新潟県三条市下田にある袴腰山(高城)はヒメサユリの咲く山として有名です。毎年5月下旬から6月の始めにかけてヒメサユリ祭が開かれ、大勢のハイカーが押し寄せ周辺の交通は大混雑です。
2年前(2006年)ひっそりと咲くヒメサユリが見たくて、「中浦ヒメサユリ森林公園」に行ってみました。以前、この公園には、たくさんのヒメサユリが植栽されていました。公園内にある案内板にも、ヒメサユリの咲く場所の案内図が立てられています。2006年、その場所に行ってみますと、ヒメサユリはまったく見当たりませんでした。ところが、驚いたことに、この公園の裏山に登ってみたら、日当たりの良い尾根の東斜面に自然のヒメサユリがいっぱい咲いていました。
今回(2008年5月30日)同じ場所に行ってみました。裏山に登る遊歩道の入り口には、ヒメサユリ保護のため「入山禁止」の看板が立てられていて、なんとなく、不安な気持ちになりました。その気持ちは、展望の良いピークに着いたとき、的中しました。ヒメサユリがいっぱい咲いていた斜面には、数本のヒメサユリがさびしげに咲いているだけだったのです。2年前のヒメサユリはどこにいってしまったのでしょう。
斜面には、多くの人の入った跡とワラビの摘み取られた跡がありました。おそらく、ワラビ採りの人たちが開花前のヒメサユリの芽を踏みつけてしまったのでしょう。森林公園を管理する人の話でも、そのことが裏付けられました。
私たちのがっかりした姿を見た管理人さんは、五輪平のヒメサユリを見ることを勧めてくれました。「もし里山に咲く自然のヒメサユリを見たければ、五輪平に行ってみなさい。そこには、100万株のヒメサユリが山を埋めていますよ」と。
中浦森林公園から290号線に出て、三条側に戻ります。途中、牛ケ首で、左折して、飯田に向かいます。五輪峠の手前、道路の左側に五輪平農園の小屋があります。小屋の前の空き地は、駐車場になっていて、数台の車が止まっていました。袴腰(高城)ほど知られていないので、訪れる人はまだ多くはないようです。入り口で、番をしている農園の人に、300円の維持協力金を支払いました。
左の山に一本の農道が延びています。5分も歩くと、道の両側にヒメサユリが現れ始めました。進むにつれてその数は限りなく増え、斜面一杯に広がっています。中には、濃淡の異なるものや1本で7〜8つの花をつけているものもあります。ヒメサユリの咲く農道は1kmほど続きます。農道には、ところどころ小道が分かれおり、そこにも、いたるところ、手の届くところにヒメサユリが咲いています。帰りは、小道を回って、入り口に戻ることができました。
標高250mにも満たない里山にこれだけのヒメサユリが見られるのは、まったくの驚きです。私たちは、すっかり満ち足りた気持ちになりました。
実は、この山は、たくさんの大きなクリの木があるのです。貴重な自然食品を生産するクリ農園だったのです。クリ林は、大事に育てられ、人々の生活を支えてきたのです。そのために、定期的に、下草を刈ったり、周辺の樹木の枝を落としたりして、こまめに手入れが行なわれ、明るい林が維持されてきたのです。その生活環境が、日当りの良い草原や明るい広葉樹の林を好むヒメサユリの生育にピッタリだったのでしょう。しかも、個人が所有する農園ですから、一般の人たちが勝手に入山できません。農園の人の話では、どんどん自然に増えていって、今の姿になったということです。
多くの人の手と偶然が重なって、貴重なヒメサユリを育む里山が作られたということをあらためて実感しました。この里山が、現在の姿をいつまでも維持することを祈っています。(2008年5月30日)