越後一の宮のある弥彦山はもっとも県民に親しまれている名山である。ロ−プウェイ−ができ、弥彦山スカイラインができてからは、多くの観光客が街のスタイルで訪れるようになった。山頂付近には、各テレビ局のアンテナが林立していて、山頂のイメ−ジをいちじるしくそこねている。苦労して登り着いた山頂付近に、舗装道路が走っていて、都会なみの喧噪さを体験すれば、登山としての満足感が薄らぐのもやむをえないだろう。こんなわけで、以前は、弥彦山よりも角田山の方に人気があった。
しかし、弥彦山は、角田山や国上山よりもはるかに標高が高く、本来はスケールの大きい山である。最近では、角田山の混雑を避けて、この山に来るハイカーの数が増加している。
弥彦山と多宝山には、公認コースとして、表側(内陸側)に3本、裏側(日本海側)に2本の登山道がある。登山の対象としてもっとも魅力があるのは、田ノ浦温泉から登る旧間瀬銅山道であろう。沢沿いに進むコースは、常に、終点の展望タワーを見上げながら自分の獲得した高度を確認できるという特徴がある。
最近になって、沢の右手の尾根に登山道(通称崖松コース)があることを知った。終点はスカイライン野積側の大きな屈曲点であり、下から見上げると、大きなコブになって見える。このコースの特徴は、前半は昔の里人が通った歩きやすい道、後半はハイカーによって踏まれた急な登山道である。勿論、公認のコースではないので、標識等はまったくなく、それだけに手垢のついていない新鮮さある。
4月29日、田ノ浦の通称「崖松コース」から、弥彦山に登ることにした。
田ノ浦温泉の海浜大駐車場に車を止め、山に向かって林道に入る。左にホテル、右にNTTドコモのアンテナタワーのあるところで、林道を離れ、右に曲がると、すぐ木橋がある。橋の下では、沢が狭いゴルジュ状になっていて、覗き込むだけの価値がある。橋を渡ると、道は左右に分かれるが、左の道が正規の山道である。昔から、里人によって、使われてきたこの道は、常に、一定の斜度で登っていて、非常に歩きやすい。
途中、約20分で、小さな泉があり、きれいな水がしみ出ていた。どこの峠道でも、必ず行きかう人のために、水場が用意されていた。昔の人もここで喉をうるおしたにちがいない。赤いひたたれをつけた石の地蔵が静かに泉を見守っていた。周辺は、花の終わったカタクリの葉が多かった。
この先に、雑木林に囲まれた静かな広場があって、この時期、ニリンソウの大群落があった。このコースの第一の見所である。
山道はいくらか傾斜をまして、小さな尾根に出る。尾根上には、道しるべのため、首の取れた石の地蔵が置いてあった。尾根に沿って、道は左右に分かれるが、山に向かう左(東)の道に入る。ほとんど平らな道が尾根の左を巻きながら続いて、やがて峠に出る。ここまで、約1時間。そのまま、直進すれば、野積に下りることになる。
左手(東)の急な尾根に踏み跡があり、ここから本格的な登山が始まった。踏み跡はもうしっかりとした登山道になっていて、狭いけれども、紛らわしいところはなかった。
急な尾根につけられた道を約10分登ると、赤松林となり、林床は、ユキワリソウのすばらしい群生地になっていた。ここのユキワリソウは、色変わりが多くて、見応えがあった。ここがこのコース第2の見所である。
やがて、樹木の丈も低くなって、小さな岩稜が現れた。登山道は、その左を巻いているが、展望も開けるので、岩稜上に上がってみるとよいだろう。
この先、木の枝につかまりながら、急な尾根を登りきると、411mのピークに着く。道はここで大きく左(東)に曲がって、スカイライン道路を直接目指すようになる。頭上には、終点の大きな「コブ」が見える。一旦下がって、しばらくは、なだらかな尾根歩きとなる。植生も代わって、岩の間に、エチゴキジムシロの黄色の花やフデリンドウの淡紫色を見かけるようになった。
最後に急な尾根を登りきると、ひょっこりスカイライン道路に出た。スカイライン道路の野積側は、土砂崩れにため、閉鎖されているので、車の行き来はない。のんびりとスカイライン道路を10分歩いて、山頂駐車場に出た。 道路の右側の斜面は雪解けが終わったばかりで、キクザキイチゲ、エンレイソウ、ミヤマカタバミなどいろいろな山野草が咲いていた。ここまで、登山道分岐から、約1時間。
下りは田ノ浦旧鉱山コースを降りることも可能だが、今回はこのコースの良さをじっくり味わうため、同じコースを下山した。(2006年4月29日)
■上の写真: 崖松コースの途中から見た多宝山 (Ryoji Honda)

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