あねいもうと

あねいもうと
’99日本テレビシナリオ登龍門応募作品(一次選考落選:推定)
ファミリー(あねいもうとリメイク版)
’00橋田賞新人脚本賞(選考中)
 最も分の悪い橋田賞応募作品。そんな鬼門に再び挑む。
作品はリメイクもの。家族のあり方を問いたいのだがかなりピンボケ
日曜劇場にいい作品が登場してしまったので時期的にも最悪
「数撃ちゃ」の路線もこの辺で考えを改めたい。まじで。
 テーマは「LOVE」局で王道のラブストーリー路線を目指す
とあって至極分かりやすいテーマ。この作品は「家族愛」
「姉妹愛」をテーマに描かれたがやっぱり「LOVE」には
ほど遠かった。作品の雰囲気は好きなので今後大改造して
ホームドラマに仕上げるつもり。
そのホームドラマ風に仕上げたのが「ファミリー」
家族のあり方を問いたいのだがかなりピンボケ

日曜劇場にいい作品が登場してしまったので時期的にも最悪

「数撃ちゃ」の路線もこの辺で考えを改めたい。まじで。

 

 ちなみに、元ネタを提供いただいたひろ氏にまたまた
この場を借りて御礼申し上げたい。
 リメイク前の「あねいもうと」が閲覧可能です。
 あらすじ
漫画家を夢見る真琴は高校を出ると親の反対を押し切って
家を飛び出したものの最近は自らの実力に疑問を持ち途方に
暮れることも多く、そんな環境から逃げたくもなっていた。
 妹の玲子は真琴とは正反対の性格。引っ込み思案で性格も
おっとり。頭もいい。その玲子に突然見合い話が持ち上がった。
相手は医者で縁談がまとまれば婿養子になって家を継いでくれる
好条件に世間体ばかりを気にする両親も乗り気。しかし玲子は
耐え切れず見合いの席から逃げ出し、おまけに真琴を誘って
牧場の牛を見に行ってしまう。
「どうして牛なんか見に行ったんだ」
 玲子は両親から何度も問い詰められついに、
「牛だけじゃないんだよ。牛だけじゃ。あの頃は楽しかったの。
みんなニコニコしてた。本当に笑ってた。でも今はみんな自分のこと
ばっかりじゃん。家のこと、近所のこと、顔色うかがって笑ってるんだよ」
 だがそれでも世間体や自分のことばかりを気にする両親についに
玲子は爆発してしまう。
「ほら、それよ!何でも押し付けて。私が黙ってればみんな済むと
思ってるんでしょ!」
 両親は感じた。玲子への愛情は実は自らの不満や期待を押し付けて
いただけだったのではないか。夫婦や家庭が円満なのも全ては玲子が
我慢してくれているからではないのかと。真琴にもひっかかるものが
あった。家のことは妹に押し付けて一人好き勝手をやらせてもらって
いる。これらは全て玲子が我慢してるからではないかと。真琴は
玲子の代わりに見合いをすることを決意する。
 …しかし、真琴はまたも逃げ出してしまう。
それでも自分を信頼してくれる玲子にこれからは何事にも逃げないと
強く決意する。
 桐野家の人々はその一件から少しづつ変わりはじめた。
心の中から笑い、本音で胸のうちを語るようになった。
そしてどこかに置き忘れた「家族愛」も取り戻しつつあるようだ。

 

  人 物   
 桐野真琴(20) 
 桐野玲子(17) 
 桐野政彦(50) 
 桐野治美(48) 
 大藪拓也(32) 
 大藪達夫(58) 
 谷(41)
 早川(32)

 

 
○喫茶店・店内
   机上には氷の入ったシュースのグラスが二つ並ぶ。
   桐野政彦(50)と大藪達夫(58)が向かい合って座る。
達夫「桐野くん、この前の件だがね、あれ、一番下の息子が
 やってもいいよと言ってくれてね」
政彦「この前のって…」
達夫「見合いだよ。忘れたのかね」
政彦「ああ!」
達夫「困るよ、父親がそんなことじゃ」
政彦「すみません…で、大藪さんの息子さんとうちの娘が
 お見合いをして、その、もし結婚するとなると…」
達夫「もちろん。うちは基本的に放任主義でね。本人たちが
 納得すればではうちの息子を養子に出してもいいと思ってる。
 幸いなことにうちは他の子供たちもみんな医者だ。
 君のところも後継ぎがいなきゃ何かと心配だろう」
政彦「でも…」
達夫「どうしたんだね、うかない顔をして」
政彦「ええ…大藪さんの優秀な息子さんとうちの娘が
 つりあいがとれるかどうか…」
達夫「大げさだな。人の気持ちなんか分からないもんだよ…
 ところで、娘さんの写真とかはないの?」
政彦「え?」
達夫「見合いを考えてるんなら写真を持ち歩くのは常識
 だろう、桐野くん」
政彦(声)「はっ、はっ、すみません」
   カバンの中をまさぐる政彦。
   一枚の写真が机上に置かれる。桐野真琴(20)と
   桐野玲子(17)が並んで写っている。
政彦「あ、あの、正式な写真はすぐに送りますので」
達夫「へ〜え、きれいな娘さんじゃないか」
政彦「え、ええ、まあ。でも見ての通りで、右がその
 …娘の真琴です。男っぽい名前をつけたのが悪かったのか、
 勝気な性格で今は家を出て漫画を書いてます。その
 …芽は 出てないんですが」
達夫「いい娘さんだな。君がいう割にはおとなしそうな
 感じがするし」
   達夫が指差しているのは玲子。
政彦「そっちは…妹の玲子でして」
達夫「そうなのか。この子じゃダメなのか?」
政彦「その…」
達夫「何だ?」
政彦「玲子は…高校生でして」
達夫「高校生か…」
   写真の中で真琴と玲子が微笑んでいる。

 

○メインタイトル

 

○アパート・真琴の部屋・中
   漫画原稿。下書きの鉛筆が走る。キャラクターは
   妖精のようだ。
   原稿に向かうのは茶髪にピアスの真琴。
   真剣な表情。
   原稿はやがてペン入れに。そして消しゴムをかける。
   頬を膨らませ消しカスを飛ばす真琴。
   ホワイトで修正された原稿を持ち上げ、眺め、ちょっと
   だけ微笑む。

 

○秋冬出版社・全景

 

○同社・編集部
   部屋の隅、小さな応接セットに向かい合わせに座る
   真琴と谷(41)
   谷、読んでいた原稿用紙を放り投げる。
   ムッとする真琴。
谷「全然ダメ」
真琴「ダメ?」
谷「そう、全然ダメ。こういうファンタジー描いてこられても
 困るんだよね。うちは少年誌やってないんだし」
真琴「…」
谷「そんなつもりじゃないって言いたいんでしょ?でもね、
 うちはレディースコミックだから、載せたいんだったら
 もっと臭ってくるようなプンプンしたものを描かなきゃ。 
 読者も過激なものを求めてるわけだし。こんなこと何回も
 言ったことでしょ?それとも、この妖精たちが過激な
 セックスをするとでも言うの?」
   真琴、俯いている。
   谷、真琴を一瞥してため息。
谷「君、あつかましいね」
真琴「は?」
谷「駆け出しのくせに自分の書きたいものを載せようって
 どうかしてるよ。そんなのはね、もっともっと売れてから
 やるもんだ」
真琴「そんなこと…」
谷「あるんでしょ?目が訴えてるよ。確かに漫画家って
 自己主張も大事なんだけどね、モノには順番ってのが
 あるんだよ。君がそれを理解出来るかどうかは分からない
 けどね。ま、どっちみちこんなのは箸にも棒にも
 かかんないんだけどさ」
   真琴、歯を食いしばる。
谷「悔しかったら描いてみなよ、思いっきりエッチなやつ。
 それともそんな経験、ないのかな?」
   谷、いやらしい笑い。
真琴「し、失礼します」
   真琴、立ち上がり出ていこうとする。
谷「…逃げるの?」
   真琴、立ち止まる。
谷「ここであきらめるの?せっかく芽が出るかも
 しれないのに」
   真琴、歩きだす。
谷「もったいないな。君のエロ路線、期待してたのに。
 あ〜あ、イヤでもこれを足がかりにしてって考えは
 ないのかな」
   真琴、出口で一瞬足を止めるが歯を食いしばって
   出ていく。

 

○料亭・全景
   
○同・廊下
   一つの部屋の襖が開いて半狂乱で飛び出してくる玲子。
   髪型はセミロング、メガネを掛けていまどき珍しく
   真面目な風貌。
玲子「いや!絶対にいや!」
   玲子の後を追う政彦と桐野治美(48)玲子を部屋の中に
   引きずり戻す。
   暫く静かになるがまた飛び出してくる玲子とその後を
   追う政彦と治美。
玲子「いや!」
政彦「待ちなさい」
治美「お願いだからお父さんの顔をつぶさないで」
玲子「もう!絶対にいや!」
   玲子、断末魔の叫び。
玲子「いやーっ!」

 

○秋冬出版社・ロビー
   原稿の入った封筒を手にして肩を落としながら
   歩いてくる真琴。早川(32)とすれ違う。
早川「桐野…さんだっけ?」
真琴「あ、ああ…早川さん」
早川「元気だった?」
真琴「え、ええ」
早川「どうしたの、ちょっと顔色が悪いよ」
   真琴、封筒を見て頭を振る。
早川「なるほどね…あ、よかったらその原稿、俺に見せて
 くれないかな?来月うちの方の誌面、空きが出来そう
 だから、内容によっては」
真琴「本当に?」
早川「(ニヤリ)あ、ああ」
真琴「ヤッター」
早川「じゃあ場所変えようか。ま、ここじゃ何だから」
真琴「あ、ちょっと」
   真琴の携帯電話が鳴っている。
真琴「もしもし…玲子?」

 

○西八王子駅前・電話ボックス
   (東京郊外の街の駅前)
   セミが鳴いている。
   玲子が汗だくで電話をかけている。
玲子「お姉ちゃん、ピンチ、ピンチ」
真琴(声)「あ?ピンチ?」
玲子「いいから、すぐ帰ってきて」
真琴(声)「帰れって言われても…我慢しなよ何があったか
 知らないけど」
玲子「いいから、お願い、私、死んじゃう!」
真琴(声)「あ?どういうこと?」
玲子「いいから、駅で待ってる!」
   受話器を置く玲子、周囲をうかがいながら素早く
   ボックスを出る。

 

○秋冬出版社・ロビー
   真琴と早川。
   携帯電話を持っている真琴。
真琴「もしもし?玲子?」
   通話を切る真琴。
早川「急用?」
真琴「別に。大したことないよ」
早川「(ニヤリ)そう、よかった」

 

○バー・前(夕)

 

○同・店内(夕)
   静かな店内。
   片隅に仕切られた空間の席に向かい合わせに
   座る真琴と早川。
   原稿は空の椅子の上に放置されたまま。
真琴「ねえ早川さん。原稿、読まないの?」
   真琴、顔が赤い。
   早川もかなり酔っている。
早川「大丈夫、君の作品だと読まなくても分かる。
 あとはキメ手がないと」
真琴「キメ手?」
早川「そう、キメ手。誠意とでも言うのかな」
   ウェイターがカクテルを持ってくる。
   ウェイター、去り際に早川と目配せ。
早川「ねえ、分かってるでしょ?それぐらい」
   早川、真琴の隣に座って真琴の肩をさする。
真琴「ちょ、ちょっと困ります」
   真琴、早川の手を払う。   
早川「そんなことして、困るのは君だよ。これから
 有望なんだし」
真琴「だって全然原稿読んでくれないじゃないの!」
早川「原稿読むのは二次会でゆっくりとね」
真琴「二次会?」
早川「(ニヤリ)そう、二次会でゆっくり。さあ、
 飲んだ飲んだ」
   早川、真琴に強引にカクテルを勧める。
   真琴は作り笑顔で立ち上がる。
早川「どこ行くの?」
真琴「ちょっとその前にトイレ。いろいろと準備も
 あるでしょ?」
早川「(ニヤリ)そうだね」
   真琴、ヅカヅカと入り口に。しかし振り返ると
   早川の視線。店の奥のトイレに向かう。

 

○同・トイレ・中(夕)
   ため息をつく真琴。
真琴「やってらんねえや」
   真琴、トイレの窓を開け、身体をくぐらせ脱出しよう
   とするが体が挟まってしまう。
   と、外からノックする音。
早川(声)「桐野さーん、遅いよ、早く早く。
  あ、もしかしてここで?」
   乱暴にノブが回る。今にも壊れそう。
真琴「(焦る)もう!エロオヤジ!」
   真琴がやっとのことで脱出すると同時にドアが
   開き早川が現れる。
早川「桐野さん…」
   早川の赤い顔が尚も赤くなる。

 

○同・外(夕)
   無理な体勢で窓から出てくる真琴。着地寸前に
   携帯電話が鳴り、身体ごと落ちる。
真琴「イタタタタタ…もしもし?」
   真琴、腰を押さえて、
真琴「玲子?今度は何?」

 

○西八王子駅前・電話ボックス(夕)
   泣きながら電話する玲子。
玲子「お願い、ピンチなの…助けて」

 

○バー・トイレ・外(夕)
   窓の下。携帯電話を持つ真琴。
真琴「もう、我慢しなってば。何があったか知らないけど
 こっちも取り込み中なんだ」
   真琴、通話を切る。
早川(声)「桐野さーん、どこにいるの?」
   真琴、慌てて物陰に隠れる。
   早川の姿。キョロキョロと辺りを見回している。
早川「逃げても無駄だよ、マ〜コちゃん」
真琴「マ、マコちゃん?」
早川「逃げたりしたら、どうなるか分かってるよね?
 折角チャンスをあげようと思ったのに。
 もったいないよ〜」
   真琴の携帯電話が鳴る。
早川「マコちゃん、かくれんぼのつもり?」
真琴「(小声で)もしもし、玲子?それどころじゃ
 ないんだってば」 
   電話の向こうは泣き声。
真琴「何?何なの?」
   泣き声。
真琴「泣いてるだけじゃ分かんないよ」
玲子(声)「ピンチなの…」
   真琴、頭を掻きながら、
真琴「分かった、分かったよ、行くから、すぐ行くから
 待ってなよ」
   真琴、携帯を電源ごと切る。
   ため息をつく真琴、ふと物音を立ててしまう。
真琴「ヤバ」
早川「ぐふふ、見〜つけた」
   早川はニヤニヤしながら真琴の方に歩み寄る。
   息を殺す真琴、近づいてくる早川の股間を蹴る。
早川「痛っ、何てことするんだ」
真琴「あんたが悪いんだろ、このエロオヤジ」
早川「エ、エロ…オヤジ?」
真琴「そうだよ。ったく、付き合いきれないんだよ」
   真琴、走り去ろうとするが、
早川「いいの?あんたの将来、どうなっても」
   真琴、立ち止まる。
早川「知らないよ。俺もこの仕事で伊達に飯食って
 るんじゃないんだし。どうなっても知〜らない」
   真琴、暫く立ち止まるが結局走り去る。

 

○路上(夕)
   走りながら電源の切れた携帯電話を見つめる
   真琴。暫くして立ち止まり、ため息をつく。

 

○電車(夕)
   走行中の赤い車両。

 

○西八王子駅・改札(夜)
   周囲をキョロキョロしながら歩いてくる真琴。
   物陰から玲子が走ってくる。
玲子「お姉ちゃん!」
真琴「ったく、お姉ちゃんじゃないよ。危なかったん
 だから。で、何?」
玲子「お父さんがね、男の人連れてきて、心臓が
 なんちゃらかんちゃらって。私、どうしていいのか
 分かんなくて、逃げちゃった」
真琴「心臓って、父さん具合が悪いの?」
玲子「ううん、違うの、アイスを食べて、その、あの」
   真琴、頭を掻きながら、
真琴「ちょっと、順序だって説明してよ、それじゃ
 訳が分かんないじゃん」
   玲子、肩でフーフー息をしている。

 

○喫茶店・店内(夜)
   向かい合わせに座る真琴と玲子。
真琴「あ?お見合い?」
   玲子、頷く。
真琴「お見合いって、あんたまだ高校生でしょ?」
玲子「こういうのは早いほうがいいって。相手は
 おじさんっぽいお兄さん」
真琴「ああ、なんとなく感じは分かるな」
玲子「お父さんの知り合いの子供とかで、心臓
 ナントカのプリンスだって。その人と私を結婚させて
 病院の後を継がせるって」
真琴「それにしても早すぎるでしょ」
玲子「善は急げだって。朝いきなり言われて、その人
 うちに来ちゃった」
   玲子、興奮して早口になる。
玲子「んで、アイスをベチャベチャ食べながら僕は
 自分には自信があるんですとか言うの。そして私の
 目をニヤーって見たもんだから、私たまらなくなって
 逃げてきちゃったの、それで…」
真琴「分かった分かった。とりあえず家に帰ろう」
玲子「イヤ、まだいるかも」
真琴「でも、帰らないと始まらないよ、大丈夫、
 私がいるから」
   玲子、渋々頷く。

 

○桐野家・全景(夜)
   店舗兼住宅。店舗部分は「桐野医院」

 

○同家・玄関・外(夜)
   真琴と玲子が入っていく。

 

○同・中(夜)
   真琴が靴を脱ぎ散らかして上がる。
真琴「ただいま」
   玲子は真琴の靴を揃えてから上がる。
   奥から桐野治美(48)
治美「まあ、玲ちゃん、どこ行ってたの?大藪さん、
 さっきまで待っててくれたのに」
玲子「…いいよ、待たなくて」
真琴「大藪ってんだ、そいつ」
治美「真琴まで帰ってきて。いったいどうしたの?」
真琴「さあ?」
   真琴、首を傾げる。
   奥から政彦がやってくる。
政彦「どうしたんだ、そうぞうしい」
真琴「…ただいま」
政彦「なんだ、真琴、どうしたんだ」
真琴「さあ?」
政彦「まあ、ちょうどよかった。二人とも来なさい」
○同家・リビング(夜)
   テーブルに並ぶ真琴と玲子、その向かいに
   政彦と治美。
   政彦、咳払いをして、思い切ったように、
政彦「玲子、どうして逃げたんだ。ああいう男はめったに
 いないぞ。大藪君は心臓外科のプリンスとまで
 言われる男だ」
治美「そうよ、そんな人と結婚できるんだから。
 いいじゃない。私だってうらやましいわ。おまけに
 婿養子になってくれるんだから、結婚してもおうちに
 いられるのよ」
政彦「そ、そうだ婿養子だぞ。いい話だろ」
真琴「婿養子?」
玲子「…確かに、めったにいないよ、ああいうのは」
真琴「…プリンスね」
政彦「ごちゃごちゃ言うな。とにかくあの話を断るのは
 金塊をドブに捨てるようなものだ。大藪君、明日うちに
 来るから、今度こそ逃げるな」
玲子「え〜。また来るの?」
治美「何です、その言い方は。全く、真琴が家を出てから
 玲子の口が乱暴になって、どうしてくれるのよ」
真琴「それ、私のせい?」
治美「昔から、玲ちゃんは色白で、おしとやかで、山猿の
 ように野山を駆け回るお姉ちゃんとは全く正反対で
 近所でも評判だったのに、なんでこうなったのかしら」
真琴「それは、お姉ちゃんの妹だから」
   玲子ニッコリ。真琴は苦笑い。
政彦「いずれにしてもだ、医者の婿養子を取るか、
 お前らのどっちかが医者になるかしないと父さんも
 安心できないんだ」
真琴「私は…ムリだ。医者なんか」
   真琴、玲子の顔を見る。
   玲子、俯いている。
治美「その玲ちゃんの成績が下がってるから、私たち、
 心配してるのよ。ほら、お父さん、心臓弱いから、
 大藪さんなんかうってつけなのに」
政彦「よく考えといてくれ」
   政彦、ため息。

 

○同家・ベランダ(夜)
   夜空を見上げながら真琴と玲子が並んで
   座っている。
真琴「勝手だよね、お父さんたち」
玲子「…」
真琴「こういう時は無視するに限るよ、私、それでずっと
 切り抜けて来たから平気平気」
玲子「…」
真琴「玲子?」
玲子「私…お医者さんになってもいいよ」
真琴「え?」
玲子「もうちょっと頑張れば、お医者さんになれるし」
真琴「マジで?医者って、お父さんみたいになるんだよ」
玲子「違うもん」
真琴「え?」
玲子「獣医」
真琴「は?獣医?」
   玲子、頷く。
玲子「私、獣医になりたいの」
真琴「どうして?うち、ペット飼ったことないでしょ?
 何で?ねえ、何で?」
玲子「小さい頃、牛、見にいったでしょ。あれで何となく」
真琴「小さい頃って、もしかして」
玲子「牛の出産。ほんとすごかった、あれは」
真琴「ああ、なるほどね。じゃあ、牛が好きなんだ」
   玲子、満面の笑みで、
玲子「うん、牛、好き」
真琴「それ聞いたら絶対父さん倒れるな、きっと」
   真琴、苦笑い。
   玲子は思いきったように、
玲子「ねえ、お姉ちゃん、私、牛が見たい」
真琴「は?」
玲子「ほら、ちょうど夏休みだし」
真琴「だったら一人で行きなよ」
玲子「だって不安だもん。ね、お願い」
真琴「そういわれても…」
玲子「お金ならあるの、お小遣い貯めたから。
 私、お姉ちゃんの分も出す」
   真琴、ため息。
玲子「ね、ね、いいでしょ?お姉ちゃん、お姉ちゃん」
真琴「ダメ」
玲子「ね、お願い、お願いだから」
真琴「ダメだってば!」
玲子「お姉ちゃん…」
真琴「…私だってそんなに暇じゃないんだし。行きたい
 んだったら一人で行きなよ」
玲子「でも…」
真琴「だったら我慢しなよ」
   玲子、暗い表情。

 

○同家・全景(夜)
   人通りはなく、犬の遠吠えだけが響く。

 

○同家・真琴の部屋(夜)
   薄暗い室内。布団の中の真琴がぼんやりと
   目を覚ます。
   窓の外からすすり泣く声。
   寝ぼけ眼の真琴、やがて意識を取り戻し
   窓の外を見る。

 

○同家・玲子の部屋(夜)
隣は真琴の部屋。
   窓枠に顔を乗せ夜空を見上げて泣いている玲子。
○同家・真琴の部屋(夜)
   窓越しに玲子の悲しげな表情を見てため息を
   つく真琴。

 

○同家・全景

 

○同家・リビング
   新聞を広げている政彦。
   治美がやってきて、
治美「大藪さんが来るから、そろそろあの二人、
 起こした方がいいんじゃないかしら」
政彦「お?二人とも引き合わせるのか?ここはまず
 真琴を出して、合わないようだったら玲子を出す。
 いや待てよ、やっぱり正攻法で玲子を先に出した
 方が…毒を先に出すとまずいからな」
治美「考えすぎですよ」
政彦「そうだな」
   政彦、立ち上がり、部屋を出る。
   階段を上がる音。

 

○同家・玲子の部屋・前
   隣は真琴の部屋。
   政彦、指先を迷わせるが玲子の部屋のドアを
   ノックする。
政彦「玲子、玲子、起きなさい」
   返事がないので政彦、部屋の中へ。

 

○同・中
   誰もいない。
   政彦が入ってくる。
   机の上に書置き「ちょっと出かけて来ます」
   政彦、慌てて部屋を出る。

 

○真琴の部屋・中
   元からガランとした部屋。誰もいない。
政彦(声)「真琴、いるのか?いるんだろ?」
   ドアのノックの後に入ってくる政彦。
   机の上に書置き「隣の部屋に同じ」
政彦「うわあ、どうなってるんだ!」
   政彦、胸を押さえて倒れこむ。

 

○旅行代理店・前
   玲子が立っている。
   店舗の中から真琴が出てくる。
玲子「お姉ちゃん?」
   玲子、不審そうな表情。
   真琴、頭を掻きながら、
真琴「あのさ、その…玲子の気持ちを無駄には出来ない
 と思ってさ。牛、見に行って気持ちの整理がつけば
 それでいいし」
玲子「ありがとう!お姉ちゃん、大好き!」
   玲子、真琴に抱きつく。
真琴「やめなよ、恥ずかしいよ」
玲子「どこ行くの?遠出?」
真琴「うん、まあ」
玲子「どこ?」
真琴「あのさ、二色の牛がいてさ、豊後の黒牛と肥後の
 赤牛。どっちも見たいならその真ん中あたりに」
玲子「え?九州?どうして?」
真琴「たまにはいいかなって」
   真琴、チケットを渡す、乗船券。
玲子「え?船?」
真琴「その、速いの怖いし、飛行機とか、新幹線とか。
 あと、船は安いし」
   玲子、渋い顔。

 

○桐野家・リビング・外
   政彦、治美と大藪拓也(32)の声だけが聞こえる。
政彦(声)「度々、すまないなあ」
治美(声)「大藪さん、アイスクリーム、もう一ついかが
 ですか?」
拓也(声)「うん、いただきます!」
   ベチャベチャという音。

 

○客船
   海原を駆け抜ける。

 

○同・デッキ
   前方で海を見ている真琴と玲子。二人の髪が
   風でたなびく。
玲子「お姉ちゃん」
真琴「何?」
玲子「ありがとう」
真琴「いいよ、礼なんか」
   玲子、真琴に肩を寄せる。
真琴「やめてよ、変だよ」
   玲子、茶目っ気たっぷりに笑い、
玲子「お姉ちゃん、私、もう一つお願いがあるんだ」
   真琴、首を傾げる。

 

○同・シャワー室
   真琴と玲子、バスタオルを巻いている。
真琴「変身?」
   玲子、頷いて、ビニール袋の中からボトルを
   取り出す。ブリーチ。
真琴「髪の色を変えるの?」
   玲子、大きく頷く。
真琴「そんなことぐらい自分でやんなよ」
玲子「でも…」
真琴「簡単だってば、分かんなかったらここ読めば
 いいんだし」
   玲子、悲しげな表情。
真琴「そんなことでいちいち面倒見てられないん
 だってば。分かるでしょ?そんなことも一人で出来ない
 んだったら我慢しときなよ。どうせお母さんに
 怒られるんだし」
   真琴、別のボックスに移動してシャワーを
   浴びはじめる。
   真琴、暫くシャワーを浴びていると、
玲子(声)「きゃっ!」
   真琴、水を止め玲子のもとへ。
   玲子は目を閉じたまま手探りでシャワーの
   栓を探している。
真琴「どうした?」
玲子「目が、目が…」
   真琴、ため息をつきながらシャワーの水を
   玲子の顔にかける。
玲子「ごめんね、お姉ちゃん。あとは自分でやるから」
   玲子の慣れない手つきを見ながらため息をつく
   真琴、ブリーチを手に取る。
玲子「お姉ちゃん」
真琴「仕方ないか」
   玲子、笑顔。
真琴「ちょっとだけだけどいいの?変わるの。
 …でも入門編にはもってこいかな」
玲子「うん!」
   真琴、玲子の髪を濡らし始める。
   玲子、満足そうな顔。
   途中、真琴のバスタオルが取れるが気にしない。
   玲子、俯いたまま真琴の足を見ている。
   シャーワーの止まる音。
   洗面台の前で真琴が玲子の髪をアップに束ねる。
   段々と真琴の表情も明るくなる。
真琴「おおーっ。すごいな。ねえ、メガネ取っても
 見える?」
   玲子、ぎこちなく頷く。
真琴「じゃ、お言葉に甘えて」
   真琴、玲子のメガネを外す。
   けっこう美人だったりする。
真琴「おおーっ。さすが私の妹」
   玲子、ニッコリと笑う。

 

○同・船内
   売店などが並び乗客で賑わっている。真琴と
   玲子がやってくる。玲子は見違えるよう。
   玲子、段差につまずき真琴の腕を掴む。 
   そのまま真琴の腕に組んだまま歩く玲子。
真琴「ちょっと、変だからやめなよ」
   玲子、嬉しそう。

 

○牧場
   見渡す限りの草原に放牧される牛。赤い牛、
   黒い牛がブロックごとに分かれている。
   玲子、足をドロだらけにしながら駆け回る。
玲子「ウシーっ!」
   玲子を静観している真琴。
真琴「ああ、すごい興奮してるよ」
玲子「ウシーっ!」
   玲子、ものすごいはしゃぎよう。
真琴「これでよかったのかな?」
政彦(声)「よくない!」

 

○桐野家・全景(夜)

 

○同家・リビング(夜)
   真琴、玲子と政彦、治美が座る。
政彦「お前らのちょっとは、何日なんだ?大藪君、
 気を悪くしたらどうする」
治美「そうよ。それに何?玲ちゃん。その髪。
 どっちがお姉ちゃんか分かんないわよ。その髪
 直すまで出歩いちゃいけませんからね。 
 全く、ご近所に何て言われるか心配で仕方ないわ」
   真琴、玲子、俯いている。
治美「黙ってたんじゃ始まんないわよ」
政彦「どうして牛なんか見に行ったんだ」
治美「言いなさい」
真琴「玲子、お医者さんになりたいからって」
政彦「何?医者になりたい?何だ、そうなのか。何で
 それを早く言わないんだ」
治美「でも…お医者さんと牛に何の関係が?」
政彦「そうだ、何で…アイタタタ!」
   政彦、胸を押さえる。
治美「お父さん!」
政彦「玲子、お前、まさか」
   玲子、頷く。
政彦「何で、獣医なんだ」
治美「真琴が牛なんか見に連れてくからよ」
真琴「違う、玲子は小さい時牛を見に行ったから」
政彦「ああ、あれか、あれ、行こうと言ったのは
 母さんだろ」
治美「違うわ、お父さんよ、お父さんが行こうって
 言わなきゃ玲ちゃん、こんな風にならなかったのに」
政彦「俺じゃないぞ」
玲子「違うよ!」
   一同、沈黙。
真琴「玲子…」
玲子「牛だけじゃないんだよ。牛だけじゃ」
   玲子、俯きながら、
玲子「あの頃は楽しかったの」
治美「楽しかった?」
玲子「みんなニコニコしてた。本当に笑ってた」
政彦「今でもニコニコするだろ」
   政彦、笑顔を作ると玲子が睨みつける。
玲子「今はみんな自分のことばっかりじゃん。家のこと、
 近所のこと、顔色うかがって笑ってるんだよ」
真琴「…ごめん」
玲子「お姉ちゃんはいいの」
真琴「え?」
玲子「お姉ちゃんはいいの」
真琴「意味分かんないよ」
玲子「いいの!」
真琴「何なの!」
治美「ちょっと待ちなさい、私とお父さんは玲ちゃんの
 ことを思ってるのよ、だから」
玲子「ほら、それよ!何でも押し付けて。私が黙ってれば
 みんな済むと思ってるんでしょ!」
真琴「玲子!」
   玲子、立ち上がり出ていく。
   真琴、ため息。
   政彦、治美も。

 

○同家・全景(夜)
   深夜、人通りはない。

 

○同家・真琴の部屋(夜)
   布団の中から天井を見上げている真琴。
   時計の秒針が響く。
   真琴、起き上がる。

 

○同家・リビング(夜)
   政彦がいる。
   治美はテーブルに顔をつけて寝ている。
   真琴が入ってくる。
真琴「まだ…起きてたんだ」
政彦「ああ」
   真琴、政彦の前に座る。
真琴「あのさ、私、その、大藪さんって人に会ってみるよ」
政彦「え?」
真琴「私が行かないと、玲子がまた行っちゃうから」
   政彦、ため息。

 

○同家・玲子の部屋(夜)
   ベッドの上で眠る玲子。
真琴(声)「玲子ってさ、小さい頃からいつも犬みたいに
 私の後を追っかけてた。だからかな、最後はいつも
 玲子に我慢させてたような気がする。遊ぶのも、
 喧嘩するのも。おやつの取り合いだってそうだった。
 でもあれじゃ犬だって怒るよね」
   玲子、寝返りをうつ。表情はあどけない。
   
○同家・リビング(夜)
   真琴と政彦がいる。
   治美は眠っている。
   政彦、少しだけ微笑む。
真琴「あの子が我慢してたから家の中が円満だった
 んだよね、きっと。私が大学行かなくてよかったのも、
 家を出て好きなことが出来るのも、全部玲子が
 我慢してたからなんだよね。今まで逃げてばっかり
 だったから、今度は私が。でもあの子には内緒だよ。 
 あと、お母さんにも。こういうのには神経使う人だし。
 お父さんに負けないくらい」
政彦「…お前、いいお姉さんになったな」
   真琴、微笑んでいる。
真琴「じゃあ、寝るね」
   真琴、立ち去る。
   政彦、ため息。
   治美が目を覚ます。
治美「あらいやだ、いつの間に」
   政彦、真剣な表情。
治美「あなた?」
政彦「あのさ…」

 

○同(朝)
   テーブルに並ぶ朝食。
   真琴、玲子と政彦、治美が座っている。
   皆の会話がどこかぎこちない。
真琴「あ、玲子、醤油、使う?」
玲子「あ、うん。ありがとう」
治美「目玉焼き、堅すぎない?」
真琴「うん、大丈夫。だよね?玲子」
玲子「うん、平気」
   治美、政彦の顔を見る。
   政彦はため息。

 

○同家・庭
   花に水をやる治美。

 

○同家・リビング
   新聞を広げる政彦。
   真琴がゆっくりと歩いてくる。
真琴「じゃ、そろそろ行くね」
   真琴、立ち去ろうとする。
政彦「真琴」
真琴「何?」
政彦「その…イヤなら、断るぞ」
真琴「え?」
政彦「見合い話がご破算になるのは残念だけど、
 仕方ないだろ。それに、お前たちを見てるとなんだか
 悪いことをしてるようでな」
真琴「ううん、私、やっぱり会ってみる。ほら、案外気に
 入っちゃうかもしれないし…お父さんにも安心して
 もらいたいしさ、ほんのちょっぴりだけど」
政彦「…そっか」
真琴「じゃ、行くね」
政彦「ああ」
   真琴、去る。
   ゆっくりと治美がやってくる。
治美「行っちゃったの?」
   政彦、ため息。
治美「そっか」
   治美もため息。

 

○喫茶店・全景
   繁華街の中の喫茶店。
   ちょっとだけよそ行きの服装の真琴が店の中に。

 

○桐野家・リビング
   政彦が新聞を広げている。
   玲子がやって来る。
玲子「お父さん」
政彦「何だ?」
玲子「大藪さん、今日、来るんだよね?」
政彦「あ、ああ、今日は来ない」
玲子「え?」
政彦「真琴…」
玲子「え?」
政彦「何でもない」
玲子「何なの?」
政彦「何でもないよ」
玲子「お姉ちゃんは?」
政彦「あ、ああ、帰った」
玲子「ウソだ、お姉ちゃん私に黙って帰ったりしない」
政彦「それはそのだな…お前があんまりよく寝てた
 から、真琴が遠慮したんだろ」
玲子「ウソ!言ってよ、どこよ?お姉ちゃん、
 どこにいるの?」
政彦「知らないよ…あ、知ってる。アパートだ。
 さっきも言ったろ」
玲子「お父さん…」
   政彦、新聞で顔を隠す。
玲子「ウソつき!」
   玲子、走っていく。

 

○喫茶店・店内
   従業員に案内されて着席する真琴、うつむいている。
   真琴の前には拓也が座っているが、まだ姿は
   見えない。
   ベチャベチャものを食べる音。
真琴「初めまして、桐野、桐野真琴です」
拓也「…うん」
真琴「きゅ、急に場所を変えてすみませんでした。
 あいにく両親は…」
拓也「いいよ、そんなの。チョコパがあればさ」
   真琴、恐る恐る顔を上げようとする。

 

○路上
   走っている玲子。周囲を見ながら全力迷走。

 

○喫茶店・店内
   真琴、恐る恐る顔を上げる。正面の拓也はすごい
   デブ。口の周りをチョコレートパフェのクリーム
   だらけにしながら食べている。
真琴「あなたが…心臓外科のプ、プリンス?」
拓也「うん。みんなそう言うね」
   真琴、唖然としている。

 

○路上
   玲子、走っている。肩で息をしながらも、
   また走る、走る。

 

○喫茶店・店内
   真琴と拓也がいる。
真琴「あ、あのさ…いや、あのですね」
拓也「うん、何?話は短めに要約してね」
   真琴、机の下で握りこぶし。
真琴「その、どうしてお医者さんになろうと思ったん
 ですか?」
拓也「さあね」
真琴「例えば、病気の子供の命を救いたかったとか、
 そ、そういうのですか?」
   拓也、思案して、
拓也「パパとママがやってたからだよ、お医者さん。
 ただそれだけ〜」
   真琴、握りこぶし。
拓也「悪い?」
   真琴、こぶしをさらに強く握り締める。
拓也「意見があるんだったら要約して言って。君、
 なんだか理屈っぽい気がするからさ」
   真琴、苦笑して、
真琴「それはあんたじゃないのさ…」
拓也「ほら、そうやって不満ばっかり言うのが
 アタマデッカチの悪いところ」
真琴「アタマデッカチ…どっちが…」
拓也「何か言った?」
   真琴、握っていたこぶしをゆるめ立ち上がる。
真琴「あの、おしっこ…いやお中座。失礼」
   真琴、足早に物陰に隠れ、従業員を呼び、
真琴「あの男にチョコレートパフェ2つ。いや、3つ。
 あ、ジャンボパフェってあるんですか?ある。
 じゃあ、それ3つ。いや、5つ。お金は全部私が」
   真琴支払いを済ませて外に出ようとするが
   拓也の視線を感じ、トイレの中に。

 

○同・トイレ・中
   真琴が入ってきて鍵をかける。
真琴「だめだ、やってらんないや」
   真琴、窓を見上げてため息。

 

○同・店内
   拓也の前にジャンボパフェが五個、運ばれてくる。
拓也「これは?」
   店員、ニッコリ。
   拓也、打ち震えながら立ち上がり、
拓也「俺がデブだと思って…」
   その場に泣き崩れる拓也。

 

○喫茶店・トイレ・外
   真琴がトイレの窓から這い出してくる。
   服の乱れを直し、裏通りの方に進む真琴。
   そこに玲子が走ってくる。
玲子「お姉ちゃん!」
   玲子、真琴に抱きつく。
真琴「ちょ、ちょっと」
玲子「ごめん、お姉ちゃん」
真琴「ちょ、ちょっと、こ、こんなとこじゃ見つかるからさ」
玲子「見つかる?」
   真琴、肩を落として、
真琴「ごめん、また逃げた。私」
玲子「いいの」
真琴「ダメだよ、また逃げちゃった」
   真琴、ため息。
玲子「お姉ちゃん…」
真琴「帰ろっか」
玲子「え?」
真琴「やっぱり素直にあやまるよ。父さんや母さんに。
 分かってくれるよ。とてもプリンスじゃなかったってことも」
   玲子、笑顔で頷く。

 

○路上
   家の近くの道。
   真琴と玲子が歩いている。
玲子「お姉ちゃん」
真琴「あ?」
玲子「大好き」
真琴「何言ってんだよ、急に」
   真琴、暫くして立ち止まり、
真琴「玲子」
玲子「なに?」
真琴「ごめん。今までいろいろと迷惑をかけて」
玲子「そんなことないよ」
真琴「家のこととか、学校のこととか、いろいろ
 逃げたりさ、ごめん」
   玲子、頭を振り、
玲子「違うよ、お姉ちゃん、私のことはちゃんと
 考えてくれてるもん。この前の電話の後、
 飛んで来てくれたし」
真琴「それは違うよ…大体すぐに行ってないじゃん。
 それは飲み屋にいたから。あのエロオヤジと!」
玲子「でも、牛、見に連れてってくれたし、
 髪染めてくれたし」
真琴「それもちょっと違うんだよな…玲子があまり
 にも悲しそうだったから」
玲子「それに、今日、私の代わりに…」
真琴「ああ、それはね」
玲子「それは?」
真琴「それは、私の妹だからだよ、大事な妹は
 守ってあげなきゃ」
玲子「(ニッコリ)ありがとう」
   微笑む真琴。
玲子「でも…お父さんとお母さんは?」
   真琴、思案して。
真琴「やっぱり好きだよ。父さんも母さんも」
玲子「うん!私も!」
   玲子、満面の笑み。

 

○桐野家・前
   真琴、家の前で立ち止まる。
   玲子も。
真琴「あ、あのさ。父さんに謝るの、様子を見て
 からでいい?」
玲子「様子を見る?」
真琴「うん。あんまり怒ってると、怖いからさ。
 さすがに。だから何気なく二階に上がって、何とも
 なければ謝るよ、速攻」
玲子「分かった」
   家の中に入っていく真琴と玲子。

 

○同家・玄関・中
   真琴、玲子が入ってくる。
真琴「ただいま」
   靴を脱ぎ捨てて上がる真琴。玲子はその靴を
   揃えてそのまま二階に上がっていく。
   上がる途中、何度も階下の様子をうかがう
   真琴と玲子。
玲子「何ともないみたいだね」
真琴「まだ知らないのかな。でもさ…」
   真琴、思案している。

 

○同家・リビング
   政彦と治美がいる。
   階段を上がっていく音。
治美「あなた!」
政彦「ああ」
   心配そうな政彦と治美。
政彦「ちょっと行ってみるか…」
   立ち上がる政彦と治美。

 

○同家・前
   高級外車が止まる。
   車内には達夫と拓也。
拓也「パパ、パパ」
   拓也は泣きじゃくっている。
達夫「俺が今、連れてきてやるからな、土下座して
 謝らせてやる」
   達夫、車から降りて家の玄関を荒っぽく開ける。
達夫「桐野くん!」

 

○同家・玄関・中
   達夫が怒鳴り込んでくる。
   政彦と治美がやってくる。
政彦「大藪さん!どうしたんですか?」
達夫「どうもこうもない!お宅の娘がうちの息子を
 侮辱したそうじゃないか。今すぐ息子の前で
 土下座して謝らせろ」
政彦「侮辱?そんなこと」
達夫「あんたの娘、どうせろくな高校行ってないん
 だろうから無理もないんだろうけど、だからといって
 うちの大事な息子を平気で傷つけて、ショックで
 仕事が出来なくなったらどうしてくれるんだ」
   治美、心配そうに政彦を見つめる。
政彦「…」
   政彦、握りこぶし。
達夫「あ〜あ、もっとうちの息子にふさわしい女を
 捜すから、この話はなかったことにしてくれ」
   達夫、去ろうとするが、
政彦「願ったりかなったりだ」
達夫「なに?」
政彦「あんなだらしない男が私の息子になるかと
 思うとヘドが出る」
治美「あなた」
達夫「何だと?もう一回言ってみろ」
   政彦、声を震わせて、
政彦「ああ、何度でも言うよ、何が心臓外科の
 プリンスだ。そういう肩書きよりも大事なことは
 一杯あるんだよ、世の中には。うちの娘たちは
 無鉄砲なところもあるが、それはそれで必死に
 生きてる。あれは自慢の娘だ!」
達夫「自慢の娘が平気で人を侮辱するのか、
 面白い家だ」
政彦「仮に私の娘が侮辱したとしてもそんなことで
 仕事が出来なくなるんなら、医者なんかやめさせて
 家の掃除でもさせてればいい」
達夫「お、憶えてろ!」
   達夫、出ていく。
   政彦は胸を押さえる。
治美「あなた!」
政彦「大丈夫、大丈夫だ」
   政彦、微笑みながら、
政彦「これでよかったのかな」
   治美、何度も頷きながら、
治美「よかったのよ、これで。これで、よかったのよ」
政彦「よかった…真琴と玲子、あいつらはあいつら
 なりの人生があるし、俺たちが勧める方向に
 行っても幸せになるとは限らないからな」
治美「私も。実はそう思ってた。あんなボンクラ男に
 娘を取られてなるもんですか」
政彦「そうだよな。あの二人がこれから何の
 わだかまりもなく生活していくのが、俺たちに
 とっての一番の幸せ。結局はあいつらの方が
 長生きする訳だしな」
   治美、笑みを浮かべ、
治美「そうよ」
政彦「でも、大藪さんにはちょっと言い過ぎた。
 あとで…」
治美「私も一緒に行く」
政彦「え?」
治美「私にも責任あるから」
   治美の微笑みに応える政彦。
政彦「その前に…お茶でも飲むか。みんなで」
治美「そうね」
   政彦、ゆっくりと立ち上がり階段を登る。

 

○同家・玲子の部屋・前
   隣は真琴の部屋。
   政彦、指先を迷わせるが玲子の部屋の
   ドアをノックする。
政彦「玲子、玲子」
   返事がないので政彦、部屋の中へ。

 

○同・中
   誰もいない。
   政彦が入ってくる。
   机の上に書置き「ちょっと出かけて来ます」
   政彦、慌てて部屋を出る。

 

○真琴の部屋・中
   誰もいない。
政彦(声)「真琴、いるのか?いるんだろ?」
   ドアのノックの後に入ってくる政彦。
   机の上に書置き「隣の部屋に同じ」
政彦「うわあ、まただ!」
   政彦、胸を押さえて倒れこむ。

 

○羽田空港・ロビー
   バッグを抱えながら走ってくる真琴と玲子。
玲子「どうして?」
真琴「ほら、あの男が来たら面倒じゃん。だから
 暫く雲隠れ。玲子はどうして?」
玲子「私は、ウシーっ!」
   真琴、玲子笑っている。
玲子「でもさ、飛行機乗るの?」
真琴「あ」
   真琴、立ち止まるが、玲子が背中を押して、
玲子「今度は逃げるの、ナシね」
真琴「…分かったよ…分かった!今度こそ
 逃げないぞ!」
   玲子、大きく頷く。
   真琴と玲子、走りだす。
玲子「でもさ、お父さん、大丈夫かな?二回も同じ
 ことしちゃって」
真琴「大丈夫、ちょっとだけ薬、入れといた」
   真琴、微笑む。

 

○桐野家・真琴の部屋
   横になっている政彦。
   メモを見て笑っている。
   メモ「隣の部屋に同じ」の裏面、
   「父さん、母さん、大好き! 玲子&真琴より」
   治美がやってくる。
治美「あなた!」
政彦「…見ろよ」
   メモを見て治美も笑顔。

 

○牧場
   見渡す限りの草原に放牧される牛。まさに絵の
   ような風景。そのフレームの中心にはしゃぎながら
   走っていく真琴と玲子。

 

sis.jpg (4969 バイト)

 

○都心・ビル群

 

○秋冬出版社・全景

 

○同社・編集部
   真琴が見守る中、谷が原稿に目を通している。
   谷、原稿を放り投げ、
谷「ああ、ダメダメ」
真琴「ダメ?」
谷「そう、ぜんぜんダメ」
真琴「エッチ…じゃないですか?」
谷「そうじゃなくて。グロすぎるんだよ。男性誌に
 載せるんじゃないんだからさ」
真琴「でも…」
谷「ちゃんと話がしたければ書き直してからにして
 くれないかな」
   真琴、握りこぶし。だが力を緩めて不適な笑い。
真琴「分かりました」
   ヅカヅカと歩いていく真琴。
   谷は真琴の背中を見て微笑んでいる。
谷「おい、来月号にページの空きがあるか調べて
 くれないか?再来月でもいいぞ」
振り返った谷、鼻血を垂らしている。

 

○同社・ロビー
   早川が受付の女性を口説いている。
   立ち止まる真琴。
真琴「…!」
早川「イテテテテテテ!」
   早川の足を思い切り踏みつけて歩いていく真琴。

 

○路上
   颯爽と歩く真琴。その背中はどこか頼もしげに見える。
               ―完―

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