法律適用手続きの瑕疵について
国及び国側勝訴判決を下した裁判所の本件に関する法律適用手続きには、次の通り大きな瑕疵がある。
1、事実の確定手続の瑕疵
本件において確定すべき事実とは、課税物件としての所得を生じたという事実である。本件ストックオプション制度において、結果的に、取得した株式の時価と権利行使価額の差額という反射的利益を得たことは事実であるが、その事実に対して所得税法を適用する場合には、課税物件を定めた条文を探し出して(法律の発見)、その事実がその条文に当て嵌まるかどうかを検討して(法律の検認)、当て嵌まるとすればこれを当て嵌めること(発見又は検認した法律の適用)を、本件に対する所得税法の適用というのである。(林修三法令解釈の常識7頁参照)
しかし、国も裁判所も、課税物件の定めが、所得税法に定める課税要件であることを無視しているから、課税物件を構成する要件を充足することはあり得ない筈の、いわゆる権利行使益(反射的利益)を対象として給与所得であると認定しているのである。
そして、課税物件を構成する要件として重要な事実である、ストックオプションの権利内容に関する合意契約と、権利行使により成立した売買契約という二つの法律行為と、その契約の履行行為としてなされた事実行為を法律の根拠もなく否認したと同様な判決となっている。このことが租税法律主義違反であることは、これまで述べた通りである。
2、関係条文の発見および検認の手続の無視
国も、国側勝訴判決を下した裁判所も、法律の条文の中から、いわゆる権利行使益という事実に関連する条文の発見と検認の手続きが全くなされていない。
本件ストックオプション行使による株式の取得に係る所得の、所得の種類の決定に関連して、検認の対象とすべき条文は、法23条乃至35条(各種所得の計算)と36条(収入金額)である(法律の発見)。その条文の中から、一般的・抽象的な定め方(仮言的判断という)をしている課税物件即ち各種所得の構成要件を明確に解釈しなければならないのである。
しかるに国も裁判所も、給与所得該当性の是非判断を最優先するばかりでなく、前記法律の各条文に示されている課税物件の構成要件を全く無視し、ストックオプション付与契約の締結目的を、徴税の立場から一方的に認定して、株式取得に係る利益を、権利行使益という名の下に給与所得と判定しているのである。
もし、裁判官が、初めて税務訴訟を担当したとしても、法律の発見と検認という手続きを尊重していれば、次のような判断のプロセスを辿った筈である。