
|
| 【妹の嫁ぎ先】 |
妹の嫁ぎ先は、四国でした。私が遍路をすることは、事前に妹の口から相手方の家族に伝えられていました。「○番札所の傍だから、近くを通ったら寄ればいい」と言われていたそうです。ていのいい社交辞令なのだろうと思いながらも、そういう言葉を発してくれたご家族の心の広さを感じました。でもね、「近くを通ったら寄ればいい」って、それだけじゃ分かんないって(軽くアハハと笑ってみる)。でしょ? でしょ? 会ったことも、話したこともないし。
でもお大師さんの導きはすごいね。辿り着いちゃったよあたしゃ。家を教えてくれたあのおじいさんは、お大師さんだね、きっと。なんで私のあの説明で妹の嫁ぎ先が分かったのか、未だに分からない。それだけ深い近所づきあいが残る土地柄なのか、有名なおうちなのか、たまたま知り合いだったのか…。とにかく、ここまで来たからにはせめて挨拶をしておかねば、示しがつかない。そんなわけで、「突撃!隣りの晩御飯」のヨネスケさんよろしく、しゃもじのかわりに杖を携えて玄関を開けたのでした。もちろんアポなしの突撃訪問でした。「…す、す、すみませぇ〜〜ん」←むっちゃ小声の弱腰レポーター。
自分の身元が明らかになるまでしばらく難儀しましたが、その後はたいそうフレンドリーに接してくれて、こともあろうに泊めてくれました。「いやいやいやあわわわわどどどだだだ」と取り乱す私を笑顔で招き入れてくれて、食卓を皆で囲んで、わいわいがやがや楽しく晩御飯をいただきました(気が付けばすっかり溶け込んでる、さすがヨネスケ)。実家に連絡すると「ずうずうしいにもほどがある!!」と怒られ、呆れられました。せめてもと納め札を差し上げると、お母さんが「これはこれは」と丁寧に受け取って下さいました。
やがて夜も更け、「いつの間にこんなことになったんだろう。何故だ何故だ。でもすごく有難い気がする。これは一体どうしたことか??」と、狐につままれたような不思議な心持ちで布団にくるまりましたが、興奮冷めやらぬといった感じで、ふんふん鼻息荒く、なかなか寝付けませんでした。
翌日、まだ暗いうちに次のお寺に向かおうとしていると、おじいちゃんが現れました。「ここから山に入る。まだ暗いし危ないから、車に乗っていけ」と言います。歩きにこだわっていたので最初は断りましたが、ここまでお世話になっておきながら最後に我を通すのは、それこそ恩を仇でかえすようなものだと思って、乗せていただきました。背は高くないけれど大きく見える、それはそれは威厳と風格のあるおじいちゃんでした。だから、すごく緊張しました。「ここはな、イノシシが出るんだ。列を作って、道路をすごい勢いで横切っていくんだ」とか、遍路道について、地元について、私の緊張をほぐすように、色々と話をしてくれました。車は、ぶおぶお苦しそうに坂を登ります。私のおじいちゃんは私が生まれる前に亡くなっていたから、もしおじいちゃんが生きていたらこんな感じで色々話してくれたんだろうか…? そんなこんなで最後には私から話題が振れるまでになって、お寺に到着しました。「結婚式場で、またお会いしましょう」と言って、お別れしました。
ばたばた準備に追われ、落ち着かないまま妹の挙式当日を迎えました。改めて向こうのご家族に御礼を言わねばと気合十分でしたが、タイミングを失い続けます。
「どこまで廻ったんだ、もう最後まで行ったのか」神前式の親族入場で整列したときに、おじいちゃんの方から声を掛けてくれました。先日の御礼を言って、ひとしきり報告をして、「最後まで廻れたら、また報告させてください」と伝えました。「ウム」と満足げにおじいちゃんは頷きました。
それからみたび四国入り、結願目指してのこのこと歩きましたが、途中、おじいちゃんの調子がよろしくないと妹から聞かされました。おじいちゃんは、もう長いこと重い病を患っていました。私が出会った限りでは元気そうに見えましたが、それはひたすら隠していたからで、挙式後に入院してからはどんどん容体が悪化しているとのことでした。「おじいちゃん待っちょれよー、結願したら、そのままお見舞いに行くからなー」と、いつの頃からかそんな目標を立てて前進しました。
しかしながら…おじいちゃんは一足先に旅立ちました。突然のことだったので、にわかには信じられませんでした。でもね、お大師さんはちゃんと報告の機会をくれたよ。偶然と必要に迫られる形で、葬儀に参列させてもらえた。まだ結願前だったけど、静かに眠るおじいちゃんに最後の御礼を言うことができました。出棺の時に、棺の中に輪袈裟やなんかの参拝用品が納められていて、おじいちゃんも四国遍路をしてたことを知りました。生前の雄姿を彷彿とさせる、立派なお葬式でした。でも、思うのです。あのとき、変に意地を張らずに車に乗せてもらって本当によかったと。そんなに長い時間ではありませんでしたが、私とおじいちゃんだけの思い出ができたようで、嬉しいのです。南無大師遍照金剛。
Photo by YUTIAN:写真;お大師さんは、心憎い演出家だと思う。 |
|