招かれざる訪問者
’98フジテレビヤングシナリオ大賞応募作品(一次選考落ち)
(解説)
もとの題名は「精神科医 吉田」 あまりに適当すぎたため先生や
仲間に不評だった。でも内容は好き。
「ビッグジャイアント」や「トラとウマ」など言葉遊びやダジャレなどに
終始してしまい肝心の「何が言いたいのか」がさっぱりと見えなく
なった。でもこれはこれで楽しく描けた作品。
選考結果はともかくとして、拙作の中では意外にファンの多い作品。
これがある程度残ってれば作風はガラリと変わってたかもしれない。
…それほどかわっちゃいないか。
あ ら す じ
大山吉典(45)は漫画家として、かつては子供からの人気を
不動のものにしていたが、最近はギャグ漫画に不倫をする主婦を
登場させるなど、ちぐはぐな内容の作品を連発するため人気は
うなぎ下りだった。しかし当の本人はそういう自覚もなくこれまで
漫画家人生を 歩んできたが、週刊レッツ編集長松岡弘太郎(45)の
最後通牒により止むを得ず吉田精神解析研究所を訪れる。
吉田幸夫(35)は科学者ながら精神注入装置を使い、手を触れる
ことなく相談者の精神世界に侵入しその原因を取り除くという手法を
考案、そこそこに裕福で、結婚も控え夢と希望に満ちあふれていた、
そんな男が大山の精神世界に侵入し様々な混乱を招くことになる。
大山の精神世界、そこは吉田の予想をはるかに上回る異常さで、
彼は大山とともに落とし穴や泥沼などのトラップを潜り抜けてようやく
浜辺にたどり着くが、大山はそこで死別した息子に再会してしまう。
精神世界に居残ろうとする大山、だが大山が戻って漫画を書かない
限り吉田には相談費(治療費)が入らない、吉田は止むを得ず自分で
手直しして原稿を提出する。
そして大山を連れ戻そうと再び精神世界へと戻りついに彼の
スランプの「原因」を突き止める。
そこにはバクがいてそのバクが
大山の夢を食べていたのだ。だが安心したのも束の間、吉田は
バクに呑み込まれてしまう!
現実に戻った二人、大山は吉田の原稿の手直しが的中し、再び
人気を取り戻すが、当の吉田は世捨人として新たな人生を歩み出す。
人 物
大山吉典(45)漫画家
吉田幸夫(35)科学者
松岡弘太郎(45)週刊レッツ編集長
鈴木マツ(72)相談者
世捨人
運転手
○マンション・前
ほどほどの年月が経った中層マンション。建物の一階部分が
そのまま商店街とつながっている。
行き交う人々、若い女性がポケットティッシュを配っている。
○マンション・大山家・前
ロ−マ字で「OHYAMA」と書かれた表札。
玄関脇にほこりをかぶった三輪車がある。
○同家・キッチン
3LDKの一部分。誰もいない。
流し台には洗っていない食器がたまっている。
その中には装飾用の絵皿も見受けられる。
洋風の食卓の上には食べかけのコンビニの弁当が散乱し、
酒の一升瓶も転がっている。
○同家・リビング
洋風の家具や調度品を端に追いやった格好で真ん中に
ちゃぶ台が鎮座している。
その上にうつ伏せになって眠る大山吉典(45)。台の上には
散乱する漫画の原稿とカゼ薬の空き瓶。その横にくしゃくしゃに
なった毛布がある。
カ−テンを閉めた窓越しに光が漏れる。
○大山の夢・浜辺
さざ波の音。
ベンチにもたれかかって眠る大山。大山の背後から
女性の声がする。
(声)「あなた、起きて」
何やらうなる大山。
(声)「あなた、時間よ、ほら、起きて」
大山「もうちょっといいだろ、こんな時くらい」
(声)「ほら、起きて」
背後から大山の顔をなめる黄色と黒のストライプの
シマウマ。
大山「やめてくれよ」
笑みを浮かべながら起きる大山だがウマを見て仰天する。
○同家・リビング
ちゃぶ台にうつ伏せになっている大山、ガバリ!と起き上がる。
大山「あ、ああ、ああ−」
額から流れ落ちる汗。
○マンション・廊下
エレベ−タのドアが開いている。中には誰もいない。
大山が駆けてくるがドアはタイミング良く閉まる。大山、
ボタンを連射するがフロア表示のランプはゆっくりと移動する。
アメリカ人のように手のひらを上に向ける大山。
せわしなく腕時計を見る。
○マンション・前
建物の前の停留所にバスが停車している。
マンションの中から駆け出してくる大山、若い女性の
差し出すポケットティッシュをはねのけてバスに駆け寄るが、
これまたタイミング良く大山を残して発車してしまう。
女性はティッシュを拾って何事もなかったようにまた配りだす。
大山は再びアメリカ人のように手のひらを裏返し、ゆっくりと
首を振り、歩きだそうとするがタクシ−を見つけて走りながら
狂ったように手を挙げる。
大山、走りながら女性がタイミング良く差し出したポケット
ティッシュを受け取ってタクシ−に乗り込む。
○タクシ−・中
後部座席に乗り込む大山、運転手に、
大山「ヤング出版、司町の」
運転手「いいんですか?」
大山「は?」
運転手「今の時間、道、混んでますよ、上も下も」
大山「構わないよ、行ってくれ」
運転手「駅まで行って電車の方がいいかもしれませんよ」
大山、顔を真っ赤にして、
大山「いいから行けよ!あんた客に指図する権利なんかない
だろう、俺は大山だぞ」
運転手は小さくため息をつく。
○ヤング出版・全景
古びたビル、壁に無数のひび。
○同社・週刊レッツ編集部
殺風景なオフィスの一角、さらにその隅のテ−ブルに
向かい合う大山と松岡弘太郎(45)。
松岡、漫画原稿をテ−ブルに叩き付け、
松岡「またか」
大きくため息をつく松岡。
松岡「大山さん、あんたやっぱり変だ」
大山「どういうことだ」
松岡「あんたの作品だよ、この前のもそうだ、正義のヒ−ロ−
ものだったかな?読み切りのやつ、あれ、設定はまあまあ
だったけど、なんで後半になっていきなり主人公が不倫を
するわけだ?ロボットだろ?実はあれ、信じられないぐらい
抗議が来たんだよ」
大山「それは、それだけ読者のリアクションがあるってことでしょうが」
松岡「リアクションってものじゃない、あれ は総スカンだ。いいか、
週刊レッツは子供を対象にしてるんだ、ところがガキのころ
読んでた奴が親になっても読んでるんだ。
ということはどういうことか分かるか?」
反応のない大山。
松岡、ため息まじりに、
松岡「チェックするんだよ、親が。こういうのは子供に良くないとか」
大山「そんなこといちいち気にしなくてもいいだろう」
松岡「それがおおありなんだよ、結構その手の読者も数字にすれば
バカにならないんだよ」
大山「数字ばっかり気にしてたんじゃ漫画なんか描けないじゃないか」
松岡「じゃ、描かなくていいよ」
大山「何だと!」
松岡、ため息混じりに、
松岡「苦情が上に漏れないようにするのはもう疲れたよ」
にらみ合う大山と松岡。
松岡「いいか、週刊レッツは瀬戸際に立たされてるんだ、だから
今こそ読者の誰もが喜ぶ健全な漫画を、ってことで動いてるんだ」
大山「俺の漫画は健全じゃないのか」
松岡「ああ、そうだ」
大山「何だと!」
大山、松岡の胸倉をつかむ。
松岡「待て、最後まで話を聞け」
大山の手を払いのける松岡。
松岡「少なくとも今の大山吉典の漫画は健全じゃない、俺の個人的
意見だが、やっぱりあんた、かみさんのことが…」
大山「違う!俺は私生活を漫画には持ち込んだことはない!」
松岡「どうだか…いずれにせよあんたのように今までの
名声だけで書こうとするようなセンセイはもういらないんだよ」
大山「何だと!もう一回言ってみろ!」
松岡「ああ、何度でも言ってやるよ、あんたみたいな頭ガチガチの
センセイにはもう用はないよ」
大山「漫画家を馬鹿にするな!よし、取手先生に報告してやる、
あの先生が降りたら週刊レッツはおしまいだからな」
松岡「残念だったな、取手先生にはもう我々の主旨を理解して
設定を変更してもらったんだ」
大山「ビッグジャイアントか?」
松岡「そうだ、あのロボットはでかいから、敵がどうしても小さくなる。
だから今まで苦情が絶えなかったんだ」
大山「あんなベテランに苦情が来るのか?」
松岡「ああ、読者には新人だろうがベテランだろうが関係ない」
大山「どんな?苦情が」
松岡、ため息をつきながら、
松岡「敵が小兵だとビッグジャイアントが悪者に見えて教育上
良くないんだそうだ」
大山「そんな、ばかばかしい」
松岡「それでも人数が人数だから侮れなかったんだよ。だから
今週からビッグジャイアントのサイズが小さくなるはずだ」
大山「それじゃ、ビッグジャイアントじゃないだろう」
松岡「だが名前だけは取手先生がどうしても、とおっしゃるんで
そのままにしたんだ」
大山「もうメチャクチャだな」
松岡「なに言ってんだ、あんたのがメチャクチャだよ、何だよこれ」
原稿を大山に差し出す松岡。
松岡「これ、戦隊ものだ。それはまあいい。だけど何で五人のうちの
一人が人妻なんだ?」
大山「いいだろう、リアリティがあって」
松岡「目のつけどころがおかしいんだよ、最近のあんたは、どうせ
この人妻が後になって隊長と不倫でもするんだろ」
黙り込む大山。
松岡「勘弁してくれよ、レッツはあんたの実験室じゃないんだぞ。
どういう苦情が来るか、あんた自身も予想がつくだろ?それじゃ困る
んだよ、俺にも妻や子供もいるんだし。生活がかかってるんだよ!」
原稿を見つめる大山。
松岡「あんたとは長い付き合いだから言うんだけど、はっきり言って
昔のあんたの漫画の方が面白かったよ」
立ち上がる大山。
松岡「もうひと花咲かせて見ろよ、うちの仕事が切れたら、もうどこも
残ってないんだろ?」
その場から立ち去ろうとする大山。
松岡「あと少しだけ待ってやる、残された時間でやる気を見せてみろ」
無言のまま去る大山。
○同社・前
くしゃみをする大山。流れ出る鼻水等を拭き取ろうとポケットを
まさぐりハンカチを取り出すが、ガビガビ。
さらにポケットを探るとポケットティッシュを発見し粘液を拭き取る。
その後ティッシュの広告を見る「あなたの悩みを科学的に除去!
吉田精神解析研究所」とある。
○吉田精神解析研究所・全景
住宅街の一角、こじんまりとした平屋建て。手書きの看板がある。
○同・相談室・前
「相談室」というプレ−ト。
○同・中
二つ並んだ電話ボックスのようなカプ
セルに入る鈴木マツ(72)と
白衣を着た吉田和夫(35)。二人とも頭にコ−ド付きのヘルメットを
かぶり、目を閉じたまま動かない。
電子カレンダ−は十月十一日。
○マツの精神世界
辺りは暗い。
点在するように転がる鞠や雛人形、着物の端切れ。
その奥に幾つか並んでいる和箪笥の引き出しを開けて中を漁る
吉田とマツ。
吉田、古い写真を取り出す。
吉田「あったよおばあちゃん、これ、亡くなったおじいちゃんに間違い
ないね」
マツ「間違いない、間違いなくあの人じゃ」
吉田「じゃ、原因はこの写真だよ、こういうのはね」
吉田、ライタ−を取り出して写真を燃やす。
マツ、動揺して、
マツ「罰当たりな」
吉田「いいんだよ、こういう写真がここにあるってことは、
おばあちゃんはおじいちゃんを引き摺ってるってことなんだよ」
マツ「悪いことなのかい?」
吉田「悪いことじゃないけど、ほら、いい意味で吹っ切らないと、
おばあちゃん、部屋に閉じこもりっきりでしょ。それじゃだめ。
もっとこう趣味でも見つけてさ、人生楽しんだ方がいいよ」
マツ「そうかのう」
吉田「そうだよ」
吉田はマツの目を盗んで和箪笥の中を物色。
吉田「ちぇっ、ロクなもんねえな」
突然、美しい鐘の音とともにどこからか飛行機のタラップの
ようなものが伸びてくる。
吉田「あ、時間だ、戻らなきゃ」
マツ「行っちゃうのかい?」
淋しそうに手を伸ばすマツ。
吉田「大丈夫、自分の身体に戻るんだよ」
タラップを駆け上がり闇に消える吉田。
○地下鉄・中
空いている車内、吉田が封筒を抱きかかえてうつむいている。
○吉田精神解析研究所・相談室・中
カプセルを開けてマツが出てくるのをエスコ−トする吉田。
手前の椅子に向かい合わせに座る二人。
マツ「なんだか気分がいいのう」
吉田「本当?」
マツ「なんだか身体の奥から力が湧いてくるようじゃ」
吉田、笑みを浮かべ、
吉田「よかった」
マツ「あ、お金、お金」
バッグから札束と封筒を取り出し、
マツ「これが今日のお代、そしてこれが先生の結婚祝じゃ」
吉田、札束だけを受け取る。
吉田「いいよ、そんなの」
マツ「いいから受け取ってくれ、結婚したらこんな端金、すぐふっと
ぶんじゃから」
渋々封筒を受け取る吉田。
吉田「じゃ、もらっとくよ」
マツ「今日はこの辺じゃな」
立ち上がるマツ、ゆっくりと出ていく。
吉田「また何かあったらおいでよ」
マツ「そう何度も来れまいに」
マツ、独り言を言いながら消える。
吉田、マツが消えた後に封筒の中身を取り出す。三万円。
ため息をつく吉田、紙幣を財布に放り込み封筒を
グシャグシャにして捨てる。
○吉田精神解析研究所・前
封筒を抱きかかえた大山がいる。
物陰から現れる世捨人…ス−ツ姿に眼鏡をかけた中年。
世捨人「あなたには夢がありませんね?」
大山「何だ急に、失礼な」
世捨人「私には分かる」
大山「あんた誰だ?」
世捨人「私は世捨人、世俗を離れた人間です」
大山「世俗を離れたって、あんた」
大山、世捨人の服装を見る。
世捨人「服装は関係ありません、所詮身体は抜け殻です」
大山「坊主か?」
世捨人「いいえ、僧ではありません、私は世捨人。夢なんか、
夢まぼろし」
大山「これじゃ、きりがないな」
玄関に若い女性が現れ「相談中」のプレ−トをひっくり
返そうとする。
大山「あ、ちょっと」
大山、建物に慌てて駆け込む。
○同・待合室・中
大山以外誰もいない。受付の窓口には若い女性がいる。
女性「どちらのコ−スにいたしますか?」
大山「え?あ、あの−」
大山、汗を拭いながらキョロキョロとする。
女性は窓口上の料金表を指し示し、
女性「通常コ−スと特別コ−スがございますが」
料金表をみる大山、標準コ−ス二万円、
特別コ−ス百万円とある。
大山「ひゃ、百万円?」
女性「どちらになさいますか?」
大山「じゃ、じゃあ標準コ−ス」
女性「標準コ−スでいいんですね?」
大山「え、ええ」
女性「オプションはどうなさいますか?」
大山「オプション?い、いえ、別にいいです」
女性「かしこまりました」
女性、席を外す。暫くして相談室のドア越しに
吉田のけだるい声が聞こえる。
吉田「どうぞ」
○同・相談室・中
ドアが開き、大山が背中を丸めて入ってくる。
吉田、読んでいたモデルル−ムのパンフレットを閉じる。
吉田「お掛けください」
大山、椅子に腰掛ける。
吉田「どうなさいましたか?」
大山、首を傾げながら、
大山「さあ、それが私にも」
吉田「は?」
大山「周りの人間が私のことを変だって言うんです」
吉田、ため息まじりに、
吉田「具体的に言ってください」
大山「ですから、何が何だか」
吉田「心当たりがないと」
大山「そうですね」
吉田「へ−え」
吉田の反応に戸惑いを見せる大山。
吉田、パンフレットをパラパラとめくりながら、
吉田「趣味とかはないんですか?」
大山「特に。仕事かなあ」
吉田「ほう、仕事ね、あなたは典型的な日本人ですね」
大山「え、ええ、実は私、漫画家でして」
吉田「へ−え」
吉田の反応に不満そうな大山。
吉田「そんなこと、別にここで自慢することはないでしょう」
表情をこわばらせる大山。
大山「あんたけんか売ってんのか?俺は大山だぞ、知らないのか」
吉田「知ってますよ、でも、そんなこと別にいいじゃないですか。
じゃ、この辺で相談を終わります」
大山「待て、俺は何しに来たんだ?」
吉田「相談でしょ?これが標準コ−スです、オプションなしの」
大山「患者をバカにするな、あんた医者だろう」
吉田「ご冗談を、私は医者なんかじゃありませんよ」
大山「だってここ、クリニックだろ」
吉田「ここはただ悩み事を解決する場所です。クリニックっていう
言葉も悩み相談のテレビに使われるでしょ?あれと同じですよ」
大山「あんたサギ師だな」
吉田「ひどい言い種ですね、私はこれでもれっきとした科学者
ですよ」
大山「あんたのどこが科学者だ、いいか」
吉田、部屋の隅のカプセルを指差す。
大山「なんなんだ、ありゃ」
吉田「私の開発した精神注入装置です」
大山「おいおい、何だかぶっそうな名前だな。まさかあれを
使ってるんじゃないだろうな」
吉田「名前はともかく、あの機械で相談者の精神フィ−ルドに
侵入して悩みのもとを取り除くんです。物理的に指一本触れる
ことはないので医療行為にはあたりません。
ですから私はただの科学者なんですよ」
大山「要するにあんたの精神を俺に注入するのか」
吉田「まあ、そんなものです」
大山「そんなことが出来るのか?」
吉田「今や人類の技術は目を見張るものがありますからね、
大概のことは出来る。出来ないことと言えばは不老不死と
幽霊の袖を引っ張ることぐらいですかね、だったらこういう
機械があっても不思議はないでしょう」
大山「なるほどな、でもこの機械を使ったらあんたの頭が俺を
乗っ取ることになるだろう」
吉田「みんなそういう心配をなさいますが、ちょっとニュアンスが
違うんですよ、ま、やってみるのが一番早いんですけどね」
大山「じゃ、やってくれよ」
吉田「いいんですか?あれ、特別コ−スですよ」
大山「百万円か」
吉田「よくご存知ですね、やってみますか?」
考え込む大山。
吉田「どうしますか?」
考え込む大山。
吉田「やっぱりあなたは典型的な日本人ですね、物事を真剣に
考えすぎるきらいがある」
大山、尚も考えこむ。
○同・屋根
スズメがさえずる。
が、突然の轟音。煙突からも湯気が上がり逃げ惑うスズメ。
○同・相談室・中
カプセルに入っている大山と吉田。
耳をつんざく機械音。
○大山の精神世界
辺りは薄暗い。
果てしなく延びていくような悪路。
その手前に激しい電撃とともに現れる大山、意識がなく
その場にくにゃりと倒れるが、やがて目を覚まし、立ち上がる。
大山「ここはどこなんだ?」
そこへ美しい鐘の音とともに橋がのびてきて、クイズ番組
さながらに歩いてくる吉田。
吉田「目が覚めましたか?」
大山「ここは?」
吉田「あなたの精神世界です」
大山「精神世界?」
吉田「ええ、あなたのこれまでの経験や頭の中で考えてたことが
このフィ−ルドに集約されてるんです」
大山「こ、ここは俺の頭の中なのか?」
吉田「そうです、悩みのもともこのフィ−ルドの中に大概あります、
その原因をつみとるのが」
大山「特別コ−スってわけか」
吉田「はい」
大山、表情を引き締めて、
大山「よし、行こう」
走り出す大山、橋を渡ろうとする。
吉田「ちょっと待ってください」
大山「お?」
吉田「その橋の向こうは私の精神世界です、意味ないでしょう?
あなたのはこっちです」
大山「お、おお、悪い、悪い」
大山、戻ってくる。
橋はまた美しい鐘の音とともに消えていく。
大山「大丈夫なのか?戻れなくなったぞ」
吉田「時間が経てばまた現れます、余計な心配はしなくて結構です。
さあ、時間がないので行きましょう」
大山「そうだな、じゃ、行こう」
歩き出す大山、吉田はため息をついて歩き出す。
○同・路上
果てしなく続く道、先は暗くなっていて見えない。おまけに
足下はぬかるんでいる。 吉田と大山、歩いている。
吉田「そんなに急ぐ必要はありませんよ」
大山「時間がないんだろう?」
吉田「そりゃそうですが」
大山「じゃ、急ごう」
大山、駆け出す。その途端、落とし穴に落ちる。
大山「おわっ!」
吉田「大丈夫ですか」
這い上がってくる大山。
大山「なんだこりゃ?」
吉田「落とし穴です」
大山「落とし穴って、あの落とし穴か?」
吉田「ええ、運の悪い人のフィ−ルドには多いんです」
大山「何だ、俺はツイてないのか」
歩き出そうとする大山。
吉田「待って下さい、この先にもまだあるはずです、気をつけて!」
穴に落ちる大山。
大山「おわっ」
吉田「ほら、いわんこっちゃない」
大山「何だこの穴、落とし穴じゃないぞ」
吉田「えっ?」
大山「始めから開いてた、誰か先におちたのかなあ」
吉田「そんなことは・・・・・・大山さんは今までにこんな経験は
ありませんよね」
大山「精神注入か?もちろんあんたのが初めてだよ、
一体どういうことなんだ、説明してくれ」
吉田「このフィ−ルドに誰かがいるってことです」
大山「誰か?誰なんだ、そんなことがあるのか?」
吉田「なくはないですけど。大山さん、犬とか猫とかを飼った
ことはありますか?」
大山「あるよ」
吉田「じゃあそれですかね、ペットを寵愛した人はそのペットが
フィ−ルドにいることがあるんです」
大山「それですかねって、そのペットじゃなかったら何なんだ」
吉田「さあ」
吉田、首をひねる。
大山「おいおい、頼りないこと言うなよ」
大山、歩き出す。
吉田「ち、ちょっと待って下さいよ」
吉田、大山の後を追おうとして落とし穴に落ちる。
吉田「うあっ」
大山「おい、しっかりしてくれよ」
大山、吉田を穴から引っ張り出す。
大山は穴の縁に茶色い毛が付いているのに気づく。
毛を手に取る大山、結構剛毛だ。
吉田「大山さん、見てください、やっぱり獣だ」
大山「どういうことだ」
吉田「このフィ−ルドにいるのは少なくとも犬や猫じゃありません」
大山「ライオンとかトラとかか」
吉田「有り得ます」
大山「恐いこと言うなよ、第一そんなやつ飼ったこともないぞ」
吉田「何か特別な経験をしたことがありますか?ライオンやトラに
噛まれたとか」
大山「ないよ、よく真顔でそんなことが聞けるな」
吉田「だったら何か特別な思い入れがあるとか」
大山「トラに恋をしたとかか?そんなことがあるのか」
吉田「愛護団体の人のフィ−ルドには本当にライオンやトラが
いました」
大山「よく喰われたりしなかったな」
吉田「喰われましたけど、別に現実の世界じゃないんで
死んだりすることはありませんから」
大山「そんなこと言っても、やっぱり痛いだろう?」
吉田「ええ、まあ」
大山「見かけに寄らず結構あんたも苦労してるんだな」
さらに先に進む大山と吉田、道はさらにぬかるんでくる。
大山「おい、どんどんひどくなってくるぞ」
吉田「ここらで五年ぐらい前になりますかね」
大山「もしかして俺は時代をさかのぼっているのか」
吉田「そうです、この道を進んでいけばあなたの過去の様々な
経験が見えてくるはずです」
大山「じゃ、こんなに道が悪いのも何か理由があるんだな」
吉田「そうですね、今のところ四、五年前があなたのどん底です」
大山、思案して、
大山「結構当たってるかもしれないな」
道はさらにぬかるんで足を取られるようになる。
吉田「こんな状態でよくがんばりましたね」
大山「そうか?別に自覚はないんだが」
必死に進む大山と吉田。
突然後ろから何かが大山を突き飛ばす、振り返る大山、
そこには角の生えた黄金の馬がいる。
大山「馬?」
馬は激しく首を振っている。
吉田「馬、ではないようです」
大山「何だと!」
馬に歩み寄る大山。
吉田「よく見てください、馬には角がないはずですよ」
馬は以前として首を振り続けている。
大山「なんだこりゃ、鹿の角じゃないか、よく見れば身体も
きゃしゃだし、これは鹿じゃないのか」
吉田「鹿、でもないようです」
吉田、自分の首の後ろをさする。
大山「たてがみか、じゃ、馬か?」
吉田「馬でも鹿でもありません」
大山「じゃ何だ、ウマシカ、シカウマ…メリキッパス、違うな」
吉田「馬鹿です」
大山「何だと!」
吉田「馬鹿です、馬のような鹿。これはあくまでも私の仮説
ですが」
大山、吉田の襟をつかみ、
大山「適当なこと言うな、馬鹿なんて動物が現実にいるわけ
ないだろ!」
吉田「で、ですからここは現実の世界じゃなくてあなたの
精神世界ですから」
大山「俺の頭の中には馬鹿がいてもいいのか」
吉田「そういうつもりじゃ」
大山「そういう言い種じゃないか」
吉田「私はあくまで仮説を述べたまでです、もしかしたら別の
動物かもしれませんし」
大山、吉田を開放する。
大山「何が仮説だ、こんな時だけ科学者面しやがって」
突然、馬鹿が大きく嘶いて道の奥に向かって駆け出す。
大山「おい!」
大山、馬鹿の尻尾をつかむがそのまま引き摺られて
行ってしまう。
吉田「大山さん!」
吉田も必死に後を追う。
大山は馬鹿に引き摺られるが、やがてぬかるんだ道が
途絶え、沼の中に引きこまれる。
大山「待て、この野郎、俺はこの世界の主人だぞ、勝手な
真似は許さん」
吉田も沼にはまる。
吉田「大山さん!」
吉田、必死にもがきながら大山の腕をつかむ。
吉田「大山さん、あんまり無茶しないでくだ さいよ」
大山「馬鹿野郎!こんな動物が俺の頭の中の奥深くに
入ったら、大変なことになるだろ」
大山、必死に馬鹿にしがみついて、
大山「馬鹿だぞ、馬鹿が俺の頭の中を走り回ってるんだぞ。
おまけに黄金の馬鹿だ、恥ずかしいったらありゃしない、
俺はあの大山だぞ」
大山の独り言は続く。
吉田は呼吸をするのが精一杯。
馬鹿は沼の反対側の岸まで大山と吉田を引き摺った後、
どこかへ駆けていってしまう。
横たわる大山と吉田。
吉田「…いいんですか?行っちゃいましたよ」
大山「…あ、ああ」
吉田「私、もう疲れちゃいました」
大山「なあ、一つ聞いていいか?」
吉田「何ですか?」
大山「さっき、沼があったな、道がぶっつりと切れて。
ありゃ、どういうことだ」
吉田「泥沼でしょう、私の仮説ですが」
大山「やっぱりな、その考え、俺も同感だ」
吉田「心当たりがありますか?」
大山「まあな」
吉田「じゃあ間違いなくあの頃がどん底でしょう、あの沼に
橋を架ければ全て解決されるはずです」
大山「それだけじゃ済まんだろう」
吉田「え?」
大山「あの動物を捕まえないと」
立ち上がる大山、ふらふらと歩きだす。
吉田「大山さん、待ってください、無駄ですよ、フィ−ルドの
中は広すぎます」
大山「あんたはいいだろうけど、俺は困る。プライドが許さん」
吉田は大山を追いかけようとするが、美しい鐘の音とともに
飛行機のタラップのようなものが現れる。
吉田「大山さ−ん!」
大山の姿は見えない。
吉田「時間ですよ!」
フィ−ルドに吉田の声が響く。
吉田「仕方ないなあ」
吉田、後ろ髪を引かれるようにタラップを駆け上がる。
道のぬかるみはやや軽くなっているが、よく見ると
点々と大きな動物の足跡。
○吉田精神解析研究所・前(夜)
「本日の相談は終了しました」の看板。
○同・相談室・中(夜)
薄暗い室内。カプセルの中から煙とともに出てくる吉田。
肩で息をしている。
吉田、反対側のカプセルを開け、大山を引っ張りだそうとする。
吉田「大山さん!」
吉田の頭のヘルメットが取れない。
ひとしきり努力してあきらめる吉田。
吉田「大山さん!」
携帯電話の呼出音が鳴る。吉田、キョロキョロとしているが、
大山の懐から電話を取り出す。
吉田「大山さん、大山さん、電話、電話」
吉田、大山をゆするが反応がない。
迷った挙げ句電話に出る吉田。
吉田「もしも・・・・・・」
松岡(声)「馬鹿野郎!何やってんだ!」
吉田、肩をすくめる。
○ヤング出版・全景(夜)
○同・週刊レッツ編集部・中(夜)
人影は殆どない。
松岡が机の上に足をおいて受話器を持っている。
松岡「家にもいないで、どこほっつき歩いてるんだ。外、プラプラして
ちゃ何も描けないだろう。いいか?あんたの代わりが見つかったよ、
悪いがな、もうあの作品はいらないよ」
○吉田精神解析研究所・相談室・中(夜)
携帯電話を持つ吉田、大山の抱えている封筒の中身を見る。
松岡(声)「もう暫くはあんたに頼むことはないだろうな」
吉田「ちょ、ちょっと待ってください」
松岡(声)「お?あんた誰だ?」
吉田「ちょ、ちょっとした友人です」
松岡(声)「大山くんはどうした」
吉田、ぐったりとした大山を見る。
吉田「今、手が離せないんです」
松岡(声)「どうせ飲みすぎて起き上がれないんだろう、いいよ、
いいよ、そのままで」
吉田「待って下さい、その話、ちょっと待ってもらえませんか」
松岡(声)「無理だよ、あいつにはもう頼まない、自分の名前で
あぐらを書いてる奴なんかもう、うちじゃ必要ないよ。
そう伝えといてくれ」
吉田「ですから、今は手を離せないんです」
松岡(声)「どういうことなんだ?」
吉田「今、ここにはいないんです。あ、身体は確かにここに
ありますが、意識が」
○ヤング出版・週刊レッツ編集部・中(夜)
松岡が受話器を持っている。
松岡、大きくため息をついて、
松岡「何だか訳が分からんが、あんたも相当 酔ってるな、
分かったよ、三日待ってやる。十四日必着だ奴に伝えといてくれ、
これが最後のチャンスだとな」
カレンダ−、十四日は金曜日。
○吉田精神解析研究所・相談室・中(夜)
吉田が携帯電話を持っている。カプセルの中にはぐったりと
した大山。
吉田「ちょっと…」
通話を切る吉田。
電話を大山の上着のポケットに入れる。原稿を取り出して
読み始める吉田、タイトルは「ファイブファイタ−ズ」
仮面を
かぶった五人のファイタ−。
その下には素顔のファイタ−、男4人に女一人。
吉田、数ペ−ジ読んだ後、ため息をついて戻す。
頭を掻く吉田。
大山は相変わらずぐったりとしている。
○大山の精神世界
沼の岸辺、そこから悪路が伸びる。
美しい鐘の音とともにタラップが現れ、吉田が静かに降り立つ。
苦悩の表情の吉田。
吉田「大山さ−ん」
大山の返事はない。
吉田「大山さ−ん」
ゆっくりと歩き始める吉田、すると突然背後から黄色と黒の
ストライプのシマウマが吉田を突き飛ばす。
吉田「おわっ!」
シマウマは吉田の襟をくわえたまま走りだす。
身体のあちこちをぶつけながら引き摺られていく吉田、
頭を撃って気を失う。
○大山の精神世界・浜辺
砂浜、波打ち際に横たわる吉田。
その側に座る大山。
吉田、目を覚ます。
大山「気がついたか」
吉田「ここは…ビ−チ?大山さん、こういうとこに…」
大山「来たことあるよ、多分サイパンのビ−チだ」
吉田「サイパン?」
大山「新婚旅行でな、懐かしいよ。でもかみさんとは別れた、
五年前に」
吉田「じゃあ、あのぬかるみは」
大山「そうだろうな、自分じゃ実感してなかったんだけど、
やっぱり心はダメ−ジを受けてたみたいだよ」
ため息をつく大山。
大山「困ったもんだ、向こうの不倫が原因で別れたのに、
今でも生活費を支払わされているんだ」
吉田「お子さんは?」
大山「…いないよ」
立ち上がる大山。
大山「さあ、行くか」
吉田「大山さん」
大山「あんたはここにいなよ、俺は馬鹿を捕まえてくる」
大山、物陰から黒と黄色のストライプのシマウマを
連れてくる。
吉田「それは?」
大山「あんたを連れてきた馬だ、トラ模様の馬、トラウマだ」
吉田「ちょっと待ってください、トラウマはトラでもウマでも
ありませんよ」
大山「いいんだよ、名前なんか」
大山、トラウマに乗っていく。
吉田「ちょっと、大山さん」
ため息をついて横になる吉田。
さざ波の音で吉田、再び眠りにつく。


○吉田精神解析研究所・前(夜)
深夜、人通りは殆どなくなっている。
犬の遠吠え。
○大山の精神世界・浜辺
波打ち際で横たわる吉田。打ち寄せた波をかぶって
目を覚ます。
頭を振る吉田、遠くから笑い声が聞こえる。
笑い声の方を見る吉田、そこには少年と一緒にトラウマに
乗る大山、堂々とした乗馬スタイルはまるで将軍のようだ。
吉田「大山さん!!」
大山、近づいてきてトラウマから降りる。
大山「あはははは、また寝ていたようだな、紹介しよう、息子だ」
トラウマの上には少年、顔色が非常に悪い。
吉田「息子?」
大山「ああ、そうだ。八年前になくした息子だ」
吉田「亡くなった?それなのにどうして?」
大山「俺が知るわけないだろう、でもいいんだ、ここでこいつと
再会出来て、あんたには感謝しているよ、な」
大山、少年に同意を求めるが、少年は無表情。
大山「子はかすがいとはよく言ったものだ、この子がいれば、
あいつとも・・・・・・まあ、そんなこと言っても仕方がない、
じゃ、行くから」
吉田「行くからって、どこに行くんですか?」
大山「さあな」
吉田「さあなって、そろそろ戻らないと身体に負担がかかりますよ」
大山「いやだね、俺はこのままここにいるよ」
吉田「漫画の〆切もあるんですよ」
大山、暫く沈黙して、
大山「もういいよ、そんなこと、気になるんだったらあんたが適当に
手直して出せばいい。道具はカバンの中だ」
吉田「そんな、無茶苦茶な」
大山「上手くいけば原稿料はあんたのものだ、そうでなければ
あんたに払う金はない」
吉田、呆気にとられる。
吉田「だましたんですね」
大山「そういうつもりはなかったさ、俺のスランプの原因を突き
止めれば何とかなるって思ったからな、でも、どうでもよくなった」
吉田「そ、そんな」
大山「あんたにも夢ってものがあるだろう?」
吉田「ええ、まあ」
大山「じゃあ、いいじゃないか、俺もこれが夢だ」
トラウマに乗り走っていく大山。
吉田「大山さん!」
突然、タラップが現れるが随所が傷んでいて鐘の音もくぐ
もっている。
タラップを駆け上がる吉田。砂浜を駆けていく巨大な獣を
発見する。
吉田「!」
驚くが、暫くして鼻を鳴らして去っていく吉田。
* * *
トラウマに乗って砂浜を駆ける大山と少年。
大山「な、楽しいだろ、お父さんと一緒だと」
反応のない少年。
大山の笑顔が次第に凍っていく。
少年の肉体が朽ち果てて、ボロボロと落ちていく・・・・・・
○吉田精神解析研究所・相談室・中(夜)
机に向かう吉田、原稿用紙に絵を書くが決して漫画には
見えない。
かばんからスクリ−ント−ンを出す吉田、数枚を物色する。
電子カレンダ−は日付が変わって十月十二日。
○路上(夜)
人通りは全くない、ポストに封筒を押し込む吉田、表情は疲れ
果てている。
○吉田精神解析研究所・前
「本日の相談は終了しました」のプレ−ト。
○同・相談室・中
机にうつ伏せになっている吉田、目を覚ます、不精ヒゲ。
机の上には「退職願」が置かれている。
吉田「お−い!」
何の返事もない。
電子カレンダ−は十月十四日。
吉田「しまった!!」
カプセルの中の吉田をゆする大山。
吉田「大山さん」
大山の顔は青ざめている。
吉田、反対側のカプセルに駆け込む。
○大山の精神世界・竹林
荒れた竹林、葉が食い荒らされている。
くぐもった鐘の音とともに現れる吉田、タラップが
半分崩れて地面に叩き付けられる。
トラウマが歩み寄り吉田の顔をなめる。
吉田「ひいっ」
大山が馬鹿を抱きかかえたまま地面にうつ伏せに
倒れている。馬鹿はぐったりとしている。
吉田「大山さん!」
大山を抱き起こす吉田、大山の目尻には涙のあと。
大山「あんたか」
吉田「大丈夫ですか?」
大山「ああ、でも息子は消えたよ」
吉田「消えた?」
大山「ああ、やっぱり戻れってことなのかな、ヤケを起こしそうだよ」
大山、苦笑い。
吉田、食い荒らされた竹を見て、
大山「俺じゃねえぜ、パンダじゃあるまいし、それに馬鹿や
トラウマの仕業でもない」
吉田「パンダ?」
吉田、何かを思いつく。
吉田「パンダだ!大山さん、パンダを飼ったことはありますか?」
大山「あんた大丈夫か?」
吉田「そうか、じゃ、パンダ、好きですか?」
大山「嫌いじゃねえけど・・・・・・何だ?」
吉田「あなたの世界にはパンダがいるんです、少なくともそれが
原因と考えられます」
大山「何故だ?」
吉田「見て下さい、この竹、実は」
吉田、落ちている色紙を拾う、そこに は汚い字で
「お金持ちになれますように」と書かれてある。
吉田「これは短冊です、七夕の」
大山「するとこの林全体が七夕飾りだってわけか」
吉田「ここだけでなく、これまでのフィ−ルドにも七夕飾りは
ありますよ」
林の奥で物音がする。
大山「なかったよ」
吉田「あった、といったほうが正解かもしれません、どれも
食い荒らされてますから」
大山「そのことと俺は何の関係があるんだ?」
吉田「いいですか、言うまでもなくこれはあなたの書いた短冊です、
つまりあなたの夢です」
大山「ほう」
林の奥で物音。
吉田「ところがパンダが竹を食べるついでにその短冊を食べて
しまった、つまりパンダが夢も一緒に食べてしまった。解決法として
は短冊を新たに書いて竹じゃない木に飾ればいいことになります」
物音が次第に大きくなる。
吉田「さすがは科学者だな」
大山「でしょう」
吉田「でも、パンダが食うのは笹だぜ、こんなでかい竹は食わねえよ」
大山「あっ!」
竹林から茶色い獣が現れる。 バク。
大山「バクだ!」
吉田「バク?」
大山「夢を食べるあのバクです・・・そうか、バクだったのか」
吉田「感心してる場合じゃないだろ、どうして俺の頭の中にバクが
いるんだ」
大山「知りませんよ」
バク、よだれをだらだら垂らしている。大山、バクに馬鹿を
差し出す。
大山「これを食え」
バクは馬鹿には見向きもしない。
大山「おい、どうすればいいんだ!あんた科学者だろ」
吉田「こういうときは、う−ん」
思案する吉田。
突然、途切れ途切れの鐘の音とともに朽ちかけたタラップが
出現する。
吉田「あ、いかん!」
バクがタラップに走っていく。
バクを制止する吉田だがバクに食べられてしまう。
バクバクバクバク!
大山「大丈夫か!死ぬな!あ、ここで死んでも本当に死ぬわけ
じゃないのか」
結構ホッとする大山。
バクは吉田を半分呑み込んだままタラップを渡っていく。
大山「おい!そっちは違うぞ!」
○吉田精神解析研究所・相談室・中
大山、カプセルの中の吉田をゆする。
大山「おい、大丈夫か、大丈夫か?」
吉田「う、うう−ん」
大山の携帯電話が鳴る。相手は松岡。
大山「はい…」
松岡(声)「大山くんか、これ、結構いけるぞ!」
大山「え?」
○ヤング出版・全景
○同・週刊レッツ編集部・中
社員が忙しく動き回る。
松岡、漫画原稿を手にして、
松岡「いけるよこの「ファイブファイターズ」あんたこの中の一人を
外人にしただろう?いいってよ国際的だって上でも評判だ、
できればあと一人ぐらい外人を入れたら最高だけどな」
「ファイブスタ−ズ」の表紙、素顔の五人のうちの一人の顔に
スクリ−ント−ンがかけられていて、何だか南方系の人に見える。
松岡「まあ、いいよ、連載で話を進めて行こう」
○吉田精神解析所・前
看板も朽ち果てている。
地図を見ながら歩いてくる大山。
後ろから黒塗りのハイヤ−がやってきて運転手が顔を出す。
運転手「先生、駄目ですよ、黙ってでかけちゃ」
大山「悪い悪い、この辺に知り合いがいてな」
運転手、小指を立てる。
大山「ちがうよ、戦友だ」
運転手「戦友?」
大山「恩人と言ってもいいか、ところが突然いなくなってな」
大山、懐の札束を確認する。
大山「借りも相当あるし」
運転手「さっき変な人がいましたよ、世捨人とか言って」
大山「ああ、その男か。俺も一回あったことがあるよ、夢がないとか言ってな」
運転手「そうそう、その人です」
大山「まあな。世の中色々あるからな」
大山、車に乗る、走り出す車。
物陰から白衣を着た吉田が現れる。
吉田「私は世捨人・・・・・・夢なんて、夢なんて・・・・・・」
ブツブツ言いながら歩いていく吉田。
−完−
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