火星のバラード
’99フジテレビヤングシナリオ大賞応募作品(二次選考落選)
「オヤジがんばれ!」人のことばかり気にして自分を犠牲に
してしまう宇宙飛行士オヤジの話。
もともとは20枚シナリオ。評価としては全くダメだったがどこかで
くすぶっていたのをほぼ数時間で描きあげた力作(?)
工場作業中、最終シーンを考えて恥ずかしながら涙が出てきた作品。
話は約30年後の話だが「派手な戦闘シーンがない」など映像化も意識。
いずれは小説でも何でも陽の目を見せてあげたい作品。
あらすじ
西暦二〇三二年、マーズ・エクスプローラ九号は
地質調査のため火星に降り立った。
乗組員は船長のブライト(26)とジル(32)そして若宮(48)
若宮は飛行士として登録されて一度も飛んだことのない
「冷や飯食い」だったが、いきなり火星飛行士に抜擢。
この話が日本の中年男性層を刺激し「オヤジの星」として
若宮に夢や希望を託しエールを送る。
だが、彼には調査研究でない本当の任務があった。
彼らが火星に降り立つとそこには人間がいた。
スーパーノア計画。アメリカによって極秘に遂行されている
第二の地球を作る計画。火星の地下には地球と同じような
環境があり、万が一のためにあらゆる動植物のクローンを
そこにストックしておくというもの。
若宮の本当の任務は火星への地球の最新データの運搬。
その任務と引き換えに火星飛行士に選ばれた。
だが、彼の任務はそこまで。
若宮らは帰還に際して選択を迫られる「生きるか死ぬか」
地球では死んだことにして火星に残り骨を埋めるまで貢献するか、
生きて帰って機密を漏らさないよう監視されながら一生を送るか。
過去火星で消息を絶った若宮の親友、桜井(48)もそこにいた。
若宮は桜井から火星の真実の姿を聞いてしまう。
火星では戦争が繰り返されていた。クローンがクローンを作り、
また戦う。この星に自浄能力はないと判断した桜井は自分の子供を
地球に連れて行ってほしいと懇願する。そんな中で戦火は拡大、
仲間や桜井の妻子も結局は戦争の犠牲となり、桜井は若宮を
銃弾から必死に守りながら宇宙へと送り出す。
「つぶしてくれ…こんな星」
火星からの攻撃で船を破壊された若宮は桜井や仲間らの
思いを胸に宇宙を漂っていた。
地球では何も知らない中年男性たちが若宮の帰還を信じ、
エールを送っている。
人 物
若宮悟志(48)
桜井一男(48)
ブライト(26)
ジル(32)
ワン(51)
クリス(18)
桜井喜代子(72)
サラリーマン
リポーター
司会者
パネラー
兵士
若宮の妻
屋台の女将
○宇宙空間
宇宙船の破片とともに浮遊する宇宙飛行士。
全く動かず、生きているのか、死んでいるのかも、分からない。
宇宙飛行士はゆっくりと星の海の中を流れていく。
○メインタイトル
○新宿アルタ・前
人ごみ。街の喧騒。
T「2032年5月」
モニターに星空が映し出される。同時に女性の声。
声「この映像は、火星に接近中のマーズ・エクスプローラ
九号からのものです。この宇宙船には日本人火星飛行士
としては二人目となる若宮悟志さんが搭乗しています」
通行人がポロポロと立ち止まる。特に目立つのは
中年サラリーマン。まばゆい視線を画面に向けている。
その中に桜井喜代子(72)の姿。
喜代子に報道陣が殺到する。
○秋葉原電気街
店頭に並ぶテレビの画面に見入る通行人。
ここでも中年の男性が目立つ。
○テレビ画面
アルタ前で女性リポーターAが喜代子
に迫る。
リポーターA「十年前に火星で消息を絶った日本人初の
火星飛行士、桜井一男さんのお母様であります、
喜代子さんです」
マイクを向けるリポーターA。
リポーターA「今回マーズ・エクスプローラに搭乗している
若宮悟志さんに出発前、会われたそうですが、何をお話に
なったんですか?」
他のリポーターも割り込む。
リポーターB「お子さんと同期の若宮さんが火星に行く
お気持ちは?」
リポーターC「お母さん、こっち向いて!」
通行人も混じり、もみくちゃになる喜代子。
○テレビ局・スタジオ
公開討論が行われている。
お題は「火星に生物は存在するか?」
司会者と数人のパネラー。
ハゲ気味のパネラーA、机を叩く。
パネラーA「若宮さんは宇宙飛行士に登録されて二十年間、
地球周回軌道にすら乗ったことがないんだ、それがいきなり
火星飛行士に。こんなすごいことがどうしてあんたには
分からないんだ!」
メガネが神経質そうな女性パネラーB。
パネラーB「他の国ではそんな飛行士ザラでしょう」
パネラーA「そんなことを言ってるんじゃない!冷や飯食い
だったオヤジがいきなり火星に行くんだ。いわゆるオヤジ初の
火星飛行士…」
パネラーB「オヤジの飛行士はいくらでもいるでしょう。
鳥取県初の宇宙飛行士だとは 言えますが」
パネラーA「だから、そのオヤジじゃなく、 本格的オヤジ初の
火星飛行士だと言えるん じゃないのか!」
パネラーA、激怒。
○新橋駅・前(夕)
テレビカメラの前に中年サラリーマン。
女性リポーター、マイクを向け、
リポーター「若宮さんに一言お願いします」
サラリーマン「若宮のオヤジ、がんばれ!俺たちがついてるぞ!」
ゾロゾロと中年男たちが集まってくる。
○テレビ画面
画面には宇宙空間。
女性の声。
声「マーズ・エクスプローラ九号は間もなく母船から離れ、
着陸船だけで火星の大気圏に突入します」
○テレビ局・スタジオ
公開討論。
司会と数人のパネラー。
パネラーA「だから、若宮さんは、我々中年世代の希望と
野心をだな」
パネラーB「感情でものを考えないで下さい」
パネラーA「あんたこそ何年ぶりとか何番目だとか、数字ばかり
にこだわって。しかも初めてが一番えらいような口ぶりで
初、初、初って。そんなに初物が好きなんならねえ、あんた、
東向いて笑いなさいよ」
パネラーB「地方の風習を引き合いに出されても困ります」
パネラーA「田舎者で悪かったな!」
パネラーAはBに詰め寄る。
司会者「ちょっと、やめなさいよ」
司会者が仲裁。
○新橋駅・前(夜)
ごった返す中年サラリーマンたち。酔っぱらいが多い。
一人の中年サラリーマンがリポーターのマイクをひったくる。
サラリーマン「若宮のオヤジ、がんばれ!オヤジ!オヤジ!
オヤジ!」
中年サラリーマンたちのオヤジコール。
○火星・外観
アポロ宇宙船を思わせる風体のマーズ・エクスプローラ九号。
船体に「NASA」及び船名が記されている。
船は母船と着陸船に別れ、着陸船だけが火星に吸い寄せ
られていく。
中年サラリーマンたちのオヤジコールが聞こえてくる。
○火星の大地
赤く寂しい大地。
着陸船がパラシュートを開いて降下してくる。地面すれすれで
船体の周りにエアバッグを開き、激しくバウンドしながら着地。
大地はまた、何事もなかったように静まり返る。
○着陸船・船内
コクピットで体勢を崩して座る若宮悟志(48)と黒人、ブライト(26)
と白人、ジル(32)
ジル「どうなってんだ、人をゴミ扱いしやがって」
ブライト「ジルさん、地球に送信、お願いします」
ジル「船長、ダメだ、通信機イカれてるよ。手動にしなきゃ、だけど、
とても手が届かねえ」
ブライト「若宮さん」
ジル「そいつは無理だぜ。若宮さんよ、あんたこれ、使ったこと、
ないんだろ?」
若宮、無言。
ジル「ああ、何でこんなやつ送り込んだんだろ。もっとさ、百戦錬磨の
ベテランとか若くて活気のあるやつとか、選びようがあっただろうに」
ブライト「ジルさん」
ジル「若宮さん、あんた、中途半端なんだよ」
若宮、歯を食いしばって計器の中の無線機のマイクを手に取り、
震える手で周波数を合わせる。
が、その前に船全体の電源が落ちる。
ブライト「どうしたんですか?若宮さん」
若宮、他の計器類をチェックしているが、
若宮「原因は…不明」
ジル「言わんこっちゃねえ」
ブライト「おかしいですね。宇宙人がいるわけじゃあるまいし」
ジル、窓の外を見て、
ジル「案外そうかもよ」
○着陸船・外
船を囲む赤い宇宙服の兵士たち。
ハッチが開き、若宮、ジル、ブライトが出てくる。
兵士の中に桜井一男(48)驚いた表情で顔を下に向ける。
そこに歩み寄る派手ないでたちの中国系、ワン(55)
ヘルメットには角、マントをひるがえし、胸には無数の勲章。
ワン「我々の指示に従えば、帰還までの身の安全は保証する」
ブライト「言葉は…通じるようですね」
ジル「どうなってんだ、いったい」
○司令塔・司令室
火星の建物は全て岩をくりぬいて空間を確保したもの。
室内には計器が並び、何人もの兵士が動いている。
窓の外には赤い大地が広がる。
若宮、ジル、ブライトを前にするワン。
ワン「驚かせてすまなかった。我々も君らと 同じ人間だ」
ブライト「どういうことですか?こんな話、 聞いたことがありません」
ワン「驚くのも無理ないな。この星の地下には森や湖が広がる。
そこでは植物が生い茂り、動物が駆け回っている。人間も街を
作り生活している。ここは第二の地球なのだ」
ジル「第二の、地球?」
ワン「二十年前、アメリカとその関係諸国は 何かあったときのため、
ここで地球上の動植物のストックを開始した。ストックはわざわざ
運び込んだのではなく、殆どが遺伝子をもとに作成したクローンだが」
ブライト「ノアの…方舟」
ワン「そう、その名もスーパーノア計画。もちろんこのことは地球では
極々上層の人間しか知らない」
ジル「じゃあ、俺たちがここに来たのは無駄骨だったってわけ?
いろんな研究や、調査の必要もありません、ってこと?」
ワン「もちろん君らにも重要な任務がある。この星が地球のストックで
あるためには常に最新の情報が必要になる。医療技術、科学技術、
文学、歴史、あらゆる情報を更新するために定期的に新しいデータを
運搬する。それがマーズ・エクスプローラの本当の任務だ」
ジル「聞いてないぜ、そんなの」
ジル、ブライトを見る。ブライトは頭を振る。
若宮、呼吸を整えて、
若宮「すまん」
と、胸ポケットからディスクを取り出して前に進む。
ジル「この野郎!ダマしたな」
ジル、若宮の胸倉をつかみ、殴る、蹴る。
ジル「売国奴みたいなマネしやがって」
ブライト「やめてください」
若宮は無抵抗。
ジル「それでよ、平気な顔して地球に帰るつもりか?」
ブライト「やめなさい…やめろ!」
制止するブライト。ジルの息遣いが荒い。
ワンはディスクを受け取ると姿を消す。
○同・廊下
ジルが不機嫌そうに先陣を切って歩く。
その後に若宮、ブライト。
若宮「すまん、船長」
ブライト「事情は後でうかがいます。それより、気が付きましたか?
あの参謀長とかいう男」
若宮、思案している。
ブライト「ワンです。記憶が正しければマーズ・エクスプローラ3号の船長。
たしかこの星で消息を断ってます」
若宮「それは」
ブライト「よく分かりませんが、我々は早く帰った方がいいようですね」
若宮「…いろいろ、すまんな」
若宮、ブライトを置いて歩いていく。
○着陸船・外観
船の周囲に兵士たち。
○同・船内
コクピットに座り、カメラに向かう若宮、ブライト。
ジルだけは不機嫌そう。
モニターには地球の管制官。
管制官「電源系の異常か…」
ブライト「ですから、交信は一日一回に制限させていただきたい、と」
管制官「やむをえまい、許可する。他に何かあるか」
ブライトは若宮とジルを見る。険悪な雰囲気。
管制官「何か、あったのか?」
ジル「そりゃあよぉ…」
電源が落ちる。
兵士が覗き込んで、
兵士「指示されたこと以外、喋るな」
ジル「何なんだよ、これ…まるでペットじゃねえか!」
ジル、計器をけとばす。
ブライト「やめてください!帰還するまでの辛抱ですから」
ジル「大体よぉ、若宮さん、あんたがいけないんだぜ、ちゃんと話して
くれてたらよ、俺は仮病使ってでも来なかったさ、こんな星には」
ブライト「ジルさん」
ジル「船長、あんたは来たんだろうな。エリートだからな、使命感にも
燃えてるし、将 来も約束されてるしな。俺はあんたにあやかりたい
もんだね」
ジル、出ていく。
暫く沈黙。
ゆっくりと立ち上がる若宮。兵士に向かって、
若宮「あの、この辺に墓地なんか、ありますか」
○火星の大地・墓地(夕)
無数の墓標が並ぶ中に若宮の姿。墓標は砂に埋もれているもの
が多いため、若宮が砂を手で払っている。
ずっと続けられている若宮の作業を物陰から見つめる桜井。

○司令塔・司令室(夜)
若宮、ジル、ブライト。険悪なムード。その前にワン。
ワン「君らに聞いておかなければならないことがあってな」
若宮たち、怪訝そう。
ワン「生きるか死ぬか」
ジル「はあ?」
ワン「もちろん、本当に死ぬわけじゃない。地球では消息を絶ったとか、
不慮の事故ということにして、この星のために貢献してもらう」
ブライト「あなたの…ように、ですか」
ワン、笑いながら、
ワン「そうだ。よく分かったな」
ブライト「英雄ですから。地球では」
ワン、少しだけ沈黙して、
ワン「もちろん、生きて帰ることだって出来る。機密保持のため
一生監視つきだが。それでも帰るやつも多い。…いずれにせよ、
スーパーノア計画を知ってしまったものの運命だ」
若宮、ため息。
ワン「明日の夜まで、決めてくれ」
突然、遠くで爆発音。何発も、何発も。
ワン、遠くを見つめ、
ワン「最近、地殻変動が激しくてな…」
○着陸船・外観
周囲に兵士たち。
○同・船内
コクピットのカメラに向かう若宮、ジル、ブライト。
ブライト「以上。実験は順調に進んでいます。次の報告は
アメリカ東部時間午前7時に」
船の電源が落ちる。
兵士、ブライトに紙を手渡し、
兵士「これが次の報告の原稿だ。よく読んでおけ」
若宮ら、沈黙。
ジル「俺は帰るぜ。家族もあるし、こんなホコリっぽい星で一生を
終えるなんか、まっぴらごめんだぜ。船長もそう思うだろ?」
ブライト「正直言って、そうですね」
ジル「だよな」
若宮を見るジル。
ブライトも若宮を見る。
若宮「俺は、残る」
ブライト「若宮さん」
若宮、立ち上がる。
若宮「俺は、残るよ」
ブライト「ご家族のこともちゃんと考えてますか?」
若宮、ため息まじりに、
若宮「一生、宇宙飛行士のまま終わるなんていいことじゃないか」
若宮、出ていく。
ブライト「若宮さん!」
ジル「よせよ。無駄だよ」
ブライト、若宮を見送る。
ジル「あいつ、かみさんと子供に逃げられたんだぜ」
ブライト、驚いている。
○火星の大地・墓地(夕)
墓標の砂を払っていく若宮。
暫くすると一本の墓標。砂を取り除くと「SAKURAI Kazuo」の文字。
若宮の背後に立つ桜井。若宮は振り向かずに、
若宮「桜井か」
桜井「…」
若宮「やっぱり生きてたんだな」
桜井「久しぶりだな…」
若宮、墓標に手を合わせる。
桜井「若宮」
若宮「お前の母親に頼まれた。火星の大地でお前さんのこと、
拝んでくれってな」
桜井「おふくろ…」
若宮「墓を作れって言われたが、その必要はないようだ」
桜井、若宮の横に座り込む。
若宮「よく来るのか?」
桜井「この墓はここに残ったやつに、あなたは地球では死にましたって
見せつけるものだ。だから、地球に帰りたくなると、みんなここに来て、
自分に言い聞かせる」
若宮「自分は死んだんだ、ってか」
桜井、笑いながら天を指差し、
桜井「でもよ、ここが一番良く見えるんだ」
薄暮の空に輝く地球。
桜井「帰るんだろ?もちろん」
若宮、頭を振り、
若宮「お前みたいに地球の英雄になってみたくてな」
桜井「英雄か…」
若宮「それに比べ俺はオヤジの星とか言われてさ、バカにされてる
んだろうけどよ」
桜井、笑っている。
若宮、頷きながら、
若宮「飛行士やってて、一度も飛ばしてもらえないから、
何でもやりますって言ったんだ。そしたら船に乗せてもらうのと
引き換えに…」
若宮、笑いながら、
若宮「通信士補、計器点検係補、操縦士補、備品管理係補、
補、補、補。いろんな仕事を回された」
桜井「全部補佐じゃないか」
若宮「船内の清掃と食事の準備は補佐じゃない」
桜井、笑っている。
若宮「それと、地球のデータ運搬」
若宮、悔しそう。
桜井「お前がやったのか」
若宮「…」
暫く沈黙。
若宮「一度、宇宙が見たかった」
桜井「…」
若宮「帰れないな」
桜井「帰れよ、かみさんがいるんだろ?」
若宮、頭を振る。
桜井「くだらねえ」
桜井、笑いだす。
桜井「逃げるんなら、どこ行ったって同じだぞ」
若宮、不愉快。
桜井「俺は後悔してる」
桜井、ため息。
桜井「今、俺は宇宙飛行士とはほど遠い仕事をしている。
常に疑問を感じ、それでも生きている。これって地球と何も
変わらないだろ?そういうのから逃げようとこの星に残ったのによ」
若宮、ため息。
桜井「そう簡単に答えを出すなよ」
○着陸船・外観
周囲に兵士たち。
○同・船内
コクピットのカメラに向かうブライトとジル。ジルは終始
不機嫌そう。
モニターには管制官が映っている。
若宮はカメラに映らない死角で待機。
管制官「そうか…発見できただけ、よかったのかもな」
ブライト「遺体は彼の生前の意志を尊重して、この星に。私と」
ブライト、ジルを見てぎこちなく頷く。
管制官「君たちだけは無事にな帰ってきてくれよ」
ブライト「分かりました」
管制官「あ、待て」
画面に日本人女性と少女。
管制官「若宮くんの奥さんと子供だ。こんなことのために呼んだ
はずではないのだが、話をしてやってくれ」
若宮、驚いている。
ブライト、頭を下げ、
ブライト「すみませんでした」
女性、頭を振り、
女性「帰ったら、話、聞かせてください。あの人のこと、
聞かせてください」
少女、画面に手を伸ばしている。
若宮、立ち上がるが兵士たちに体と口を押さえつけられる。
ジル、若宮を見て舌打ち。
女性「お願いします」
少女、パパ、パパと叫んでいる。
ブライト、若宮を切なそうに見る。
ブライト「…すみません」
ブライト、深々と礼。
管制官「では、次に日本の首相とのテレビ会見を…」
若宮、兵士を振り払い、駆け寄ってカメラにかじりつく。
若宮「俺は、ここだ、ここだ、俺は、ここだ」
管制官「何だ?」
電源が落ちる。
兵士「余計なことはするなと言っただろう!交信は今回で終わりにする」
若宮、その場に崩れる。
ジル「船長、これで俺たちが無事に帰れるかどうか、分かんなくなったぜ」
ブライト、息を呑む。
ジル「若宮さん、あんたやっぱりお荷物だ」
ジル、出て行く。
ブライト、若宮の肩に手を掛け、
ブライト「若宮さん」
若宮「…すまん…本当にすまん…」
遠くで爆発音が聞こえる。何発も何発も。地面がゆれる。
兵士「すぐ司令塔に戻れ」
爆発音は近くなる。
兵士「急げ!」
○司令塔・ラウンジ(夜)
外では時折、爆発音が聞こえる。
若宮が一人、たたずんでいる。
物陰から桜井。
桜井「若宮、若宮」
若宮「桜井」
桜井「ちょっと」
○同・非常階段(夜)
薄暗い。
若宮を誘う桜井。
桜井「すまんな。目に付くと、まずいから」
暗がりの中にはクリス(18)クリスは子供を抱いている。
桜井「妻のクリスだ。こっちは息子」
クリス「こんばんは」
若宮「桜井」
桜井「クリスはこの星で知り合った…クローンだ」
桜井とクリス、顔を見合わせ頷く。
○火星・外観
周回軌道のマーズ・エクスプローラの母船。
突然、火星からのレーザー光線に被弾し爆発。
降下をはじめる。
○司令塔・非常階段
若宮と桜井。クリスは子供を抱いている。
若宮、驚いている。
桜井「頼む」
若宮「そんなこと」
桜井「この子だけは、この星で育ってもらいたくないんだ」
若宮「何故だ、子供なら、親と一緒のほうが幸せに決まってるだろう」
桜井、小声で、
桜井「お前、外の爆発音、聞いたか」
若宮「地殻変動だろう」
桜井「違う、あれは戦争だ」
若宮「戦争?」
桜井「そうだ、この星の人間は長い間戦争を繰り返している。
地下だけだったのが、とうとう地上戦までおっぱじめた」
若宮、鼻で笑う。
桜井「二ヶ月前、火星で初めて核爆弾が使われた。地球では何か
話題になったか?」
若宮「…ハッブル望遠鏡、火星オリンポス火山の噴火を確認…」
桜井「そんなもんだ、情報はいくらでも変えられる」
若宮「そんな…」
桜井「この星の人間の大半はクローンだ。そのクローンがさらに
クローンを作って戦争を拡大させている。もうこの星は自浄できない」
クリス「私たちは、地球の重力に耐えることが出来ないけれど、
この子なら…お願いします」
大きな爆発音。
桜井「まずいな」
桜井、駆けていこうとするが、
桜井「クリスは家に戻ってろ」
桜井と若宮、駆けていく。
○同・ラウンジ(夜)
連続する爆発音。
若宮と桜井が駆けてきて窓の外を見る。
驚きの表情の若宮と桜井。
○火星の大地(夜)
空に閃光。遠くに爆発の赤い炎。
そこに燃えながら落ちていくマーズ・エクスプローラの母船。
地上に落ちて大爆発。
○司令塔・ラウンジ(夜)
爆発の衝撃に耐えながら窓にしがみついて外を見ている
若宮と桜井。
ブライトが駆けてくる。
ブライト「何があったんですか」
若宮、呆然と、
若宮「母船が…落ちた」
唖然とするブライト。
ブライト「なぜ…」
若宮「戦争だ。この星では戦争が起きている」
桜井「終わりのない戦い。人間は争いの遺伝子で出来て
いるのかもな」
振り向くブライト、初めて桜井に気付く。
桜井はブライトと目が合うとそそくさと出ていく。
ブライト「桜井、さん?」
ジルが駆けてくる。
ジル「どうしたんだ」
ブライト「母船が落ちました…落とされました」
ジル「何だって!」
ブライト、息を整えて、
ブライト「…話し合いましょう。今後について」
ジル「帰れないよ、これじゃ」
ブライト「静かにしてください」
ジル「帰れないんだよ!地球に!」
若宮「着陸船だけでも地球に戻る能力はある。そんなことも
知らないのか…」
黙りこむジル。
ブライト、頷いて、
ブライト「但し、一名だけです。地球に戻る人間と残りのメンバーを
救出する手順を考えましょう」
ジル「そんな悠長なこと話してる場合かよ」
ジル、入り口に後ずさりして、
ジル「俺は帰るからな。俺が!帰るからな」
ジル、出て行く。
ブライト「ジルさん!」
ブライト、若宮、後を追う。
○同・外部ハッチ(夜)
爆発音と閃光。
入り口のハッチが開き、ジルが走って出てくる。
着陸船のある方向を確認して走っていく。
ブライトと若宮も姿を現す。
ブライト「ジルさん!」
ジル、着陸船に走っていく途中、闇の中からの光線に
身体を貫かれる。
悲鳴をあげ、倒れるジル。
遠くでは人影がうごめいている。
ブライト「ジルさん!」
若宮「危ない」
若宮、ブライトを強引に建物の中に引きずり込む。
ブライト「だって、ジルさんが」
若宮「ここままでは俺もあんたも撃たれる」
ブライト「ジルさんはまだ」
若宮「死にたいのか!」
ブライト、力が抜ける。
○火星の大地
着陸船に向かって砂を掻いた爪のあとが残っている。
○同・墓地
兵士によって無造作に埋められるジルの遺体を見つめる
若宮とブライト。
ブライトは深刻な顔。
兵士たちが去る。
若宮「…そう落ち込むな」
ブライト、無反応。
若宮「仕方なかったんだよ。地球を出れば我々は常に死と隣り
合わせだ」
ブライト「本当に、死んだんですよ」
若宮「そんなこと飛行士なら…」
ブライト「死んだんですよ、本当に。死んだふりじゃないんですよ」
若宮「…」
ブライト「地球には、あなたが帰ってください」
若宮「あんたが帰りなよ、帰って、俺を迎えに来てくれよ。ほら、
待つのは慣れてるからさ」
ブライト「私は帰れませんよ。仲間を失った船長として」
若宮「あんた、いろいろあるんだろ?家族とかよ、恋人とかよ、
たまには自分のこと考えなよ」
ブライト「…いません」
若宮「そうか…」
ブライト「地球を出たら、私は船長です。それなりの覚悟はしてます。
でも…」
ブライト、去り際に、
ブライト「こういう仕事って、あこがれだけじゃ勤まらないですね」
若宮、ブライトを見送る。
遠くで何発もの爆発音。
○司令塔・ラウンジ(夜)
遠くで何発もの爆発音。時折地面が揺れる。
若宮が思いつめた表情をしてソファに座る。
近くで爆発。窓ガラスにひびが入りそこから空気が漏れ出す。
若宮の表情は変わらない。
桜井が入ってくる。
桜井「若宮!」
若宮、反応なし。
桜井「若宮、帰れ、地球に。時間がない!」
若宮「何?」
桜井「ここはもうすぐ落ちる。急げ!」
若宮、桜井を引きずっていく。
○同・ラウンジ・外(夜)
桜井が若宮を引きずってくる。
若宮「待て、帰るのは船長だ」
桜井「その船長さんに頼まれたんだよ、お前を連れてけって」
若宮「船長は」
桜井「戦ってるよ。敵が建物に侵入してな」
あちこちから銃声。
桜井「そっちは違う」
若宮が飛び出そうとするのを必死に制止する桜井。
若宮「帰るのは俺じゃない!」
敵兵が現れる。互いに銃口を向ける桜井たち。
敵兵の背後から銃弾。倒れる敵兵。その向こうには銃を
持ったブライト。
ブライト「こんなことまでやるとは思わなかった」
倒れている敵兵の一人が銃口をブライトに向ける。
桜井「あぶない!」
桜井、敵兵を撃つが間に合わず、ブライトは倒れる。
若宮「大丈夫か!」
若宮、ブライトに歩み寄る。
ブライト「行ってください」
若宮「大丈夫だ、手当てをすれば」
ブライト「行ってください…お願いします」
若宮、頭を振り、
若宮「あんたが帰るんだ」
ブライト「行ってください…行きなさい…」
若宮「ダメだ」
ブライト、声を絞るように、
ブライト「…行け…これは船長命令だ…」
若宮、驚いている。
桜井、若宮を引きずっていく。
ブライトは銃を支えにして立ち上がろうとするが、
また倒れる。
○同・廊下(夜)
あちこちから銃声。
走る桜井、若宮。
桜井「子供は今、クリスが連れてくる」
若宮「…」
桜井「地球についたら、息子はおふくろに預けてくれ。
事情を説明すれば、きっと分かってもらえるはずだ」
桜井、思いついたように胸ポケットから写真を取り出して
渡す。
写真には笑顔の桜井、クリス、子供。
途中の扉が開き、宇宙服を着せた子供を抱いた
クリスが桜井の後を追ってくる。
クリス「あなた!」
桜井「場所が違うぞ、こんなとこで撃たれたらどうするんだ!」
クリス「大丈夫よ、平気…」
クリス、笑みを浮かべて走ってくる。
が、その表情が凍る。
クリスの背後から銃弾。銃弾はクリスも、子供も貫く。
飛び散る鮮血。
子供は人形のように床を跳ねる。
クリスの背後に敵兵。
桜井「クリス!」
クリス「あなた…」
クリス、絶命。子供も動かない。
桜井「あー!」
桜井、奇声を上げながら銃を撃ちまくり敵兵に飛びかかる。
若宮「桜井!」
桜井、敵兵に押さえ込まれる。
若宮「桜井!」
桜井「来るな!行け!」
敵兵に首を締められる桜井。
桜井「行け!お前はこの星のこと、みんなに伝えてくれ…」
若宮「桜井…」
桜井「行け!」
若宮、写真を胸ポケットに入れ、ゆっくりと後ずさりして、
走っていく。
桜井は声を絞り出す。
桜井「頼む、つぶしてくれ…こんな星…」
桜井、敵兵に目を見開く。
床に放り投げたのは手榴弾のピン。
○同・外部ハッチ(夜)
若宮が出てくる。
背後から爆発音。すこしひるむ若宮だが、砂嵐の吹きすさぶ
闇に消える。
○着陸船・船内(夜)
真っ暗闇のコクピット。
ハッチが開く音、何かにぶつかる音、何度も何度もぶつかる音。
照明がつき、若宮の姿。若宮、必死の形相で計器を操作する。
電源が立ち上がり、若宮、少しだけホッとするが、また顔を
引き締める。
○地球・種子島宇宙センター(夜)
スペースシャトル型の宇宙船『かがやき』が打ち上げられる。
○屋台(夜)
中年女将の経営する屋台。
コップ酒をあおる中年サラリーマンたちが脇のテレビに見入る。
テレビ画面には種子島宇宙センターと女性の声。
声「マーズ・エクスプローラ九号の母船が消息を断ったのを受け、
日本政府は飛行士の救助のため単独で宇宙船『かがやき』を
火星に向けて…」
女将「ダメよ。火星じゃ生きて帰れないわよ」
サラリーマンA「そんなことないよ」
女将「あら、そう?知らない星でしょ?不安だし怖いし、生きてても
絶対もたないわよ」
サラリーマンB、コップを置き、
サラリーマンB「女将さん、そんなこと口にしちゃいけねえ。
大丈夫だ、若宮のオヤジは絶対生きて帰る」
サラリーマンC「そうだ!その通り!オヤジ!オヤジ!オヤジ!」
サラリーマンたちのオヤジコールが夜空に響く。
○司令塔・司令室(夜)
ワンと数名の兵士。
兵士「3番ゲートより、敵侵入」
よろよろとブライトが入ってくる。ブライトは傷と銃を隠している。
ワン「ブライト君、どうした?」
ブライトは笑みを浮かべるだけ。
ワン「戦いが怖くなったか」
ブライト、笑うだけ。
兵士「参謀長、地球から宇宙船が放出されました。目的は…
遭難飛行士の救助」
ワン「そんなバカな、アメリカがそんなことするはずが…」
兵士「日本です」
ワン、ため息をついて、
ワン「日本は…何も知らんのだったな」
突然、警報音。
兵士「何者かが着陸船を発進させています!」
ワン「何だと?」
ブライト、銃口をワンに向ける。
ワン「どういうことだ」
ブライト、ニヤリ。
ワン、ゆっくりと手を上げようとするが、他の兵士が
ブライトを撃つ。
ブライトはそのままよろよろと歩いていき、残った力で
計器を壊し始める。
兵士たちはブライトを押さえ込もうとしているが必死に抵抗。
ブライト「逃げるんだ、逃げろ…」
ワン、銃口をブライトに向ける。
ブライト「逃げるんだ!若宮さん!」
何度も何度も繰り返される銃声。
兵士の一人がミサイルのスイッチを押す。
○着陸船・外観
火星が次第に遠くなる。
○同・船内
嗚咽を漏らす若宮、ヘルメットのガラスが曇っている。
若宮、拳を握り締めているが、パッと力を抜いて、
計器の前に顔を落とす。
それでも息使いは荒い。
暫くして若宮が顔を上げた瞬間、警告音。
そして爆発する船。
○宇宙空間
星以外なにも見えない空間に、宇宙船の破片が流れてくる。
少しづつ増えて、やがて宇宙服を着た若宮。
浮遊する若宮。
生きているのかも、死んでいるのかも分からない。
どこからか中年サラリーマンたちのオヤジコールが聞こえてくる。
暫くしてかすかに若宮の手が動く。手は胸ポケットの桜井一家の
写真に伸び、写真があるのを確認すると、また動かなくなる。
ガクリと絶命したようにも見える。
星の海の中を流れてくる若宮に宇宙船 『かがやき』が
ゆっくりと近づいていく。
オヤジコールは続く。
―完―
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