中医針灸治療の実際
| 月兪穴(ゆけつ) |
| 月兪穴とは所謂ツボのことです。月兪穴とは人体の臓腑、経絡の気が体表に注ぎだした 部分をいいます。月兪穴は各経絡に属し、経絡は一定の臓腑に属し、鍼灸の施術の 部位であり各月兪穴はそれぞれ特有の主治を持っています。 月兪穴は、十四経穴、経外奇穴、阿是穴の三種類に分類されます。経穴とは経絡に所 属する月兪穴のことで、それ以外の月兪穴を経外奇穴といいます。阿是穴とは圧痛点の ことです。 |
| 月兪穴の治療作用には以下の三つがあります。 |
| 近治作用 | 一切の月兪穴は、その所在部位及び近位の組織、器官の病証を治療 することが出来ます。 |
| 遠治作用 | 十四経穴がこの遠治作用を持っています。特に十四経の月兪穴の中で も十二経脉の肘、膝関節以下の月兪穴がこの作用に優れており、局部 の病証の治療のみならず、経絡の循行部位並びに近位遠位の臓腑、 組織、器官の病証も治療することが出来ます。中には全身に強大な 作用を及ぼす月兪穴もあります。例えば下腿にある足三里という月兪穴 は、下肢の病証を治療しあらゆる消化器系の機能を調整し、生体の 免疫力を高める働きを持っています。また手にある合谷という月兪穴は、 手腕部の病証を治療し、頚部と顔面部の病証も治療し、また外感病 (風邪など)の発熱も治療します。 |
| 特殊作用 | 月兪穴の中には特異な治療作用をもつものがあります。例えば首の後 ろにある大椎という月兪穴は熱を取ることができます。また至陰という月兪 穴は胎位を正しくすることができます。 またある種の月兪穴には、そこに刺針すると、生体の異なる状態に対し てそれぞれ良性の調整作用を持つものがあります。例えば腹部に天 枢という月兪穴がありますが、下痢の時ここに針をすると下痢を止める ことが出来るし、また便秘の時ここに指針すると通便することができま す。 |
| 四診 |
| 四診とは中医独特の診察法で、望診、聞診、問診、切診の四種があります。望診 とは患者さんの全身及び局部の状態を視覚的に観察することです。聞診は患者 さんの声や匂いの変化を聴覚と嗅覚によって弁別します。問診は患者さんや付き 添いの人に詳細に質問し、疾病の発生やその発展過程、現在の症状や疾病に関 係する情況などを把握します。切診は患者さんの脈拍を見たり、直接に腹部や手 足その他の部位を触診します。以上四つの診察結果を総合して病情を判断します。 |
| 望診、聞診、問診、切診の詳しい内容は以下の様になります。 |
| 望診 | 患部を見ることはもちろんですが、人体内部の変化は経絡を通して体表 に現れます。患者さんの目などを見て精気が充実しているか否か、精神 状態を見たり、顔の色艶で気血の充実度や臓腑の盛衰を知ります。太っ ているか痩せているかなど体格や姿勢も見ます。 舌を見ることを舌診といい、舌診は望診の重要な部分です。古人は長期 にわたる臨床から、舌の部位と一定の臓腑には深い関係があり、臓腑 の病理変化が舌に反映されることを証明しました。舌診は主にその舌質 と舌苔の変化を観察します。舌質はその舌の色や形の変化を見て臓腑 の盛衰を判断します。舌苔は苔の色や形状を見て胃気の状態を知ります |
| 聞診 | 聞診とは、声を聞き匂いを嗅ぐ事を意味します。発声は情志の変化と深 い結びつきを持っています。患者さんの話し方、話し声の高低、強弱など を聞いたり、呼吸の仕方、喘息、溜息、げっぷ等、異常は無いかを観察 し病証の虚実、寒熱、表裏を判断します。 |
| 問診 | 先ず患者さんの主訴を注意深く聴きます。そして疾病の原因、発生時期 とその経過、現在の症状、既往歴を詳しく訊ねます。疼痛がある場合は、 その疼痛の部位、痛みの性質(刺すように痛む、シクシク痛むなど痛み には色々有ります)、痛みの持続時間、按ずると楽になるか(喜按)、按 ずると痛みが増悪するか(拒按)、温めたり冷やしたりしたらどうかなど詳 細に痛みの内容を尋ね、疾病の陰陽、虚実、寒熱を鑑別します。また発 熱や悪寒の症状がある場合は、悪寒のみか、発熱のみか悪寒発熱両方 なのか、発熱や悪寒の程度、時間などを尋ね、病情や陰陽虚実を判別し ます。汗の有無も質問します。その他、労働衛生環境、睡眠、飲食(食欲 や喉の渇きなど)、月経、二便の状態等、疾病に関連し必要と思われる 状況や生活習慣も質問する場合があります。 |
| 切診 | 切診には按診と脉診の二つがあります。按診は患者さんの病変部位を 触診し、局部の圧痛、寒熱、硬軟などを観察します。脉診は患者さんの 橈骨動脈拍動部を指で按圧し脈拍を見ます。具体的には患者さんの左 右の動脈拍動部を三部(寸、関、尺)に分け、示指、中指、薬指の三指 を使って同時に按圧し、浅部、中間部、深部の三層の脈象を見て、病情 を判断します。実際中国の老中医はじっくり時間をかけてこの脈象を見 ておられます。脈象というのは脈拍を指で触れた時の形、リズム、強弱、 速度、回数、深さなど様々な形象のことです。疾病が脈象に反映された 脈を病脈といいますが、現在この病脈は28種類あります。 |
| 弁証 |
| 弁証は四診から得た診察資料を八綱に分類し、更に分析を進めて疾病の本質を 掴み、その証候名および疾病名を判断してゆく過程です。八綱とは陰、陽、表、里、 寒、熱、虚、実、の八類の証候のことで弁証論治の理論的基礎のひとつです。八 綱分類とは四診を通して得た弁証資料に、病位の深さ、病邪の性質及び盛衰、人 体の正気の強弱などを加え総合的に分析し、上記八類の証候に帰納することです。 これを八綱弁証ともいいます。四診から八綱分類、弁証へと進める過程は、中医 学における疾病の診断治療の基本原則となっています。 弁証の方法は多種あり、全て長期の臨床実践の中から形成されてきました。弁証 には病因弁証、経絡弁証、気血津液弁証、臓腑弁証、六経弁証、衛気営血弁証、 三焦弁証などがあります。病因弁証は病因に重点をおいて証候を弁別する、主に 外感病の弁証法です。六経弁証は外感病の中の傷寒病の弁証法です。衛気営血 弁証は外感病の中の温病の弁証法です。経絡弁証、気血津液弁証、臓腑弁証は 雑病各科に適応する弁証法です。但し臓腑弁証は雑病(傷寒、温病以外の内科 病証)弁証の重点弁証法であり、経絡弁証と気血津液弁証は臓腑弁証の補充的 弁証方法ということができます。 鍼灸治療では主に病因弁証、気血津液弁証、臓腑弁証、経絡弁証を用います。 各弁証法の内容は、例えば中国の中医系大学の教科書でも百以上の証候が記 載されており、ここでひとつひとつ記述することは出来ませんが、中医鍼灸治療 は四診、八綱、弁証という一連の診断過程を経て初めて治法が決定され、経穴 の具体的選穴や配穴が行え、刺法を決めることができるのです。 |
| 行針と得気 |
| 針刺にはその刺入角度の違いにより直刺、斜刺、横刺の三種があります。針刺 の方向は一般に経脉の循行方向、経穴の分布部位と到達目標の臓腑、組織、 器官の情況によります。針刺の深度は患者さんの年齢、体質、病情、経脉の循 行深度、針刺の部位などによって決まります。 |
| 針を経穴に刺入後、経気の反応を生じさせる為に一定の行針手技をおこないま す。この針刺部位の反応を「得気」といい、現代では「針感」とも呼んでいます。得 気時に患者さんは針刺部位に重、脹、酸、麻の感覚が有ります。時には経脉に 沿った感伝現象が現れることも有ります。得気の有無は経気(正気)の虚衰のひ とつの目安ともなります。針刺はこの得気の下に適当な補瀉手法を施すことで良 好な治療効果を獲得できます。 |
| 針刺補瀉 |
| 針刺治療では一定の補瀉手法を用いることで、経穴の治療作用を発揮させるこ とができます。針刺補瀉とは補法と瀉法のことで、補法は人体の正気を鼓舞し、 低下した機能を回復させ旺盛にする方法、瀉法は病邪を取り除き、亢進した機 能を快復させ正常にする方法のことです。大補、大瀉、平(小)補、平(小)瀉など、 おおよそこの手法の強弱や補瀉の区別は患者さんの体質の強弱、病情の虚実 により決定されます。補瀉手法には捻転補瀉、提挿補瀉、疾徐補瀉、迎随補瀉、 呼吸補瀉、焼山火、透天涼、平補平瀉などがあります。 |
| 留針時間 |
| 刺針後、穴位に針を留置しておくことを留針といいます。留針の目的は針刺の作 用を強めたり、手法を継続するためです。留針の要不要、或いは留針時間の長 短は患者さんの病情により決定します。留針の時間は一般の病症では概ね10 〜20分ですが、ある種慢性病や疼痛性、痙攣性病症などは適宜時間を延長す るか、或いは留針中に補瀉手法を施します。中には一時間以上を必要とする病 症もあります。 |
| 鍼灸の治療作用 |
| 調和陰陽 | 人体は正常な状況下では陰陽の相対的平衡状態を保持しています。 しかし例えば七情の乱れ、六淫の邪の侵入、捻挫や外傷などで陰陽 のバランスが崩れると、陰と陽の盛衰により寒や熱の証候が現れま す。針灸治療はこの陰陽の偏盛、偏衰を調整し、人体の正常な生理 機能を回復し、疾病を治癒する作用を持ちます。鍼灸の陰陽調和作 用は基本的に経穴の配穴と刺針手技を通して行います。 |
| 扶正去邪 | 扶正とは疾病に対する抵抗力、免疫力を助けることで、去邪とは疾 病に到った原因、素因を取り除くことです。疾病の発生、発展、変化 の過程は、即ち正気と邪気との相互闘争の過程でもあります。正気 が旺盛であれば邪気は病を引き起こすことができませんが、正気が 虚弱になれば邪気はその虚に乗じ人体に侵入し疾病を引き起こしま す。鍼灸治療はその扶正去邪の作用を発揮することが出来ます。お およそ刺針の補法と艾灸は扶正の作用が有り、刺針の瀉法と放 血には去邪の作用があります。 |
| 疏通経絡 | 人体の経絡は、内は臓腑に属し、外は四肢関節に連絡しています。 十二経脉の分布は、陽経は四肢の表にあり、六腑に属し、陰経は四 肢の裏にあって五臓に属しています。そして十五絡と繋がり、表裏を 貫き、血気循環の通路を構成し、人体の正常な生理機能を維持して います。病理からいうと、経絡と臓腑の間には連関の関係があります。 外邪が侵入すると先ず経絡が病に罹り臓腑に伝播します。一方臓腑 が先に発病するとその後経絡に反映されて来ます。針灸治療は臓腑 と経絡の相互連関関係に基づいて経穴に刺針艾灸を施し、経脉を通 し気血を調和させ、病因病邪を排除し疾病を治癒します。 |
| 鍼灸の治療原則 |
| 補虚と瀉実 | 補虚とは正気を助けること、瀉実とは邪気を取り除くことです。疾 病の過程で、正気不足は虚証として現れます。虚証には補法を 用いて治療します。また疾病の過程で、邪気が旺盛なときは実証 として現れ、実証には瀉法で治療します。 |
| 清熱と温寒 | 清熱とは、熱証には清法を用いることで、点刺放血、透天涼法な どがあります。温寒とは、寒証に温(熱)法を用いることで、温灸 や焼山火法などがあります。 |
| 治標と治本 | 標とは症状のこと、本とは疾病の根本原因のことです。 一般に症状が緩やかな場合は疾病の根本原因を治療するという のが原則です。根本原因を治療すれば症状は自ずから消失しま す。これを「緩則治本」といいます。症状が急性の場合はまず症状 を先に治療します。症状の改善を待ってから本治法を施します。 これを「急則治標」といいます。標と本が相互に影響し、いずれか 一方を先に治療し難い場合は標と本を同時に治療します。これを 「標本同治」といいます。 |
| 同病異治 と 異病同治 |
同一の疾病は勿論その症状、部位は相似していますが、原因が 異なれば同じ疾病であっても異なる治療をします。たとえば胃痛を 例にとると、弁証が「肝気犯胃」であった場合、治則は「疏肝和胃、 行気止痛」となり、足厥陰肝経、足陽明胃経の経絡から取穴し瀉 法を施します。一方胃痛の弁証が「脾胃虚寒」であった場合、治則 は「補脾健脾、温中散寒」となり、足太陰、足陽明から取穴し、針は 補法を用います。このように同じ胃痛であっても病因が異なれば治 療法も変わってきます。これを同病異治といいます。 異なる疾病は勿論その症状や部位は異なりますが、異なる疾病で あっても病因が同じなら同一の治療を施します。これを異病同治と いいます。たとえば頭痛と脇痛を例にとると、弁証が「肝火上亢」の 頭痛と、「肝気鬱結」の脇痛は原因が同じなので両者共に足厥陰肝 経、足少陽胆経を取穴し、同じ治療をおこないます。「肝火上亢」と は肝気が鬱結し化火したものです。 |
| 局部と全体 | 局部治療 一般に局部の証状に対する治療を指します。 全体治療 一般に疾病の原因療法を指します。 局部と全体兼治 原因治療と証状治療を共に重視した治療で、 両者を有機的に結合した、より治療効果の高 い方法です。この方法は例えば、脾虚泄瀉(下 痢)に対しては、天枢、足三里を取り補法(或い は先少瀉)を施し止瀉を行い、同時に三陰交、 脾兪に補法を施し補脾をはかります。 鍼灸治療は局部と全体の統一的関係や経穴の主治作用を考えて 選穴配穴し治療を推し進めます。 |
| 針灸処方 |
| 鍼灸処方とは正確な弁証と治則の基礎の上で、適切な経穴を選択し刺灸する方法 のことです。鍼灸治療において経穴の選穴と配穴は大変重要なものです。 |
| 選穴原則 | 近部選穴 臓腑、五官、肢体部位の近隣の経穴を取ります。臨床 上は一経或いは数経から取穴し経絡、組織、器官の 陰陽、気血を平衡させます。 |
| 遠部選穴 遠道選穴ともいいます。病位から遠距離にある経穴を 取ります。具体的な応用では、本経取穴と異経取穴の 区別があります。本経取穴は、病変がどの臓腑、どの 経絡に属するかを判断し、当該の経絡から取穴します。 しかし数多くの疾病の病理変化は臓腑と臓腑の間で互 いに影響しあっている為、臨床では複雑な疾病には異 経取穴が広範に応用されています。 |
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| 対症選穴 個々の症状の治療の為の選穴で、一般には治標の範 疇に属します。応用する時は病情の緩急標本を見極 め選穴します。また痛点選穴(阿是穴)も対症選穴法 に属し、臨床上は外傷、捻挫、痺証などの疼痛やリン パ結核、甲状腺腫などに良好な治療効果があります。 |
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| 配穴方法 | 経穴の主治作用と選穴原則に基づき、協調作用を有する二つ以上 の経穴を選び配穴します。歴史上配穴法は多いですが、現在は前 後配穴、上下配穴、左右配穴、表里配穴、遠近配穴の五種類が良 く使われています。 |
『経絡学』『兪穴学』『針灸学』『中医診断学』(人民衛生出版社)日本語訳(要約)
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