枯れる丹沢のブナ

  丹沢山は、御岳山、秩父山地とともに、東京都民、神奈川県民には親しみ深い山である。
  この山はひと口に丹沢と呼ばれているが、実際には、主峰丹沢山(1567m)のほか塔ノ岳(1491m)、蛭ガ岳(1673m)、桧洞丸(1601m)などいくつかのピークからなり、丹沢山地と呼ぶ方がよい山々の連なりである。
  丹沢は、身近にして、広い山地であり、四季を通して、ハイカーの姿が絶えることがない。とりわけ、稜線付近に生い茂るブナの新緑や山中にツツジが咲く頃はもっとも美しい。
丹沢の写真
  丹沢山地には、太平洋側の山地としては珍しくまとまったブナの林が残されている。ブナはもともと日本海側の多雪山地に生育の本拠地を持つ樹林で、冬、雪のあるような湿潤な気候とフカフカした厚い土壌の土地を好んで育つ。したがって、冬乾燥する太平洋側の山地では、どうしても生育が悪く、ミズナラなど他の樹種と混じりあい、雑然とした森林をつくるこが多い。丹沢のまとまったブナの林は珍しい存在である。
  しかし、ブナにとって、現在の丹沢は必ずしも必ずしも暮らしやすい場所ではない。南側の斜面や稜線上のブナ林には、かなりの範囲で立ち枯れ現象が見られる。
  このブナ林の衰退には、いろいろな原因があげられている。その一つは、湘南地域の車や工場から出る排気ガスが、山地の南斜面を上昇して稜線付近に酸性雨や酸性霧をもたらし、それが立ち枯れの原因となると言われている。増えすぎたシカによって林床の植物が食い荒らされて、稚樹が育っていないという指摘もある。
  しかし、もっとも大きな原因は、冷温帯のブナが生育するには、気温が温暖になりすぎたのだ。ブナの分布が拡大したのは、どうやら小氷期と呼ばれる。江戸時代後期の冬、現在より雪が多かった時期だと推定されている。もともと現在の気候に合わず、大木だけがかろうじて存続していたところに、酸性雨の追い討ちを受け、大きな被害を受けたというのが実態らしい。今のままでは、丹沢からブナの林が消える恐れがある。現在ある貴重なブナの林だけでも、残す努力が必要であろう。(2006年11月25日)

■上の写真 : 枯れる丹沢のブナ(背景は不動ノ峰)

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