人権が侵害された場合の被害者の救済のあり方について
1999年12月14日
全国部落解放運動連合会
発言内容
1.はじめに
- 「人権教育・人権啓発」に係わる諮問第1号の答申は、人権侵害の主な要因をすべからく国民の意識に転嫁し、人権侵害の是正を国民の意識改変に求め、その実施主体を国家とすることによって、国家権力による国民の内心の自由に対する不当な介入を呼び込むおそれがあります。 これは国家が、憲法に定められた国民の内心の自由に介入し、教育基本法が示す教育行政の条件整備の範疇を逸脱して、国民の意識改変を体制的に迫るものであります。 こうした国民の基本的人権を侵害する行為は認められるものではありません。 また、人権問題が生じているのは国民の意識に要因があるとの認識は、公権力による人権侵害の実際を免罪するもので、「あらゆる人権問題」が審議の対象となるとする国会での法務省答弁とも矛盾するものです。 したがって、こうした基本的な問題を持つ答申の推進と具体化にあたって、当然のことながら何らかの「法的措置」を講ずることにも反対であります。
- 審議会議事録については審議会に公開された各種説明資料も加え速やかな公開を望みます。 また、国民からの意見募集については、広範な国民への周知、充分な募集期間の確保をはかることを要望いたします。
- 法務省は日本新聞協会に対し、審議会ヒアリングへの出席を要請するなかで、「行政命令によって、人権を侵害する記事を差し止めることも視野に入れて検討したい」旨を表明しました。 これは「被害者救済」を名目に、国家権力がマスメディアに対して直接介入する驚くべき意図をはからずも露呈したものと、受けとめております。 このような、言論表現の自由を抑圧し、憲法を蹂躙する企みは放棄しなければならないと考えます。
よって、審議会は、憲法が保障する基本的人権を、どう具体的に擁護し、権利の救済をはかるか、国民のあらゆる権利擁護の観点を基本的な立場として確認し、論議されることを要望します。
2.審議に関わって
国民の裁判を受ける権利を形骸化することなく、さらに、裁判外紛争処理にあたっては国家や行政権力による国民間への強制的介入を排除する立場が求められます。
- 人権の救済は最終的には司法の手によるべきものです。 国民の司法参加の実現、裁判を受ける権利の経済的保障と司法予算の大幅な増大、司法制度を支える法曹人口の大幅な増大など、司法制度の民主的な改革と充実こそ先決・重視すべきです。
- 人権とは、何よりも公権力と個人の権利関係にあることを銘記すべきであり、いわゆる労使関係のように、私的ではあるが対等平等でない国民相互間の人権問題もあります。 審議会は、こうした公権力や社会的権力などによる人権問題を棚上げにしないこと、そして、この間の国連規約人権委員会に国内のNGOが提出した資料や日弁連人権擁護委員会が取り扱った事例集なども検討し、国民の人権実態の把握をすすめ、現行法律や制度の見直しなどを議論していただきたい。
- 1996年地対協「意見具申」は、「被害の簡易迅速な救済」を指摘していますが、国民相互間の「私的自治」の広範な領域に関わる問題は、本来国家権力の干渉は許されないものであり、近代憲法の原則をふまえた検討を要請します。 また、「具申」は「事実関係の調査」についても言及していますが、国民相互間の問題は説得や互いの納得が基本です。 何らかの法律による国民一般への「差別」撤廃の協力義務や規制による「差別」の強制排除は人権侵害を生み出しかねず、本末転倒であり、規制されるべき対象は国家や社会的権力と考えます。
- 現行の人権擁護体制を整備、拡充する
- 人権擁護委員は、その選出にあたって住民の意向が反映できるように例えば準公選制などを適用して市町村長が推薦する、また設置目的を達成するため有給制とし、調査処理にあたっては法務局に通報しつつも当該自治体人権擁護委員会が自主的に対応できるようにするなどの改善が求められます。 なお、人権侵犯であるか否かの判断や強制的排除などは、原則的に司法機関がおこなうこととすべきです。
- 「人権侵犯事件調査処理規定」については、それを改正して、
国民の申請権を明記し保障する、加害者・被害者両者の意見を聴取する機会の提供、すべての調査結果を文書で回答する義務規定を設ける、
さらに、当該法務局職員の人員増をはかる必要があります。
- 国民に開かれた人権擁護委員会とするため、民主的運営にかかわって、委員会審議の公開性や透明性の確保に努めることも要望します。
- 1998年11月5日の国連規約人権委員会の勧告をふまえ、日本にふさわしい国内人権救済機関の在り方について国民的議論をすすめる。
- 規約人権委員会は、国内法と規約の完全な適合や「人権侵害の被害者に対して救済手段を与えるための措置を講じること、とりわけ第1選択議定書を批准することを勧告」しています。 この第1選択議定書の批准をまずおこなうことが緊要であります。
- 勧告は「当局がその権限を濫用しない」「実効性のある制度的な仕組み」「独立の機関」を内容としています。 これは我が国の3権分立に関わる重要な問題であり、新たな人権救済機関を論議するならば、この勧告の内容を基本として拙速に結論を導かずに国民的議論を充分保障し、国民的合意形成につとめるべきだと考えます。
3.同和問題に関わる人権侵害の実状と課題
- 事実としての部落差別は大幅に減少し、国民の良識で解決できる段階にあります
- 1993年政府調査によれば、同和地区住民の被差別体験者は33.2%と全体の3分の1であり、調査時までの10年間では全体の12.4%と10人に1人の割合となっています。 結婚に際しての事例が多くあげられています。
- しかし、一方で、婚姻の状況から社会的交流進展の度合いをみると、60歳以上では「同和地区同士」が70%以上ですが、20歳代では「地区外との結婚」が70%以上と逆転をしています。 被差別体験のない若い世代が急増しています。
- 人権侵犯処理規程にもとづく差別待遇は、昨年の受理件数27件のうち17件は差別言動であり、処理件数は37件で、そのうち24件が説示でした。 また、大阪法務局による情報収集の件数でも1990年以降「差別落書き」と称するものが85%を占め、就職差別はみられなくなり、結婚差別も皆無に等しくなっています。
- 行政行為による人権侵害が問題
- 同和行政、同和教育は基本的に歴史的役割を達成していますが、「同和地区指定」を根拠に同和地区及び住民であるかないか、また個人情報保護に反して同和の子を特定する調査や部落民宣言を強要する教育実践が進められています。 部落内外の格差が基本的に無くなっているもとで、自由な社会的交流や自立を阻害する、こうした行政・教育上の分け隔てした取り組みは終結・廃止すべきです。
- 私的制裁など違法性をもつ、部落解放の名による「確認・糾弾」行為を社会的に排除すること
- 1981年以降の政府関係文書は、行政の主体性の確立や同和問題について自由な意見交換のできる環境づくりを指摘してきましたが、本年7月29日の審議会「答申」でも触れざるを得ない事態がいまだにみられます。 この「確認・糾弾」行為は、自殺者を生み出すなど、部落に対する「怖い」などの新たな偏見を広げ、同和関係者の自立や社会的交流を著しく阻害しています。 行政機関が関与している例もみられ、「えせ同和行為」を横行させる一因でもあり、一日も早く是正すべき問題です。
- 法務局や行政の相談窓口の整備が課題
- 1993年政府調査で人権が侵害された場合の対応は、法務局や行政への相談は3.7%ですが、国民世論調査では19.2%が公的機関に相談しています。 これは、部落差別問題を国民間で説得と納得によって解決をはかってきた同和地区住民の姿勢を反映しています。 また、結婚問題などでの悪質な事態に対しては、民事裁判に訴えて、権利の回復をはかってきました。 よって問題は、部落差別の被害が深刻なことにあるのではなく、人権擁護相談の窓口が広く周知されていないことなど、人権擁護機関の在り方にあります。
- 「差別行為の法規制」や「新たな救済機関」は必要ないと考えます。
- 1986年8月の地域改善対策協議会基本問題検討部会報告は「差別行為に対する新たな法規制の導入には賛成し難い」との結論を出しました。 つまり、内容は、刑罰を課することは差別意識の潜在化、固定化につながりかねない、量刑は差別行為に対する抑止力としては疑問がある、告訴、起訴等になれば人権擁護機関として啓発は抑制せざるを得ない、結婚差別を直接処罰することは意に反する婚姻を強制することにもなりかねず憲法に抵触する疑いも強い、差別落書きや発言などは現行法の名誉毀損で十分対処できる、「部落」や「差別」等の用語は刑事法規に必要とされる厳密な定義を行うことは難しい、というものです。
- 以上のことから、同和問題の解決にあたって「新たな救済機関」の設置は必要ないと考えます。 さらに「同和問題の解決のための基本的な課題」は、先の1986年部会報告以来の意見具申や、1996年7月の政府大綱でも繰り返し述べられていますように、行政の主体性確保や自由な意見交換のできる環境づくりなどの「適正化課題」であり、これを政府・自治体が責任をもって成し遂げていくことにある、と考えます。
最後に、以上のことから明らかなように、「人権」の名で同和行政や同和教育の存続を計ったり、「人権救済」の名で、同和に関わる特別な位置づけや救済システムをを設けることは、部落及び住民と差別の固定化につうじるもので、部落問題の解決にならないばかりか、解決に逆行するものです。
同和問題をいつまでも特殊化・別格化せずに、そして、人権侵害救済の対象を差別問題に矮小化せずに、あらゆる人権問題を対象にして、憲法にもとづく国民の権利を擁護する立場で、今後の審議が進められることを要望して、意見の発表を終わりにするものです。
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