画」
由紀乃「まあね。頑張ってるよ」
麻耶「不得意分野克服ってとこ?じゃあ今度こそ私をモデルにして。私の半生。
愛と涙の鹿島灘って感じで」
由紀乃「…意味分かんないよ」
穴を掘る由紀乃。
麻耶「そうだ、晴香ちゃんどうしてるんだろ」
由紀乃「ああ、あいつね。いろいろ頑張ってるよ。大変みたいだけど」
麻耶「夢なんだもんね。学校の先生。ちょっとやそっとじゃやめられないもんね」
由紀乃「…そうだね」
麻耶「どうしたの?」
由紀乃「何でも」
麻耶「ねえ聞いてくれる?私もちょっとだけ頑張ってみることにしたんだ。
みんなあんなに張ってるから」
由紀乃「何を?」
麻耶、左手を見せる。
由紀乃「あれ?指輪落っことしちゃった?」
由紀乃、探そうとするが…
麻耶「違うよ」
由紀乃「…!」
麻耶「みんなの生き方みてて感じたの。もう一回考えてみよっかな、って。
だって一度きりの人生だもんね」
由紀乃「まじで?」
麻耶「(頷く、ニッコリと)」
由紀乃「(苦笑)そんなの見習わなくてもいいのに…」
麻耶「晴香ちゃんにも報告したいなあ」
由紀乃「晴香かあ…」

○ 堀江学園中学校・外観
人影はない。
○ 同校・廊下
人影はない。
聞こえてくる「仰げば尊し」
○ 同校・体育館
卒業式。
生徒達が歌う「仰げば尊し」
丸山は涙を流している。
○ 同校・三年二組
誰もいない。
壁には生徒の名前がかかれている紙。
名前の上には花がつけられているが
…花のある名前は半分もない。
○ 同校・職員室
晴香の机の上には辞表。
そして、蘇我の机上にも。
○ 同校・体育館
「仰げば尊し」終わる。
退場する卒業生を拍手で送る在校生、教職員。校長、教頭。
校長「丸山君」
○ 同校・屋上
タバコをくわえる晴香、ライターが差し出される。
差し出したのは蘇我。
蘇我「(笑う)」
晴香「すみません。何か巻き添え食わせちゃったみたいで」
蘇我「うちには畑もあるから何とか食っていけるさ。あんたこそいいのかい?」
晴香「(笑う)丸山君が何とかしてくれますよ」
蘇我「(頷き)俺はな、幸せだったよ」
晴香「?」
蘇我「もう絶滅したかと思ってたよ。あんたのような骨のある教師は。
それにしてもやめるなんてもったいねえなあ」
晴香「(苦笑)」
きしみ音を立てながらドアが開く。
そして三年二組の生徒達が出てくる。一人、また一人。
そして健児…そして丸山。
一同「(礼)ありがとうございました」
丸山がゆっくりと歩いてくる。
晴香に封筒を差し出し、
丸山「辞令が出ました。来年度の新入生の担任をお願いします」
晴香、ためらっているが背中を押す蘇我。
晴香は生徒のもとに。
蘇我「おい、俺の辞令はないのか?」
丸山「はい」
蘇我「薄情だなあ…俺のほうがずっと長いのに」
丸山「長ければいいってもんじゃないですよ」
蘇我「何だと!」
晴香、戻ってくる。
晴香「ありがとう。もう思い残すことはないよ」
丸山「え?」
晴香「辞令は辞退させてもらうよ」
丸山「ちょっと!」
蘇我「お姉ちゃんせっかく…」
晴香「じゃあ」
晴香、歩き出そうとするが、
丸山「橘先生」
立ち止まる晴香。
丸山「先生…先生が先生辞めるなんかもったいないよ…それじゃもったい
なさ過ぎる」
晴香「?」
丸山「先生のような先生が先生やめるんなら、やめてやる。僕もやめてやる!」
丸山、ネクタイを外して投げ捨てる。
丸山「やめて…アルバイトの面接して、牛丼屋で働いてやる。週何回も夜勤
やって身体ボロボロになっても負けないぞ、絶対負けないぞ…」
晴香「だからさ、そういうのはいちいち宣言しなくったっていいんだってば」
丸山「だって…だって…」
晴香「大丈夫だって」
丸山「え?」
晴香「決まったんだよ。公立中学」
丸山「(呆然)」
晴香、丸山にネクタイを結ぶ。
生徒からひやかしの声。
晴香「今度はライバルだよ」
丸山の肩を叩いて晴香、去る。
混乱する丸山。
蘇我「おい、その辞令俺にくれないか?」
丸山「だ、ダメですよ」
蘇我「何だよ、俺は先輩だぞ。お前の」
丸山「そういう問題じゃないですよ」
蘇我「薄情だなあ…」
丸山「薄情なのはあっちですよ」
丸山、晴香の背中を見る。しかし頼もしげ。蘇我も。
晴香は颯爽と歩いていく。
―完―
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