障害者市民防災提言集 目    次 提言にあたって 1 災害の前に備えておく 提言1 あの手この手で「いのち」をトコトンいとおしむ 提言2 情報は確実に、支援は的確に 提言3 頼りになるのはお隣りさんと、ふだんのつながり 提言4 支援はおしつけないで、私ぬきには決めないで 提言5 緊急時、逃げられるように家の対策 2 災害にあったときの避難や支援方法を改善する 提言6 「家のほうがマシ」な避難所は行く気がしない 提言7 やわらか頭で、さまざまな障害のある人の住宅探し 提言8 ところ変われば、サポート変わる 提言9 「絵に描いた餅」にならないネットワークづくり 提言10 力はみんなで出すけれど、行政責任もしっかりと 提言11 届かない支援・情報、見直しを 提言12 「いのち」に関わる課題、急いで解決を 3 災害後の復興を見直す 提言13 小さな拠点、「泣きっ面に蜂」なんて困ります 提言14 新たなまちづくりはバリアフリー化のチャンス 4 まとめ 提言15 防災・減災はふだんのまちづくりから コ ラ ム 「正常化の偏見」 障害者市民のための防災グッズ「笛」 背負子でラクラク避難 おぶいひも作っちゃいました! 地域の中学生は頼りになる ご近所ささえ隊 なぜか、足の不自由な僕がいるクラスは、いつも学校中でトップ! 障害者の居住環境の安全性を高めよう!−障害者防災アドバイザーと家具転倒防止ボランティアの育成 熱気球 災害救助指針の大改革(避難所編) 福祉避難所 災害時の避難所 間仕切りセットの提案 災害救助指針の大改革(仮設住宅編) 被災地障害者センター 障害当事者による支援活動 阪神淡路大震災の経験 緊急消防援助隊とハイパーレスキューなどの消防組織 災害時のホームヘルパー・ガイドヘルパー派遣、移送サービス制度創設を ケータイ電話505サービス 透析患者の防災システム 揺れた! 〜あの時から ハイテク点字ブロックとFMミニ放送局による「災害時障害者誘導システム」 NPO・NGO・ボランティア活動を支える社会的システムの充実が急がれる 中学生からはじまる地域防災力の向上 資料 1 震度表 2 災害時要援護者の避難支援ガイドライン(概要)案 3 障害者市民防災提言集作成にあたってのアンケート調査について 4 【ゆめ風基金】について 5 障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト 引用・参考文献・資料等 障害者市民防災活動を支援します 編集委員 私たちの15 の提言 1 災害の前に備えておく 提言1 あの手この手で「いのち」をトコトンいとおしむ 災害に対する知識や情報をさまざまな機会に伝え、防災に役立てるようにしてください。  水害では、避難勧告が出ても「自分のところまで被害は及ばない」と避難しない人がたくさんいます。ハザードマップの作成など、災害に対する啓発を積極的に行い、一人ひとりが災害に備える意識が必要です。 提言2 情報は確実に、支援は的確に 避難をうながす情報の発令基準と、伝達方法を明確にするとともに、障害者市民の負担が増えない支援方法が必要です。  2005年3月に、国は「避難準備情報」を新たに設定しました。これは水害時に、障害者市民や高齢者が逃げ遅れないよう早めに避難情報を出すために定められたものです。このような情報を確実に届ける仕組みづくりが必要ですが、障害者市民にとっては、同時に避難準備や移動を支援する体制と避難所の改善が必要です。 提言3 頼りになるのはお隣りさんと、ふだんのつながり 障害者市民などの支援には、地域のネットワークとともにふだんの介護・福祉サービスのつながりを活用してください。  大規模な災害では行政による支援に限界があるので、地域で支え合う仕組みが必要です。そのような地域ネットワークで障害者市民や高齢者を支えていくためには、個人情報を共有する必要がありますが、人権にも十分な配慮が必要です。当事者の意見を十分に聞いて、ネットワークづくりを進めることが必要です。 提言4 支援はおしつけないで、私ぬきには決めないで 災害時の障害者市民への支援計画を当事者がいないところで決めないでください。  各地の自治体で、「災害時要援護者支援計画」づくりが進んでいますが、作成過程に障害者市民が参加している例は少ないようです。計画作成だけでなく、避難所点検や防災訓練にも、障害者市民の参加が必要です。毎年1月の「防災とボランティア週間」を、市民参加型の防災訓練の日と位置づけるなど、障害者市民が参加しやすい環境を整える必要があります。 提言5 緊急時、逃げられるように家の対策 家具の転倒防止や耐震改修助成を制度化してください。  阪神・淡路大震災では、住宅倒壊による死亡者の内、高齢者が6割を占めました。障害者市民も所得が低く、木造住宅や新たな耐震基準に満たない低家賃の住宅に住んでいることが多くあります。また家具が転倒したとき、障害者市民は、自力脱出が困難です。自治体による耐震改修費助成や家具の転倒防止助成を進める必要があります。  2 災害にあったときの避難や支援方法を改善する 提言6 「家のほうがマシ」な避難所は行く気がしない 避難所の改善、福祉避難所の指定など多様な避難所の準備が必要です。  これまでの大規模災害では、多くの障害者市民が避難所で暮らせないと判断し、避難所に行きませんでした。国は避難所の環境改善を行う指針を出していますが、未だ障害者市民が安心して避難できるような改善にはなっていません。障害者市民が安心して使えるように、避難所を改善したり、福祉避難所を確保することが必要です。 提言7 やわらか頭で、さまざまな障害がある人の住宅探し 仮設住宅はプレハブ建設にこだわらず、障害者市民が生活できるものにしてください。  障害者市民にとっては、避難所とともに仮設住宅も生活できない場所です。国が指針で示しているように、仮設住宅のバリアフリー化は必要です。しかしコスト面や居住性を考えると、プレハブ住宅だけに頼るのではなく、既存住宅を積極的に活用することも考えられます。また不便なところに仮設住宅が建てられても利用しにくいので、個人の敷地を利用した方法も確立してください。 提言8 ところ変われば、サポート変わる 仮設住宅や復興過程で増大するニーズに応えられる体制づくりを。  仮設住宅への入居が進む頃には、まちは一定の落ち着きを取り戻しますが、障害者市民は、環境の変化や道路工事などで、介護サービスを今まで以上に必要とします。しかし災害時は従来受けていたサービスでさえ、継続して受けることが難しくなります。災害時に柔軟に届けられる介護サービスが必要です。 提言9 「絵に描いた餅」にならないネットワークづくり 被災障害者支援センターの位置づけと災害ボランティアセンターの体制づくりを。  阪神・淡路大震災でも、新潟県中越地震でも、障害者支援を行うセンターが設置され、障害者市民の支援や相談に役立ちました。しかし被災障害者支援センターを立ち上げることを、自治体の防災計画に位置づけてないところも多くあります。行政と社会福祉協議会の役割分担を明確にして、福祉の専門家と民間ボランティアがうまく機能する仕組みづくりをふだんからつくっておくことが必要です。 提言10 力はみんなで出すけれど、行政責任もしっかりと 自助、共助に頼りがちな防災計画。行政が果たす役割も明確に。  国や自治体がつくる最近の防災計画では、自助、共助が大きく強調されています。大規模災害が起きたとき、被災した自治体ができることに限界はありますが、自治体が連携すれば多くの専門職員を確保できます。消防組織の見直しや法律整備、予算の確保など、行政がしなければならないことはまだまだあります。 提言11 届かない支援・情報、見直しを 指定の避難所以外で暮らす人への支援も防災計画に盛り込んでください。  障害者市民は「避難所では暮らせない」と、無理をして自宅で過ごしたり、知人や親戚を頼ることが多くあります。しかし避難所へ行かないことで、必要な支援が受けられなかったり、情報が得られなかったりします。避難先の自治体と被災障害者支援センターが連携するなどして、避難所へ行けない障害者市民の支援体制をつくってください。 提言12 「いのち」に関わる課題、急いで解決を 医療や医療的ケアを必要とする人の支援のために、早急な仕組みづくりを。  災害時に医療を必要とする人が、継続した医療を受けるためには、病院間のネットワークとともに、情報伝達や移動の手段を整えなければなりません。そのためには行政や患者、保健所なども含めたネットワークの構築が必要です。また医療的ケアを必要とする人のために、ヘルパーが医療的ケアを担えるように、態勢整備が必要です。  3 災害後の復興を見直す 提言13 小さな拠点、「泣きっ面に蜂」なんて困ります 小規模な障害者作業所にも、復興のための補助金制度を確立してください。  社会福祉法人の施設では、災害が起こったときの被害を国が補償する制度がありますが、小規模な障害者作業所などには、こうした補償制度がありません。小規模な障害者作業所は、日常の運営も市民の支援を受けて成り立っていますが、震災後はそうした支援も少なくなります。支援策の確立が必要です。 提言14 新たなまちづくりはバリアフリー化のチャンス まちづくり復興計画には障害者市民こそ参加させてください。  災害復興のまちづくりに、障害者市民も参加できるようにルールづくりをしてください。災害復興時は、ハートビル法や交通バリアフリー法にあてはまらない、小規模な施設をバリアフリー化できる良い機会ととらえることが必要です。  4 まとめ 提言15 防災・減災はふだんのまちづくりから 障害者市民や高齢者の防災・減災を進めるには、ふだんのまちづくりを変えていくこと。  災害が起きると、障害者市民や高齢者は、他の人より大きな被害を受けます。それを防ぐには、建物の耐震化とバリアフリー化を同時に進めることや、地域内の福祉拠点を整備することが必要です。また学校での防災教育や、災害のときでも福祉サービスが継続できる方法を検討しておくなど、ふだんの取り組みが重要です。効率重視から安全重視をするまちづくりへの転換が必要です。 障害者市民防災提言集 作成趣旨 提言集作成の背景  ゆめ風基金は1995年1月17日に起きた「阪神・淡路大震災」をきっかけとして設立された被災障害者市民への支援団体です。各地で起こる自然災害に対する支援を続け、10年目を迎える直前(2004年)、新潟県中越地震が発生し、地震災害によって障害者市民が置かれている状況があまり変わっていないことを知らされました。  またこの間、火山の噴火や集中豪雨、台風などにより、多くの人たちが被災する中で、このような災害に対する障害者市民の防災、減災、支援には、地震と異なる方法が必要だと感じてきました。  2004年9月1日から2005年2月末日を募集期間とし、ゆめ風基金では「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」を行いました。これまでの活動の中で、災害発生後の支援だけでなく、災害が起きる前の防災・減災を進めていくことが必要と感じ、どのようなことができるかを検討するため、企画されたものです。  新潟県中越地震と台風23号による各地の水害が発生したときは、このような防災・減災の取り組みをしている最中でもありました。  ゆめ風基金では「障害者市民防災提言集」作成を2005年度からの事業として位置づけ、8月に編集委員会を立ち上げ、多くの関係団体の協力を得ながら、内容を検討してきました。  そこでまず、障害当事者、関係者の声をもとに問題点の指摘や改善案をまとめることとし、2005年9月から11月にかけて全国の障害者市民団体、関係者を対象にアンケート(以下「ゆめ風アンケート」と記す)を行いました。  提言集で示す15の提言は、障害者市民の立場から主に行政に向けて発信したものです。しかし災害から身を守るためには、障害があるなしに関わらず個々人の意識が最も重要なことで、行政の対策が進めばよいというものではありません。  災害から身を守る具体的な手段の準備には、個人の意識・力だけでなく、近隣の人やさまざな関係者・関係機関の協力が必要です。  自然災害における被害を少しでも減らすためには、行政や地域住民、関係機関が危機意識を共有し、どのような役割分担、連携を図り、平常時の備えや災害時の支援にあたるのかを具体的に決めることが必要です。  本提言集は15の提言の説明をするのではなく、ひとつひとつの提言をテーマとし、障害者市民の意見、改善すべきこと、現在の法律や支援のあり方などを盛り込み、障害者市民、関係者・関係団体、自治体など幅広い人たちが課題を共有し、解決の糸口をつくるための情報を提供できるよう、構成を考えました。  「提言集」というスタイルですが、ゆめ風基金からの提言というだけでなく、今後多くの方に「障害者市民の防災」を考え、話し合っていただくための道具として、本書を活用していただければと考えています。 提言1 災害の前に備えておく 提言1 あの手この手で「いのち」をトコトンいとおしむ 災害に対する知識や情報をさまざまな機会に伝え、防災に役立てるようにしてください。 避難勧告による未避難者は意外に多い  2004年の台風23号による豊岡市の大水害の時のように、避難勧告が出た時、すでに身の危険を感じる状況が周りにあれば、誰もが避難すると思います。しかし実際に身の危険を感じる状況で避難を始めるのでは手遅れになってしまいます。  逆に情報の受け手が危険を感じない時には、避難勧告が出されても実際に避難を行う人は50%ぐらいだといわれています。  東海豪雨災害でも被害にあった障害者市民の声は ●ただの大雨だと思った。 ●夜にかけてどしゃ降りの大雨が降り続き、誰もがなんとなく心配をしていた。テレビをみんなで見ながら「庄内川で危険水位を超えたらしい。このあたりは大丈夫よ」などと話し合ったりしている。心配というわけではないが、テレビを見ながら遅くまで起きている。大変だなーと思うが、まだまだ観客でいた。 ●夕方、町内会から避難の連絡はあったが、ひどくはならないと思い自宅にとどまる。   AJU自立の家 「災害時における障害者支援に関する提言」(2002年) などというものでした。  このように「河川が氾濫しても自分は被害に遭わない」と思ってしまう心理は「正常化の偏見」と呼ばれています(コラム「正常化の偏見」参照)。しかし避難しないという問題を単に「正常化の偏見」という心理的現象で片付けることはできません。  正常化の偏見は確かにあるかもしれませんが、それ以上に私たちが災害に対する情報を十分に知らされていなかったり、場合によっては間違った情報を信じ込んでしまうという問題があります。 洪水や津波についての誤った情報が 危険を招くこともある  過去の洪水では、気象庁など第1発信者が警鐘を鳴らしたのに、行政が警報慣れしてしまっていて、住民への十分な周知や危険回避の態勢を取っていなかった事例があります。  大雨が一旦収まると、道路などに溢れた水や川の水が引いていくと思われがちですが、実際には山に降った雨は川へ溢れ出すまでに時間がかかるので、大雨が収まった後で川が氾濫したり、土石流が起こることがあります。  津波についても、「大きな津波が来る時は、海の潮が大きく引く」と思って、地震や津波警報の後、海へ確認に行く人がいます。しかし、大津波の前に必ずしも潮が引くとは限らず、海へ確認に行くのは危険な行為といえます。  洪水によって指定避難所が浸水し、1階の体育館から急きょ2階の教室に移動した事例があります。これは、地震災害しか想定せず避難所を指定していたことが原因です。洪水が起きた時に浸水する危険性がある避難所はたくさんあります。  市民が洪水や津波についての正しい情報を得るためには、まず行政が災害の特性を理解し、予測される被害をきちん把握していなければなりません。 くりかえされる悲劇  2004年10月に台風23号が各地で大きな被害をもたらしました。その約1年後の2005年9月に台風14号が宮崎県、鹿児島県などを襲い、大きな水害となりましたが、1年前の教訓はほとんど活かされていなかったといえます。  まず第一の問題は避難勧告の出し方や避難行動にあります。兵庫県豊岡市をはじめ台風23号に伴う河川の氾濫があった地域では、避難勧告の出し方に問題があったと指摘されていました。宮崎県でも避難勧告を出す基準を明確にしていた自治体は2〜3割程度と少ない上、県の危機管理局が9月5日の夕方明るい間に「住民の避難呼びかけを行ったほうが良い」と市町村に伝えたにもかかわらず、多くの市町村は避難の呼びかけが空振りになってはいけないと、その時点での避難勧告を行いませんでした。また避難勧告を受けた地域でも、ほとんどの住民がすぐに避難を行い、難を逃れた地域もあれば、避難があまり行われず多くの死傷者を出した地域もあります。過去に水害の経験をした地域では、浸水が起きても前回の災害と同程度のところで水位が止まると予測し、逃げる人が少なかったようです。逆にそういった被災経験のない地域のほうが、避難勧告による避難が速やかに行われたようです。  内閣府が2005年に3月に発表した「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」では、浸水が始まってからの避難では次のような注意が必要だと指摘しています。 ・浸水深が50cmを上回る(膝上まで浸水が来ている)場所での避難行動は危険であること。流速が早い場合は、20cm程度でも歩行不可能であること。 ・用水路等への転落のおそれのある場所では、道路上10cm程度でも危険であること。 ・浸水により避難所までの歩行等が危険な状態になった場合には、生命を守る最低限の行動として、自宅や隣接建物の2階等へ緊急的に避難するなどの行動をとること。  このように浸水深がわずかでも、浸水が始まってからの避難は、誰もが危険だといえます。  また最近の水害では水門の閉鎖とポンプの故障が原因となっているものがいくつかあります。台風23号、台風14号でもポンプの故障による川の氾濫がありました。  大雨が降り、川の本流が増水すると、支流の水位を上回り、本流の水が支流へ流れる「逆流」が発生することがあります。水門はこれを防ぐために支流に設置されており、ふだんは水門は開けられた状態です。本流の水位が一定以上上昇すると、逆流を防ぐために水門を閉め、支流に流れてきた水はポンプによって本流へ流す仕組みになっています。ポンプの点検不備やポンプが水に浸かって停止した場合、支流の水の行き所がなくなり、周辺に溢れ出します。  水門を閉めた場合には、ポンプが作動している時でも、付近の住民に水門を閉めたことを知らせることが必要です。同時にポンプや川の状態を監視し、異常が発生した場合には、直ちに住民に知らせる体制が必要です。 ハザードマップの作成や 災害シミュレーションの活用  ハザードマップは災害の時に、どのような被害がどこにあらわれるかを地図上に示したものです。  例えば洪水ハザードマップでは豪雨の際に川のどの部分が決壊する恐れがあり、どの地域がどれくらいの高さまで浸水するか、地図上に示されています。  100年〜200年に一度の確率で起こる豪雨の際にどの程度の浸水が予想されるかについては、ほとんどの河川において国土交通省がすでに調査済みです。  各市町村は洪水ハザードマップを作成し、対象地域の住民に周知させることが、水防法により義務づけられています。  ハザードマップとともに有効なのが、災害シミュレーションです。災害シミュレーションは災害発生後、時間の経過とともに被害がどのように広がっていくか、わかるようにしたものです。豪雨による時間の経過と河川の氾濫や洪水の状況、地震発生時の津波の規模と津波の到達時間など時間の要素が加わることで、どのように避難をすればよいかが具体的に検討しやすくなります。  現在、洪水などの災害発生が予想される場合に「避難準備情報」、「避難勧告」、「避難指示」の3段階の情報が流されます。(各情報の内容は提言2参照)  「○○川があふれる恐れがあります、この地域の人は逃げてください」と言われれば、すぐに逃げようと思うでしょうが、「避難準備情報が発令されました」と聞いても、3段階の避難情報があるため、どの段階で逃げてよいかわからない、またそれぞれの情報にどのような違いがあるかわからないといったことが起こります。台風情報のように、総雨量や川の水位予測をリアルタイムに流すとともに、3段階の避難情報をわかりやすく伝えることが必要です。  最近は携帯電話のメールやインターネット機能を利用して、災害が発生しそうな場合や災害が発生した時に、事前登録した人にすぐに情報を流したり、地域に密着した災害についての情報をリアルタイムに流す仕組みを整えている市町村が増えてきました。  このようなシステムで避難行動を起こす目安ができる場合もありますが、津波や内氾濫(川の堤防が決壊するのではなく、住宅地へ降り込んだ雨が川へ放出できなくなることで起こる洪水)、急勾配の河川の氾濫などは必ずしも予測が間に合うとは限らず、地域の状況によって独自の判断が求められる場合もあります。  いずれの場合も市町村として、どのような要因によって自然災害が発生し、どのくらいの規模の被害が予想されるか、できるだけ事前に検討し、住民に知らせておくことが必要です。  広報紙で災害の知識を広めたり、学校の防災教育として日頃から災害について学ぶ、障害者団体と防災についての話し合いを行い、災害想定についての説明を行うなど、さまざまな機会を通じて行政が積極的に防災活動を行うことで、市民の防災意識が高まり、「正常化の偏見」から抜け出せるとともに、個々人が自主的に避難行動をとる意識が高まると考えます。 ●避難所がどこなのかを知らなかった人達が多かった。ハザードマップや避難所の解説書を事前に障害者宅に配布するとともに、充分な説明が必要である。 ●どの避難所に多機能トイレがあるのか、スロープがあるのかわからないので、避難所マップ等に記載して欲しい。 ●浸水マップとか避難場所の地図があれば前もって市の方で配布してほしい。 ゆめ風アンケート ===コラム==== 「正常化の偏見」  洪水ハザードマップの作成・公表や洪水発生時の避難情報伝達体制の強化など、洪水時の避難対策を中心に超過洪水対策が積極的に進められている昨今ではあるが、相変わらず洪水時の住民避難は円滑に行われていない。避難勧告や避難指示が発令された近年の事例を見ても、その避難率はほとんどが10%以下にとどまっているのが現状である。  住民が避難しない基本的理由は、洪水氾濫に自らの生命の危機を感じないことにあり、それゆえ避難の必要性を感じないからである。もとより避難勧告や避難指示には罰則を伴う法的強制力はないため、洪水避難は最終的には住民の自主的判断に委ねられる。しかし、住民の多くが避難の必要性を認識しない現状では、避難率は低調にならざるを得ない。  では何故、住民は避難の必要性を認識しないのか。その理由を以下に列挙してみよう。  まず、災害心理学でいう「正常化の偏見」が作用することは、洪水に関わらず災害一般に指摘されていることである。平たく言えば、「河川が氾濫しても自分は被害に遭わない」と思ってしまう心理で、る。この正常化の偏見を乗り越えて避難を実行に移すためには、自然災害の現象としての不確実性の理解などに基づく理性的判断が必要になる。  次に指摘できることは洪水氾濫そのものに関する知識やその対応の仕方に関する知恵の欠如である。この問題については、特に治水事業が進展したことの影響が大きい。治水事業の進展は、小規模な洪水(計画規模内の洪水)を排除することに貢献する一方で、住民が洪水の恐ろしさを体験する機会をも排除し洪水と住民の距離を大きくした。長年にわたり洪水を経験しない状態が続くことにより、洪水の恐ろしさは忘れ去られ、洪水をやり過ごす知恵の伝承も衰退の一途をたどっている。そしていつしか治水施設が完全に地域を守ってくれるかの如く誤解が生じ、いわば「災害過保護」の状態の住民が多くなった。  また、こうした河川と人の暮らしとの距離感は、平時においても拡大の一途をたどった。河川の汚れや危険だからという理由により、幼少期に川で遊ぶ機会が減り、流れる水の力を体得する機会が少なくなった。これにより、河川が氾濫してからでも避難が可能と誤解する住民が極めて多くなった。 季刊 消防と科学 2002年夏号 洪水ハザードマップの効果と今後の課題       群馬大学工学部建設工学科       助教授(当時) 片田 敏孝より =========== 提言2 情報は確実に、支援は的確に 避難をうながす情報の発令基準と伝達方法を明確にするとともに、 障害者市民の負担が増えない支援方法が必要です。 頻発する洪水、適切でない避難情報  災害時の避難情報を確実に伝えてほしい、避難についてのサポートがほしい、という声は多くあります。 ●独居の高齢者や障害者は自力避難が困難です。緊急時にサポートできる情報と具体的な支援策が欲しい。 ●避難するにも準備や動きが遅くなり、時間がかかるので、無線機設置で早めに情報がほしい。 ●災害時の情報は自動車のマイクで知らせても聞こえないので、聞こえない人にはファクスなど文字で知らせるシステムを平時よりつくっておくこと。 ●障害者が避難情報を聞いても、どこへ行けばいいのかわからなくなる場合があるので心配です。 ●障害者の夫婦なので、家の外に出ることも困難になった場合、避難勧告が屋外で伝えられても、なかなか家の中にいる者まで伝わってこない。地域で障害者の住んでいる家を把握しておいて、災害時には特に注意して災害についての情報が伝わるようなシステムをつくっておいた方がいいのではないか。 ●避難命令が出たとき、それを受けて直接行動をおこしたらよいのか迷うので、そのサポートをほしい。 ●心臓に障害を持っているため体力がなく、うとうとしていて、防災無線の音声に気がつかなかった。もっと頻繁に(5分置きくらいの間隔で)知らせてほしい。また、危機感を持つような避難勧告をしてほしい。 ゆめ風アンケート  2000年9月東海豪雨災害が発生し、2004年7月には新潟・福島豪雨、同年9月台風21号、10月台風23号と相次ぐ台風で全国各地で豪雨が発生しました。翌年の2005年も6月に北陸から新潟にかけて集中豪雨が発生し、9月には台風14号による豪雨で各地(特に宮崎)に被害をもたらすなど、最近は豪雨による被害が頻発しています。  豪雨による洪水被害が予想されるときには、避難勧告や避難指示などを各市町村が出すことになっていますが、避難情報の発令基準が曖昧であったり、避難情報の伝達がうまくいかず、多くの犠牲者を出す例は少なくありません。  2004年の新潟・福島豪雨で、内閣府は「集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会」を設置しました。この検討会では、頻発する洪水被害の犠牲者を減らすために、「避難勧告」の前に「避難準備情報」を障害者市民や高齢者に伝え、スムーズに避難できるよう、翌年3月に報告書と2つのガイドラインをまとめました。  2005年6月に新潟県を中心に水害が発生し、三条市など3つの市で初めて避難準備情報が発令されました。しかし避難準備情報の発令基準を具体的に定めているところと定めていないところがあるなど、市の対応に大きな違いがありました。  三条市では @3時間雨量が市内で90ミリ以上 A旧下田村の雨量が3時間で120ミリに達した場合 B五十嵐川の曲渕に設置した観測装置の水位が13.5メートルに達した場合 C五十嵐川の上流にある笠堀ダムの流入量が毎秒300立方メートルに達し、なおかつ放流量が毎秒80立方メートルに達した場合 の4つの基準のどれかを満たせば発令する。 と基準を設けていますが、長岡市では警戒水位に達するのが発令の目安で、細かい基準はなかったということです。  台風23号による水害を受けた兵庫県但馬地域でも、自治体によって避難をうながすタイミングに大きなズレがありました。日高町と養父市の一部地域で避難勧告が出された時には、1階が浸水し、住民がすでに2階まで追いやられている状態でした。  豊岡市では円山川が危険水位になる前に避難勧告(午後6時15分)を出しましたが、そのときには道路は冠水して車で通行できない場所が何ヶ所もありました。ところが豊岡市が国土交通省豊岡河川国道事務所(豊岡市)から午後4時の観測データを受け取ったときには、警戒水位(4.5m)を超えていて、危険水位(6.5m)をも超える予測が出ていたのです。市はこの予測を受け、特別養護老人ホームには避難準備を呼びかける行動をとりましたが、他の住民への呼びかけは行いませんでした。 避難準備情報とは?  先の検討会でまとめられた「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」では、各市町村に、障害者市民・高齢者など避難により多くの時間やサポートを必要とする人たちに、早い段階で確実に避難情報を伝えられるように、あらかじめ基準や方法を定めたマニュアルを作成することをうながしています。  また2005年の水防法改正で、国は住民に危険を知らせる情報について整備しました。  主な改正点は次のとおりです。 @近年、国土交通省が指定していない中小河川の氾濫が続いていることから、中小河川を水防法の対象とする。 A中小河川には、国土交通省指定の河川で設けられている「危険水位」に相当するものが定められてないため、あらたに「特別警戒水位」を義務づける。 Bハザードマップの作成と公表を義務づける。  水防法改正のAによって三条市のような避難準備情報の基準づくりはより明確になるはずです。  ただ特別警戒水位は法律で定められたものですが、避難準備情報は避難勧告や避難指示と違い、法律で義務づけられたものではありません。そのため、まだ具体的な発令基準を定めていない市町村もあります。2004年に台風23号による被害を受けた豊岡市、2005年に台風14号による被害を受けた宮崎市は、水害後に避難情報発令基準を明確にするとともに発令方法の見直しを行いました。災害後ではなく、水害の可能性がある市町村では早急に基準づくりをする必要があります。  このように避難勧告よりも早く危険を知らせる情報を出すのは @準備を早い段階でできる。 Aサポートなどを頼む余裕ができる。 B電話、携帯電話、ファクスなど情報機器がまだ不通になっていない可能性が高く、連絡がとりやすい。 C道路が冠水していない段階で避難行動をとれる可能性が高い。 などのメリットがあります。  ただその一方で @予想される災害の発生は不確実な部分が多く、避難行動が空振りとなる可能性が高い。 A空振りの情報が続くと行政に苦情を言う人が出てきたり、行政が苦情を恐れて避難準備情報を出すのをためらうことが考えられる。 などのデメリットもあります。  避難情報については、空振りを恐れて情報が遅れるよりも「何もなくてよかった」いえるくらいの余裕が必要です。  市町村では避難準備情報の基準をつくるとともに、避難準備情報がどのようなものなのかを障害者市民や高齢者をはじめ、一般市民に広く知らせる必要があります。 ===表1=== 避難情報三類型の避難勧告等一覧 避難準備(要援護者避難)情報  発令時の状況 ・要援護者等、特に避難行動に時間を要する者が避難行動を開始しなければならない段階であり、人的被害の発生する可能性が高まった状況 住民に求める行動 ・要援護者等、特に避難行動に時間を要する者は、計画された避難場所への避難行動を開始(避難支援者は支援行動を開始) ・ 上記以外の者は、家族等との連絡、非常用持出品の用意等、避難準備を開始 避難勧告 発令時の状況 ・通常の避難行動ができる者が避難行動を開始しなければならない段階であり、人的被害の発生する可能性が明らかに高まった状況 住民に求める行動 ・通常の避難行動ができる者は、計画された避難場所等への避難行動を開始 避難指示 発令時の状況 ・前兆現象の発生や、現在の切迫した状況から、人的被害の発生する危険性が非常に高いと判断された状況 ・堤防の隣接地等、地域の特性等から人的被害の発生する危険性が非常に高いと判断された状況 住民に求める行動 ・避難勧告等の発令後で避難中の住民は、確実な避難行動を直ちに完了 ・未だ避難していない対象住民は、直ちに避難行動に移るとともに、そのいとまがない場合は生命を守る最低限の行動 自然現象のため不測の事態等も想定されることから、避難行動は、計画された避難場所等に避難することが必ずしも適切ではなく、事態の切迫した状況等に応じて、自宅や隣接建物の2階等に避難することもある。 用 避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(2005年3月) 集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会 ========== 避難準備情報発令は対象地域全世帯に伝達を  避難準備情報は障害者市民や高齢者を対象につくられた制度ですが、その情報は避難が必要と予測される地域の全ての世帯に伝えるべきです。  2005年に避難準備情報がガイドラインに盛り込まれて以降、初めて実際に発令した三条市や長岡市でも、対象となる地域の全ての世帯に伝えています。  川が氾濫する恐れがあるところでは、防災無線が設置してある場合もありますが、そうでない場合には、自治会を通じた連絡網、市の広報車利用、民生委員を通じての連絡、テレビやラジオ、ミニFMなどマスコミの利用が一般的です。ただ大雨の場合は広報車や屋外設置のスピーカは聴きとれないことが多いので、他の手法を併用することが必要です。  自治会を単位として連絡網をつくり、電話や訪問で確実に伝えることを決めているところもあります。また聴覚や視覚に障害がある市民に、ファクスや携帯電話を利用して情報を伝えることを決めているところもあります。障害者市民を含め住民の声をよく聞き、避難情報が確実に伝わる方法を準備することが必要です。  また大雨による被害を少なくするために避難準備情報をはじめ、避難情報を知らせるときには、避難準備情報の基準づくりだけでなく、避難をうながす体制も明確に決める必要があります。水害においては災害が起きる前の警戒体制が非常に重要です。川の水位だけでなく、土砂災害では総雨量によって「避難準備」をうながすことも必要です。大雨による「災害警戒本部」設置は法律による義務付けがないため、設置基準を定めているところといないところがあります。  2004年に台風23号の被害にあった豊岡市では、合併による広域化の弊害を防ぐために、避難をうながす情報を出すかどうかの判断が、市長ではなく支所長でできるように見直すととともに、支所単位で警戒本部を設置できるようにしました。 水防法改正で福祉施設への連絡が義務化  また障害者市民を含む個人世帯だけでなく、さまざまな障害者拠点などへの連絡も重要です。2005年の水防法の改正で、市町村は「高齢者・障害者・乳幼児施設等防災上配慮を必要とする人たちが利用する施設を事前に把握して地域防災計画に明記し、いざというときに連絡すること」となっています。  社会福祉法人が運営する施設だけでなく、小規模な無認可の障害者拠点も含めてきちんと連絡がとれる仕組みが必要です。また、最近はグループホームなどの福祉拠点が年々増加しており、こういったところにも確実に情報が届くようにしなければなりません。  さらにそのような施設だけでなく、水害が予想される地域にヘルパーを派遣している事業所など、障害者関係団体への連絡体制を整えておくことも重要です。対象区域外にヘルパー派遣事業所が存在する場合もあるので、事前に把握しておき、連絡を徹底すべきです。 避難準備情報によって安全な避難行動を  避難勧告が発令されても、災害が起きずに、避難が空振りに終わることはよくあります。災害に対する予測は、早い段階で行うほど、精度が落ちてしまいます。避難準備情報は、避難勧告よりも空振りが多くなる代わりに、災害に対しての準備時間が確保できます。  「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」によると、避難準備情報が発令された場合、「要援護者は(中略)避難を開始」「上記以外の者は(中略)避難準備を開始」とあります。つまり「避難準備情報」は、一般の人たちにとっては準備情報ですが、障害者市民や高齢者にとっては、準備ではなく避難勧告となっています。  しかし障害者市民や高齢者に限らず、どの段階で避難を開始するかは、地域や家庭の状況を考え、あらかじめ決めておくことが必要です。例えば、避難勧告が出た時点で、すでに道路が冠水しているような状況では、車による避難は危険です。避難勧告が出ているかどうかに関わらず、気象情報などに注意しながら、道路が冠水していない早い段階で避難をすることが大切です。また避難準備情報が出た後、夜中に避難勧告が出る可能性がある場合は、夜間や浸水後の避難は危険ですから、空振りを恐れずに早めに避難する必要があります。天候状況や時間帯、避難所までの距離、ハザードマップによる災害予測などを考慮して、避難勧告が出る前に避難したほうがよいということは、乳幼児のいる家庭などはもちろん、どのような人にもあります。障害者市民や高齢者だけが、早めの避難が必要ということではありません。  行政は、河川の水位だけにとらわれず、時間帯や道路の冠水状況も配慮して、早めに避難をうながす体制をとることが必要です。  ただし障害者市民や高齢者にとって、避難所は段差が多かったり、室温調整が難しかったりというように、大きな負担がかかる場所です。空振りによる肉体的、精神的負担を少しでも和らげるためには、避難情報の伝達方法と避難所の改善は同時に考えなければなりません。 まずはヘルパー派遣と移送サービスの保障を  障害者市民が避難準備を進める上で課題となるのは、緊急の持ち出し品を準備したり、服装を整えたりするための支援者と、避難所へ移動するための送迎用の車の手配など移動支援です。  避難準備をするための支援者がいなかったり、車による避難所への移動ができなかったりする人の場合は、介護サービス事業所からのヘルパー派遣や移送サービス、あるいはふだん利用している作業所などからの支援を受けるという手段が考えられます。  ただ、ヘルパー派遣や移動介護はあらかじめ利用できる時間が定められており、避難準備情報が発令されたときにヘルパー派遣や移動介護を求めた場合、利用限度を超えてしまうこともあります。その場合に、平時のサービスとは別枠で利用できるよう、行政として保障すべきです。 支援や避難所についての協定づくりを  新潟県中越地震では阪神・淡路大震災のときとは違い、民間の介護サービス事業者が介護保険制度を利用して、避難所での介護を担っていました。  消防活動においては消防団という非常備消防に対して、火災時だけでなく平時でも年間報酬があり、訓練、警戒などの出場に手当てが加算される仕組みがあります。  行政はヘルパー派遣事業所や、福祉施設や、作業所、グループホームなど日頃障害者市民が利用しているところと「災害時における協定」を結んでおき、障害者市民の避難行動を支える活動にお金を出す仕組みをつくることが必要です。  障害者市民にとっては、近所の人に避難所へ送迎してもらうよりも、ある程度慣れた人に介護をしてもらうほうが負担が少ないはずです。また、現在行政が指定している避難所は、障害者市民が利用できるように改善されていない場合もあるため、日頃よく利用する場所や安心できる場所で過ごせるように、障害者市民が福祉避難所を指定しておくことも大切です。  避難準備情報の発令基準を明確にするとともに、避難の準備や避難先への移動、避難所の問題で、障害者市民が避難をためらうことがないようにする必要があります。 提言3 頼りになるのはお隣りさんとふだんのおつきあい 障害者市民などの支援には、地域ネットワークとともに ふだんの介護・福祉サービスのつながりを活用してください。 災害時の初期対応は地域の力で  洪水や大地震で避難が必要なときに、自力では移動ができないため、サポート体制を整備してほしいという声は多くあります。 ●避難所まで遠すぎて、自力での移動は困難。各自治会あるいは民生委員等でサポート体制を構築しておいて欲しい。 ●家族に複数の障害がある人がいることも想定されるので、複数者のサポートを求めたい。改善策として地域住民へのアピールが必要と考えるが、個々の考え方が優先される。 ●地域とのつながりが薄く孤立しやすい。当事者のみでの避難には限界があると思う。つながりをサポートできるセンターが必要。 ●おおかたは介護者がいるので対応できるが夜間は介護者なしなので困る。 ゆめ風アンケート  洪水時は、自宅を含めた付近一帯に浸水の可能性があるので、避難勧告が出された場合は速やかに避難所へ避難する必要があります。ふだんは自力で移動をしている障害者市民でも、災害時には道路の冠水や大雨で、自力による避難ができなくなることもあります。  大地震発生時は、近くの広場など安全な場所へ避難することができれば、しばらく様子を見る余裕がもてます。しかし、火災が発生したり、家具の転倒で動けなくなる、また地震による建物のゆがみでドアが開かなくて、外へ出られないなどの状況が起こる可能性があり、やはり身近な人による支援体制を準備していたほうがよいといえます。  実際に阪神・淡路大震災では、自力脱出が困難であった人の8割近くが近隣の人の救出活動で助けられています。自宅から出られなくなり、大声を出したり、何かを叩いたりして自分の存在を知らせ、救出してもらった例が多くありました。現在はそういうときに笛やブザーで音を出し、居場所を知らせる防災グッズも考えられています。  大地震のときには、電気、水道、ガスなどのライフラインがストップし、食事や水分を摂ることも困難になります。行政や外部からの物資調達には2〜3日かかるため、当面の生活を自力、もしくは近所の助け合いなどで、維持することが必要となります。  大災害時には行政として支援できることが限られていることから、自主防災組織を立ち上げる動きが広まっています。自主防災組織は自治会を利用していることが多く、全国の6割の地域で設置されているということです。ただ現在は自治会活動も低下していて、自主防災組織が形だけになっているところも少なくありません。 ===コラム=== 障害者市民のための防災グッズ「笛」  どこにいるのかわからない相手に、自分の居場所をわかってもらえます。障害がある人、ない人、誰が使っても便利なものです。それほど多くのメッセージは入れられないかもしれませんが、自分の居場所を知らせた上に、最低限のメッセージ、例えば「電話をして下さい」「病院に連れて行ってください」「家族に連絡してください」「私は耳が聞こえません」「私は言語に障害があります」など、自分にあったいくつかのメッセージが、スライド式の窓から表示されれば、かなり便利なのではないかと思ったのです。 ゆめ風基金「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」応募作品 松浦 幸代(静岡) ========== 支援のための登録制度。機能しなかった例も!  洪水の際に高齢者や障害者市民の逃げ遅れが多かったことから、国は避難情報の出し方を整理するとともに、市町村が災害時に支援を必要とする障害者市民・高齢者の情報を把握し、避難支援に役立てるようにと「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を2005年3月に作成しました。災害時に支援が必要な高齢者や障害者市民の情報を行政に登録してもらい、民生委員や自主防災組織を通じて支援を行うものです。  「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」には  要援護者に関する情報(住居、情報伝達体制、必要な支援内容等)を平時から電子データ、ファイル等で管理するとともに、一人ひとりの要援護者に対して複数の避難支援者を定める等、具体的な避難支援計画(「避難支援プラン」と称する)を策定しておくことが必要である。発災時においては、避難支援プラン等を基に計画的組織的な避難支援を実施するべきである。 とあります。災害時に支援が必要な高齢者や障害者市民の情報を行政に登録してもらい、民生委員や自主防災組織を通じて支援を行うものです。  市町村としては、要援護者情報を把握し、自主防災組織につなげていくことは、プライバシーの問題があり、登録を躊躇している自治体が多いのが現状です。しかしそれよりも問題なのは、登録制度があったにもかかわらず、災害時に機能しなかった事例があることです。  これまでの災害で災害時要援護者の登録による支援体制が機能しなかった事例として ○消防局で火災や地震・大雨などの災害が発生したとき、自力で避難が困難な人をすみやかに救出するため、「災害弱者情報管理事業」を行い、要支援者の登録をしていたが、災害時には電話が殺到し、登録者への避難支援が遅れた。 (水害・宮崎市 2005年) ○ファクスで連絡をとって、互いに確認する予定だったが、停電でファクスが使えなくなってしまい、情報のやり取りができなかった。 (水害・豊岡市 2004年) ○連絡体制や支援のあり方の具体的な方法が決められていなかったため、避難支援が遅れた。 (水害・杉並区 2005年) などが新聞報道で知らされています。  消防署への登録は、火災発生や救急車を要請するときには役立つかもしれませんが、自然災害のような広範囲な災害のときには、救出を求める電話が殺到し、対応できません。  また、台風や大地震のときには停電は予想されることであり、その際にどうするかという取り決めが必要です。  杉並区の例は地震しか想定していなかったため、水害で機能しなかったというものです。 災害支援ならば、プライバシーは守られない?  「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」では災害時要援護者把握について3つの方法をあげています。 @同意方式…福祉関係者などが直接訪問し、登録等について同意をとる。 A手上げ方式…郵送などにより案内を行い、当事者の申請によって登録を行う。 B共有情報方式…平時から福祉関係部局が保有する情報を防災関係部局などが共有する(個人情報保護条例の例外規定として整理が必要)。  2005年のガイドラインでは、B共有情報方式は、本人同意がないため、情報を活用できる人が自治体職員に限られていました。  2006年にこのガイドラインは改正され、共有情報方式の積極的活用が示され、プライバシーについては  国の行政機関に摘要される「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」では、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるときに、保有個人情報の目的外利用、提供ができる場合があることを参考にしつつ積極的に取り組むこと。  その際、避難支援に直接関わる民生委員、自主防災組織等の第三者への要援護者情報の提供については、情報提供の際、条例や契約、誓約書の提出等を活用して、要援護者情報を受ける側の守秘義務を確保することが重要である。このことにより、個人情報の取扱い制度への信頼も高まり、要援護者情報の共有も進んでいくことに留意する。  として、本人同意が無くても「明らかに本人の利益につながる」ことを理由に、民生委員や自主防災組織などの第三者への情報提供ができることを示しました。  市町村の個人情報取り扱いは、それぞれの市町村で制定した個人情報保護条例で定められています(個人情報保護法は民間の個人情報の取り扱いを規定)。  個人情報保護条例では、個人の情報を集めるときには、事前に目的を明らかにするとともに、本人から直接情報を集めることが決められています。必要以上の情報を集めたり、本人の同意を得ずに、別の目的に情報を利用することは禁止されています。  災害のときに、支援を目的として福祉部などが持っている情報を利用するのは、個人情報保護の例外として認められるとするのが、国の見解です。  「命に関わる問題だから、プライバシーのことは言っていられない」という意見はよく聞かれます。しかし命を守る手段が何なのか、誰が何をするためなのか、プライバシーを守ることと命を守ることは両立できないのかが、はっきりとしていません。  不必要に多くの情報を集めたり、個人情報を共有をしていたりする例があり、改善が必要です。 何のために、どんな情報が必要かを はっきりさせる  災害による避難の必要性が生じたときに、障害者市民を支える地域の仕組みとしては @自治会・消防団など近隣者 A障害者作業所や福祉施設など日頃通っている施設・事業所の職員 B自立支援法や介護保険法による介護・福祉サービス提供事業者 C障害者市民の場合は地域生活支援センター、高齢者では地域包括支援センターなどの相談・生活支援機関 D社会福祉協議会などのボランティア などが考えられます。  障害者市民にとって、災害時に必要な支援は @避難をうながす情報の伝達手段の確保 A避難所までの移動手段の確保 B避難期間の生活支援 C特別な医療を受けている場合は、医療支援 です。  「災害時要援護者」という用語には、これらの具体的な支援を必要とする人たちだけなく、「災害時に安否確認が必要な人」も含まれています。具体的な支援を行うにあたって、支援を必要とする人、必要な情報、情報を共有すべき人は、非常に限定されたものです。しかし「安否確認」を目的として登録を進めているところでは対象者が広範囲になっていると同時に、多くの人の名簿が、広範囲な人に共有されている状態にあります。 @情報伝達手段では、聴覚・視覚に障害がある人を行政が把握し、FAX・メール(音声対応含む)、インターネット、災害情報ダイヤルなど複数の手段で情報を送る取り決めが必要です。停電により、連絡が取れなかった場合には、支援者を決めておき、支援者が連絡する場合もあります。  必要な情報…住所、名前、障害種別、情報の伝え方  名簿の共有…行政と支援者 A移動手段の確保では、家族や本人だけで災害時に移動が難しい人が対象となりますが、日頃通っている作業所やサービス提供を受けている事業者、友人・知人に移動支援が頼める人は対象からはずれます。行政との連携で、支援者を探してほしい人が登録することになります。  必要な情報…住所、名前、移動支援についての注意事項  名簿の共有…行政と支援者 B避難期間(災害直後の短期間)の生活支援では、生活介助のほか、移動困難な人が食料、水、物資などの供給を受けるときの運搬支援、視覚・聴覚・知的障害者には情報伝達支援も必要です。重たい水を運ぶことは、身体障害者手帳3級・4級といった障害程度が軽いと考えられている人でも支援が必要になります。  対象となる範囲はAよりも広がりますが、Aと同様、日頃通っている作業所やサービス提供を受けている事業者、家族や友人・知人に支援を頼める人は対象からはずれます。  登録情報…住所、名前、必要と考えられる支援の内容  情報共有者…行政と支援者 C特別な医療を受けている人の支援とは、毎日欠かすことのできない常備薬を必要としている人や、人工透析など定期的に医療機関に通わないと生命に関わる人、経管栄養を行っていたりする人です。  地域の人よりも、保健所などの専門家が調整に関われる体制が必要です。  登録情報…住所、名前、障害種別、必要な医療支援の内容  情報共有者…行政と保健所  登録において、家族構成や障害種別、障害等級のほか、主治医や診察の頻度、消火器設置や喫煙状況まで尋ねている事例がありますが、住所、氏名、支援が必要な理由がわかっていれば、支援を必要とする人と支援者が面接することで、支援に必要な情報は得られるはずです。  警察、消防、民生委員、自治会長(自主防災組織会長)が、情報を共有する必要性は、上記の@〜Cにおいてはないと考えます。  安否確認については先に述べたように、対象者、情報共有者が広がりますが、介護・福祉サービスを受けている人は、サービスを提供している事業所が行うなど、日常の関わりを優先すべきです。そのような関わりのない人の場合、「災害時に同意を得た人に限って名簿を提供する」ようにし、日常ではプライバシーを守ることが大切です。  情報共有の同意については、災害時、平常時に誰に名簿を提供するかを選択できること、またどのような活用をするために名簿の共有をするのかをきちんと説明する責任が行政にあるはずです。現状ではこれらの点が非常に曖昧です。  また、登録を必要としているのが誰かという絞りこみも、具体的に支援できる内容によって変わります。障害者市民についての登録の範囲を「療育手帳A(重度判定者)、身体障害者1・2級」としても、手帳の等級と災害時の支援の必要性は必ずしも一致しません。身体障害者手帳、療育手帳による判定を「災害時要援護者」の対象とするのは適当ではありません。行政として支援できる内容を明らかにし、当事者団体と十分協議して、登録する内容や登録の方法を決める必要があります。 今ある介護・福祉サービスを最大限利用する  介護保険制度や自立支援法の中で、日頃介護・福祉サービスが必要な人は、行政の申請窓口、認定調査員、サービス提供事業者、ケアマネージャーとの関わりを持っています。  また2006年から介護保険制度において「地域包括支援センター」が設置されることになり、現時点では介護サービスを必要としていなくても、近い将来に介護サービスが必要になる可能性が高い高齢者を把握することとと介護予防を行うことが義務づけられました。  他にも一人暮らしの高齢者への訪問活動や配食サービス、まちかどデイサービス事業、障害者市民の相談事業など市町村や社会福祉協議会独自にサービスを展開しているところもあります。  このようなふだん障害者市民・高齢者と関わりのあるところに、災害時に特別な支援を必要とするかどうか、登録制度を希望するかという調査の協力を求めることが最善です。  介護保険法や自立支援法による介護・福祉サービスを受けている人の場合は、ケアマネージャーなどサービス提供事業者が調査協力するとともに、災害時にどう行動するか、避難所までの移動をどう行うかなど、障害者自身の災害時の支援のあり方を決める個別計画についても、サービス提供事業者がアドバイス役になることが考えられます。  ケアマネージャーを中心としたサービス提供事業者が災害時の支援計画をつくるメリットは @家族構成や緊急連絡先、通院状況、現在受けている福祉サービスなど基礎的な情報を既にもっている。 A災害発生前(水害)や災害直後にヘルパー派遣をしたり、デイサービスを避難所に提供したりするなど、緊急時に専門的な福祉サービスを提供できる。また、災害によるサービス提供中断をできるだけ防ぐことができる。 Bリフトカーを持っていることが多く、車イス利用者の送迎が可能。 C日頃からつき合いのある関係で、信頼関係があり、情報の更新も行いやすい。 などです。デメリットは @自治会や自主防災組織など地域とのつながりがうすい。 A指定避難所や洪水ハザードマップなど、防災に関する情報や知識が十分にない。 B介護保険や自立支援事業など、本来業務に上乗せされる業務は負担が重くなる。また業務に対する補助金制度がない。 ことです。  一人暮らしの高齢者は、地域包括支援センターで、また精神障害者は保健所や地域生活支援センターなどで、支援計画をつくることも考えられます。  しかし障害者市民や高齢者の中には、このような地域のネットワークに入っておらず、地域から孤立している人もいます。  高齢者では地域包括支援センターのように、今後介護サービスを必要とする可能性がある人の掘り起こしを行う仕組みがありますが、障害者市民にはこのような機関がありません。  福祉部局では、障害者手帳所持者名簿と自立支援法などによる福祉サービス利用者名簿から、ふだん何もサービスを利用していない障害者の把握ができるはずです。このような人たちを対象に、新たに「防災アドバイザー」 のような制度を設けたり、民生委員の情報をもとに、ニーズの把握に努めるべきです。  地域全体の取り組みを進めるために  登録していなくても、災害時に家具が倒れて、自力で脱出したり、避難所へ移動したりすることが困難になる人はいます。  また、災害時の避難所の運営は地元住民が行うことになっています。  大災害時には行政ができることは限られているので、さまざまな面で地域の安全は地域の手で守る必要があります。  避難情報伝達から、避難方法、近隣の人たちの安否確認や避難所の運営に関して、どのような方法で行うのか、地域住民が日頃から話し合い、具体的な訓練をしながら、改善策を模索することが、大規模な自然災害の発生に備えて求められています。  そのためには、行政が果たすべき役割や行政としてできることをはっきりさせ、どういった部分を地域住民が果たさなければならないのか、周知させておく必要があります。 ===コラム=== 背負子でラクラク避難  私の場合、慢性関節リウマチで1級の障害を抱え、両膝と右股関節に人工関節が入っているため、「おんぶ」や「抱っこ」といった姿勢では、痛みなどの苦痛を伴うので、とても移動はできません。万が一の災害のことを考えると、とても不安です。そんな中で私なりにこんなものがあったら便利だなぁと思ったものをご紹介します。 <背負子の条件> @丈夫で軽量、持運びに便利なもの A折りたたみ式で、保管に便利なもの B雨・風・雪・火山灰・火の粉などから身を守るカバーつきのもの <保管場所> ◎背負子を必要とする障害者世帯 ◎福祉施設・行政機関・職場・学校・駅・病院・スーパー・デパートなど <行政への提言> ◎背負子を購入するにあたって、背負子を必要とする障害者世帯に、無償で貸し出して頂くか、または一部負担して頂けたら購入しやすく、大変ありがたいと思います。どうぞよろしくお願いします。 ゆめ風基金「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」応募作品 深澤 香世子 千津子(静岡) ========== ===コラム=== おぶいひもつくっちゃいました ☆制作費は0円 綿のベッドカバーやシーツを利用します。 ハリガネハンガーを曲げてラップなどの芯にそのひもを巻きます。 ☆避難袋に入れない 枕もとにつるしてトイレットペーパーのようにクルクル巻きました。数秒で利用することができます。 ☆使い方いろいろ 大人でもおぶうことができる ・タンカーから落ちないよう、しばる ・2Fから避難する時、ロープ代わりにする。 シーツをたてに折りたたんだ状態でホルダーに巻きつけます。 おびやロープ代わりはもちろん避難所でのシート代わりやカーテン、防寒にも。 切れば三角布、タオル代わりなどぐんと利用の巾が拡がります。 ゆめ風基金「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」応募作品 溝口 千津子(静岡) ========== ===コラム=== 地域の中学生は頼りになる  10周年を迎えた「ゆめ風基金」が公募した「防災アイデア・コンテスト」の応募作品の中に、「小学5・6年生&中学生、防災運動」というのがあったそういえばNHKの『ご近所の底力』という番組で、東村山市のある中学校の実践が紹介されていたのを思い出す。それは中学校の取り組みというより、PTAも参加しての地域ぐるみの取組みであった。  それは緊急時に備えて、中学生たちが授業の一環として人工呼吸の方法などを教わったり、自分たちが着ているTシャツを素早く脱ぎ、3枚を並べて左右の袖に2本の棒を通すと、またたく間に簡単な担架ができ、側で横たわっている人(負傷者)を見事に運んたのだった。グループに分かれて競走しているように思えた。  なにより、その作業をしている中学生の表情が印象的だった。人(他者)の役に立つことがこんなにも喜びにあふれた表情をつくり出し、充実感を与えるものなのか、を感じさせるものだった。てきぱきと人工呼吸に励む仕草といい、担架で負傷者を運ぶ素早さといい、行動の全てがいきいきしていたのだった。  なぜ、中学生なのか?地域には働き盛りの大人はもちろん、若者も大学生も高校生も居る。だがそれらの人たちのほとんどは昼間の間、地域に居ない。そこで、地域をよく知り、体力もあって頼りになるのは中学生(特に3年生)というわけである。ふだんから障害者市民や高齢者など、緊急時に人手が必要な人たちと付き合っておれば、いざっ、というとき頼りになる。  こうした活動を積極的に担ってもらうには、学校やPTAはもちろんのこと、地域の大人たちをはじめとする関係機関(役所、警察、消防、日赤、ボランティア団体など)の協力が不可欠である。それは「協力」という形より、お互いの特徴を活かした「協働」の具体的な姿だと思う。  前述した『ご近所の底力』での東村山市のある中学校では、PTAの数名が消防署などで人工呼吸の講習を受け、リーダーの資格をとり、その知識と技能を中学生たちに伝授していた。人工呼吸はマネキン人形を使った本格的なもので、教わる中学生の動きはキビキビと自信に満ちて、既に数回の講習を受けていることを感じさせた。。 防災アイデアコンテストの審査会では、ある委員から「関東ではすでに広がりつつある」との発言が出て、この「小学5・6年生&中学生、防災運動」は選外になったが、関西の中学校には未だにその気配がない。二番煎じでも三番煎じでも、いいものはいい。「真似です」と断った上で、地域で中学生たちに活躍してもらいたい。すぐに実践に移したいと思う。  さっそく「ゆめ風基金」で呼びかけを始めた。すぐにボランティアセンターや日本赤十字社の関連組織から協力が得られ、また建築士のボランティアグループ、障害者市民とボランティアの協働組織も加わり、準備会が発足したところである。  中学生との学習は楽しくやりたい。例えば「ふろしき」、ただ一枚の四角形の布。畳むとカサは小さなものになる。けれど丸く大きなサッカーボールも包めるし、1.8リットル瓶も2本運ぶことができる、というスグレモノ。1本の紐、縄も結び方によって、さまざまな用途に使われている。こうした昔の人たちの「暮らしの知恵」を中学生たちに伝授したい。  そんな学びのひとつが人工呼吸のやり方であり、ふだん着を利用しての担架というわけである。楽しく学び、日々のくらしを見直していく中学生の頭の中に、同じ地域で暮らす障害者市民や高齢者が「気になる人」として存在していることを願っている。  日本全国では「地域」といっても、ずいぶん異なるだろう。中学校区の広さも生徒数もまちまちで地域活動が難しいところもあるだろう。しかし、「中学生の力は地域の財産」「中学生は頼りになる」という考え方は、どのような地域でも活かされると思う。それぞれの地域で、それぞれの活動からアイデア交換できるネットワークが張り巡らされることを夢見ている。 ゆめ風基金 ========== ===コラム==== ご近所ささえ隊 ◎『ご近所ささえ隊』とは・・・? 生活に何らかのハンディキャップをもつ人(心身の機能的な障害をもつ方に限定しない)を中心に、一家族(世帯)を単位として近隣者のグループ(5〜10名程度)をつくる。 特に、災害時等において支援が必要な方が生活する家庭を含む「ご近所ささえ隊」には、表札や玄関など見やすいところに、グループ毎に同色の目印(花の飾り物、郵便受けを同色(※赤色は避ける)にするなど)を日頃からつけておく。 ☆「ご近所ささえ隊」の取り組み @「ささえ隊」連絡網の作成・・・具体的な連絡方法(電話の使用が無理な場合は伝言するなど)も明記。 → ささえ隊のメンバー各家庭に掲示。 A「ご近所防災マップ」の作成・・・危険箇所や地域の資源(災害時に活用できるもの)など避難場所も含めた防災マップを作成。 B「避難場所」の整備・・・安全が確保された、身近な場所を設定し、日頃から、非常時の生活必需品を備 蓄し定期的に確認(点検)する。    → 防災マップに明記する。 C「お茶飲み会」の開催・・・定期的(月1回程度)な顔合わせにより情報交換やささえ合いの関係づくりを図る。会場は、メンバーの自宅や避難場所などを利用する。    → 連絡網、緊急連絡カード、防災マップ、避難場所などの確認も同時におこなう。 D「防災訓練」の実施・・・地震や風水害などその都度擬似災害を設定。 避難(声かけや誘導など)の手順やその際の連絡方法などを確認し、ささえ隊の活動についてメンバー内で共通認識を図る。    → 「お茶飲み会」と同時に開催するのもよい。 ☆各家庭での申し合わせ  @非常持ち出し品の準備(貴重品など最小限度のもの・・・介護用品や自助具等も含む)  A緊急連絡カードの作成・・・特に単身世帯などは、被災時(緊急時)の連絡先を記入する。  また、「誰が連絡するか」も明記しておく。  ※@、Aについては、ささえ隊のメンバーが相互にサポートしながら準備し、可能な範囲で各メンバーの生活状況をはじめ@、Aの内容も共有しておく。 ☆これらの申し合わせが地域内に浸透するようわかりやすい手引き(マニュアル)を作成し、各家庭や避難場所に常備する。 ☆広域での同時展開は困難と思われるので、数ヵ所の「モデル地区」の指定からスタートする。 障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト応募作品 社会福祉法人美祢市社会福祉協議会(山口)  ==========     提言4 支援はおしつけないで、私ぬきには決めないで 災害時の障害者市民への支援計画を当事者がいないところで決めないでください。 災害時の支援マニュアルに 当事者参加がないものが多い  障害者市民のための支援マニュアルが、都道府県や市町村などの自治体で整備されつつあります。まず阪神・淡路大震災をきっかけに兵庫県が作成した「災害弱者支援マニュアル」を参考に、他の都道府県でも同様のマニュアルづくりが進み始めました。その後2005年に国が「災害時要援護者の支援ガイドライン」を作成したことで、全国的にその動きが広がりました。  しかし、作成の過程に当事者の参加がない場合が多くあります。 ●防災計画の作成にあたっては常に障害当事者団体も委員として参画する必要があると考えるし、強くそれを望んでいる。 ●防災計画に障害者を入れていく計画作成はもちろんのこと、例えば防災グッズのデザインや仮設住宅を建てる際にぜひとも当事者の声を聴いてほしいと思います。 ●防災計画に障害当事者も参加の上で会議を開いてもらいたい。一度、避難所まで歩いてみたい。 ●市としてのマニュアルづくりやマップづくりに参加させてほしい。 ゆめ風アンケート  災害時に支援が必要な人たちへの支援計画は、市町村が避難情報伝達から、避難誘導、避難所・仮設住宅整備など全体としてどう取り組むかを示した「全体計画」と、一人ひとりの支援について誰が避難誘導の支援を行うかなどを定めておく「個別計画」があります。個別計画は「支援プラン」または「防災カルテ」などと呼ばれることもあります。  障害者市民に関わる政策を決めたり、計画づくりをするときに、当事者参加を原則にすることは災害に限らず、すべての分野でいえることです。  当事者参加がないままに計画をつくると、保護的な色合いが強くなったり、障害者市民の生活や実情とあわないことが多くなります。  計画づくりから当事者が参加し、災害に対する備えをしておくことは大変重要です。 個別計画は 障害者市民だけに必要なものではない  障害者市民に限らず、自分の住んでいる地域の災害の危険性や、災害に対する家屋の危険性などを事前に知ることや、災害が起きる前に何を準備しておき、災害が起きたらどのように行動するのかを事前に決めておくことは必要です。  ここでは災害についての危険性を防災診断、避難行動の計画を避難計画と呼ぶことにします。また防災診断、避難計画をつくるときに課題が出てきた場合(家屋の耐震改修が必要など)は、防災計画として考えていくことにします。  防災診断では @水害の危険性…住居地に河川の氾濫などによる危険性があるかどうかを洪水ハザードマップで調べる。 A水害に対する家屋の危険性…水害が起きた場合、予想される水深と家屋の高さの関係。堤防との距離。 B大地震おける家屋の危険性…必要に応じて耐震診断を受ける。 C大地震における家具の危険性…転倒すると危険な家具がないか、転倒防止の措置がとられているか。 D避難経路に関する危険性…避難所に行く経路で、水害で冠水しやすい道路がないか、地震で倒壊しやすいプロック塀がないかを点検する。 Eその他予想される自然災害の危険性…津波や豪雪についての危険性。  避難計画では @水害の対応…水害による危険が予想される場合、どのような情報をもとに避難準備を行い、避難を決定するか。 A大地震の対応…避難が必要になった場合に、火の始末などすべきこと、連絡をしておかなければならないところのチェック。 B避難場所。 C持ち出し品、備蓄品のチェック…定期的に点検必要。 D緊急時の連絡方法…外出している家族がいる場合など、連絡がとれないときの集合場所を決めておく。 E避難所での役割…自主防災組織で避難所を運営する時、担っている役割があれば記載。 F医療や福祉サービスに関し必要な情報。 Gその他注意事項。  防災計画には防災診断で点検できていないことを、いつまでにチェックするか、危険と思われる場所の改善、回避が将来的に可能な場合は目標を定めて記入します。  このような防災診断、避難計画、防災計画を個人でつくるのは、きっかけがないとなかなか難しいことだと思います。  地域単位で防災に関する学習会を開き、地域の住民だけでなく、その地域に関わる介護・福祉サービス事業者や障害者作業所なども交えて、みんなで共につくっていくことが必要です。 当事者参加は、点検・訓練にも  支援計画づくりに障害者市民が参加しているところでは、その過程で、避難方法や避難所などの検証の必要性を感じ、当事者参加で避難所のチェックを行ったり、避難所を利用した避難訓練をするようになった例(山梨県など)もあります。  毎年9月の防災の日に、各市町村では防災訓練が行われていますが、まだ多くの防災訓練は、復旧活動や消火、救助、避難訓練といったものが主体で型通りにしか取り組まれていないようです。大災害のときには、さまざまなマニュアルが役立たないことが多いといわれてます。しかし基本的なマニュアルを作成し、マニュアルの検証を行い、想定外のことを減らす努力が必要です。その上で、マニュアルにないことは、現場の判断に任し、柔軟に対応していくことが必要です。マニュアルを検証するときも、障害者市民が参加し、実際に体験して、問題がないか調べるなど、さまざまな工夫を凝らした防災訓練が必要です。  避難所の実体験や地図上訓練(通称DIG=Disaster:災害、Imagination:想像力、Game:ゲームの頭文字)のように具体的な経験や災害のときに起こる出来事をみんなで考えてみる「参加型の防災訓練」も徐々に増えています。しかし、住民の積極的な参加やNPOなどの連携を主体とするような訓練はまだまだ少ないのが現状です。  さらに障害者市民や高齢者など災害時により大きな被害をこうむる人たちへの支援をどうするかを防災訓練で具体的に実施しているところは少ないといえます。 防災とボランティア週間を 全国的な取り組みの日に  9月1日防災の日に加え、阪神・淡路大震災をきっかけとして、「防災とボランティアの日」、「防災とボランティア週間」が毎年1月に設けられ、防災について考えるきっかけが1年に2回になりました。しかし1月17日は阪神・淡路地域での取り組みは続いているものの、全国的な取り組みにはなっていません。  災害は季節を選ばず、時刻も選んではくれません。また日本は、大地震や洪水がいつどこで起こってもおかしくない地質や気候です。1年に2度、防災について強く意識し、考える機会を持つのは重要だと思います。しかし、「防災とボランティアの日」に市町村が防災に取り組んでいる例は、ほとんどないのが現状です。 ●一人暮らし、GH(グループホーム)利用者たちが緊急時の場合、どうしてよいかわからないと思う。地域での避難訓練の機会を増やす努力を自治体がもっと丁寧に実施すべきと思います。 ●避難場所、避難の方法をあらかじめ知っておき、普段に訓練をしてその場所・方法を覚えておかないと災害時に動けないと思う。 ●障害があるために、どのようなことを行うのかわからないし、訓練もなかなか難しい。 ●障害の有無に関らず、地域で協力していく必要があると思います。(防災訓練等)どうしても孤立化してしまっている部分がありますので。 ●当事者の参加はもちろんのこと、各地区において、支援団体や施設、作業所での意見の聞きとり調査や、意見、希望の集約をお願いしたい。 ゆめ風アンケート  災害のときの市民団体と行政の連携、障害者市民への支援策を考えるため、シンポジウムを行ったり、体験型の防災訓練を行うなど、市民を中心とした防災の取り組みを進めるよい機会です。  障害当事者が防災訓練に参加する場合、ボランティアなどの支援者を必要とするし、ボランティアにとっても、ふだんから障害者市民と関わることが災害時に役立つことです。  各地の市町村で「防災とボランティアの日」の取り組みを進めるとともに、その取り組みが、ボランティアだけではなく、障害者市民をはじめ災害に特別な支援を必要とする当事者を中心に据えたものになることが望まれます。 ===コラム=== なぜか、足の不自由な僕がいるクラスは、いつも学校中でトップ!  満1歳のころから右足が動かず、左足は一本足で立てない状態の僕は、10歳まで地面を這っていた。10歳になって父が松葉杖を買ってくれた。初めて立って、初めて歩いた。初めて立ったとき、這いずり回って遊んでいた原っぱの景色がまったく違って見えた。眼の位置が30センチほど高くなっただけなのに。  6歳のときは第2次世界大戦中で、「空襲のとき危ないから]を理由に小学校に入れなかった。3年間待って、9歳の春、小学1年生になった。それからは高校を卒業するまで、だいたい3つ年下がクラスメートだった。僕のできないことを誰もが自然に手伝ってくれた。いじめられて胸がつぶれるような思いをした体験は一度もない。松葉杖を隠したり、歩き方をからかったり、小石をぶつけたりしたのは上級生か、他の学校の生徒たちだった。  高校を出るまでの学校生活では、年に1度か2度、避難訓練があった。サイレンが鳴るやクラス単位で廊下に整列し、運動場へ駆け出すのだが、なぜか僕のクラスは段取りが素早く、誰が僕を背負うか、誰と誰が補佐に回り、誰が松葉杖を持つか、決まっていた。というより、いつも一緒にいると無言で役割分担ができるものなのだ。そんなわけで、いちばん早く運動場に駆けつけていた。運動場で待つ担当の先生が「牧口のいるおまえたちのクラスはビリケツでもおかしくないのに、なぜトップなのだ]と首を傾げていた。クラスメートたちは「さぁ、何ででしょうね」とケロッとしていた。 そう、担任教師が「僕たちのクラスには牧口が・・・」と前もって緊急時の心構えを説いていたわけではない。僕に直接かかわることだけれど、そんな説教を聞かされた記憶はない。おそらくクラスメートそれぞれの心の片隅に僕が居て、知らず知らずのうちに「いざっ、というときには素早く」の心構えが自然に身に付いていたのだと思う。この傾向は中学生になったころから6年間続いた。 (牧口一二・学生時代の体験から) ========== 提言5 緊急時、逃げられるように家の対策 家具の転倒防止や耐震改修助成を制度化してください。 障害者市民・高齢者に多い 住宅倒壊による死亡事故  阪神・淡路大震災では、住宅倒壊による死亡が全体の77%(4,224人)を占めています(1999年厚生省統計)。そのうち高齢者(60才以上)は約6割です。  また神戸市における生活保護受給者の死亡率は一般の人の死亡率の5倍であったといいます(兵庫県震災復興研究センター調査)。  所得の低い人や高齢者は安い賃貸住宅や古い木造家屋など大地震に弱い住宅に住んでいる人たちが多く、住宅の倒壊によって命を失ってしまった人も多くいたのだと思われます。  障害者市民も、高齢者や所得の低い人たちと同じように低家賃の住宅を借りて住んでいる人が多く、震災で住宅を失った人は多くいました。住宅の倒壊による圧死だけでなく、家具の転倒やブロック塀が壊れて下敷きになって死亡したり、負傷した人もたくさんいました。 ●貸し家を利用しているが、家屋の耐震対策および家具等の転倒防止策を考えていただきたい。 ●障害者はなかなか災害時に自ら動くということは難しいと考えます。したがって家そのものが損壊しないような耐震耐火構造などにすることへの支援が大事だと思います。 ●低所得の障害者は老朽化した住宅に住むことが多い。一日も早く耐震性のある公営住宅をそのような人たちに提供できるシステムをつくってほしい。 ゆめ風アンケート  障害者市民は自宅が倒壊する危険性とともに、家具が転倒したときにも自力で脱出できなかったり、逃げ遅れてしまう確率が高くなります。  また命を失わなくても、障害者市民や高齢者は避難所や仮設住宅で多くの困難に遭うとともに、元の生活に戻る経済力がないなどの理由で、仮設住宅などに取り残されてしまいがちです。  大地震が起こってからさまざまな対策を行うよりも、大地震での被害をできるだけ少なくする取り組みのほうが、住民にとっても行政にとってもより有効な手段だと考えます。 進みつつある自治体の耐震助成制度  家具の転倒防止や家屋の耐震改修工事を行うにしても、自力ではできなかったり、費用がかさむために諦めてしまうこともありますが、これらを地域ボランティアや行政補助金によって実施していく取り組みが少しずつ進んできています。  1978年(昭和53年)に宮城県沖地震が発生して多くの建物被害が出たため、1981年に建築基準法の耐震設計に関わる施行令が抜本的に見直されました。これが「新耐震設計基準」と呼ばれるものです。この基準に基づいて建てられた住宅は、阪神・淡路大震災でも被害が少なかったといわれています。  新築の建物については新耐震設計基準によって、一定の強度が保たれ、大地震に強い構造となっていても、1981年より前に建てられた多くの建物は、大地震が発生したときに、倒壊の危険性があるままです。  2006年に政府が発表した宮城県沖地震の発生確率は今後10年以内で50%、30年以内では99%となっています。南海地震、東南海地震は30年以内の発生確率がそれぞれ50%、60%です。大地震に対する備えは多くの自治体にとって急務となっています。  大地震による死亡原因は住宅の倒壊によるものが最も多いことから、住宅の耐震性を診断し、耐震性が足りない建物では耐震改修工事を行うことが有効です。  国や自治体が耐震改修を進めるきっかけとなったのは、やはり阪神・淡路大震災です。  阪神・淡路大震災の後の1995年12月に、「建物の耐震改修に関する法(耐震改修促進法)」が制定されました。この法律は1981年以前に建てられた学校・病院など、不特定多数の人が利用する施設の耐震診断を義務づけ、耐震改修を進めていくものです。  個人住宅については倒壊によって避難路がふさがれる可能性がある場合のみ、この法律の対象となります。多くの個人住宅がこの法律の対象とはなっていませんが、自治体独自に個人住宅に対して耐震診断や耐震改修に対する支援策を行うところが増えてきています。  共同通信が2005年に行った全国調査によると都道府県として耐震診断の支援を行っているのは25自治体、耐震改修に助成金や低利融資などの支援を行っているのは18自治体です。また市町村独自に支援を行っているところも多数あります。2006年7月の政府発表では、耐震改修に補助金を出している市町村の数は418となっています。  ただ耐震診断の支援を行っていない自治体もまだ数多くある上、耐震診断・耐震改修の支援のあり方は自治体によって大きな格差があります。 家具の転倒防止の取り組み  大地震のときに家具が転倒して、けがをしたり、家具に挟まれて脱出が困難になることがあります。また大規模な地震でなくても、地震で家具が倒れ、大けがをする危険性があります。  消防庁が行ったアンケートでは家具の転倒防止を行わない理由の第1位が「壁に傷をつけるから」ということですが、第2位から第4位は、「難しそうだから」、「時間がかかるから」、「お金がかかるから」という回答になっています。  各市町村は防災に対する備えとして家具の転倒防止を呼びかけるとともに、自治体によっては障害者市民や高齢者には家具の転倒防止に対する支援を行っているところもあります。  支援の仕方は @市町村が家具固定の材料費と取り付け工事代金の両方の費用を助成する。 A市町村が取り付け材料費を負担し、ボランティアが取り付けを行う。 B材料費を本人が負担し、工事費を行政が負担する。 などですが、ボランティアが材料費の負担、取り付け工事の両方を行っているところもあります。  また家具転倒防止推進のために、家具転倒防止の事例を載せた小冊子を作成し、配布しているところもあります。  家具の転倒防止はL字金具やチェーンによる固定、耐震マットなど、千円から数千円の材料費でできることもありますが、壁に柱や桟がない場合は、家具の固定に大掛かりな工事が必要になることもあります。 家具転倒防止への支援や 耐震改修費助成を全国制度に  耐震改修についての支援は、耐震診断だけを補助している自治体が多い中で、耐震改修費助成を行うところが徐々に増えています。ただ耐震改修についての支援を実施していても制度が使いにくいために、実際に利用する人がほとんどいない例もあります。  神戸市は2002年に耐震改修費に対する支援として、借入金の利息補給を始めましたが、利用がほとんどなかったため、2003年から助成金を出す制度に変えました。しかしこれも、天井や床をはがす大掛かりな工事などに限られ、利用実績が上がりませんでした。そこで2005年に助成対象となる工法を、簡易であっても耐震性の上がるものに拡大しました。  耐震改修には一般的な木造家屋で200万から300万円かかるといわれています。無論改修の内容によって、低額で済んだり、大幅に上回る場合もあります。一方、耐震改修費助成は20万円から60万円ぐらいで、実際に耐震改修を行う場合には、多くの自己負担が必要になるのが実情です。  横浜市の耐震改修助成制度は、所得により助成金額が異なるものの、低所得の人に対しては450万円を限度に改修費用の9割を補助するもので、全国の助成制度の中で最も実用的です。  国の助成金制度は、家屋の倒壊で避難路が妨げられる場合に改修費用の8%を助成するというもので、利用実績はほとんどありません。このほか国には住宅整備に耐震改修を含めて助成する制度がありますが、これも市町村が住宅整備計画を作成していることが必要で、耐震改修単独で助成金を受けられるものではありません。  国の耐震改修補助制度を使いやすい制度にする必要があります。  災害が起きて人の命が失われることや、災害後に発生するさまざまなコストを考えれば、これらの取り組みがもっと積極的に進められるべきです。  また家具転倒防止については、全国でどれぐらいの自治体が取り組んでいるのか具体的な実情はわかりませんが、低予算でできることなので、早急に助成制度を確立してほしいと考えます。  そして単に助成金を出すだけではなく、家具転倒防止を始めとする防災について、広くアドバイスできる人材を養成したり、啓発冊子を作るなど、防災の効果を高める取り組みを同時に行う必要があります。 ===コラム=== 障害者の居住環境の安全性を高めよう! 障害者防災アドバイザーと家具転倒防止ボランティアの育成 □事業内容  阪神・淡路大震災では、大多数の人々が自分の家や家財道具によって命を失いました。この教訓から、居住環境の安全性を高めることは、命を守る防災対策の最優先課題であると考えます。しかし、まだまだこの取り組みは進んでおらず、特に障害者市民など、「自分でやりたくてもできない」人たちを支えていく仕組みも十分ではありません。そこで、障害者が主体となった家具転倒防止ボランティアを提案します。 ○防災アドバイザー  障害者の生活様式や生活に必要な支援などをよく理解している当事者やボランティアを対象に、防災に関する基礎知識や具体的な備えの方法、行政サービスや相談できる専門機関の窓口などに関する知識を身につけるための講習会を行う。そして、この防災アドバイザーが中心となり、実際に当事者の家の安全対策のチェックを行い、家具転倒防止の必要性を当事者に説明する。 ○家具転倒防止ボランティア  家具転倒防止ボランティアが家具を移動させたり、転倒防止金具の取り付け作業を行う。作業が可能な障害者と健常者が一緒に講習を受け、地域のニーズにこたえていく。これを社会福祉協議会などでの事業として位置づける。 ゆめ風基金「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」 応募作品 レスキューストックヤード(愛知) ========== ===コラム===    熱気球 (図画のため説明文を掲載)  1戸建ての家では、大きな水害や大地震の時に、熱気球によって家全体が浮かび上がる。  マンションの場合は、脱出室が階毎にずれていて、最上階以外は斜め前に家が飛び出す(熱気球によって浮かぶ)。 ゆめ風基金「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」応募作品 斉藤慶三(大阪) ========== 2 災害にあったときの 避難や支援方法を改善する 提言6 「家のほうがマシ」な避難所は行く気がしない 避難所の改善、福祉避難所の指定など多様な避難所の準備が必要です。 避難所の問題が避難を遅らせる  これまでの災害で、避難所が避難生活に耐えられない空間であるため、避難所へ行くことを諦めてしまい、避難が遅れた例がありました。  2000年の東海豪雨を経験した親子は ●実際に避難所を下見に行ったが、障害を持つ自分の娘が避難をするのは無理だと感じた。 災害時要援護者の避難所対策を考えるシンポジウム 2005年9月 レスキューストックヤード主催 と述べ、結局トイレも屋根もないスーパーの屋上へ避難したということです。  東海豪雨では他にも ●車イスなので避難できないと判断。 ●避難所は自分がいられる場所でないと判断。 ●聴覚障害の本人が大勢集まるところに行きたがらず、避難をめぐって1時間家族会議。   「災害時における障害者支援に関する提言」2002年 などの事例があり、ゆめ風アンケートでも ●避難所内がバリアフリー化されておらず、全員体育館のようなところで雑魚寝というような環境ではとても生活できないと思い、避難はしなかった。避難所のバリアフリー化を早急に進めてほしいことと、大勢の中で生活が困難な障害者のために、教室などの空き部屋を利用することも必要だと思う。 ●避難所が2階で障害者トイレがなかったため避難しなかった。2階までのスロープ、トイレは必要です。ハードの改造をしてほしい。 ●重度障害者が避難できるような避難所はそもそもなかった。また、中越地震の際は親と一緒だったし、避難するまでいかなかったのでそれほど困らなかったのですが、もし1人だったらと考えると今でも本当にぞっとします。 という声があるように、災害時に避難所へ行くのを最初から諦めている人たちがいます。 基準が変わっても改善されない避難所  何とか無事に災害を逃れ、近隣の人たちとの話で、ある程度の状況がわかれば、次は今後の生活を考え始めることになります。  自宅の状況、ライフラインの状況、備蓄の食糧、近隣の店舗の開店状況などによって、自宅に残る人もあれば、避難所に行く人もあります。  自宅での生活が困難だと判断し、避難所に行く人には、次のような2つのケースが考えられます。 @自宅は無事だが、余震や火災が心配。 (ライフラインの復旧と、余震の心配がなくなれば自宅に戻れる状態) A家屋が全壊、あるいは半壊で自宅に住めない。 (ライフラインが復旧しても自宅には戻れず、避難所、仮設住宅で暮らさざるを得ない状態)  とくに大地震の後、1週間ほどは@の理由で避難所は多くの人であふれます。逆に先に述べたとおり、障害者市民にとっては避難所を利用しようと思っても、さまざまな困難が予想されるために、避難所に行かない場合が多くあります。阪神・淡路大震災のときに見られた大きな体育館での雑魚寝状態は、新潟県中越地震でも初期には同じ状態が多くありました(時間の経過とともに、改善されたところは多い)。  しかし現在の災害救助指針における避難所は過去の居住性があまり考慮されていなかったときと比べて、大幅に改善されたものになっています(詳細はコラム「災害救助指針の大改革 避難所編」参照)。  ただ、この新たな災害救助指針が具体的に実現していないために、今も居住性が低く、プライバシーの保てない避難生活を強いられているところに大きな問題があります。  避難所の耐震化は年々進んでいますが、避難所のバリアフリー化や居住性の向上については後回しにされているのが現状です。 知られていない福祉避難所  大地震でも水害でも、避難所に求められることは同じです。  ただ状況は少し異なります。大地震と違って水害の場合は、ライフラインが止まっているとは限らず、また仮に停電などが起きていても、比較的短期に回復することが予想されます。また気象情報をもとに避難所開設の準備ができるので、開設時の混乱は少ないはずです。  大地震のときは、災害が発生してから人を集め、避難所開設の準備を進めるので、開設までに十分な時間がとれません。準備が整わないまま、住民の避難が始まり、避難所がスムーズに運営されるまでには、しばらく時間がかかってしまいます。  各自治体によって避難所は、「避難所」、「一時避難所」、「一次避難所」、「二次避難所」、「広域避難所」、「収容避難所」、「避難広場」、「一時の集合場所」、「福祉避難所」、「障害者あるいは高齢者など避難施設」など、さまざまな名称があります。この提言集では避難所を次の3種類に分け、解説しています。 @指定避難所…被災した人たちが利用する一般的な避難所で、行政があらかじめ定めているもの。 A福祉避難所…授産施設や福祉センター・公的施設など、バリアフリー施設を障害者市民や高齢者の専用避難施設として行政があらかじめ定めているもの(コラム「福祉避難所」参照)。 B自主避難所…行政が指定したものではなく、地域のつながりで、自主的につくられた避難所。障害者市民が利用する避難所は、地域の障害者作業所やグループホーム、デイサービスなどが利用者を対象として開設したところ、被災していない障害者市民の地域拠点が開設したところなどが考えられる。災害前に行政と契約を結んでおけば、福祉避難所となる。  地域の中には障害者市民だけではなく、現在の指定避難所では生活が難しい人や、災害によって手や足を負傷し、指定避難所での生活がしにくくなる人もいます。  障害者市民が生活しやすい避難所を考えることで、誰もが使いやすい避難所となり、多くの人にメリットがあるはずです。  福祉避難所のことは障害者市民にあまり説明されておらず、当事者が知らない例が多くあります。福祉避難所があるからといって、指定避難所のバリアフリー化が後回しになってよいということではありません。  行政として指定避難所のバリアフリー化を進めながら、福祉避難所の絶対数を確保するために、Bの自主避難所の活用も考え、多様な避難所を準備しておかなければなりません。 利用しやすい避難所を当事者が選ぶ  阪神・淡路大震災のときには、自主避難所を利用した人が多くいました。障害者市民の場合は、自分たちの通いなれた障害者作業所などへ避難する、あるいは昼間だけそこを利用した例があります。ただ、行政が指定していない所を避難所として利用した場合、行政からの情報が入らず、食事や水などの配給さえ受けられなかったことが課題として残りました。  つまり障害者作業所などが避難所になった場合は @日頃からのつき合いがあるため、支援がスムーズにいく。 A障害者市民の通いなれた場で、安心感があり、動きやすい。  といったメリットがありますが、一方で @作業所などのスタッフが被災して運営できない心配がある。 A施設が耐火、耐震構造でないところが多く、災害時に倒壊する危険性などがある。 B行政の情報・配給などの支援が現状では受けにくい。  などのデメリットがあるということです。  しかしこうしたデメリットは、行政と自主避難所の担い手が事前に協議し、情報や配給、相互支援のネットワークをつくることで解消することができます。  障害者市民にとって指定避難所が利用しにくいのであれば、障害者市民自身で利用しやすい施設を探し、行政に福祉避難所として加えるように求めることが必要です。行政は新たに加える福祉避難所に、物資の備蓄や耐震化の改造を行うとともに開設・運営の手順について作業所などとあらかじめ契約を取り交わしておく必要があります。 まずは段差解消、使いやすいトイレ  障害者市民が現在の避難所を利用しづらいために、避難を諦めてしまう状況はできるだけ早く改善されなければなりません。  また、そのような改善は障害者市民のためだけでなく、他にもさまざまな配慮を必要とする人にとっても環境をよくすることになります。障害者市民が使いやすい避難所は、誰もが使いやすい避難所になるはずです。  まず、ハード面で改善すべき点を示します。 @段差の解消  段差は大きな段差でなければ簡易スロープで解消できるので、建物改修が難しければ簡易スロープを使用します。簡易スロープは市販されているものをそのまま使える場合と、簡単な大工仕事で、応急的につくる場合が考えられます。 Aトイレ  トイレは洋式トイレの方が使いやすく、また介助者が必要な場合にはその周りにある程度の空間が必要です。ポータブルトイレ(手すりをつけたほうがよいが、人によっては手すりが邪魔になる場合もあり、取り外しが可能なタイプがよい)を利用することもできます。また手すりがあれば一人でトイレを使えていた人が、手すりがないために介助を必要とする場合もあり、その場合にはサポート体制が必要です。  人によっては洋式トイレが使えず、ベッドが必要な人もいます。障害者用トイレでも、大人用ベッドがついているところはとても少ないのですが、高齢者も含めベッドを必要としている人(紙おむつの交換など)がいるので、洋式トイレと同様に設置すべきです。また尿瓶が使える空間があるかどうかも点検の必要があります。  恒久的なもの、仮設のものを含めて、それぞれの避難所でどの程度避難所のバリアフリー化が可能なのか、障害者市民・高齢者はもちろんその地域の住民とともに協議し、利用予定者がどのような施設であるかを事前に把握しておく必要があります。 次に避難生活環境の改善  避難生活の環境改善については、「大規模災害における応急救助の指針について」で、すでに示されています。しかし昨年の新潟県中越地震における避難所では、新たな指針に対応できていないところがたくさんありました。  各市町村で早急に避難所の改善計画をつくり、順次整備していくことが望まれます。  環境面で必要な改善を次に示します。 @ベッド・イス  ひざの具合で、床に座ってしまうと立てない人がいます。現在、避難所では床に布団を敷くのが基本となっていますが、今後はベッドへの移行を基本とするのがよいと思います。すべての避難所でベッドを基本とするのが難しければ、せめて災害救助指針にあるように畳やマット、カーペットを基本にしながら、障害者市民・高齢者のために、ある程度のベッドおよびイスを準備することが必要です。  ベッドを準備する場合、腰への負担が大きく褥瘡になりやすいものや、介護をするとき、介護者の体重がベッドにかかると壊れそうなものは避けることが必要です。 A温度管理  障害者市民の中には、体温調節が難しい人もいます。そのような人の場合には、エアコンを設置した部屋が必要です。学校が避難所になっている場合、特別教室にエアコンが設置してあっても、避難所として開放していない場合もあるので、事前に確認が必要です。  また冷暖房については、障害者市民・高齢者への配慮ということだけではなく、全ての人に共通する課題であり、災害救助指針にも盛り込まれていることなので、早急に指定避難所すべてに完備すべきでしょう。 Bプライバシーの確保  介護者を常時必要とする障害者市民は、衣服の着脱や、さまざまな動作に広いスペースが必要です。またベッド式の車イスで生活しているなど特別な福祉機器を利用している場合も同様です。避難生活は精神的な負担が大きいので、せめてプライバシー空間を確保して、負担をやわらげることが必要です。  プライバシー確保の間仕切りについては、災害救助指針ですでに盛り込まれていますが、実際に準備しているところはほとんどありません。簡易式のものもあるので、早急に準備すべきです。各自治体である程度保有しておけば、相互に協力して必要数を確保できるので、すべての避難所分を確保できなくても、まずストックを進めることが大切です。 多様な避難者の生活を支えるために  障害者市民の避難にあたっては、個々人のニーズに合わせた、多様な支援が必要となります。しかし実際にどのような人が避難所を利用するか分からないままに、すべてのニーズに応えることは難しいと思います。事前に障害者市民の声を聞き、利用する避難所で対応できるように準備しておく必要があります。  次のような生活上の配慮は整えておくべきなので、避難所運営マニュアルや災害時に特別な支援を必要とする人たちの支援計画をつくるときに、盛り込んでおくべきです。 @食事  災害救助指針では固い物が食べられない人のために、乾パン以外の備蓄をするよう求めていますが、それ以外にも食物アレルギーがある人のために、アレルギー反応を起こす食材を使わない「除去食」を準備する必要があります。除去食は、間違ったものが届けられると命に関わるので、保健所(保健師)が中心になって、管理、配布を行う必要があります。避難所では除去食が必要な人がいた場合に、すぐに保健所と連携が取れるようにしておくことが必要です。 A集団生活を苦手とする人への配慮  知的障害がある人では、慣れない集団生活を行うことでパニックを起こしたり、多動になったり、大声を出したりする人もいます。このような場合、家族が他人に迷惑をかけてはいけないと気をつかい、避難所を避けることが多くあります。また精神障害の人の場合も、集団生活が病気を悪化させることもあるので、特別教室など集団生活を避けられる部屋の準備が必要です。 B発電機など非常電源  人工呼吸器をつけている人の場合、停電が起きると生命に関わります。避難所では停電時の照明用電源確保のため発電機を準備していることが一般的ですが、自宅で避難をしている人への貸し出しも含めて、避難所で発電機を準備することが必要な場合もあります。また電力会社から直接貸し出す場合もあるので、自治体として電力会社とも連携しながら、発電機の必要な人を把握し、災害が起きたときに迅速に届けられる体制をつくることが必要です。 C移動の保障  自宅の車イスを避難所へ持っていけなかった人や、高齢者のために車イスを準備する必要があります。  また、車イスで移動ができるように通路の幅を確保したり、視覚に障害がある人のために、歩行しやすい壁際を通路として空けておき、壁際に居場所を設けることが必要です。 D医療関係物資  救急箱は準備してあるはずですが、それ以外にも紙おむつ、カテーテルを使用している人のための消毒薬(アルコール、イソジングリセリン液)など、医師の処方箋を必要としないレベルの医薬品や関係物資の準備が必要です。 E盲導犬・介助犬の認知  ペットは避難所へ入れられないことになっていますが、盲導犬や介助犬はペットではなく、障害市民の体の一部といってよいものです。過去の災害例で盲導犬の入室を拒否された例もあるため、避難所運営マニュアルに受け入れることを明記しておくべきです。 F情報  避難所では、食事や衣料品などの配給、安否確認、災害情報、道路交通情報、仮設住宅入居や被災証明手続きについてなど、時々刻々と多様な情報があふれ、場内アナウンスや張り紙によって案内されます。  障害者市民が避難所で感じる点として、 ●障害により情報伝達の方法が異なる。一人の方に二重、三重の伝達がとどくように仕組みをつくっていく必要がある。 ●掲示板に行かないと情報がもらえないのは、足の不自由なものには問題と思います。避難所の環境にもよるが、情報は必ず紙にして渡してほしいです。そして、短い言葉で書き記してほしいです。長文でしかも小さい文字はやめてほしい。 ●内容が難しく理解できないことが多い。専門用語をわかりやすく伝える体制をつくってほしい。 ゆめ風アンケート などの声があがっていますが、障害者市民だけでなく高齢者でも耳が聞こえにくい人、目が見えにくい人、移動が困難な人がいると思われますので、そういった人たちがいることを前提にした避難所運営が必要です。 避難所運営は行政でなく、住民が主体  障害者市民が避難所で生活する場合には、段差だけでないハード面の課題(例えばベッドが必要、人工肛門・人工膀胱保有者はプライベート空間や汚物流し台が必要)や情報提供など運営上の課題もあります。  阪神・淡路大震災においては災害直後から避難所に多くの人が殺到し、管理や運営についてさまざまな混乱状況がありました。それを教訓に、避難所の運営は少しずつ改善されてきています。しかし新たな災害救助指針に基づく改善までには到達していません。  誰が何を担い、避難所にはどのようなものが準備されなければならないかを、事前に把握しておく必要があります。  学校が避難所となる場合、避難所として使用できるスペースと使用を制限するスペースの判断を行うなど、ハード面での管理責任者は学校長となります。避難所開設の責任や災害対策本部との連携など避難所のソフト面での管理責任者は行政職員が担います。  物資を配ったり、さまざまな住民ニーズを集約したりする運営面については多くの人手を要しますが、具体的な運営の担い手は避難にやってくる住民です。災害救助指針でも避難所の運営に関して次のように示されています。 住民による自主的運営  避難所を設置した場合には、被災前の地域社会の組織やボランティアの協力を得て、自治組織を育成するなどにより避難者による自主的な運営が行われるよう努めること。また、被災者による自発的な避難所での生活のルールづくりを支援すること。  避難所は行政職員やボランティアによって避難所が運営されており、避難者は物資や情報の提供をしてもらう「受け手」の感覚が強くあります。しかし避難者は避難所で行われる支援の受け手であると同時に、支援を行うためのルールづくりをしたり、支援活動を分担して行ったりする、避難所運営の担い手でもあるのです。  しかし行政は、住民に避難場所を知らせていても、避難所の運営は避難者が自主的にしなければならないことを伝えていません。実際の災害が起きて、スムーズな避難所運営を行うためには、役割分担についての打合せや避難所運営の模擬体験などが必要ですが、防災訓練としてそのことに取り組んでいるところはまだまだ少ないといえます。  大規模な災害が起きたときには、避難所を開設する行政職員すら緊急に集められないことがあるため、避難所を開設する段階から住民が担うことを想定しなければなりません。 運営マニュアルの作成と障害者市民への対応  「大規模災害における応急救助の指針について(災害救助指針)」でも避難所運営マニュアルについては、 避難所運営の手引(マニュアル)の作成 ア 避難所の運営が円滑かつ統一的に行えるよう、あらかじめ避難所運営の手引(マニュアル)を作成し、避難所の運営基準や方法を明確にしておくこと。 イ 手引(マニュアル)は、要員不足にも対応できるよう、災害救助関係職員以外の者の利用を想定したものとすること。 ウ 手引(マニュアル)に基づき、関係機関の理解及び協力も得て、平常時から避難所の管理責任予定者を対象とした研修を実施すること。 と記述されています。  都道府県の中には避難所運営マニュアルの指針を作成しているところもあります。また指定避難所として学校が指定されることが多いため、教育委員会や学校を中心に避難所開設・運営のマニュアルづくりを進める動きも高まっています。  しかし未だ避難所運営マニュアルの策定指針をつくっていない都道府県も多く、市町村レベル、個別の避難所レベルとなると避難所運営マニュアルが策定されていないほうが多いのが実情です。  避難所運営マニュアルは、住民がどのような役割を持ち、具体的な避難所運営をしていくかを明確にするものですが、障害者市民への対応として、受付体制、サポート体制、情報保障の3つの点を盛り込む必要があります。  避難所の受付については、人数把握のために世帯単位で住所や名前などを最初に聞きますが、介護を必要とする人、特別な支援を必要とする人の把握は、その時点では行われていません。避難所数や避難者数は災害対策本部にすぐに伝わる仕組みができているものの、サポートの必要な人が避難所にいるかどうかは、状況が落ち着いてから調べているのが現状です。 @避難所へ来た時点でどのようなサポートが必要なのかを記入してもらう用紙をあらかじめ準備しておくか、平時から本人がそのような情報を記入したカードを持っておき、受付に提出すれば、速やかに災害本部やボランティアセンターに情報が届く体制をつくる。 A受付でサポート要請することをためらう人もいるため、相談窓口を受付で明示し、プライバシーの保てる相談室を準備して、相談に応じられるようにしておく。  このような受付体制を準備した上で、ボランティアセンターから早急に支援者を派遣できるようにするとともに、 @福祉避難所の紹介やさまざまなコーディネートを行うには、ある程度福祉に精通している必要があるので、一定規模以上の災害(例えば震度5以上の地震)が起きた場合には、市町村からの要請を待たずに、県レベルで福祉や保健の専門職員を招集し、各避難所にコーディネーターとして配置する仕組みをつくる。 A心のケアは精神障害者だけでなく、すべての人が災害のショックや避難所の生活でのストレスで精神状態が不安定になる可能性があるため、各避難所に保健師やカウンセラーを配置したり、専門医が巡回する体制をとったりするなど、十分な相談ができるようにしておく。 など、専門的な支援ができる体制が必要です。  情報に関しては、次のようなことが必要です。 @場内アナウンスの内容はプラカードなどにして、文字や絵文字で伝える。 A掲示板を設ける時は文字を大きくし、平易な言葉で、文章は短くするように努める。可能な限りふりがなをつける。何についての情報なのかがすぐ分かるように分類を工夫する。 BOHP(オーバーヘッドプロジェクト)の活用やパソコンとプロジェクターなどの導入で、案内用字幕を作成する。 C食事や衣服などを配る情報を出すときには、移動が困難な人を把握しておき、サポートする体制をつくっておく。 Dファクスで届く行政文書については、字が小さかったり、内容がわかりにくかったりするので、適当な見出しを独自につけ、何について書かれたものであるか分かりやすくまとめ、表示する。 E多くの情報の中で必要な情報をすぐに見つけられない人のために、情報提供を補助するスタッフを配置しておく。 スムーズな運営のために、具体的な想定を  避難所に必要とされる要件は大地震と水害で共通のことが多いものの、一致しないこともあります。  兵庫県の但馬地域を襲った台風23号による水害では、学校として避難所運営マニュアルを作成していたのですが、地震を想定したマニュアルであったために、タオルの備蓄がなかったり、避難場所の体育館が浸水したりすることなど、マニュアルに想定されていないことへの対応が必要でした。  視覚や聴覚に障害がある人への情報保障では、水害の場合は短期的な避難で終わることも多く、必要な情報も少ないので、同じ避難所にいる人同士である程度カバーできます。しかし大地震で震度5強を超えるときは、長期的な避難となり情報量も多くなるので、専門的な支援を行える人を迅速に集める体制が必要です。  サポート面では、水害の場合は災害発生前に避難所を開設するので、避難所開設時にボランティアを集めることもできます。大地震の場合は連絡が取りにくく、身近な支援者の安否が不確かなので、避難所開設から2〜3日が経過しないと十分なボランティアが集まらないと考えられます。  大災害の混乱期にどのような支援ができるかは、地域の体制で変わってくると思われますが、24時間以内にできること、2〜3日かかることなどの課題を整理し、できることとできないことを明確にすることが大切です  このようなマニュアルづくりを通じて、障害者市民が近くで避難できる場所が確保できたり、また遠くの福祉避難所を利用したほうがよいと判断したりする基準が明確になるはずです。  また学校の避難所マニュアルでは、特別教室を原則として立ち入り制限区域に指定しているところもありますが、体育館での避難が難しい人のために、特別教室の開放を原則にする必要があります。例外的な対応は判断が難しいので、想定されることは事前に明記すべきです。 ===コラム=== 災害救助指針の大改革(避難所編)  国が災害時における災害救助指針で示していた避難所は、もともと大規模災害を想定したものではなく、比較的局所的、また短期的な想定の基準しかありませんでした。  しかし阪神・淡路大震災のような大災害を経験したことで、災害救助法の運用基準といえる災害救助指針は一変しました。  阪神・淡路大震災が起きるまでは、開設期間を最長7日(特別措置で期限延長は可)とされていた避難所は、長期にわたる避難生活を想定し、環境面で次のように大幅な改善がされました。  避難所の設置期間の長期化が見込まれる場合は、避難所の集約に合わせて、小部屋がある等生活環境の良好な施設の利用を図るよう配慮するほか、必要に応じて、次の設備や備品を整備し、被災者に対するプライバシーの確保、暑さ寒さ対策、入浴及び洗濯の機会確保等、生活環境の改善対策を順次講じること。 (ア)畳、マット、カーペット (イ)間仕切り用パーティション (ウ)冷暖房機器 (エ)洗濯機・乾燥機 (オ)仮設風呂・シャワー  避難所の指定に際しては  避難所として指定する施設は、原則として耐震、耐火、鉄筋構造を備え、できる限り、生活面での物理的障壁の除去(バリアフリー化)された公民館等の集会施設、学校、福祉センター、スポーツセンター、図書館等の公共施設とすること。  物理的障壁の除去(バリアフリー化)されていない施設を避難所とした場合には、高齢者・障害者等が利用しやすいよう、速やかに障害者用トイレ、スロープ等の仮設に努めること。  と可能な限りバリアフリーの建物であることを前にしています。  また通信・情報手段の確保として  被災者への情報提供や被災者相互の安否確認、避難所外被災者の情報入手を行うため、避難所にラジオ、テレビ、電話、ファクシミリ、パソコン等の通信手段を設置すること。また、機器に不慣れな高齢者等についても、情報ボランティアとの連携、協力等により情報に接することができるよう配慮すること。 と、避難所における物理的バリアフリーにとどまらず、情報のバリアフリーについても求めています。  また阪神・淡路大震災後、障害者市民に対応した福祉避難所を設けてほしいという声が多くあり、新たな運用基準では「第3 応急救助に当たり特別な配慮を要する者への支援」として項目を設け、福祉避難所や福祉仮設住宅などの位置付けがされるとともに、要員確保や安否確認、避難方法などについて準備体制を整えることが明記されました。 ========== ===コラム===  福祉避難所 障害者市民や高齢者など、一般の避難所では生活が難しい人に対して配慮する「福祉避難所」を求める声は、阪神・淡路大震災以降数多くあがっていました。その声を受けて、1997年福祉避難所が応急救助指針に中に盛り込まれました。  各自治体は既存施設などを福祉避難所として指定するとともに、2000年度より「入所施設附設の防災拠点型地域交流スペース整備事業」が実施されたことをう受けて、整備を進めています。  「入所施設附設の防災拠点型地域交流スペース整備事業」は30名程度の高齢者や障害者市民が避難したり地域交流のためのスペースを入所施設に増設する事業です。(2004年度の補助単価基準は 建設費 2800万円、設備費298万3千円) 10人に1人の人員基準  福祉避難所は耐震、耐火の鉄筋構造で、バリアフリーの施設としていますが、人員体制は1避難者0人に1人の割合で、相談などを行う介助員の費用を認めているだけです。  さらに「常時の介護や治療が必要となった者については、速やかに特別養護老人ホーム等への入所や病院等への入院手続きをとること」となっていて、ある程度自力で過ごすことが可能な高齢者や障害者市民を前提にして考えられているように感じます。  入所施設が福祉避難所となった場合、施設職員による一定の介助者の確保はできますが、すでに入所している人たちの介助に加え、被災者のサポートを行うことは、職員に過度の負担をかけてしまいます。入所施設でない場合は夜間の人員体制がないため、災害時の人員態勢確保が必要です。  一般の避難所では、「避難する人たちの自主運営が基本」となっていますが、福祉避難所の場合は運営のための支援が必要です。 福祉避難所の絶対数確保を  また自治体として既存施設を福祉避難所として指定する場合、  @どれくらいの人数規模を想定しているか  Aどのような障害がある人が集まるか  B行政として派遣できる職員数、支援できる内容はどうなっているのか  C当該施設でできる支援内容は何か   Dサポートを行うボランティアはどのような任務で、何人ぐらい必要か? 具体的にどう確保するのか?  E自治体全体として、何ヶ所程度の福祉避難所を設ける必要があるか を明確にし、検討を行う必要があります。単にバリアフリーだからというだけで指定しても、福祉避難所の役割は果たせないと思います。  福祉避難所について災害時にどのような対応を行うのか、運営マニュアルを作成することが必要です。  また現在の福祉避難所は絶対数が不足しているところが多く、また福祉避難所の指定そのものを行って行っていない自治体もあります。  福祉避難所の指定にあたっては、必ず障害当事者の意見を聞くために事前協議を行い、どんなサポート体制と備品が必要なのかよく話し合い、しっかりした体制をつくることが必要です。  また福祉避難所には、一般の避難所からの連絡、被災者から直接連絡、近隣の人からの連絡など幾通りものルートを通じて避難を必要とする人が来ます。先着順で受け入れをするのか、何か基準を設けるのか、家族も一緒に避難が可能かなどの対応の確認と、受け入れ窓口を事前に検討しておく必要があります。 ========== ===コラム=== 災害時の避難所間仕切りセットの提案 社会福祉法人AJU自立の家 NPO法人レスキューストックヤード 間仕切りのセットの目的  災害時の避難所においては、多くの人がプライバシーの無い生活を送ることを余儀なくされます。要介護者の介護や乳児のケア、自閉症や精神障害などにより周囲の環境から隔離する時間を必要とする人は、避難所に避難したくても生活できないという現状もあります。  このような状況を踏まえ、ダンボール素材のパネルを利用した簡易間仕切りを作成し、避難所を小部屋化することによりプライバシー空間をつくることを考案しました。  被災者のプライバシーに配慮したこの間仕切りを地域防災備品として、行政、関係機関(避難所指定を受けた施設)等に配備していただくべく、障害当事者と災害ボランティアの立場から提案するものです。 セットの特性 ●基本構成部品は3種のみ…極限まで単純化!「仕切り板」と「連結ベルト」と「U字フレーム」 ●組立・組換え・解体に 道具や技術が全く不要、きわめて簡単 ●視覚によるプライバシー侵害防止と天井からの採光を考慮  仕切り板の高さを180cm(身長190cm前後の人の目の高さ)に設定(幅90cm) ●部屋の種類は、無制限  トイレ、更衣室等用の半畳から、4畳半、6畳、10畳以上等  任意の広さの部屋が簡単・自在に設置・変更できる。 体育館での仕切り版の使用例  図は省略  515枚 収容人数165人 概算費用(155万円) (段ボール製 セット費用 必要部品を含む仕切り板1枚当換算3,000円) 問い合わせは 社会福祉法人AJU自立の家 わだちコンピュータハウス内         間仕切りセット係 TEL 052-841-9888 FAX 052-841-3788        〒466-0025 名古屋市昭和区下構町1-3-3 ========== 提言7 やわらか頭で、さまざまな障害がある人の住宅探し 仮設住宅はプレハブ建設にこだわらず、障害者市民が生活できるものにしてください。 仮設住宅そのものが大きなバリアー  避難所と同様、仮設住宅も障害者市民にとって生活が非常に困難な場所であり、バリアフリー化とサポートを求める意見は数多くあります。 ●玄関にスロープがないために入ることができずに困った。障害者用仮設住宅をもっと多くつくるべきだ。 ●玄関のひさし、スロープを後からつけてもらった。風呂は使えない人が何人かいて、2年間銭湯に通った。障害者が優先入居させてもらったのは有り難いことだったが、最後に建てられたケア付き仮設が最初に建っていたら、随分助かった人も多いのじゃないか。高齢者も障害者も、まずヘルパーつきの仮設住宅に入居し、安心を確保し(体制が整ってから)、一般仮設に移れるとか、選べるといいと思う。 ●体温調節ができない障害なので、贅沢ではなくエアコンは不可欠。 ●ストレッチャーでも利用できるような規格の仮設住宅を考えて欲しい。 ●住居スペースが狭いため、盲導犬との生活が困難。障害者サイドの意見を取り入れた上で障害者向けの仮設住宅を建設してほしい。 ●北区の仮設住宅では、特に公共交通の利便性が問題としてあった。プライバシーの守れる仮設住宅、またトイレや風呂などの住環境のバリアフリー化は障害の有無に関係なく必要。 ゆめ風アンケート  災害救助指針の改正で、生活支援を受けやすい福祉仮設住宅が位置づけられるとともに、一般の仮設住宅を含めてすべてをバリアフリーにすることが明記されました。  新潟県中越地震では、新たな指針によるコミュニティ単位の仮設住宅入居は実現していますが、バリアフリーの仮設住宅はなく、福祉仮設住宅や仮設グループホームも建設されませんでした。  災害救助指針では、災害発生後20日以内にプレハブ建築の業者に仮設住宅の発注を行うことになっています。全国の都道府県では、「社団法人全国プレハブ建築協会」と災害時における仮設住宅建設の協定を結んでいます。全国プレハブ建築協会には、さまざまなプレハブ建設業者が加盟していて、災害が起きたときには、業者間の垣根を越えて迅速に仮設住宅の建設が進められるようになっています。  仮設住宅は、「全壊家屋の3分の1程度」建設されることが指針で示されており、建設戸数はすぐに把握できます。しかし、そのうちどれだけの戸数を福祉仮設住宅にしなければならないのか、把握するのは困難です。障害者市民や高齢者の割合を考え、当初から福祉仮設住宅を積極的に発注することを定めておくことが必要です。  プレハブ建築協会によると次のような車イス仕様のものを準備しているということです。 @和室、居間、ユニットバス、トイレ、玄関(風除室)を付帯。 Aスロープ:傾斜20分の1(12分の1:長寿社会対応住宅指針)。 B玄関(風除室):段差は最小限とし(20mm以下)、車いす利用者に配慮。開幅800mm。 C引き戸:車いす利用者、歩行の不自由な人には、開きドアより引き戸が有効。ユニットバス:1216タイプ(室内実行寸法1200×1600mm)で、出入口はフラットタイプ。幅は650mm。 Dトイレ:便器は標準仕様でガード付。室内は通常より広くとり介護者が手助けできる。 E手すり:直径32mmの手すりを4か所(ユニットバス、トイレ、玄関)。  このほか、キッチン、電源、スイッチ、照明、引き戸の取っ手などについても、通常の住宅と同様に、さまざまな配慮をしている。 戸山サンライズ情報誌 第221号 「安全と安心のために」(2004年) 社団法人プレハブ建築協会 田坂勝芳  最長2年の期間限定の使用を前提としている仮設住宅のバリアフリー化には、費用の問題もあって、限界があるといわれています。またバリアフリー仮設住宅は、行政から指示しないと建設されません。  エアコンは過去の事例では各戸についています。しかし、これは災害救助指針が示す標準的な仕様ではなく、被害規模や地域、季節を考慮した特別基準(厚生労働大臣の認可が必要)によって設置されたものです。ただ、エアコンをつけても一般の人でも住めないくらい、夏は高温になり、冬は寒さが厳しいのがプレハブ仮設住宅の特徴です。 高い仮設住宅コストを民間住宅活用に  仮設住宅の建築費は阪神・淡路大震災のときでは300万円、三条市の水害では350万円、新潟では更に耐雪構造を持たすため高額になったといわれています。建設費のほか、撤去費用として50万円〜100万円も必要です。さらに仮設住宅は、撤去したプレハブ住宅を保管しておくコストも必要です。そのため、阪神・淡路大震災のときに使用された仮設住宅は、一部が海外へ引き渡されたものの、多くの仮設住宅が廃棄されました。  最近では、撤去費用を含めた建設・維持などの総コストの問題と環境への負荷の問題から、公営や民間の空き住宅の利用をすすめてはどうかという意見もあります。  この点について現在の災害救助指針は  避難所の生活が相当に長期化しているにもかかわらず応急仮設住宅の建設が著しく遅れる等のやむを得ない事情のある場合には、厚生労働省と協議の上、公団・公営住宅の一時使用、民間アパートの借り上げ等により実施すること。 としていて、あくまで仮設住宅が供給不足に陥った場合に限るもので、空き住宅利用を積極的に進めるものにはなっていません。 (阪神・淡路大震災では仮設住宅の供給不足から、兵庫県が民間住宅を借上げ、仮設住宅にした)  大規模災害救助研究会の報告書では  応急仮設住宅の規格・仕様については、寒暖の差が大きい日本の気候、風土等を考慮すると、現在の仕様が最低限度のものであると考えられるが、基本的には、他の仮住まい支援を充実し、応急仮設住宅の需要を減らすことに重点を置くべきであって、そうした措置をとらず応急仮設住宅の水準の引上げのみを行うことについては慎重に考える必要がある。 と、仮設住宅水準引き上げよりも、他の仮住まい方法の支援充実を示唆するとともに  阪神・淡路大震災においては、応急仮設住宅の設置に多大な経費と時間を要したが、ストックとして残るものではなく、再利用を図るとしても結局は大量の廃棄物が生じることとなる。  また、公営住宅等の空き家については速やかに一時入居の受入れが行われたが、民間賃貸住宅の空き家についても、その活用を図るべきである。  また、半壊した持家等についても、できる限り居住を続けながら本格補修へとつなぐことができるよう、住宅の応急修理制度の一層の活用を図るべきである。 と、既存住宅の修理も含め、ストック活用に積極的な面があります。  プレハブの仮設住宅に入居しなくてよいようにしたり、できるだけ入居期間を短くしたりするために、既存住宅の修理支援や住宅ストック活用をすることは今後の大きな課題といえます。  災害救助法によって、半壊(半焼)家屋の修理については、1世帯あたり51万9千円を限度に家屋修理費が受けられるよう定められています。ただし災害発生後1ヶ月以内に完了する工事で、生活に必要な部分という条件がある上、費用は現金給付でなく、建築資材などの現物支給となっています。この制度があまり知られてないことと、使いにくい条件がついているため、あまり利用がされませんでした。今後使いやすいものに改善すべきです。 自宅敷地を利用した避難所や仮設住宅  阪神・淡路大震災では公園など自治体が所有する土地が市街地に少なかったため、仮設住宅の多くが郊外に建設されました。交通が不便で、通院や買い物など生活する上での利便性が悪い仮設住宅が建設されましたが、申し込みをためらう人が多く、全体戸数は不足しているのに、仮設住宅には空きが出るという状況がありました。  そのため自宅の敷地を活用して、行政がユニットハウスを貸し出したり、仮設住宅を建設をしたりしてほしいという声があがりましたが、当時は公平性に欠けるという理由で実現しませんでした。  しかし新潟県中越地震では、自宅のそばで寝たいという住民の希望で、早い段階でユニットハウスの無償貸し出しが行われました。  このユニットハウスは分散型避難所と呼ばれるもので、あくまで避難所としての位置づけです。6.5m2、10m2、12m2の三種類で照明やコンセントはあるものの、煮炊き用の水道やガスの設備はありませんでした。仮設住宅に入居するまで、あるいは自宅修理が完了するまでの期間、貸し出しをしました。  このようなユニットハウスだけでなく、きちんと生活できる仮設住宅を自宅敷地に建設してほしいという声も多くありましたが、それは実現しませんでした。 求められる首長の英断  2005年に台風14号が九州をはじめ日本列島を襲いました。そのときには宮崎県椎葉村、鹿児島県垂水市などで自宅敷地を利用した仮設住宅が実現しています。 これは法律や制度が変わったわけではなく、それらをどう運用するかという自治体の判断とその姿勢を認める国の判断によるものです。  「運用」によってこれほど行政支援のあり方が変わることは問題ですが、住民の立場にたって自治体の長が英断を下すことが災害のときに最も求められていることだといえます。 ===コラム===  災害救助指針の大改革(仮設住宅編)  新たな災害救助指針では福祉仮設住宅が新たに位置付けられ、 、・要援護者を対象として、必要に応じ、被災前の居住地に比較的近い地域において、保健福祉施策による生活支援を受けながら生活することができる要援護者向けの福祉仮設住宅を設置すること。  と、記されています。多くの人が問題と感じているバリアフリー構造については「応急救助に当たり特別な配慮を要する者への支援」の中の項目ではなく、一般の仮設住宅の基準として ・住宅の仕様=高齢者・障害者等の利用に配慮した住宅の仕様はだれにとっても利用しやすいことから、通常の応急仮設住宅にあっても物理的障壁の除去された(バリアフリー)仕様とすること。   と、全ての仮設住宅がバリアフリーであることを求めたものとなっています。  また阪神・淡路大震災では仮設住宅の基準が2Kタイプのみでしたが、 ア 個々の身体状況や生活様式、単身や多人数世帯等の世帯構成等、さまざまな世帯の入居に対応できるよう、多様なタイプの応急仮設住宅を提供すること。   また、災害直後の心理的なケアを考慮し、デザイン、色彩等を工夫することにより、快適な生活環境を造る ことも検討すること。 イ 多くの応急仮設住宅を設置する場合は、安全性及び迅速性が要求されるため、同一敷地内に同一規格のものを機械的に設置しがちであるが、設置後の街並みや地域社会づくりにも配慮し、安全性及び迅速性を損ねない範囲内で、設置位置を工夫し、異なるタイプのものを組み合わせるなどの方法も検討すること。 と、多様なタイプの仮設住宅建設を求めています。  また仮設住宅の入居方法も改善されました。  阪神・淡路大震災では、高齢者や障害者市民など、避難所での生活が困難である人が、優先的に入居できるよう募集を行いました。しかしこのことが、高齢者の孤独死を招く結果となってしまいました。高齢者や障害者市民が優先され、集中して住む仮設住宅ができたことで、地域のコミュニティから外れ、地域で支えあう力がなくなってしまったのです。  現在の指針では、次のようにコミュニティを大切にした入居方法が提案され、新潟県中越地震では、集落ごとの仮設住宅入居が実現しています。 ・入居決定に当たっては、高齢者・障害者等を優先することはやむを得ないが、応急仮設住宅での生活が長期化することも想定し、高齢者・障害者等が集中しないよう配慮すること。  なお、従前地区のコミュニティを維持することも必要であり、単一世帯ごとではなく、従前地区の数世帯単位での入居方法も検討すること。 ========== 提言8 ところ変われば、サポート変わる 仮設住宅や復興過程で増大するニーズに応えられる体制づくりを。 環境の変化で増大するニーズ  仮設住宅での生活は構造や設備の問題だけでなく、環境が変わることによって、新たな支援が必要になります。 ●仮設住宅はバリアフリーではないことから、その不便さを補う人的支援体制が考えられていない。 ●仮設住宅に入った薬物依存者が薬物を使う可能性は極めて高い。医療−DARCのようなセルフヘルプグループなどと連携してサポートをするのが大切。 ●周囲の道が変わり外出できなくなる。歩行訓練士を常時から充分に確保しておき、派遣する対策をとってほしい。 ●車イスで動くには狭い。ベッドはお風呂の補助具など、普段家で使っているものがないことで、普通は1人で風呂に入れる人でも介助者が必要になったり、1人の介助者で大丈夫な人が2人の介助が必要になったりする。  視覚障害者は環境が変わるので動けなくなる。買い物などに助けが必要。  聴覚・精神・知的障害の人は孤立しがち。情報をきちんと伝えるなどコミュニケーションが必要。 ゆめ風アンケート  アンケートにあるように、限られたスペースや新たな部屋の環境によって、これまで自分でできていたことができなくなる場合や、交通機関の変更や買い物など近隣の環境が変わることで、新たなサポートが必要になります。また、精神的ケアを必要とする人もいます。  その他、仮設住宅へ入居するときや、出て行くときの荷物の移動、必要な家具、備品などの準備に関わるサポートや、行政支援を受けるためのさまざまな情報の保障や、そうした手続きを行うことへのサポートも必要となります。 急なニーズに介護制度は対応できない  現在、障害者市民と高齢者の介護制度は別々のものですが、仕組みに大きな違いはありません。  介護が必要であることを本人から申請してもらい、どの程度の介護が必要かを判定し、判定結果が出てようやくヘルパー派遣などの支援が受けられます。判定には事前に訪問調査や審査会などの審査や、医師の意見書などの書類が必要なため、手続きを行ってから、実際にヘルパー派遣が受けられるまでに1ヶ月以上かかるのが現状です。  以前の福祉制度では、福祉の窓口となる職員の職権で、すぐにヘルパー派遣が受けられました。申請は後回しでもよかったのです。  しかし介護保険や支援費制度では、法律によって、判定結果の前に支援を受けることはできませんし、判定方法も変えられません。そのため新たな支援が必要になった時は、手続きなどに多くの時間がかかるようになってしまいました。  仮設住宅でどの程度の支援が新たに必要になるかは、仮設住宅の構造や場所によって変化します。  また、仮設住宅への入居準備にも多くの支援が必要なことが予測されます。  復興住宅の申し込みや罹災証明、義援金配分など手続き面でのサポートも、どれだけ必要なのかは事前には予測できないことです。  このような状況の中で、訪問調査、必要な支援量の判定という手続きに時間をかけていては、支援が必要なときに間に合いません。  必要な介護の支援量を決定する行政窓口が、相談を受けた時点ですぐに判断・決定できる仕組みが必要です。災害時のヘルパー派遣のあり方を事前に明確にしておく必要があります。 復興過程でもニーズは増大  避難所が解消し、仮設住宅での生活を含めて徐々に生活が日常の状態へ移行するときでも、障害があることによってこれまでの生活以上にサポートを必要とする場面が出てきます。  今回のアンケートでも復興過程において、ヘルパーあるいはガイドヘルパーを求める声が多くあります。これまでの住居を失い、仮設住宅や賃貸アパートなど、新たな生活が始まった場合、 @住居内の段差や手すりなどの構造変化で1人でできていたことができなくなる。 A住居外においては商店や駅などの立地条件が変わり、これまでよりもヘルパーを多く必要とする。  ことが考えられます。  またこれまでどおりの住居に住めた人の場合も含め、復興過程では @交通機関が再開していないため、これまでのルートで外出できない A道路・建物工事などで、通行ルートが変更されたり、車イスで通れなくなり、一人での外出が困難になる B復興に伴う手続き(例えば復興住宅入居、義援金配分)で、新たなサポートを必要とする C日常通っていた障害者作業所などの拠点を失い、昼間通うところがなくなりサポートを必要とする  などの場面が考えられます。  とりわけ道路・建物工事などは、長期間にわたって工事現場が変化し、その状況に応じてサポートの必要性も変化します。迂回路のように通行ルートの変更は、視覚障害者や知的障害者の通行を妨げます。段差の発生や道路幅の変更では車イスを利用する障害者の通行を妨げます。工事の情報が事前に知らされず、障害者市民だけでは対応できない場合も出てくるので、注意が必要です。  復興過程において注意すべき点は @ホームヘルパー、ガイドヘルパーの利用枠を柔軟に拡大するとともに、社会参加のサポートなどについても緊急に対応できる仕組みを整える。 A工事業者に、迂回路や仮歩道のバリアフリー(段差解消と同時に電動車イスでも通行できる幅員確保、視覚障害者への配慮など)を義務付ける。 B工事計画は早い段階で、地域住民や障害者団体などへ知らせるとともに、インターネットや案内電話などで情報が受け取れる仕組みをつくる。  以上3点があげられます。 既存制度だけでは危ういサポート保障、 新たな制度づくりを  ホームヘルパー、ガイドヘルパーのサポート体制は非常に深刻な問題で、避難所の解消とともに多くのボランティアは被災地を引き上げていきますが、被災地におけるサポートの必要性は減ることがありません。  すでに述べたようにホームヘルパーやガイドヘルパーの利用枠が柔軟に拡大されれば問題は少ないのですが、介護保険も支援費(自立支援法施行後は介護給付費)もサポートの必要度についての判定の仕組みが複雑な上に、判定基準そのものを変更すると、後々の制度維持に支障が生じる恐れもあり、これらの制度による利用枠はあまり期待できません。  そのような場合は緊急時の対応として従来の福祉措置によるサポートが利用可能なはずですが、これも厚生労働省による基準は厳格なため、柔軟な対応をしていくには各市町村の独自予算でサポートをつけるしかありません。  道路や交通事情の変化だけでなく、地震のショックや恐怖感から作業所などが再開しても1人で通うことのできなかった知的障害者もいました。一般に日常的な送迎に対してヘルパー派遣は認められていないので、行政はこういった場合のサポートも認めていません。地域外からやってきたボランティアは、被災地が落ち着きを取り戻すと、地元へ帰ってしまいます。  阪神・淡路大震災では、もともと受けていた介護サービスの基準が低かった上、被災による環境の変化で新たな介助を必要とすることがたくさんありました。  介護保険や支援費などの事業者は、無償でヘルパー派遣できる余裕もなく、通常の派遣で手一杯になってるところが多いのが現状です。仮に行政が派遣を認め、有償で事業を行えるとしても、サービス提供責任者や有資格のヘルパーを確保しなければならず、その人員を確保できるかという課題が残ります。  復興過程におけるヘルパー派遣についてはあまり議論されることが少ないのですが、さまざまな制度変更がある中で、今後大きな災害が起きたときに介助を必要とする人たちの生活がどう保障されるかは大きな不安があります。国、自治体は災害時におけるヘルパー派遣の特例を設け、柔軟な対応ができるようにすべきです。 ===コラム===  被災地障害者センター(現 NPO法人「拓人こうべ」) これまでの障害者運動のつながりが被災支援ネットワークに  震災直後、「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」の大賀さんは、被災地の障害者市民の様子を、ファクスにより被災地外の各地に流していました。大阪では、5つの主要な障害者ネットワークが協力し合い、被災地障害者支援を行う「兵庫県南部地震障害者救援本部」を設立しました。被災地で40グループの障害者拠点・団体が連絡を取り合い、必要な支援を訴えていたのに応え、「人・金・物」を集めるため、各団体から人を出し事務局体制や物資支援拠点がつくられました。  被災地の活動は「障害者による救援・復興活動」を合言葉に「被災地障害者センター」設立となりました。大賀さんほか全国の長期ボランティアを中心に神戸市で事務局体制が、阪神障害者解放センターの代表であり、障害当事者の福永さんを中心に西宮市で事務局体制がつくられました。  東京でも都内に事務所を置く3つの障害者市民全国団体が中心となり、これらの活動を支援するため、「被災障害者支援実行委員会」を結成し、ボランティアや支援金集めを行ったり、厚生省(当事)への支援要求を行いました。 時間とともに移り変わる活動  震災後の被災地の活動は大きく刻々と変化していきます。その活動は大きく4期に分かれます。  第1期は安否確認と生活の場や支援の確保。850件におよぶ家庭訪問の中で、自宅が全壊であった障害者市民の生活の場を確保するため、神戸では2つの公園にプレハブを建設し、大阪では福祉会館を避難所として開設しました。また多くの被災障害者に1日あたり60〜80人のボランティアが現地で活動し、直接支援にあたるとともに、さまざまな物資が届けられました。  第2期は避難所から仮設住宅へ移り住む時期。難しい行政手続きについての相談や支援。仮設住宅への引越し。仮設住宅の段差解消や手すりの取り付けなど、多くの人の日替わりのニーズに次々と応えていかなければならなかった時期です。  第3期は仮設住宅や新たな住宅での生活支援。新しい環境の中で、継続的な支援を届けることが必要な時期です。ボランティアは次第に減っていく中で、長期ボランティアをコーディネーターとし、地元の人たちと障害者市民との新たな関係をづくりながら、安定したボランティア派遣を何とか継続させる必要がありました。  第4期は震災1年を超えてなお継続的な支援を必要とする障害者市民へのボランティア派遣と被害の大きかった障害者拠点の復興支援。被災地で活動していた多くのボランティア活動が終了していく中、被災障害者支援はこれからもずっと続ける必要があり、長期的な視野に立った活動再編を迫られた時期です。被災地障害者センターは2年間で2000件の在宅障害者支援を行うとともに、障害者拠点復興には5千万円を超える支援金が届けられました。 息の長い活動  阪神・淡路大震災当時、神戸で認められていたホームヘルパー派遣は週1〜2回、1回2時間程度のものでした。災害がなくとも不足していた介護力に加え、環境の変化や行政手続きなど被災によって必要になった多くの支援が、災害直後の混乱期だけなく行政が本来機能を回復してもなお、市民のマンパワーと資金で届けなければならない状況が続きました。  必要とわかっている支援がある限り、被災地障害者センターの活動に終わりはありません。5年、10年とさまざまな資金を確保し活動を続け、今はNPO法人「拓人こうべ」と名称を変え、現在はヘルパー派遣を中心とした活動が続いています。      NPO法人 拓人こうべ 〒653-0811 神戸市長田区大塚町6丁目1-1 池内ビル1階                TEL:078-642-0142 FAX:078-642-0942 ========== 提言9 「絵に描いた餅」にならないネットワークづくり 被災障害者支援センターの位置づけと災害ボランティアセンターの体制づくりを。 兵庫と新潟の障害者支援センターの違い  阪神・淡路大震災においては、地震発生後の6日目、1月23日に共同作業所全国連絡会、全国授産施設協議会(現在は全国社会就労センター協議会)、全国身体障害者療護施設協議会が合同で兵庫県福祉センター内に「障害者支援センター」を設置しました。障害者支援センタ−は、県下の被災作業所の利用者、家族、職員の安否の確認、建物の被害状況や在宅障害者市民の被災状況調査、行政との折衝、電話相談や救援物資の配送などの支援活動を担い、4月15日まで活動を続けました。それ以後の活動は、兵庫県社会福祉協議会と神戸市社会福祉協議会が担いました。  新潟県中越地震では災害発生から約2週間後の11月8日に、新潟県が「被災障害者相談支援センター」を設置しています。また新潟県ではセンター設置の前に県福祉課職員により121ヶ所の避難所の訪問調査を行い、障害者市民の避難所利用の状況やニーズの把握を行っています。  阪神・淡路大震災における「障害者支援センター」はいくつかの核となる団体を中心にした自発的活動によるものであり、新潟県中越地震の「被災障害者相談支援センター」は県の事業として立ち上げられたものです。日頃から相談事業を行っている県立施設内に、職員を増員する形で設置され、被災市町村で日常から障害者の相談事業を行っている生活支援センターと連携した活動を行いました。  阪神・淡路大震災での「障害者支援センター」は、民間の自主的活動で、臨時的な活動です。新潟県中越地震での「被災障害者相談支援センター」は、行政機関の取り組みで、日常的な活動を補強したものです。  このように2つの支援センターには、設置方法に大きな違いがありました。 行政は専門職員の確保、 社会福祉協議会は民間ボランティア集約を  災害時に、障害者支援を目的に設置されるセンターで、行政的に位置付けされたものを、ここでは「被災障害者支援センター」と定義することにします。  災害時に市町村の垣根を越え、被災地の障害者支援を行う拠点づくりが必要だということは、阪神・淡路大震災の時から指摘されています。しかし阪神・淡路大震災での経験をもとに、全国社会福祉協議会が提案した「被災地障害者支援センター」は、災害救助指針にもりこまれませんでした。  障害者市民の支援に限らず、避難所など被災地のさまざまな支援を行うためのボランティアのコーディネートは、都道府県の社会福祉協議会が中心的に担っています。このようなボランティアセンターの役割と、福祉避難所のコーディネートや専門機関との連携など公的に果たすべき役割とをきちんと分類する必要があります。  都道府県では「災害時要援護者支援マニュアル」の中に、「被災障害者支援センター」を位置付けし、新潟県が行ったように専門職員を行政責任で派遣する体制をつくり、ボランティアセンターとも連絡をとりながら、各市町村の被災障害者支援にあたることが大切です。50ページに都道府県行政と社会福祉協議会の役割分担を示す図を掲載しておきます。 不明確なNPOの位置付け  全国の災害に対応するNPOや地域限定型で支援を行う団体、また障害種別ごとの全国組織、福祉、医療関係などのネットワークで専門的な相談、支援活動が可能なNPOや福祉法人など、災害時に支援を行うことができる団体はたくさんあります。しかし各市町村の防災計画では単に「民間組織との連携」、「ボランティアとの協力」と書かれているだけで、具体的な団体をイメージしておらず、災害時にどのような団体がどう活動するかについては明確にされていません。  また具体的に団体などの登録を行っているところでも、災害時の招集のあり方やコーディネートについて検証がなかったり、登録情報の見直しがないために、有効な登録内容であるかどうかもわからなかったりする例があります。  地域防災計画に民間の自主活動を支える仕組みが具体的に記述されないのは、計画をつくる委員構成にも問題があると考えられます。  都道府県の地域防災計画の策定委員は、災害対策基本法第15条において、次のように定めれています。  委員は、次の各号に掲げる者をもつて充てる。 1.当該都道府県の区域の全部又は一部を管轄する指定地方行政機関の長又はその指名する職員 2.当該都道府県を警備区域とする陸上自衛隊の方面総監又はその指名する部隊若しくは機関の長 3.当該都道府県の教育委員会の教育長 4.警視総監又は当該道府県の道府県警察本部長 5.当該都道府県の知事がその部内の職員のうちから指名する者 6.当該都道府県の区域内の市町村の市町村長及び消防機関の長のうちから当該都道府県の知事が任命する者 7.当該都道府県の地域において業務を行なう指定公共機関又は指定地方公共機関の役員又は職員のうちから当該都道府県の知事が任命する者  行政関係者、警察、消防、自衛隊などで、地域住民の代表や民間組織の代表は入っていません。市町村の地域防災計画の策定委員も、この法律に準じて選ばれているため、やはり地域の意見、民間組織の意見が入りにくい状態です。  自助・共助を強調しながら、防災計画策定に市民参加がないのは問題です。 団体同士の協議やコーディネーター育成を  災害時に個人ボランティアやボランティア団体、障害者関係団体などが連携して、効率的な支援を行うためには、全体を統括するコーディネーターやさまざまな支援を行う担当責任者の役割が重要になります。  災害コーディネーターの研修を行政の責任で行い、日頃から人材育成に努めることが重要です。また団体間での定期的な協議あるいは災害を想定した訓練なども必要です。  災害時に核となる場所の決定や必要機材の範囲と準備方法、開設の手順、関係機関の名簿整理や各団体などとの連絡方法の確認などは、事前に準備しておく必要があります。  各市町村では、災害時にさまざまなボランティアが行政の指示を待つことなく動き出せるように、日頃からの人材育成と体制整備に努める必要があります。 ===コラム=== 障害当事者による支援活動  大災害の時には当事者組織を含めて多数の障害者団体などが活躍しています。  また災害時に被災地の障害者市民、障害者団体などは単に支援を受ける立場であるとは限りません。地元の障害者団体によって一般の人たちを対象とした地域への炊き出しが行われたり、地元の障害者が地域の事情をよく知っていることで、全国からやってくるボランティアのリーダー的存在となり、地域の障害者支援にあたった事例もたくさんあります。  その意味で障害があるから福祉避難所へ避難するという考え方だけでなく、被災した人たちを中心とした地域支援のあり方などを考えていく視点も必要です。  また災害支援として、同じ障害がある人たちからの支援は、相手の事情を察しやすく、また被災障害者にとっても意見を言いやすいこともあり、大きな力であると思います。  障害者市民を支援の対象としてみるのではなく、支援を行う担い手としても考え、災害時にどのような活動ができるのか検討することも大切な視点であるといえます。 ゆめ風基金 ========== ===図表と説明=== 図 被災地障害者支援センターを中心とした連携イメージ(省略) 機関の役割  1.被災障害者支援センター  兵庫県では社会福祉協議会内部に設置され、新潟では県主導で設置されたが、本提言集では行政が設置することを提案する。新潟県の事例のように、各市町村にある生活支援センターを相談窓口の拠点として、都道府県にセンターを設置する。 業務は @保健師や看護師、福祉専門職員などの広域調整を図り、人員確保や派遣 A被災地外の福祉避難所などの確保とコーディネ−ト B相談窓口の設置 C要援護者に必要な情報収集と発信 D被災地外の福祉仮設住宅など要援護者向けの住宅確保 E福祉制度の被災地における例外規定など国との調整  2.都道府県災害ボランティアセンター  都道府県社会福祉協議会が、行政からの委託を受け設置する。民間ボランティアの広域調整を行う。都道府県によっては、すでに民間ボランティアの登録を行い、社会福祉協議会にコーディネートを委託している場合がある。 業務は @全国ネットワークを持つ障害種別ごとの組織やボランティア団体、あるいは都道府県内障害者関係団体、ボランティア団体との連絡調整、人員確保、支援者派遣。 A各市町村からも直接応援要請できるように、団体名簿(支援できる内容と連絡先を記入したもの)を作成し、各市町村ボランティアセンターに配布。 B個人ボランティアの受付、派遣 C被災地外へ避難した人への支援  3.市町村災害ボランティアセンター  一般避難所、福祉避難所への支援を行う機関として、ボランティアセンターの設置は、これまでの災害でも既に行われているが、その役割や、立ち上げ方法が市町村によって異なっています。  ボランティアセンターを機能的にするため、設置に関する指針が必要です.  @障害者市民、高齢者だけでなく、一般の人も災害時にはさまざまな固有のニーズを持っていることから、窓口を細かく分けるのではなく、ボランティアセンターとして一本化した上で、さまざまな支援を行うグループ体制をつくる。  A障害者市民や高齢者については、福祉避難所の確保や福祉施設への避難要請など、行政間で調整を必要とすることがあるので、市町村の災害時要援護者担当とボランティア派遣を一体にしたグループをつくる。  B市町村内の障害者関係団体、ボランティア団体などは、日常から登録を行うと同時に、災害時の役割などを決めておく。  C各グループにおける防災訓練を行う。(ワークショップやシュミレーション、体験方式など参加型のものを取り入れる)  D災害時に実務を行う場所を決めておくと同時にパソコン、インターネット回線、印刷機、電話など必要な事務機器、備品の調達方法を決めておく。 ========== ===コラム=== 阪神・淡路大震災の経験                 NPO法人拓人こうべ代表 福永年久  1995年1月17日早朝、真暗闇のなか爆発音が「ドカーン」と鳴り響き、私はとっさに飛び起きた。その後上下にベッドが揺れ動き、横にあった水槽が爆発、次から次へと6つぐらいあった水槽が爆発し、水とガラスの破片がベッドに向かって飛んできた。幸いベッドの柵が、ガードになって、水だけが飛んできた。私はびしょびしょになり、何が起こったのか一向にわからないまま、色々なことを想像した。誰かが爆発物でもしかけたか、それともガス爆発か? しかし実に周りの状況は静かで住民の声もしなかった。ただ私だけが「助けてくれー!」という大声を出しながら「午前10時になれば介護者が来てくれる」と思いつつ、大声を出し続けた。約15分後、私の介護をしている関西学院大学の学生が助けに来てくれた。すぐに服を着替え、電動車椅子に移って、メチャクチャな部屋の状況を見ながら外に出た。出たのは午前6時30分頃。やっと学生に「何があったんや?」と聞くと、「地震やで。」  学生が私に「何をやろう?」と聞いてきたので「一軒一軒仲間の家をまわろう。13人の安否を確認しよう」まず初めに西宮北口に行き、高速道路を見上げると、バスが半分落ちかけていた。その下では宝石屋がつぶれ、宝石が道一面に落っこちていたが、誰も取る人はいなかった。8軒目の仲間の家に行くと2階部分が1階になり、1階部分がなくなっている。1階に住んでいた仲間が行方不明。JR西ノ宮に近づくと作業所職員が自転車で通りかかったので「おーい皆どこにおる。」(私)「9人が平木中学校に避難しているよ。後の4人は、1人は尼崎の実家に帰った。あとの3人は行方不明。」と答えた。もう一度、3人の家に行くと家が全壊、人間の姿は、発見できず。私は判断に困り、西宮警察本部に行けば何か情報があるのではないかと思い、行ってみた。するとロビーに2人の障害者が毛布をかぶって避難していた。「あっ、こんなところにおった!」あとは1人だけ。  西宮警察から「避難所に行ってくれ」と言われ、行ってみると、そこは1階に避難所がなく、階段を上がって2階3階が避難所になっていた。私は電動車椅子を使っていたために階段などは使えず、「何が避難所だ」と思い、管理者に「これはどういうことだ? 1階に避難所はないのか? 空き部屋はないのか? 非常事態だから避難所を作れ!」と言いあった。その結果、20平米ぐらいの会議室があけられた。やっと小さな部屋だけど避難所をつくることができ、一息つくことができた。1人の行方不明者を何とか探さなければならない。かけつけてくれた大阪大学の学生とともに壊れた家を掘り返すことにした。3日間掘ったが見つからなかった。3日目にやっと自衛隊のシャベルが来て、半分くらい掘るとペッチャンコの遺体が見つかった。  2週間ほど何もする気が起きず、過ごしていたが、何か私自身でできることがないかと考え、復興活動を始めた。最初は、大阪・釜ヶ崎の運動に少し関わり、炊き出しをやっていることを思い出し、炊き出しからやろうと思った。餅つきからやろうと思って浜坂にもち米を買いに行き、私が行ってる間に残った仲間たちと支援者で豚汁の炊き出しをやって、2千人分を配った。かかった費用は1回に16万円。私が帰ってくると「1回に16万円かかった!」と言われ、「毎日炊き出しをやるのか?」と聞くと、「やらなければ仕方がない」との返事。「お金が続かへん」と私が言うと皆、黙りこくってしまった。「義援金やカンパあらゆる手をつかって、何とかしよう」と言ったが、私もお金をつくる自信がなかった。全国各地の仲間から義援金やカンパがボツボツ集まってき、私の講演も全国各地で依頼を受けるようになり、何とか炊き出しの金と色々な活動資金の目途がつき始めた。炊き出しだけでなく、高齢者や障害者の風呂支援、水運び、避難所巡り、引越し手伝いなどの活動を1年半ばかりやった。私自身は過労で脳梗塞になり、半身不随になり3年間寝たきりの生活になった。が、地震から11年経った今は、活動に復帰している。 =========== 提言10 力はみんなで出すけれど、行政責任もしっかりと 自助、共助に頼りがちな防災計画。行政が果たす役割も明確に。 行政連携で多くの人員が確保できる  現在の防災計画は自助、共助を強調する記述が多く見られますが、行政間の広域連携や民間会社との災害協定によって職員が業務を果たせるようにしておくことなど、公助としての責任をしっかりと果たすべきです。 ●中越地震の際、緊急避難的に重度障害者を受け入れてくれる施設などの情報が、震災後しばらくしないと出てこなかったし、その施設への緊急避難の交渉も、すべて本人に任されていた。やはり災害が起きる前から行政は緊急避難できる施設などをリストアップしておき、何か起きた際には、スムーズに避難できるように調整してほしいと思う。 ●主に行政が障害者と連絡が速やかに取れる、また障害者が情報をとったり、行政に連絡ができる方法をつくってほしい。 ●普段ではなかなか難しいかもしれませんが、いざ災害が起こったときではおそすぎるので、やはり防災訓練などを通して、災害時のイメージづくりをした上で支援が必要な部分を具体的に考え、行政の部分は行政、その他の部分はその他で支援していけるよう連携してく必要があるように思う。 ゆめ風アンケート  新潟県大地震では障害福祉施設に支援にあたる人員を広く求めたところ、39都道府県、399施設から職員派遣の申し出があったということです(実際には県内だけの協力、1ヶ月延べ379人で対応できた)。  また行政には保健師や看護師、福祉の専門家が多数いるので、相談業務やカウンセリング、アドバイスなどが適切にできるといえます。  災害救助指針でも あらかじめ他の都道府県と救助の応援に関する協定を締結しておくこと。 ・協定では、応援要請又は協力の手続き、応援又は協力を受けるべき救助の内容・方法、費用負担のあり方などについて明確にしておくこと。 ・被災都道府県の職員のみでは救助要員が不足する場合に、速やかに他の都道府県に対し、災害援助協定に基づいて職員の応援派遣を要請すること。 ・応援を行おうとする都道府県(以下、「応援都道府県」という)は、救助の種類、場所、期間等の救助内容について事前に被災都道府県と調整を図るとともに、厚生労働省に連絡して実施すること。 ・被災都道府県と連絡が取れないなどの理由により調整が図れない場合は、厚生労働省と調整を図って実施すること。 ・応援都道府県は、被災都道府県の被災状況によっては現地において衣食住に関する支援が受けられないことも想定し、これらに係る最低限の装備については自ら携行すること。 ・大規模災害を経験し、救助を実践した都道府県は、国の要請に基づいて、職員を被災都道府県へ派遣し、救助の支援や助言を行うこと。 ・被災都道府県は、他の都道府県からの応援職員が被災地において効率的な救助を実施す