乳がんについて




胸のしこりに気づいたら、あなたはきっと「がんかもしれない」と思うでしょう。
ところが、しこりの8割以上は、良性と言われています。
慌てることはありません。まずは気を落ち着かせて。
そして万が一のために、近くの乳腺外科で見てもらいましょう。


■乳がん以外の良性の病気
乳腺症
(にゅうせんしょう)
しこりは平べったく、表面がなめらかだったり、ゴリゴリしていることもあります。生理の前になると大きくなったり痛くなったりします。生理が終わると症状が軽減します。25歳から45歳までの人によく起こる生理的な変化です。
乳腺炎
(にゅうせんえん)
乳房が赤く腫れて強い痛みがあり、発熱を伴うことが多い病気です。授乳期に母乳が乳腺にたまったままになって起こる場合をうっ滞性乳腺炎と、乳頭から細菌が入り込み炎症を起こす細菌性乳腺炎があります。治療法としては、前者はマッサージや搾乳器を使い、後者は抗生物質や消炎剤を投与します。場合によっては切開することもあります。皮膚に発赤を伴う炎症性乳がんもあるので注意が必要です。
嚢胞
(のうほう)

乳管が閉塞し、液体が袋状に貯まった状態のことをいいます。ある日突然しこりとして発見されます。嚢胞の存在自体にはさほど病的意味はありませんが、のう胞の中にがんが隠れている場合もあり、針で吸引した液体を細胞診することもあります。

乳頭腫
(にゅうとうしゅ)
乳房の中心部に近いところに、境界のはっきりしたやや硬いしこりができます。乳頭から血液の混じった分泌液が出ることがあります。
葉状腫瘍
(ようじょうしゅよう)

良性ですが、突然しこりが巨大化しますので安心はできません。放置していると乳房全体がしこりとなり、乳房を全部切り取る必要もあります。針生検で葉状腫瘍と診断されれば手術で切除することになります。葉状腫瘍は切除しても再発する事があり、悪性化することもあります。

繊維線種
(せんいせんしゅ)
しこりは丸く柔らかで、指で押すと動きます。こぶしくらいの大きさになることもありますが、痛みはありません。繊維腺種はマンモグラフィーではわかりづらく、超音波検査(エコー)で診断されますが、がんや葉状腫瘍との識別診断が必要となります。針生検で診断することになります。針生検で繊維腺種と診断されたら年齢と共に小さくなることもありますので様子を見て定期的に診察するか、不安な時はしこりだけを切除する事も選べます。局所麻酔で行われ、30〜60分程度の手術です。




専門医は、視診、触診に合わせて、次のような診察をし、乳腺などの状態を総合的に判断し、最終的に悪性か良性かの判断をします。


■乳がんの診断で行われる検査
マンモグラフィー
(乳房X線撮影)
乳房をそれぞれ左右、上下方向からX線で撮影します。より的確に診断するため、2枚の板で乳房をはさんで平べったくしてから撮影します。マンモグラフィーはしこりのほかに、乳がんの場合によく認められる石灰化の抽出にすぐれており、触診ではわからないような早期の乳がんを発見できることがあります。
*石灰化とは、がんなどの部位にカルシウムなどが沈着した状態のこと。
超音波(エコー) 仰向けに寝て、乳房上に薄くゼリーを塗り、センサー(プロープ)を移動させながら、モニターテレビに映る映像を観察します。しこりの状態を観察するのにすぐれ、がんなのか、あるいは繊維線種、のう腫なのか見分けるのに役立ちます。
MR I うつぶせの状態で撮影します。カドミニウムという磁性体を注射した後に撮影すると、がんがあればはっきりと映しだされます。X線検査と違って被爆の心配はありませんし、がんの広がりを立体的に把握することができますから、手術の際には切除範囲を適正に決めることができます。
PET

がん細胞が正常細胞に比べて3〜8倍のブドウ糖を取り込む、という性質を利用した検査です。ブドウ糖に似た物質に目印をつけて(FDG)体内に注射し、しばらくしてから全身をPETで撮影します。するとFDGが多く集まるところがわかり、がんを発見する手がかりとなります。従来のレントゲン(X線)やCT、MRIなどの検査は形からがんを見つけますが、PETはこのように細胞の性質を調べてがんを探しだします。

乳管造影 乳首から血液の混ざった分泌液が出るような場合、そこに細いカテーテルを挿入して少量の造影剤を注入し、マンモグラフィーを撮影します。触診ではわからないような早期の乳がんを発見するのに有効です。
乳管内視鏡 乳管造影と同じように乳頭の分泌口から、細いファイバースコープを挿入し、乳管内の様子をモニターテレビに映し出して観察します。併せて組織採取を行う場合があります。
穿刺吸引細胞診 しこりに細い注射針を刺し、中の細胞を吸い取って顕微鏡で検査し、その悪性度を調べます。より太い針で組織を取る「太針生検」もあります。
摘出(外科的)生検 皮膚を切開して、しこりを取り顕微鏡で組織を調べます。摘出生検のメリットは、確実に良性か悪性かの診断がつくことです。切開による傷跡がデメリットでしたが、最近では「マンモトーム生検」という方法が取られるようになってきました。これは、マンモトームという器械を使って針生検で、超音波やマンモグラフィーの画像を見ながら直径3mmほどの針を乳房に刺し、周りの組織を吸い取ります。局所麻酔をするので痛みはありません。
その他の検査 乳がんと診断された場合、ほかの臓器への転移があるかどうかを診断するために、胸や骨などのレントゲン撮影、CT、超音波などの検査が行われます。



細胞診により、ある程度の確定診断がつきます。

■細胞診による判定分類(クラス)
クラスT 異型細胞のないもの
クラスU 異型細胞は存在するが、悪性でないもの
クラスV 悪性と疑わしい細胞が存在するが、悪性と断定できないもの
クラスW 悪性細胞の可能性が高いもの
クラスX 確実に悪性であるもの



乳がんは、がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている「非浸潤がん」、乳管や小葉を包む基底膜を破って外に出ている「浸潤がん」の2つに大別されます。
一般的に、T期(ステージ1)までの段階で発見できれば「早期乳がん」とされ、適切な処置さえ行えば、完治率も高いとされています。

■がんの進行度(臨床病期分類)
非浸潤がん 非浸潤性乳管がん
(DCIS)
がんが、まだ乳管内にとどまっているもの。しこりを認めないパジェット病も含む。
非浸潤性小葉がん
(LCIS)
乳房小葉に異常細胞が見受けられる状態。めったに浸潤性のがんになることはありませんが、一方の乳房で小葉がん腫があると、いずれかの乳房で乳がんになるリスクが高くなります。
浸潤がん T期(ステージ1) しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節への転移がないもの。
U期(ステージ2) a がんは乳房では発見されないが、腋窩リンパ節(腋下のリンパ節)で発見されたもの、あるいはがんの大きさは2cm以下で、腋窩リンパ節(腕の下のリンパ節)まで拡がっているもの。あるいはがんの大きさが2〜5cmの間で、腋窩リンパ節に拡がっていないもの。
b がんの大きさが2〜5cmの間で、腋窩リンパ節(腕の下のリンパ節)に拡がっているもの、あるいはがんの大きさは5cmより大きく、腋窩リンパ節に拡がっていないもの。
V期(ステージ3) a しこりの大きさが5cm以下で、リンパ節に転移があり、リンパ節が癒着。またはリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりの大きさが5cm以上である。
b しこりの大きさにかかわらず、がんが鎖骨上リンパ節や乳房の周囲に広がっているもの、皮膚や胸壁に浸潤のあるもの。 進行がん
W期(ステージ4) しこりの大きさにかかわらず、遠隔転移(骨、肺、肝臓、脳などの臓器に転移)しているもの。



乳がんには、現在4種類の治療法と補助療法があり、これらを組み合わせて治療が行われます。

■治療
外科療法(手術) 乳がんはほとんどの場合、乳房にできたがんを切除する手術が行われます。これまでは、手術する乳房側の脇の下リンパ節の切除も同時に行われるのが一般的でしたが、手術後腕が腫れる(リンパ浮腫)などの症状が出ることがあるため、最近では「センチネルリンパ節生検」を行うことによって、転移がなければそれ以上のリンパ節郭清は行わない病院も増えてきています。
放射線療法 温存手術を受けた場合、切除しなかった部分に残っているかもしれないがん細胞を根絶させるために行われます。乳房切除された方でも、リンパ節への転移が多く発見された場合に対象になります。通常、手術後2〜3週間後に開始され、通院で週5日間のペースで5〜6週間続けられます。特に乳がんは放射線の感受性が高く、効果的といわれています。
内分泌(ホルモン)療法 一部の乳がんはエストロゲン(女性ホルモン)によって、発育・増殖を引き起こされるといわれています。切除した細胞を調べて、エストロゲン受容体があるか検査をし、陽性だった場合、内分泌療法の効果が高いとされています。内分泌療法の薬は、患者が閉経前か、閉経後かによって種類が異なります。
化学療法(抗がん剤) 抗がん剤を投与して、がんを死滅させる療法です。内服薬と静脈注射の2種類があります。主としてリンパ節に転移がある場合や、内分泌療法に効果が認められない場合、再発する可能性が高い場合に行われます。一般的に、閉経前の方が閉経後より効果があります。抗がん剤の種類は多数あり、内服薬を長期にわたり服用する方法や、内服薬と数種類の注射剤を投与する方法が多く採られています。




手術の方式は、大きく分けて、乳房切除術と乳房温存手術の2種類があります。乳房温存は、すべての乳がんに適応されるわけではありません。乳がんの状態によって不可能な場合があります。しかしどの術式で手術するかは、最終的に患者さんの同意によって行われます。


■手術の種類(術式)
(1)乳房切除術
胸筋温存乳房切除術
現在、わが国における乳がん手術の最も標準的な方法のひとつ。乳房と、いくつかの脇の下のリンパ節、胸筋の上の筋膜を切除します。場合によっては、胸筋の一部を切除することもあります。胸筋が残るので、術後に脇の下が陥没したり、肋骨が浮き出ることもありません。筋力の低下や、運動機能の低下も比較的少なくて済みます。腕のむくみやしびれを生じることがあります。
皮下乳腺全摘出手術 乳輪・乳頭を含む皮膚を残し、その下の乳腺を全部摘出する手術です。主に術後、乳房再建を望む患者さん向けです。再建をしたときにより本物の乳房に近い状態に仕上げることができます。(乳頭に近いところにがんがある場合は適応されない場合があります)。皮膚や乳頭に乳腺がわずかに残るという難点があります。
胸筋合併乳房切除術
(ハルステッド法)
乳房、胸筋、脇の下のリンパ節を切除します。以前はこの手術法が標準的手術法でしたが、現在はほとんど行われず、がんが広範に胸筋に達しているときだけ行われます。術後、肩や腕の運動障害が出ることがあるので、入念なリハビリが必要になります。リンパ節をすべて切除するため、腕のむくみやしびれなどが起こることがあります。
(2)乳房温存手術
腫溜摘出術 乳房のしこりだけをくりぬいて切除する手術です。乳房の変型が最小限で済むかわりに、がん細胞を取り残す可能性も大きいので、手術後必ず放射線照射を併用します。
乳房円状部分切除術 がんを含めた周辺の乳腺組織を部分的に切除し、同時に脇の下のリンパ節も切除します。切除範囲が比較的狭く、扇状切除に比べ乳房にがん細胞が残されている可能性がやや高くなります。この場合も、手術後に放射線治療を行います。
乳房扇状部分切除術 温存手術の中では、切除する範囲が最も広い手術です。多くの場合、しこりを含めた乳房の4分の1を、乳頭を中心にして扇型に切除。同時に、必要に応じてわきの下のリン節を切除します。原則として手術後、残っている乳房に放射線照射を行います。乳房温存術の中では一番広範囲に切除するので、がんを残す可能性は低くなります。しかし、乳房がやや変形することもあります。




万が一、乳房を切除しなければならなくなっても、乳房再建という方法があるので、絶望的にならないでください。失った乳房を再建する技術は、現在飛躍的に向上しています。乳房再建には主に以下の3つの方法があります。すべてが適応できるわけではなく、乳がんの手術法や残された組織量、元の乳房の形などによって方法が異なります。医師とよく相談して、最適の方法で行ってください。


■乳房再建
(1)人工乳房を使用する方法
鎖骨の下部や、脇の下に陥没がなく皮下脂肪が十分に残っている場合に適用されます。乳がん手術の傷跡を利用するので、新たな傷ができることはありません。
生理食塩水バッグ 万が一、漏れて体内に吸収されても害がなく安全です。感触がやや硬く、しわがよってしまうなどの欠点があります。
ハイドロジェルバッグ 生理食塩水バッグより感触はやわらかく自然です。しかし、漏れると腎機能に影響を及ぼす恐れがあります。
シリコンバッグ 一番乳房の感触に近い感じです。一時期、発がん性などが疑われ製造が中止されましたが、その後の調査では関連は認められず、再び用いられるようになりました。最近では破れても漏れて広がらないタイプが主流となっています。
大胸筋は残っているが、人工乳房を覆うのに十分な皮膚が残っていない場合、ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)を使って、少しずつ残った組織を伸ばしていき、人工乳房を作る方法もあります。
(2)自分の組織を使う方法
乳がんの手術で、脇の下や鎖骨下部にくぼみができたり、くぼみがなくても大胸筋と広い範囲の皮膚が切除された場合は、人口乳房の使用が難しくなります。
広背筋皮弁法 背中にある広くて平らな筋肉を乳房部分に移植します。再建された乳房は、柔らかく自然な感じになります。欠点は、背中に傷跡が残ることです。
腹直筋皮弁法 腹部の垂直な筋肉を乳房部分に移植します。この手術で、乳房の傷にくわえて下腹部にも傷跡を残すのが欠点です。出来上がった乳房は柔らかく、年と共に変化し、自然です。
(3)乳頭・乳輪の再建
乳房の輪郭が再建されて数ヶ月間を過ぎてから、乳頭・乳輪の再建を行います。乳頭・乳輪の再建にはさまざまな方法があります。最も一般的な方法は、反対側の乳頭・乳輪を半分移植する方法です。ただし、この方法は今後出産や授乳の予定のある方には適しません。そのような方には刺青で乳輪を形成します。乳頭は色のついた組織を用いる方法などがあります。