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空を見ろ 狭い手水鉢に入れられ身動きが取れなくなった亀はどうするか 首をもたげてこの世の行く末を思う たとえそれまで己が生き長らえていなくても いずれは今より良い世が来ると信じてな 手水鉢の亀にも仕事はある そこに居続ける事じゃ
わたくしなら もし私が亀なら たとえ乾き死ぬとも 両手両足であがいて手水鉢の外に出ます たとえ 地面に叩き付けられ乾き死ぬとも
フジテレビ『大奥』3話より
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ふるさと薩摩 そして想い人から引き離され
政治の道具として 将軍家定に嫁がされた篤子
逃げ出す事は不可能と知り
せめて自分に出来る事をと将軍の子を産む決心をするも
大奥の陰謀にそれすらままならぬ体となってしまう
上のセリフは
ドラマ『大奥』3話
生きる目的と希望を無くした篤子と
その夫 将軍家定の会話だ
このシーンには
家定の生き方 篤子の生き方
そして 家定の篤子への想いが詰まっている
と 私は思う
故郷の想い人から
家定こそこの世の元凶と聞かされてきた篤子
だが
自分の仕事はここで生き続ける事
と 静かに篤子に語る家定の瞳は
とてつもなく深い
それは
今まで篤子が抱いていた
強大な権力者としての将軍家定とは全く違う
人としての哀しみを背負わされた
ひとりの男の姿だった
そして
私ならたとえ乾き死のうと逃げ出してみせる
と その生き方を真っ向から否定する篤子の言葉に
ただ俯き 静かに微笑む家定
それは
眩し気な柔らかく優しい微笑み
この時 篤子の中に
何かが芽生えたのかもしれない
お前は人形じゃないから面白い
家定のこの言葉の中に彼の哀しみを感じ取り
その体から力を抜いた篤子
その篤子が この微笑みの意味を分からぬハズが無い
そして物語りは進み 大奥炎上
炎の中
故郷の愛しい男が一緒に逃げようと篤子を迎えに来る
待ち望んでいたはずなのに
夢にまで見たはずなのに
焼き討ちをささいな事と言い切る男に
彼女の足が動かない
男が去り
放心した様に立ち尽す篤子
自分は何故行けなかったんだろう
そんな自分への驚き
そして
愛する男についてゆけなかった悲しみ
何かが違ってしまった
が この時の篤子は ただ茫然とするだけ
一方家定は
燃え盛る炎の前 自らの病に血を吐いて倒れながらも
篤子の身を案じその名を呼び続ける
そして病床に目覚め
何よりも先に篤子の顔を見つけ
乾き死にもせず逃げ延びたか
と 安堵する家定
その言葉に その表情に
篤子は初めて 彼の人としての優しさ
そして自分への想いに触れ
はっと驚きの顔を見せる
将軍と御台所
政治の道具としてでは無い家定の顔が
そこにはあった
そして
お前は羽ばたけ 男の元へと行け
と息も絶え絶えに篤子に言い残し
家定はこの世を去る
こんな今際の時にまで 自分の事を思い遣る家定
篤子のその顔
その顔が歪む
その顔が 素直な悲しみに溢れてゆく
そして再び
想い人が篤子を迎えに来る
人気の無い部屋の中 対峙する篤子とその想い人
世を変えようと 女達の住む大奥に火を放った男
男には力がある
自分でその場所を築き上げてゆく強さがある
彼女はその時
自分がどちら側にいるのかを
はっきりと悟ったのかもしれない
子を産めなくする薬を飲まされ続けていた事を
知っていて何故黙っていたと詰問する篤子に
政治の道具にされるのは自分1人で充分と答えた家定
お前は好きな所へ行け
と言い残し自分の手を握りながら死んでいった男
自分の事を お前は人形じゃないから面白いと言った男
自分ならたとえ死んでも逃げ出す
と その生き方を真っ向から否定した彼女の言葉に
嬉しそうな 眩しそうな深い微笑みを見せた男
病床から目覚めて何よりも先に
炎からの篤子の無事を確かめて安堵の表情を浮かべた男
彼女を想う
1人の男としての家定
自らが同じ場所に置かれて初めて
家定を 人として 1人の男として
篤子は理解していったのだと思う
同じ立場に置かれたが故
くっきりと浮び上がってくる
彼の強さ 弱さ 哀しみ そしてその生き方
そして
そんな家定が思いがけなくも自分に見せた優しさ
その愛
自分の事よりも何よりも先に
篤子を思い遣る家定の人としての美しさ
家定にとって篤子は 太陽だったのかもしれない
手水鉢の中 空を見上げて生きる彼の太陽
太陽には 太陽であって欲しい
いつもそこで輝いていて欲しい
そして篤子にとってのこの想い
これは 愛 だったのだろうか
愛 というよりは
深く哀しい理解 だったのかもしれない
2人にだけしか分からない哀しい理解
そしてそれは
目の前の男には分からない
自分の居場所を築く事の出来る強いこの男には
絶対に分からないこの想い
そう
自由に羽ばたく鳥に
手水鉢の亀の気持ちは分からない
いつのまにか離れてしまっていた想い人とのその距離
炎の中 何故自分が行けなかったのか
彼女はしっかりと理解する
だから 彼女の顔に
もう 戸惑いも迷いも無い
私は 教えられました
どんな場所にいようと
そこで力を尽くして生きれば
人の生きる道は輝く
そう男に告げる彼女の瞳が凛としている
篤子は家定という人間を理解し
そして彼の心をしかと受け取った
そして彼女は続けるのだ
己を頼み 我が手我が力で世を変えようとする事
それは間違ってない
けれどこの先 どのような道を進もうと
決して忘れないで
私のような力の無いものの痛みを…
空を羽ばたく鳥に思いを寄せる
手水鉢の亀の心の痛み
家定と篤子
2人だけにしか分からないその痛み
これもまた
ひとつの愛の形なのかもしれない
そして
自分で自分の生きる道を照らすために残る
と言い放つ篤子が 美しかった
哀しい程に美しかった
たとえもがき死のうとも
手水鉢から逃げ出すと言っていた彼女が
今 しかと自分の居場所に踏み止まる
篤子と家定
自分ではどうする事も出来ない時代のうねりの中
他者から与えられ そして逃れられない場所に置かれた2人
それは 哀しい事 悲しい事 辛い事
でも それでも
生き続ける事が仕事
そう篤子に語った家定の言葉の中には
深い哀しみや諦めと同時に
自分の生にひたと向き合う真摯な彼の生き方がある
自分の道を輝かすのは自分
この篤子の言葉には
人というものが持つ事の出来る強さがある
不本意に与えられた状況 決められた枠の中で生きる事
その枠を自らの力で壊さない事を傍から責める事は簡単だ
しかし その枠の中で
もがきつつ苦しみながらも前を向いて生きる人間を
誰が責める事が出来るだろう
そしてその真摯な姿は 人の心を打つ事さえあるのだ
正しいとか間違っているとか好きとか嫌いとか
そんなものを全て越えた所で
人の心を動かすものは確かに存在する
そんな事を深く考えさせられた
家定と篤子でした
そしてこのドラマは
セリフよりも何よりも
家定を演じる北村一輝と篤子を演じる菅野美穂
この2人の表情の演技が素晴らしかったです
セリフの裏に詰まった
1つの形容詞では言い尽くせない 人というものの複雑な想い
この2人で無かったら
こんなにも深く感動する事は無かったかもしれません
ああ とてつもなく美しいものを見た
これが私の 大奥3話と4話です
8.4.03
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