『17歳のオルゴール』 −県立A高校・演劇部の挑戦− 2000.Jan.28

 1999年11月21・23日に行なわれた高校生演劇の「第2地区合同発表会」に、県立A高校の演劇部「重度な障害を持つ女の子」をテーマにした「17歳のオルゴール」という作品で参加した。
 外出や食事、トイレまで自分一人では出来ず、誰かの介助が必要な 重度の 『脳性マヒ』 という障害を持つ17才の女の子が主人公。
 両親、兄妹のやりとり、一般社会からの偏見なども描かれており、やがて知り合ったボランティアの大学生に恋をして、精神的な自立へと成長していく…、という内容である。

写真:主人公「ミキ」の親子と、ボランティアのマサキ 私が同じ障害を持っているということもあってか、10月初めから「障害者」の表現方法についての相談を受けた。お互いに未知の分野であり、1回目は生徒たちから質問を受ける形で始まった。
 予定している舞台の脚本をもとに、高校生らしい面白い質問、またプライベートな鋭い質問など、これまで学校で行なっている「福祉教室」では触れることのない話題もあり、学校生活の少ない自分としても面白い体験だった。

 それから二週間後、「もう少し話したい…」との連絡があったので、自分のありのままの姿・生活を見てもらうのが一番だと思い、主役のAさん演出のMくん演劇部長で今回舞台監督のKくん、3人の生徒に、今度は家に来てもらった。本番まで二週間という状況だった。
 短期間に、言葉で説明するのは、かなり難しいことだ。少しは参考になればと、以前放送された約1時間のドキュメント番組のビデオを見てもらいながら、ほとんど舞台とは関係のない話をして、脳性マヒの動作に関するアドバイスは特にしなかった(^^; 笑…
 その頃までは、物語りの内容から「17才の女の子」という精神的な部分が大きく、同年代主人公役のAさん(2年生) そのままの気持ちで演ずればいいと思っていた。 しかし、やがて「身体的な障害や、不自由な動作」がなければ、この主人公の気持ちは生まれて来ないことに気付いた。

 話しているうちに、実際の障害者の生活と合わない動作・場面が脚本にあることが分かったので、本番一週間前、初めての「通し稽古」を特別に見せてもらった。
 稽古が始まった瞬間に驚いた。Aさんは、私の予想以上に「脳性マヒ」を演じていた。ブレーキをかけて固定した車いすが揺れ動くほどの体の緊張・痙攣、一定しない頭の位置や目線の動きの表現など、脳性マヒの特徴を非常にリアルに捉えている。発声・発音も言語障害の表現で、それまでの演劇のものとは大きく違う、ゆっくり絞り出すような声である。それぞれの動作は「本物の障害者」と見間違うほど… それでいて、演劇として成り立つレベルを保っている。
 しかし、これらの動作は、決して私のコピーではない、Aさん独自の姿といえる。彼らの観察力・表現力は、強調しておきたい。

写真:ラーメンを食べさせようとするマサキ 稽古では脚本にある写真を参考にして、外出する場面で“ひざ掛け”を使っていた。自分も含めて脳性マヒの人で、ひざ掛けを使う人はほとんどいない。この障害の特徴の一つでもある不随意運動(ふずいい うんどう)があるために落ちてしまうし、その運動量で真冬以外はあまり寒くないのだ。Aさん自身も稽古のあとで「暑いぐらいと言っていた。
 では、舞台で室内と屋外の場面転換をどう表現するのか?…ということになった。実際に私たちは歩くことはなくても、足先の保護のために靴を履くことが多いので、そのように動作を変えてもらった。
 (写真は、カバンを持っているところです。)

 それから一週間後の「合同発表会」本番の舞台では、主人公だけが特に目立つということもなく、特にエンディングでは自分たちなりにアレンジして、さらに良い舞台になっていた。写真:心の中で、走り回るミキ...

 テレビドラマでもそうだが、障害者という題材はヒーロー的な扱いか、逆に重苦しいムードになりやすい。脚本に書かれているジョークやアドリブの寒いジョークで、会場から笑いも起こり雰囲気をやわらげたことや、同世代の障害者の気持ち・生活の場面が表現されていて良かったと思う。

 この程度の障害者には難しい動作と言える「書いた手紙を出せずに焼いてしまう…」という、矛盾する言葉が脚本にあった。これに音響担当のKさんが気付いて、「手紙を捨てる…」ように修正したことを聞いた。演劇部全員で作り上げた舞台になったのである。手話での説明やスライド字幕など、演劇でのバリアフリー も試みられていた。
(手話の指導は、別に美人の手話通訳士(?) Mさんによって行われました。)

 この「17歳のオルゴール」で県立A高校演劇部は、参加した全12校のうち『最優秀賞』を受賞し、主演のAさんも『個人賞(演技)を獲得した。

 演劇と障害者というのは、これまでなら、それぞれ関わりの少ない分野だっただろう。それを「演出意図」でもある、障害の有/無に関わらず、高校生たちと同じ世代、同じ問題、同じ人間の気持ちとして扱ったことで、互いに近付き「見えないバリアー」が一つ一つ消えて行ったように思う。

公演後、全員の記念撮影。ハイ、チーズ!

違う立場を理解する方法は、いくらでもあるのかも知れない。

写真:セーラー服のAさん

素顔のAさん。

ルーズソックスの高校生

未来の女優か?

 彼らに福祉活動やボランティアをやって欲しいとは思わない。
自発的に、やりたいと思ってくれれば、もちろん大歓迎する。

 彼らが将来就く仕事の中で、また毎日の生活の中で、この舞台の体験、気持ちを思い出してくれれば、それで十分だと思っている。


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