急げ!
’98フジテレビヤングシナリオ大賞応募作品(一次選考落選)
(解説)
お茶の間にあまりにも短絡的に登場する男女や母娘の「入れ替わりモノ」に
怒りを感じて描いた作品。
逆に今まで入れ替わっていた高校生の「その後」を追うお話。
反発はしたが結局この作品も安易に戻ってしまう。
その上、ヒロインの天然ぶりに苦心したがあまり効果はなかった。
全体的に中途半端に終わったのが残念。特に冒頭部分。
最後の一人芝居のト書に苦心した。
人物
堀光孝(17)高校生
中村浩司(17)高校生
児玉広兼(16)高校生・由里香のいとこ
是永由里香(17)高校生
高瀬章(17)高校生
堀の父
堀の母
堀の姉
○公園
セミが鳴いている。
夏なのに木枯らしが吹き付け、夏なのに枯葉が舞っている。
お互いの頭をぶつけ合う堀光孝(17)と
高瀬章(17)。
高瀬「もっとしっかりと来いよ、だらしない奴だなあ」
掘「分かってるよ、このまんま卒業なんて絶対イヤだからな」
高瀬「俺だって同じだ、このまんまだったら人生そのものが狂っちゃう
からな」
高瀬、堀の頭をつかんで思いっきり頭突きをする。
火花が飛び散り、頭を抱えて倒れ込む二人。
起き上がる堀、自分の手や身体を見回して、
堀「やった、やった!戻ったぞ!」
高瀬も立ち上がり、
高瀬「うぉ、やった、やった!三年ぶりの俺の身体だよ、懐かしいなあ」
手を取り合おうとする二人だが、我に返りにらみ合う。
堀「例のものは?」
高瀬「ポケットの中だ」
胸ポケットから紙切れを取り出す堀と高瀬。
高瀬「お前凄いな、秀才学院に受かったんだ、俺の頭で」
堀「お前・・・・・・」
高瀬「馬鹿、俺は俺なりに頑張ったんだ。あ
!何だよ、勝手に野球部
なんかに入りやがって」
堀「先輩が恐くて断りきれなかったんだ、それに残念だけど夏休み中
練習だよ」
高瀬「うそ−」
頭を抱える高瀬。
堀「ところで何だよ、この地学部ってのは」
高瀬「最高だよ、そこの奴ら、最近化石ばっか掘ってんだけどさ、俺、
腕がいいって仲間から評判なんだぜ」
堀「そんなのすぐやめてやる」
高瀬「一回やってみろって、ハマるぜ。ま、俺は野球部なんか速攻やめる
つもりだけど」
堀「あ、無理無理、絶対無理。練習さぼったりするとジャンジャン電話
かかってくるから、やめるなんか到底無理。今日もこれから練習だから、
頑張れよ」
高瀬の背中を押す堀。
高瀬「うそ−。秀才学院だからもう何もしなくてもいいと思ったのに」
堀、うなだれて歩いていく高瀬に、
堀「人物表、ちゃんと読んどけよ」
ポケットから差し出した紙切れを高々と上げる堀。
○メインタイトル
−急げ!−
○桂ヶ丘高等学校・全景
夏の日差し、蝉の声。
○同高校・グランド
昼下がり、テニス部やサッカ−部の生徒が汗まみれになって練習を
している 。
彼らの出す声が遠く響きわたる。
○同高校・地学準備室・前
「地学準備室」のプレ−トの下に「地学部」の手書きの看板が打ち
付けてある。
廊下には誰もいない。
○同・中
大きめの机で作業をする児玉広兼(16)机の上には削りかけの化石が
いくつも転がっている。その前で児玉は真剣な表情で何やら必死に
書き物をしている。
が、よく見るとクロスワ−ドパズルである。
扉が少し開き外から覗き込む堀、児玉を見つけるとゆっくりと入って
くる。
児玉「あ、ミツさん。今日は早いっすね」
堀、紙切れ(人物表)を見る。
児玉(声)「児玉広兼、一年生、熱しやすく冷めやすい、いまどきの高校生」
堀、児玉に歩み寄り、
堀「やあ、児玉くん、おはよう」
児玉「児玉君だって?ミツさんどうかしたんすか」
堀「あ、いや別に。ほう、クロスワ−ドかね
、面白そうだなあ」
児玉「うそ、ミツさんクロスワ−ド嫌いだって言ってたじゃないっすか、
俺、バカだからそういうのをやると脳味噌が溶けるんだって」
児玉、さらに強調して、
児玉「バカだから、脳味噌溶けるって」
堀、動揺しながら、
堀「ああそうだ、嫌いだ、そういうの大嫌いだったな」
中村浩司(17)が入ってくる。
中村「おう、ミツ、今日はやけに早いな」
堀、紙切れを見る。
堀(声)「中村浩司、地学部部長、面倒見はいいが、押しつけがましい
のがたまにキズ」
堀、中村に微笑んで、
児玉「中村くん、おはよう」
中村「中村くんだと?お前なんかあったのか」
児玉「あ、いや別に」
中村、背負ったいたリュックの中から石を取り出して机の上に
並べる。
中村「カット、合宿の計画書書いて来たか?
」
児玉「まだっす」
中村「おい、頼むぞ。今年は化石三昧にするんだからな」
堀「カット?児玉くんはカットって呼ばれてるのか」
児玉「そうっすよ。俺、キレやすいから、カット、カットって。
いやだなあ、ミツさんがつけたんじゃないっすか」
堀「俺が?」
児玉「他にもいろんな人にあだなをつけたじゃないっすか、みんな
それでヤになって来なくなっちゃいましたけど。ほら、ミツさん、
ひどい人だから」
堀、悲しそうな笑顔を浮かべ、
堀「そうだな、俺はなんてひどいやつなんだろうな」
堀、取り出した紙切れに向かって、
堀「そういう大事なことはちゃんと書いとけよな」
中村「ミツ、何だそれ?」
紙切れを取り上げる中村。
中村「中村浩司、地学部部長、面倒見はいいが、押しつけがましいのが
たまにキズ?なんだこりゃ?」
児玉「メガホンですか?」
中村「メガホン?」
児玉「ミツさん言ってたじゃないですか、中村はありゃメガホンだって。
口やかましいし、小さなことでも大げさに事を荒立てるって」
堀「俺が?」
中村、苦笑いを浮かべ、
中村「メガホンね、はは、言い得て妙だ。おい、ミツ、どういうことだ!」
紙切れを破り捨てる中村。
堀「もう、勘弁してよ、昨日までの俺は俺じゃないんだから」
中村「なに訳の分からないことを言ってんだ」
児玉「そうっすよ、言い訳は良くないっすよ。ミツさんらしくもない」
堀、頭を抱えてうずくまり、
堀「ああっ、どうすればいいんだ!」
○コンビニエンスストア・全景(夕)
郊外の店、前に数台の自転車。
○同・中(夕)
住宅地図を立ち読みする堀。
堀「ああっ、こうなったのか」
不意に大声を出した自分に頬を赤らめ店を飛び出していく堀。
○同・前(夕)
店から飛び出してくる堀、正面の真新しい道路の左右を見渡す。
そこにさしかかる是永由里香(17)、自転車に乗っている。
堀「ユリカ?」
由里香「ミッちゃん」
堀「ユリカ?」
堀、由里香の身体をなめまわすように見つめる。
由里香「ミッちゃん、どうしたの?そんなに汗かいて」
堀「あ、いや、道が全然変わっちゃてるから」
由里香「道って国体道路のこと?去年出来たんだよ、知らないの?」
堀「なるほどな、知ってるよ、知ってる」
由里香「ミッちゃんが話しかけてくるなんて珍しいね」
堀「部活?」
由里香、かぶりを振り、
由里香「ちょっとね、あと図書館にもいった」
堀「相変わらず勉強家だなあ」
由里香「からかわないでよ」
由里香、自転車に乗ろうとする。
堀、唾を呑み込み、
堀「あの、よかったら一緒に帰らない?」
由里香「え?」
堀「ほ、ほら、久しぶりだしさ」
由里香「久しぶり?結構顔合わせてたじゃない、ミッちゃんは無視
してたけど」
堀「無視?そりゃ悪いことをした、昨日までの俺は俺じゃないんだ」
由里香「どういうこと?」
堀「俺が他の奴と入れ替わってたんだ」
表情を明るくする由里香。
由里香「王子と乞食みたいな感じ?」
堀「いや、そういうんじゃなく、頭の中が入れ替わって」
由里香「へえ、それでどうなったの?」
堀「戻った、今さっき」
由里香、口をとがらせて、
由里香「つまんない、その話、オチがない」
堀「オチ?」
歩きだす堀と由里香。
○路上(夕)
丘の上の住宅街に続く道を歩く堀と自転車を押す由里香。
だんだんと街並を見下ろせるようになる。
堀「落語?」
由里香「そう、落語」
堀「何でそんなものに凝ってんだ?」
由里香「やだ、中学の時、ミッちゃんが本貸してくれたじゃない、
あれからよ」
堀「ああ・・・・・・そう言えば俺も昔凝ってたなあ、本当に」
由里香「月に三度は寄席に行ってるの、だから部活なんかできなくて。
ミッちゃんは何か部活やってるの?」
堀「地学部」
由里香「地学部?どんなことやってるの?」
堀「化石ばっかり掘ってる。らしい」
由里香「何だか面白そうね」
堀「どうかなあ」
一陣の風が吹く。
足を止め、街並を見下ろす由里香。
由里香「いい風ね」
風が由里香の髪を揺らす。
息を呑む堀。
由里香「最近、涼しいよね。もうこのまま秋になっちゃうのかなあ」
髪を掻き上げる由里香。
堀、由里香のうなじを見て動揺し焦点が定まらなくなる。
由里香「ね?」
堀「あ、ああ、ああ」
歩きだす由里香、堀もついてくる。
由里香「どうしたの?ミッちゃんの家、ここ入ったとこだよね。
それとも家に遊びに来る?」
堀「うっ」
堀、激しく動揺する。
由里香「冗談よ冗談、じゃあね」
自転車に乗っていく由里香。
堀は由里香の後ろ姿を見続ける。
○堀家・前(夕)
堀がやってくる、建物を見上げて微笑み家の中に入っていく。
堀「ただいまあ」
○同家・リビング(夕)
堀の父と母、堀が食事をしている。
食欲旺盛な堀、父と母は堀の顔を覗き込んでいる。
父「なあ光孝、お前なにか変わったことあったのか?」
堀「何で?」
父「いや、別に何もなければいいんだよ、いいんだ」
堀「変なの。おかわり」
父「母さん、おかわりだ、急ぎなさい」
堀の母は震える手で堀の茶碗を受け取る。
堀の姉が入ってくる。
姉「ただいまあ、きゃっ」
堀の姉は堀の顔を見て驚く。
堀「あ、姉ちゃん、久しぶり」
姉「ほ、本当に久しぶりね」
堀「どうしたの?」
堀の母、震える手で茶碗を堀に渡し、
母「何でもないのよ」
父「そうだ、何でもないんだよ」
姉「そ、そう」
堀の家族は何かに怯えている。
○同家・廊下・電話口(夜)
薄暗い。
堀が受話器を持っている。電話の相手は高瀬。
堀「家出?」
高瀬(声)「ああ、このところちょっとムシャクシャしてな」
堀「それだけじゃないだろ」
高瀬(声)「出てくときにちょっと暴れたくらいかな」
頭を抱える堀。
堀「俺の人生、ぶち壊さないでくれよ」
高瀬(声)「俺だってひどいもんだ、親は変に俺に期待をかけてるし、
近所の人も昔とは全然態度が違うし、今はなあ、お前の作った
いい子ちゃん像を崩すので精一杯なんだよ」
堀「どうしてそんなことするんだよ」
高瀬(声)「なんかかったるくって。あ、そうそう、野球部、やめたから」
堀「よくやめられたな」
高瀬(声)「ちょっと暴れたら、もう来なくていいってさ、さあ。
明日からなにやろう、街プラプラしてよっかな」」
高瀬の息を吐く音。
堀「煙草吸ってんのか?」
高瀬(声)「吸えるわけねえだろ、友達はカタいし、本当にナマ殺しだよ
これじゃ」
堀「今までさぼってた罰だ」
高瀬(声)「バカ言うな、ああいう逆風の環境でも学校にはちゃんと
いってやったんだぞ、こっちは感謝してほしいくらいだよ」
堀「どうせ化石堀りたかったんだろ?」
高瀬(声)「よく分かったな」
堀「あのなあ、化石なんかなあ」
高瀬(声)「化石なんかだと?化石を馬鹿にするな!」
○高瀬家・前(夜)
住宅街の一軒家、「高瀬」の表札。
○同・高瀬の部屋・中(夜)
ストロ−をくわえながらコ−ドレスホンを持つ高瀬。
電話の相手は堀。
高瀬「いいか、化石ってのはな、歴史のカプセルなんだ、地球の歴史、
つまり俺達の祖 先の生活がぎゅっと詰まってるんだ、いいか?
化石を馬鹿にするということは家の墓石に唾を吐きかけるのと同じ
ことなんだぞ」
堀の落胆した声。
堀(声)「お前からそんな話が聞けるとはな。ありがと、勉強になったよ」
高瀬「ああ、化石削りてえな、なあ、どうしよう?」
堀(声)「知るかそんなもん、勝手に掘りに行けばいいだろ」
高瀬「ところが発掘ポイントは中村しか知らねえんだ、他の奴は
削るだけってわけだ、汚い奴だよ、あいつは。ああ、化石、化石」
○掘家・廊下(夜)
受話器を持つ掘。
堀「分かった分かった。ところでさ、由里香って女の子知ってるか?」
高瀬(声)「ユリカ?知らないなあ、誰だ?」
堀「いや、何でもない、元気でな、もう逢うこともないだろうけど」
高瀬(声)「おい、それだけかよ」
受話器を置く堀、人の気配を感じながらも階段を上がっていく。
○同家・堀の部屋
荒れ放題の部屋。堀、入ってくるなり咳き込んで窓を開ける。
部屋を見渡し、戸棚を開ける堀、中からエロ本が飛び出してくる。
堀、家族が堀の部屋を覗いているのに気付き、戸を閉め、
鍵をかける。
戸棚からエロ本を引っ張り出すと一番奥から中学校のアルバムが
出てくる。
アルバムを開く堀、由里香の写真に見入っている。
突然堀は本棚を物色し、中から「落語の基礎」という本を見つけ、
開く。
堀「じゅげむ、じゅげむ、ごこうの・・・・・・」
咳払いをする堀、声を整えて、
堀「じゅげむ、じゅげむ・・・・・・」
○同・外(夜)
堀の家族が聞き耳を立てている。
○桂ヶ丘高等学校・全景
○同高校・地学準備室・中
化石がゴロゴロしている机を囲む堀と児玉。堀は居眠りを、
児玉はクロスワ−ドに興じている。
中村が入ってくる。
中村「なんだミツは今日も早いな」
児玉「そうなんすよ、でもミツ先輩、やっぱりちょっと」
堀の前にある「落語の基礎」を指差す。
中村、ため息をついてバッグの中から取り出した岩石を堀の前に置く。
堀、目覚め、
堀「あ、おはよう」
中村「今日のお前の分だ、気をつけて削れよ」
堀「あ、ああ分かった」
ノミと金鎚を持つ堀、一撃で岩石を真っ二つにしてしまう。
中村「おい!なにやってんだ!」
堀「ご、ごめん」
中村、ため息をついて、
中村「おいミツ、どうしたんだ、昨日は三葉虫をバラバラにして、
今日はアンモナイトを真っ二つ。最近、お前変だぞ、その落語の
本といい、何かあったのか?」
堀「い、いや別に」
児玉「恋とかしちゃったんじゃないですか?」
堀「え?」
堀の額から汗がこぼれる。
児玉「夏休みって行動範囲が変わりますからね」
堀は口を開けたまま。
中村「ミツ、そうなのか?」
○同高校・グランド
野球部の練習風景。
○同高校・地学準備室・中
堀、中村、児玉がいる。
中村「幼なじみ?」
堀「そう」
児玉「ミツ先輩、やめたほうがいいっすよ、幼なじみとの恋なんか、
禁断の恋ですよ、禁断の恋」
中村「一概にそうとは言えまい」
児玉「じゃあどうするんですか?」
中村「地学部の部長として、つかみかかった部員の幸せを無碍に
放っとく訳にはいくまい。行こう」
堀「行こうって?」
中村「まず相手を見ないと作戦は立てられまい。ミツ、その子が
出没する場所に案内してくれ」
堀「そんなことやったって」
中村「いいから言う通りにやれ、その子のことが好きなんだろう?」
堀、暫く沈黙して、
堀「・・・・・・そりゃそうだけど」
中村「だったらまかせとけ、カットも行くぞ」
児玉「俺も?」
中村「いいか、言ってみればこれは戦争だ、兵隊は多いほうがいい」
児玉「は?」
中村「いいから来い」
中村、堀を引き摺っていく。
○県立図書館・全景
県立なのでそれなりに規模は大きい。
○同・閲覧室・中
多くの利用者で混み合っている。
カウンタ−の脇のソファに座る堀、中村、児玉、新聞紙を
大きく広げ紙面越しに周囲を見ている。
中村「いるか?」
堀「いない、ここにいなければ寄席にいると思う」
中村「寄席?変わった子だな」
児玉「ねえ中村さん、ミツ先輩は分かるけど俺や中村さんは顔を隠す
必要はないんじゃないの?」
堀「俺だって別にこんなコソコソしなくてもいいのに」
中村「うるさい、さっきも言ったろ、これは戦争なんだ、戦争だったら
大っぴらに顔を出さないだろ?密林の中では迷彩服を着る、あれと
同じことだ」
児玉「戦争って、誰と誰の?」
中村「こいつと・・・・・・誰だ?いい質問だな」
児玉「ほら、話がおかしくなった」
中村「うるさいな、こいつと・・・・・・そうだ、その子の彼氏だ、いなければ
思いを寄せてるやつでもいい、どうだ、そいつの邪魔をすればいいんだ」
児玉「なるほど」
堀、落胆した表情で、
堀「彼氏・・・・・・」
中村「まだいると決まった訳じゃない、例えばの話だ」
児玉「あっ!」
新聞紙で顔を隠す児玉。
堀「来た!」
中村「何?」
堀「ほら、黄色い服の子、髪の長い」
カウンタ−の前に立つ由里香。
借りるのは落語の本ばかり。
中村「結構かわいいじゃん」
堀「そ、そう?」
堀、何故か自慢げ。
中村「なあカット」
児玉は新聞紙で顔を隠している。
中村「どうしたんだ?」
児玉「黄色い服の人」
中村「どうしたんだ?ははん、さては一目惚れだな?ミツ、弱ったな、
ライバル誕生だよ」
児玉「違う、そんなんじゃなくて、あいつ、いとこのユリカっすよ」
堀「いとこ?」
児玉「俺、あいつ苦手なんすよ」
中村「結構付き合いはあるのか?」
児玉「そりゃあんまり遠くに住んでないんで
、正月ぐらいは顔を
合わせるけど、あいつ俺に落語憶えさせようとするんすよ」
堀「また俺のせいだ」
頭を抱え込む堀。
児玉「じゅげむ、じゅげむ、ごこうの、すりきれ・・・・・・ああ、いやだ!」
堀「パイポパイポのシュ−リンガン、シュ−リンガンのグ−リンダイ・・・・・・」
中村、不敵な笑みを浮かべ、
中村「ミツ、お前いい後輩を持ったな」
堀「いい後輩?」
中村「作戦は決まった、とりあえずカットを諜報員としてあの子の家に
潜入させる」
児玉「そんな」
中村「お前が適役だ、第一俺が行ったって、あんた誰?って言われて
門前払いだ。それとも児玉くんに頼まれましたってドカドカ上がってって
やろうか?」
児玉「それじゃ脅迫っすよ」
堀「そこまでしなくても」
中村「お前は黙ってろ。お前はとりあえず待ってるだけでいいんだ。
あ、そうだ、この本を貸してやるから勉強しとけ」
中村、「プロの化石発掘」という本をかばんから取り出して
堀に渡す。
堀「これ、図書館の本じゃん」
中村「あと一週間くらいあるから、読み終わったら返しといてくれ、
あ、そうだ」
メモに走り書きをする中村、地図を書いて堀に渡す。
中村「これが発掘現場の地図だ」
児玉「ああっ、それ」
中村「お前はまだだ、いいかミツ、この場所はまだ誰も知らないんだぞ」
堀「いいよ、そんなの」
中村「ばか、俺はな、お前の腕ががもっともっと上達するようにって
思ってたんだ、それだけ俺の期待がこもってると思え。部室の俺の
道具も使っていいから、な、な」
中村、メモを本に挟んで堀に押しつける。
児玉「いいなあ、ミツ先輩だけ特別扱いにして」
中村「バカだなあ。こういうのを男の友情っていうんだ、お前にも
そのうち分かる。さあ、作戦実行だ、カット、頼むぞ」
児玉「は?」
中村「鈍いなあ、早速あの子のうちに潜入だ、盗んだ情報は明日の
午前十時に部室で作戦会議にかける」
児玉「そんな」
中村「見事役目を果たしたら発掘現場を教えてやるから」
悩む児玉。
○桂ヶ丘高等学校・全景
グランドで練習する野球部員たち。
校舎の時計は十時。
○桂ヶ丘高等学校・地学準備室・前
遠くから金属バットの快音が響く。
○同・中
机に向かう児玉、削りかけの化石に囲まれながら眠っている。
児玉の前には「落語の初歩の初歩」、
「ビギナ−落語
・スタ−トライン以前」という本がある。
ドアが開き、中村が大きなバッグを背負って入ってくる。
中村「カット、どうだった?カット」
児玉をゆする中村、児玉うめき声をあげながら、
児玉「じゅ、じゅげむ、じゅげむ・・・・・・」
中村「・・・・・・もう少し休んでろ」
中村、バッグから岩石を取り出して机の上に並べはじめる。
中村「あれ、ミツは?おい、カット、ミツはどうした?」
児玉、うめき声をあげながら、
児玉「さっきまで居ました」
中村「じゃ、今はどこにいるんだ?」
児玉「さあ、発掘じゃないんですか?」
部屋の隅を見る中村、「中村」と大きく書かれたバッグが
置いてある。
中村「いや違うぞ、丸腰で発掘に行く訳ないし」
児玉、顔を上げ、
児玉「あっそうだ、ユリカ、今日友達と逢うって言ってた」
中村「何?本当か?」
児玉「ええ、寝言で確かに」
中村「お前」
児玉をにらむ中村、
中村「他に情報はないのか」
児玉「それだけでも大収穫ですよ」
中村、ため息をついて、
中村「あのなあ、誰もお前がその子に添い寝しろって言ってないぞ。
日記やノ−トを盗み読みするとか、もっと他に方法があるだろう」
児玉「せっかく苦労したのに」
中村「苦労して手に入れた情報かもしれないけど、堀が行っちゃったん
なら、全然意味ないだろう。残念ながらまだまだスパイ失格だな、
今夜、もう一度潜入しろ、いいな」
児玉「え−!」
児玉、本当にあながち嫌そうな顔でもない。
○児童公園
母親と子供たちで賑わう公園。
ベンチに座る堀。
由里香がやって来て堀の隣に座る。
由里香「待った?」
堀「いや、別に」
由里香「何なの?ミッちゃんが私を呼ぶなんて珍しい」
堀「あ、あのさ」
由里香「あ、落語憶えたんだ、そうでしょう」
堀「ま、まあね」
由里香「じゃ、聞かせて。ミッちゃんは私の師匠なんだから」
堀「じゅげむ、じゅげむ・・・・・・」
咳払いをする堀、改めて、
堀「じゅげむ、じゅげむ、ごこうの、すりきれ・・・・・・」
由里香「ちょっと待って」
頬をふくらます由里香。
由里香「それ、落語じゃない、確かに寿限無は基本だけど、それは
ただの人の名前憶えてるだけだよ」
堀「あ、そうなんだ」
堀、咳払いをして、
堀「このあたりのものでござる・・・・・・」
由里香「それ、狂言じゃないの?」
堀「ちょっと待てよ」
慌てる堀、震える手でカバンを開く、中から「落語の基礎」と
「プロの化石発掘」という本がこぼれる。
由里香、「落語の基礎」を拾い上げ、
由里香「だめよこんなんじゃ、古典もいいけど創作ぐらいやらなきゃ」
堀「創作落語?」
由里香「そうよ、例えばこういうの」
由里香、姿勢を正して落語を始める。
由里香「え−、近頃は携帯電話やPHSといった類のものが流行って
おりまして、街角でも電話片手に闊歩する人々も見受けられますが、
とうとう通話エリアがあの世まで伸びまして、賽の河原や三途の川
でも死人たちが、あっちでピ−ピ−、こっちでピ−ピ−やり始めて、
とうとう閻魔様のお裁きの場所でもピ−ピ−やり始めたから大変だ、
さすがの閻魔様も堪忍袋の緒が切れて、そばにいた鬼に命令した。
「おい、こやつらが電話で話せないようにしろ」
「かしこまりました」
鬼達は電話が鳴るたびに持っていた槍で人間をグサ−ッ、グサ−ッと
刺しては放り投げた。この作戦でさすがに閻魔様の前で電話器を構える
者もいなくなったが、さらに困ったことが起きた。近頃はEメ−ルと
いうものも流行っているようで、電話にもその機能が付いたものが
あるんですな。人間達はそれを使い始めた、お裁きの場でも文字を
送ったり、受け取って読んだり、静かなものだからこれでは鬼も手を
出せない。人間達は閻魔様のお裁きも聞かずに熱中したが、たまらない
のは閻魔様、さすがにプライドを傷つけられたようで、そばにいた鬼に
「おい、こやつらがメ−ルとやらを読めないようにしろ」
と命令したが鬼はゆっくりとかぶりを振り、
「いえ、それはできません」
「なぜじゃ?それではこやつらが読まないように睨みをきかせるのは
どうじゃ?」
「いえ、それもできません」
「なぜじゃ?」
「それはここが黄泉の国(よみのくに)だからです」
開いた口が塞がらない堀。
由里香「どう?ちょっと講談入ってるけど」
堀「すごい」
由里香「見直した?」
堀、唾を呑み込んで、
堀「好きだ」
由里香「本当?じゃ、この話、あげるよ、もう飽きちゃったから」
堀「違う、ユリカのこと」
沈黙する二人。
由里香「私?冗談でしょ」
堀、かぶりを振る。
由里香、笑いだす。
由里香「変だよそんなの、私たち幼なじみだよ、兄弟みたいなもんだもの」
堀「でも厳密にいえば男と女だ」
由里香「そうだけど、私ミッちゃんにそういう感情持てない」
堀「彼氏とか、いるの?」
由里香、かぶりを振り、
由里香「でも、好きな人はいるよ、まだ名前も分からないけど」
堀「ナンパ?」
由里香「そういうんじゃないよ、図書館で逢ったの」
堀、肩を落とし、
堀「そうだったのか、やっぱり禁断の恋だった、カットの言った通りだ」
由里香「がっかりしないでよ、私たち友達なんだよ、強い友情で結ばれた」
堀「友情?」
由里香「幼なじみだもん、お互い大概の事は知ってるわ、だから
こういうときは応援してほしいな」
堀「応援か・・・・・・」
由里香「私もミッちゃんのこと、応援するから、がんばろ!」
堀、カラ元気。
堀「そっか、がんばろう!」
由里香、大きく頷いて堀の顔を見る。
落ちている「プロの化石発掘」の本を拾い上げる由里香。
由里香「何これ?」
堀「あ、化石の本、借りたんだ」
由里香「ハマってるって言ってたもんね、結構面白そうじゃない」
堀「別にハマってないけど、よかったら貸してあげるよ」
由里香「本当?でもこれ、図書館の本じゃない」
由里香、堀の顔を見て、
由里香「又貸しはいけないんだよ、でもいいわ、読み終ったら
返しといてあげる」
腕時計を見る由里香。
由里香「あ、いけない、こんな時間だ」
堀「え?」
由里香「ごめん、ちょっと急いでるから」
由里香、自転車に乗り去っていく。
○桂ヶ丘高等学校・地学準備室・前
「地学部」の看板の横に「堀光孝恋愛対策本部」と書かれた
紙がある、堀、紙を破って入っていく。
○同・中
中村がいる。
堀が入ってくる。
中村「来ると思ったよ、どうだった?」
堀、ゆっくりとかぶりを振る。
中村「そうか、タイミングが悪かったな」
堀「タイミングじゃないよ、いつだって結果は同じ、禁断の恋、
カットの言ってた通りだ。あれ、カットは?」
中村「情報収集だ」
堀「悪いことしたな、もういいって俺から連絡しとくよ」
中村「諦めるのか?」
堀「もう、気がすんだよ」
中村「カットは別に明日でいいよ、あいつもあいつで結構面白がってる
みたいだから」
堀「だといいけど」
中村「明日のお昼にカットも戻って来るからみんなで飯でも食いに
行こうか?」
堀「そうだな、俺のおごりで」
中村「それはみんなで相談しようぜ」
堀「でも」
中村「いいんだよ、一人だけかっこつけるなよ」
微笑みあう堀と中村。
○図書館・全景
○同・玄関・外
自転車を止めた由里香がやってくる。
そこにさしかかる高瀬。
由里香「あ、あの」
頬を赤らめる由里香。
高瀬「やあ、君か」
由里香「どうでした?」
高瀬、思案して、
高瀬「ああ、あれね」
高瀬、カバンの中から「創作落語、次の一手」という本を出す。
高瀬「まあまあだね、ちょうど返しに来たとこだよ」
由里香、慌ててカバンを広げ、
由里香「あ、他にもあるんです」
中から落語の本とともに「プロの化石発掘」の本がが落ちる。
高瀬、「プロの化石発掘」を拾い、
高瀬「へえ、化石か」
表情を明るくする高瀬。
高瀬「この本貸りていい?」
由里香「あ、いや、それは」
高瀬「図書館の本か。大丈夫、期限までに返しとくからさ、いいだろ?」
由里香、何度も頷く、高瀬はニッコリと微笑んで、
高瀬「あ・り・が・と」
動揺する由里香、目が泳いでいる。
高瀬、パラパラと本をめくるとメモが挟まれているのに気付く、
メモは中村の書いた化石の発掘現場の地図。
メモを手に取る高瀬、呼吸が乱れる。
○桂ヶ丘高等学校・全景
グランドで練習する野球部員たち。
校舎の時計は正午。
○同高校・地学準備室・中
堀がいる。
中村が入ってくる。
中村「お、ミツ、早いな。やっぱりあの子のことが吹っ切れたら食欲が
湧いてきたか」
堀、複雑な表情。
中村「こりゃ失礼、あれ、カットはまだか?」
頷く堀。
中村「いとことはいえ、鼻の下伸ばしてるんじゃないのかな、あいつも
結構スケベだから」
堀、またも複雑な表情。
中村「これも失礼した、ところで」
ドアが開き、児玉が入ってくる。児玉はよれよれの羽織を着て、
目の下に隈を作っている。手にはクロスワ−ドの
本を握り締めて
いる。
中村「カット!」
児玉「大変です、ユリカが、ユリカが」
倒れ込む児玉、中村が抱きかかえて、
中村「どうしたんだ!」
児玉「こ・く・は・く・します」
中村「告白?」
児玉「今日の午後一時、児童公園、俺、ちゃんと日記を見たから。
相手は高瀬ってやつ、秀才学院の」
堀「高瀬!?」
動揺する堀。
児玉、笑みを浮かべ、
児玉「ミツさんのために、俺、ちゃんとやりましたよ」
中村、目に涙を浮かべ、
中村「よくやった、ゆっくり休んでくれ」
児玉、ガクリと果てる。
中村「ミツ、お前どうする、行って邪魔するか?」
堀「そんなこと出来ないよ」
中村「相手は秀才学院のやつだからな、かなわないわな、そりゃ」
堀「そういうんじゃなくて、俺はただ、あの子の幸せを願ってるから」
中村「お前、いい奴だな」
堀「そんなことねえよ」
中村「ホントにいいのか?遠慮なんかいいらないんだぞ、こういうのは」
堀「…あ、ああ」
中村、思案して、
中村「行くか?化石掘りに」
堀「は?」
中村「こういうときはパ−ッとアンモナイトでも掘るのが一番だ」
堀の肩を叩く中村。
堀「カットは?」
中村「放っとけばそのうち起きるよ、だから夕方から祝勝会でもやるか」
堀「何の?」
中村、首を傾げて、
中村「さあ・・・・・・」
目を合わせ笑いだす堀と中村。
○崖上
切り立った崖、中村の発掘ポイント。
ロ−プで体を固定してぶら下がる堀と中村、下は生い茂る草木で
見えない。
中村、石を削りながら、
中村「どうだ?いいとこだろう」
堀「まあな」
中村「ほら、遠慮するな、どんどん掘れ」
堀、崖にノミを突き立てる。
中村「豪快だなあ」
岩がどんどん崩れ落ちる。
○崖下
リュックを背負った高瀬がやってくる。
高瀬、メモを見て顔を上げるが生い茂る草木で視界は遮られている。
パラパラと石が降ってくる。
高瀬「他に人がいるのか・・・・・・」
持っていた「プロの化石発掘」の本を置き、ロ−プを腰に巻く高瀬。
○崖上
堀と中村がいる、堀は豪快にノミを振るう。
中村「ちょっと待て、それじゃ何もかも崩れてしまうよ、いいか、
こういうのはな」
中村、堀を制止しようとするが堀はアンモナイトの入った化石を
掘り出す。
驚く中村。
中村「おい、やるなあ、いい形のアンモナイトだ、丁寧に削れば
いいものになるぜ」
堀、笑いながら背中のリュックに石を入れようとするがなかなか
チャックが開かない。無理な体勢をとった瞬間ロ−プが外れて
落ちていく。
中村「ミツ!」
中村、ロ−プが絡まって動けない。
○崖下
倒れている堀と高瀬。
高瀬が頭を押さえて起き上がる。
※ここからは高瀬の身体に堀の意識が移ってしまいますので
二人は高瀬の身体に一心同体の状態になります。よって堀の
せりふは高瀬’(ダッシュ)という表現とします。お互いの
会話の時は、高瀬’は顔を右に向けて、高瀬は左を向けて話します。
高瀬’「いってえ、何だよ」
堀を見る高瀬、石を握り締めたまま動かないが死んではいない
ようだ。
高瀬’「あれ、俺だ」
堀に歩み寄る高瀬、また頭を押さえて
、
高瀬「いってえ、あ、こいつ」
高瀬’「こいつ?お前だれだ?」
高瀬「お前こそ」
水溜りで顔を見る高瀬。
高瀬’「あ!どういうことだ!」
高瀬「知らないよお前が勝手にぶつかって来たんだから」
頭を抱え込む高瀬。
高瀬’「一心同体って訳か、そんなバカなことあってたまるか」
高瀬「身体が入れ替わったのも充分バカなことだったと思うけど」
高瀬’「何だと?あれはお前が勝手にぶつかって」
自分で自分の胸倉をつかむ高瀬。
高瀬「まあ待て、これじゃお互い痛い思いをするだけだ、ゆっくりと
話し合ってだな」
腕時計を見る高瀬、一時を回っている。
高瀬’「お前、ここで何やってんだ」
高瀬「何って、化石を」
高瀬’「バカ、そういうんじゃねえだろ、ユリカと会う約束してんだろ」
高瀬「ユリカ?」
高瀬、ジェスチャ−。
高瀬’「髪の長い」
高瀬「ああ、落語ちゃんね」
高瀬’「落語ちゃん?」
高瀬「ああ、いつも落語の話ばっかりしてるから、落語ちゃん」
高瀬’「お前、今日その子に会う約束しただろう」
高瀬「ああ、そういえばそうだな」
高瀬笑いながら舌を出し、
高瀬「聞き流しちゃった」
形相を一転、厳しくする高瀬。
高瀬’「お前、いいかげんにしろ、人の気も知らないで」
腰に巻いたロ−プを自分で引っ張っていく高瀬、堀の持って
いる石を見て、
高瀬「あ、アンモナイトだ、いいなあ、俺にくれ」
高瀬’「うるさい」
高瀬「頼む、いいだろ、お願いだ、くれ、何でもするから」
高瀬’「だまれ!」
高瀬、自分で自分を引っ張っていく。
○児童公園
母と子で賑わっている。
木陰のベンチに座っている由里香、キョロキョロと周囲を
うかがっている。
そこに高瀬があらわれる。腰に締めたロ−プを握っている。
高瀬’「は−い、待った?」
由里香「いいえ」
高瀬「うるせえ、余計なことするな」
高瀬’「だまれ!」
由里香、思い切って手紙を差し出す。
高瀬’「ラブレタ−?」
顔を赤らめる由里香、ゆっくりと頷く。
高瀬は手紙を受け取って破ってしまう。
由里香、動揺する。
高瀬’「なんてことするんだよ」
高瀬、破った手紙を食べ始める。
高瀬’「俺、ヤギなの、メエ、面白いでしょ」
高瀬「紙なんか食ったら腹こわすだろ」
由里香、笑いながら、
由里香「はなし家さんみたい」
高瀬’「気に入ってくれた?」
高瀬「俺は気に入らねえんだよ」
高瀬’「うるせえ、だまれ!」
由里香「あ、あの」
高瀬’「おれ、君のこと、好きだよ、スキスキ」
高瀬「余計なこというな、俺はタイプじゃないんだから」
高瀬’「スキスキスキスキ!」
高瀬の顔に涙が浮かぶ。
高瀬「だから! 」
高瀬’「いい子なんだってば!」
一瞬静かになる。
高瀬「…いやだよ、だったらお前が付き合えばいいだろ?」
高瀬、声のト−ンを落とし、
高瀬’「そりゃ・・・・・・そうだけど」
高瀬、由里香の目を見て、
高瀬「あ、俺ねえ好きな人が」
高瀬’「バカ!いないんだよ、全然、だから君と」
高瀬「いい加減にしろ!」
動揺する由里香、うつむいている。
高瀬、小声で、
高瀬’「ほら、がんばれ、ユリカ・・・・・・」
驚いて周囲を見渡す由里香、唇を噛んで、
由里香「私、あなたのことが・・・・・・好きです」
高瀬「いやだよ−ん」
高瀬’「何て言い方するんだよ」
高瀬「こうすれば諦めるだろ」
高瀬’「ユリカのこと、ろくに知りもしないで、何が分かる!」
由里香、目に涙を浮かべ、
由里香「あの、私、やっぱり」
高瀬’「何やってんだよ、泣いちゃうだろ」
高瀬「知るか!」
高瀬’「知るか!だと、お前」
自分の胸倉をつかむ高瀬、立ち上がり自分の顔を殴ったり
自分の足を踏んだりしているうちにつまづいて木の幹に頭を
ぶつけて倒れてしまう。
由里香が駆け寄る。
由里香「大丈夫ですか!」
高瀬はうめいているだけ。
○市立病院・全景
○同病院・病室・中
ベッドに横たわる堀を心配そうに見つめる中村、児玉は
クロスワ−ドを解いている。
目を覚ます堀。
堀「ここは?」
中村「病院だ、よかった、気がついてくれて、お医者さんも大した
ことはないって」
堀、自分の身体を見ながら、
堀「俺は、俺だよな」
中村「当たり前だよ、ゆっくり休んでな、もうすぐお前のお母さんが
来るから」
児玉「お−わった」
中村「こらカット、こんな時に何やってんだ」
堀「いいんだよ。カット、それ解いたらどうなるんだ?」
児玉「応募するんすよ、キ−ワ−ドを書いて、そうすると賞品が当たる」
堀「へえ」
児玉「ちなみにキ−ワ−ドはハリ−アッ、何だ、読めないな、
ハリ−アッ、ハリ−アッ、何だろう」
中村「ハリ−アッ、ハリ−アッ・・・・・・」
ガバリ!と起き上がる堀。握っている化石を見て、
堀「ハリ−アップ、急げ!だ」
立ち上がり出ていく堀。
中村「おい、ミツ、待て!」
○路上
頭を押さえながら疾走する堀。
○児童公園
木の根元で倒れている高瀬を心配そうに見つめる由里香。
堀が駆けつける。
由里香「ミッちゃん!」
堀、高瀬に触れようとするとうめき声をあげる高瀬。
堀「大したことないようだな」
由里香「ミッちゃん」
堀「大丈夫、心配するなって、そのうち目を覚ますよ」
由里香「ミッちゃん、私・・・・・・」
堀「がんばれよ」
由里香「え?」
堀「応援してるから、がんばれよ」
由里香、笑みを浮かべて、
由里香「うん、がんばるよ」
堀「あっそうだ」
堀、握り締めていたアンモナイトの化石を由里香に渡す。
由里香「何?」
堀「おまじないの石。持っててみな、じゃあ」
頭を押さえながら歩いていく堀。
由里香「ミッちゃん!」
堀、何かを言おうとするが、そのまま歩いていく。

−完−
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