全国地域人権運動総連合
   

   

 全国人権連 > 人権擁護法案反対 > 人権擁護審議会での全解連の主張(98年1月)

            

人権擁護審議会での、各団体からの意見聴取

1998年1月12日

全国部落解放運動連合会 
                 
 

発言要旨(レジュメ)
     

(1)同和関係者の人権に関する実情について
     

1.部落問題とは何か、部落問題解決とは

 部落差別は、封建的な身分差別の残り物の問題です。

 差別には、人種、民族、信条、性、障害など、さまざまな問題があります。 この問題の解決は、その差別の成り立ち、性格などにより、解決方法も異なってきます。

 部落差別は、同一民族内の旧身分にかかわる問題です。 したがって、一部に論じられているような「部落民として解放される」というようなものではありません。 この問題の解決は、旧身分にこだわりなく、旧身分の垣根を取り払い、国民融合を実現すれば解決します。

 現在、部落問題解決の上で、法律などの人為的な作用によって、「同和地区」「同和地区関係住民」などを、半ば永続的に固定化することは、部落問題解決に逆行するものです。

 全解連は、部落問題の解決を4つの指標で示しています。 それは、

  • 部落が生活環境や労働、教育などで周辺地域との格差が是正されること、
  • 部落問題にたいする非科学的認識や偏見にもとづく言動がその地域社会でうけいれられない状況がつくりだされること、
  • 部落差別にかかわって、部落住民の生活態度・習慣にみられる歴史的後進性が克服されること、
  • 地域社会で自由な社会的交流が進展し、連帯・融合が実現すること、です。

2.部落問題解決の到達段階

 現在、部落問題解決は、28年間に及ぶ同和対策事業の実施により、部落住民自身の努力ともあいまって、生活上にみられた周辺地域との格差はほば解消されたといえます。

 このことは、政府が実施した「1993年度同和地区生活実態把握等調査」によっても、実証されています。

 この調査結果によれば、生活・住宅環境の改善・向上は大きく進み、全国平均と比較して、平均敷地面積、平均室数、平均畳数など、いずれにおいても取り立てて差異があるわけではありません。

 また、就労の実態は、経済の大きな変化の中で、失業率の低下、不安定就労率の減少、雇用者の増大のもとで、大きく改善・向上しました。

 さらに、教育の実態は、地区住民の経済的向上、保護者・教師などの努力の結果、大きくさ改善され、高校進学率もほば格差を解消しました。

 このように部落問題が解決された状態の第1の課題は基本的にほぼ実現したといえます。

 部落に対する時代遅れな誤った認識や偏見は、憲法の基本的人権の定着、社会構造の大きな変化、部落解放運動の前進、民主勢力の取り組みなどによって、大きく薄れてきています。

 ここでも、政府の調査結果にもとづいてみれば、
   

  • 「同対審答申」が「最後の越えがたい壁」と規定した結婚の問題ては、29歳以下の地区住民の結婚は、3人に2人が「地区外との結婚」となっています。
  • 「同和」を理由にした人権侵害の経験では、全体の3人に2人が過去に被差別体験がない状況にいたっています。ここ10年間をみても、10人に9人が被差別体験がありません。
  • 部落問題に対する国民の意識状況は、日ごろ親しく付き合っている隣近所の人が同和地区の人だとわかっても、「従来と変わらず親しく付き合う」人が87.8%、「忌避」する人が10.8%となっています。
  • 子どもの結婚相手が同和地区の人だと分かっても、「子どもの意志を尊重する」人が45.7%「仕方がない」が41.0%、「拒否」する人が12.7%となっています。つまり、部落住民との社会的交流や結婚に際して、一部消極論を含みながらもおおむね10人に9人は、旧身分を理由にした垣根を乗り越え、融合できる状況になってきています。

 このように部落問題解決は明るい展望が生み出されています。

 現在、部落問題の解決は、国民の主体的な努力によって自主的に解決できる段階に至っています。

 問題は、この解決の道筋をどのように切り開くのか、その障害物は何かを解明し、この克服に努力することです。

3.部落問題解決のためには問題状況の克服こそ急務

 全解連は、結成以来、部落問題解決の今日的課題として、第1に、部落にたいする非科学的認識や偏見にもとづく旧い差別をなくすこと、第2に、「部落民以外すべて差別者」などという考えにもとづく確認・糾弾、利権あさり、民主主義への攻撃を特性とする新しい差別を克服することだとしてきました。

 また、全解連は、ここ20年余にわたって、不公正・乱脈な同和行政の実態をきびしく批判し、行政の主体性の確立や、公正・民主・公開、国民合意の同和行政の確立のために、大さな力をそそいできました。

 さらに、全解連は、八鹿高校事件にみられるような、「差別」でないものを「差別」とし、暴力的な「確認・糾弾」行為に対して、これをきびしく批判するとともに、裁判闘争を含めて国民世論の支持のもとにたたかってきました。

 「確認・糾弾」行為は、私的制裁として、しばしば監禁、逮捕監禁、強要、傷害などを理由に、多数の裁判において断罪され、違法行為として認定され、最高裁においても断罪されています。

 政府おいても、同和問題の協議機関であった地域改善対策協議会は、全解連の主張や国民世論を反映して、「1986年意見具申」以来、「差別意識の解消を阻害し、また、新たな差別意識を生む新たな要因が存在している」と指摘しています。 それは、行政の主体性の欠如、同和関係者の自立、向上の精神の涵養(かんよう)の視点の軽視、えせ同和行為の横行、「確認・糾弾」行為などが、「同和問題に関する自由な意見交換を阻害している大きな要因」としています。 こうしたもとで、今後の方向性を打ち出すに際して、新しい要因の問題の軽視や「教育・啓発」課題へのすり替えでは、かえって国民的な批判をまねき部落問題の解決には役立ちません。 また、「行政の主体性の確立」に関わっては、1996年5月の「意見具申」で、「個人給付的事業における返還金の償還率の向上等の適正化、著しく均衡を失した低家賃の是正、民間運動団体に対する地方公共団体の補助金等の支出の一層の適正化、公的施設の管理運営の適正化、教育の中立性の確保について、引き続き関係機関を指導すべきである。また、国税の課税については、国家行政の根幹にかかわる問題であり、その公正を疑われることのないよう、より一層の主体性をもって引き続き適正・公平な課税の確保に努力すべきである。 地方税の減免措置についてもその一層の適正化に今後とも取り組むべきである。さらに、行政の監察・監査・会計検査等については、必要に応じてこれらの機能の一層の活用が図られるべきてある」としています。

4.これからどのように解決を図っていくか

 全解連は、このような問題状況の早期克服こそ、部落問題解決の必要条件であると考えます。 現在、全解連は、逆差別を生み出している同和行政を一日も早く終結させ、国民との連帯のもとで、暮らし、福祉、教育などの一般施策の充実をはかるために全力をあげています。

 現在、部落住民の間では、格差是正と国民融合の到達点を反映して、「同和の特別扱いはやめてほしい」「行政による分け隔てはやめてほしい」「当たり前の教育をしてほしい」などの声が高まっています。

 これは同和行政、同和教育と称するものが、行政上・教育上、「同和地区」「同和地区関係者」を選別し、分け隔てを行っていることへの地区住民のさびしい反発てす。 このことがかえって今日では部落に対する偏見や問題を引き起こしている大きな要因となっているからです。

 全解連は、部落を含めた地域社会において、今後、旧身分を理由にした偏見とわだかまりを主体的に克服し、国民融合を実現するために全力を傾注する決意です。

 国民融合は、部落内外住民の多面的な共通要求にもとづく共同の住民運動を通じて、地区内外住民の相互のわだかまりを解消し、開花していくものです。

 また、全解連は、部落を含めた地域社会において、人権と民主主義、住民自治を確立する展望のもとに、広範な住民と共同し、社会進歩の一翼を担い奮闘する決意です。


(2)今後の人権教育・啓発の在り方について

1 .同和教育の終結

 同和教育は、部落問題が提起する教育上の課題を、民主教育の中で解決する営みと位置づけられてきました。 同和教育では、差別や貧困による不就学、長期欠席の問題、低学力を克服する問題に大きな力がそそがれてきました。

 これらの問題は今日、部落問題解決の到達段階を反映して、特に集中して部落にみられる固有の問題ではなくなりました。 したがって、同和の子だけを特別扱いしたり、分け隔てたりする教育は、終結すべき時期を迎えています。 このようなやり方は、児童・生徒の間に新たなみぞと矛盾を引き起こすもとです。 そのために、部落内外の父母を中心に反対や廃止の声と運動がかつてなく高まっています。

2.同和教育の問題点

 現在の同和教育は、往々にして、すべての児童・生徒の中に「差別意識」が存在するとの前提のもとに、「地区の子」と「地区外の子」に分け、「地区の子」には「立場の自覚」を押しつけ、「部落民宣言」「立場宣言」などを行わせる傾向が濃厚です。

 また、「解放教育」と称して、狭山事件の石川一雄氏の「生い立ち、被差別体験」を「反差別教育」として児童・生徒に押しつけている例すらあります。

 さらに、「地区の子」=「低学力」と位置づけ、地区で「解放学級」と称するものが実施されています。

 これらの問題点は、

  • 行政主導による「同和教育」と称する教育が、少なからず半ば強制的に教師と子どもに押しつけられていること、
  • 「地区の子」を特定し、「地区外の子」と分離する立場から教育が行われ、分離主義的立場によっていること、
  • 教育に政治課題や運動課題を持ち込み、「部落解放を担う子どもを育てる」と称して、部落排外主義的な立場から行われていること、です。

 こうした偏向的内容の上に、児童・生徒の賤称語発言などを「差別」と規定し、学校などが特定団体に通報し、「確認・糾弾」行為が教育現場に持ち込まれています。

 このような問題は、本来的に学校内において教育的に解決されるべきものです。

3.「同和教育」「同和啓発」から「人権教育」「人権啓発」への再構成問題

 政府は、部落問題とかかわって、「同和教育」「同和啓発」を「人権教育」「人権啓発」に再構成する方針を明らかにし、その具体化を図ってきています。

 しかも、この「同和教育」から「人権教育」への転換は、国連総会決議の「人権教育のための国連10年」を拠り所にして、この具体化のかたちで進行してきています。

 政府は、「人権教育のための国連10年」の国内行動計画を策定しています。 この国内行動計画は、

  • 「人権尊重の意識」の高揚をめざし、国民の意識改革を最大の眼目としていること、
  • この行動計画にはだれが主体なのか不明確な上に、結果的に行政主体による行政主導の上からの教育が予定されていること、
  • 教師をはじめ専門職員がもっぱら研修の対象にのみ位置づけられ、これらの人びとの権利が不明確であること、
  • 国連決議で「弱い立場にある人々」が「人権教育」実施にあたっての配慮としてふれられたことを、国内行動計画では、「人権教育」の「重要課題」となり、これらの課題を「人権教育」として位置づけようとしていること、

 などの問題点があります。 この点から、国内行動計画は見直しが必要であります。

4.「人権教育」の前提は何か

 「人権教育」と称して、人権問題を国民間の心の問題にすり替えることは許されません。

 また、人権意識の高揚は、憲法の精神からも「国民の不断の努力」におうものであり、国民の自主的学習活動があくまで基本に位置づけられなければなりません。

 「人権教育」は、

  • 憲法の民主的原則や教育基本法の精神を堅持する、
  • 教育権は国民にあるとの立場から実施する、
  • 民主教育の徹底こそ人権教育の保障である、
  • 子どもと教師に対する人権を保障する、
  • 行政の役割は条件整備である、が厳守されなければならない。

 人権教育とは、人間の尊厳の確立をめざし、そのために個々の人間が人権の自覚にたって不断に努力し、他の人間の人権を擁護し、自由と平等と連帯ある社会の実現をはかることができるような人間に成長していくための教育です。

 この教育は、人間の尊厳の擁護を自分の生き方としてめざすことができるような人間の形成にあります。 人権教育の中心は、自己を含めた人間の尊厳への自覚、人権に対する認識と態度、実践力の統合です。

5.行政の役割は条件整備にある

 行政の教育上の役割は、教育基本法にもとづいて、児童・生徒の学力と発達の権利を保障するための条件整備が第一義的課題です。

 それは、児童・生徒の人権を保障し、学校規模や学級人数、学習指導要領、高校入学制度などの見直しで、ゆとりある教育を保障することです。

 また、そのことは、教職員の人権を保障する立場から、教職員を大幅に増やし、上からの強制研修をやめ、教師の多忙化を解消し、学校運営や規則でも「子どもの権利条約」にもとづいて見直しを行うことです。

6.「人権啓発」を「法的措置」で推進する誤り

 部落問題解決は、国民の自主的学習活動の促進と国民の教育権にもとづく行政の条件整備で解決できる状況にあります。

 全解連は、「人権教育・人権啓発」の推進をかかげたいかなる名称による新たな法的措置も、かえって部落問題解決の流れに逆行するものと考えます。

 おおよそ法それ自体は、一定の事象に対する特定の価値判断の表明として意味を持っており、国民に対してその遵守を強制しうる力を持つものです。

 「人権啓発」を「法的措置」によって推進することは、国民の内心の自由に関わる問題であり、国民への半ば強制や押しつけ、規制などの問題を生じさせ、「人権」の名による人権侵害を生み出す可能性をもっています。

7.行政の「人権啓発」の眼界

 行政の「人権啓発」は、「人権思想の普及・高湯」を目的として、広報・情報提供の範疇で、公正・中立を厳守しなければなりません。 「人権侵害の除去」に関わる「啓発」行為は、法務局が人権侵犯の処理にかかわって非強制的に実施するものに限定する必要があります。

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