蛭のいる山ー大蔵山

  標高1000m以下の山でありながら、全国屈指のブナの林を持つ菅名山塊は主峰の菅名岳を中心に、東に鋭峰鳴沢峰、西に大蔵山の三山からなる。
  かってこの山々には、山蛭が多く生息していて、人々の近寄り難い山であった。その後、登山道の整備が進んで、尾根筋の登山道で、蛭の姿を見かけることはほとんどなくなった。しかし、まだまだ油断は禁物である。
  今回9月13日、15号台風による大雨の後、大蔵山の沢コースを四合目まで登ってみた。はじめは、小さな流れに沿って登り、ほどなく、沢を離れて、左側の斜面をジグザグに登るようになった。じめじめした登山道には、無数の橡の実が転がっていた。
  二合目を過ぎるころから、足のすねに軽い痛みを感じ始めた。ズボンを捲り上げてみて驚いた。両すねに10匹以上の山蛭が食いついているではないか。引っ張ってもなかなかとれない。無理にとると、皮膚から血がにじんでくる。
  改めて、地面をよく見ると、いるいる、山蛭が地面から、立ち上がって、頭をゆらゆら振っている。蛭は、ヒトに対するセンサーを持っているのだろう。それを使って、登山靴に吸い付き、尺取虫のように這い上がり、皮膚にたどり着き、噛み付いたのだ。
大蔵山三合目の写真
  とにかく、眼に入ったものは、タオルでたたき落とした。三合目の小さな広場で、靴と靴下を脱ぎ、再チェックした。靴下の中にまでひそんでいるのがいて、靴下に血でにじんでいる。蛭にかまれた跡は傷ができていて、出血がなかなか止まらない。蛭が血液の凝固を妨げる化学物質を出してからである。
  四合目で、尾根コースに接続した。ここまで来ると、うそみたいに、蛭の姿は消えてしまった。
家に帰って、まず着替え、突然、風呂場から、妻の悲鳴が聞こえた。下着の下、背中と脇の下に3匹の蛭が見付かった。タオルを使って叩き落としたはずの蛭がタオルの中に潜んでいて、首に巻いたときに移動したのだろう。
  考えてみると、新潟平野のすぐ近くにありながら、この山に手付かずの自然が残されてきたのは、この山蛭のせいかもしれない。地元の伝承にも、「菅名岳は、山中に老木大樹が繁茂して、山蛭が住んでいて、この山に入ったものは、帰ることがない」とある。蛭のいたことがこの山々とブナ林の幸運だったかもしれない。蛭は、環境の保全に一役かっていたのだ。蛭が棲めるということは、それだけ豊かな自然(豊富な湧き水など)が残されているということだ。蛭に対する見方が変えなければいけない。 

■上の写真 : 大蔵山沢コース3合目広場