<HOME>

*短編小説*

<『いらないもの』>


「まいどーお騒がせしております。こちらはー、エー、こちらはチリガミ交換屋でございます」

 彼の部屋には新聞紙と雑誌が山のように積まれていたが、拡声器から聞こえる声に彼は反応を示さなかった。

 敷きっぱなしになった布団に仰向けに寝たまま、周りに積まれた新聞や雑誌を横目でぼんやりと眺めている。すると新聞紙の一枚がひらりと舞い上がった。窓を開けてあったので、風にあおられたようだった。

 彼は新聞紙の行方を目で追った。天井のまわりをゆっくり回りだし、四つの端をゆらめかせて、蛍光灯の紐にしがみつき、そしてそこからぱらぱらと薄い花びらのようなものを落としてきた。

 彼はおもむろに上半身を起こし、布団の上に降りかかったものを順に手のひらにつまんで並べた。それはまるで夏に海水浴に行って、日焼けした肌の皮を薄く剥いだようなもので、印刷された文字が一つ一つに刻まれていた。

『わ・た・し・を・燃・や・し・て・く・だ・さ・い』

 彼はそれを読んでから、

『何故?』と心の中で問いかけた。その声が通じたのか、それともいぶかしげな目を上げる彼にもう少し説明が必要だと感じたのか、新聞紙は、また次のような文字を降らせた。

『わ・た・し・は・も・う・彼・ら・に・つ・か・わ・れ・る・の・は・イ・ヤ・で・す』

『再生されるのがイヤなのかい?』

 新聞紙は静かに羽を休めている蝶のように端を震わせ、

『今・日・ま・た・あ・の・声・が・聞・こ・え・て・き・ま・し・た』と伝えた。

『そうだね……』と彼は呟いた。

『オレもイヤ気がさしているよ』

『わ・た・し・を・燃・や・し・て・く・だ・さ・い』

 彼は、

『お供していいかな?』と聞いた。それに対して返事はなかった。

 彼は山積みになった新聞紙を崩して、その中に体をうずめるとマッチをすった。

  

              

""



<BACK>