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小野不由美「屍鬼」感想

 

 

そしてその自我こそが 人の人たる所以でしょう

にもかかわらず自我だけは残すことが出来ないんだ

それは虚空に出現し 落下して消える

ただそれだけのものなんです

 

小野不由美 「屍鬼」より

 

 

 

これは物語りの中

不死の人浪 辰己 が 静信 に言った言葉

 

虚空に出現し 落下して消える 

この落下を自覚し それでもあがく人の様を

美しい と 辰己は言う

 

この屍鬼という物語りに 私はまさに 彼の言う

人のあがく様の絵模様を見たと思う 

 

 

村は死によって包囲されている で始まるこの物語り 

まずは 起き上がり この言葉が怖い

彼等 屍鬼達は 墓から起き上がる

 

 

彼等は招かれないと入れない

この設定にも ゾクリと背中を撫で上げられた

 無理矢理侵入されるより

知らず知らずに自ら招き入れてしまう事の方が

よほど怖い

 

 

そして繰り返されるは 内と外 の概念

人と屍鬼 村の外と内

村をまとめる寺の若御院 静信 は 

その境界で途方に暮れている

内と外 

それは誰が決めるもの? 神が決めたもの?

ならば自分はいったい 何に殉教するべきなのか

自らの心の闇を覗き込みながら

自らの弟をその手で殺した兄の話しを書き続ける 静信

  

    その彼の物語りは 次第に彼の現実へとリンクしてゆく   

 

 

 

命がかかる極限の状態の中 究極の選択を迫られた時

あなたならどんな道を選びますか?

仮面ライダー龍騎でも突き付けられたこの正解のなき命題が

この物語りの中にもある

人側 そして屍鬼側 そこにある様々な選択

そしてどの道を選んでも そこにあるのは苦痛と哀しみ

作者はそれを淡々と描き出してゆく 

 

 

 

自分が殺した相手 夏野の墓に花を運ぶ徹 

オレは夏野に甘えているんだ

自分を罪と自覚しながらも

それでも 生きたいともがく自分を知っている彼の叫び声が 痛い

そしてそんな徹を受け入れて死んでいった夏野

生前と変わらない姿 生き返って欲しいとまで願った相手を

どうして自らの手で葬れよう

夏野は 屍鬼となった徹を殺せなかった自分を受け入れて

静かに死んでゆく 

怒らない 恨まない 嘆かない

なぜなら彼は それが自らが選んだ道だと知っているからだ

ただ その状況を悲しみながら 夏野は徹に身をゆだねる

 

この徹と夏野

この二人の関係が とてもとても美しかった 切なかった

 

 

そして敏夫

屍鬼となった自らの妻を人体実験し その胸に杭を打つ医師

禍々しい程に残酷なこのシーン

けれど彼は揺らがない

自らの辛さや苦しみを引き受ける覚悟の元

 善と悪を超えた彼自身の世界において彼が自ら下した選択だから

彼にはキチンと自覚がある

それが 自分 だという事を

 

 

そして屍鬼側

私はエゴイストなの だから人を襲いたくない

飢えに苦しみながらもそう叫ぶ律子

彼女も 自分の価値観

自分の世界の中の 自分 を自覚する者の1人だ

 

 

そして

屍鬼と人 内と外の境界で彷徨い続けた 静信 の結末

 

 

彼の書く物語は最後 兄と弟が1つとなり完結する

殺し殺された者の一体化

いや それらは元々1つのものだった

光は闇 闇は光

そして合わさったものは

もはや誰にも穢される事のないすがすがしいまでの闇 実体のない闇

それは絶望する心配のない絶望なのだろうか

 内も外も放棄した静信は人浪となり

彼もまた辰己の様に 参加せずにただ眺める場所に立つ

外と内に囚われたまま素直に苦しむ 沙子に灯を見つけながら

 

 

『ぼくは世界で最後から2番目に死ぬ者になりたい』

この辰己の言葉の狂に酔い

徹が夏野を殺すシーンを

美しいと感じる自分の摩訶不思議に立ち止まる時

私は思う

 

人は誰もが

「自分」という妖しい箱を抱えているのかもしれないと

 

 

 

 

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