言渡 平成16年10月6日
交付 平成16年10月6日
裁判所書記官
飛鷹 司
平成15年(ワ)第64号 地位確認・賃金請求事件
口頭弁論終結日 平成16年7月28日
判 決
香川県丸亀市(以下略。責・全国人権連)
原告 小野真史
同訴訟代理人弁護士 則武 透
同 塙 悟
同 石川元也
同 伊賀興一
同 服部融憲
同 林 隆義
香川県丸亀市新浜町1丁目3番1号
被告 学校法人藤井学園
同代表者理事 藤井和昭
同訴訟代理人弁護士 籠池宗平
同 馬場俊夫
主 文
- 原告が被告に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。
- 被告は、原告に対し、別紙請求金額一覧表中の支払金額欄記載の各金員及びこれに対する同一覧表の支払期日欄記載の各期日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- (1) 被告は、原告に対し、平成16年8月から本判決確定に至るまで毎月21日限り金45万5073円及びこれに対する各同日から支払済みまで年5分の割分による金員を支払え。
(2) 原告の本判決確定日以降の月例賃金及びこれに対する各21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求部分を却下する。
- (1) 原告の本判決確定日以降の請求のうち、・毎年12月末日限り金83万3823円、・毎年3月末日限り金22万3709円、・毎年6月末日限り金83万3823円及び同各金員に対する各同日から支払済みまで年5分の割合による金具の支払を求める部分を却下する。
(2) 原告のその余の・平成16年12月以降本判決確定日まで毎年12月末日限り金83万3823円、・平成17年3月以降本判決確定日まで毎年3月末日限り金22万3709円、・平成17年6月以降本判決確定日まで毎年6月末日限り金83万3823円及び同各金員に対する各同日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を求める部分を棄却する。
- 訴訟費用は被告の負担とする。
- この判決は,第2項及び第3項(1)・(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
- 主文第1項同旨
- 主文第2項同旨
- 被告は、原告に対し、平成16年8月から毎月21日限り45万5073円及びこれに対する各同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 被告は、原告に対し、・平成16年12月以降毎年12月末日限り83万3823円、・平成17年3月以降毎年3月末日限り22万3709円、・平成17年6月以降毎年6月末日限り83万3823円及び同各金員に対する各同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は、学校法人である被告が、被告に教諭(社会科担当)として雇用されていた原告に対してなした解雇について、その理由とされた事実のいずれもが解雇理由として合理性を欠くから、解雇の意思表示は無効であるとして、原告が被告に対し、・雇用契約上の地位の確認、・本件口頭弁論終結時である平成16年7月28日までに支払期日の到来した別紙請求金額一覧表記載の月例賃金、夏期、冬期、期末の各賞与及び同各金員に対する支払期日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払、・本件口頭弁論終結時以降に支払期日の到来する月例賃金、夏期、冬期、期末の各賞与及び同各金員に対する支払期日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに該当箇所に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
ア 被告は、香川県下において、香川県藤井高等学校(以下「藤井高校」という。)全日制の普通科及び商業科の維持経営、藤井学園寒川高等学校(以下「寒川高校」という。)全日制の普通科、衛生看護科及び衛生看護専攻科、香川県藤井中学校、藤井小学校、藤井幼稚園などの学校経営を事業内容とする学校法人である。
原告は、昭和63年4月1日、被告との間で雇用契約を締結して、同日以降、社会科担当の非常勤講師として藤井高校で勤務し、平成元年4月1日に教諭となり、平成2年からは生徒指導主事を担当するようになった(甲53)。原告は、平成7年11月1日に寒川高校に異動し、その後も社会科を担当し、平成8年4月からは進学クラスの担任となり、平成12年度は総務部長をも兼務した。
なお、宮崎真二(以下「宮崎「という。)は、平成5年4月1日から、藤井高校に常勤講師として勤務していたが、平成10年4月1日、寒川高校に転勤し、以降、社会科担当の教諭として勤務し、平成12年4月1日から寒川高校の同和教育主任を兼務してきた者であるが、原告と共に、解雇された。
イ(ア) 被告の経営は、5名の理事により構成される理事会で運営されるものとされている。
(イ)寒川高校及び藤井高校における管理職教員は、平成12年以降、次のとおり交替している(甲3)。
寒川高校では、同年4年1日から杉原耕治(以下「杉原校長」という。)が校長となったが、平成13年7月15日付けで退職し、その後の同年8月24日までは竹本慧(以下「竹本」という。)が、その後の平成14年4月1日までは戸城久美子(以下「戸城」という。)がそれぞれ校長事務取扱を務めた。
藤井高校では、竹本が平成12年1月から平成13年4月1日まで校長事務取扱を務め、同日付けで橋谷秀雄(以下「橋谷」という。)が校長に就任したが、同年8月24日付けで退職したため、同日付けで竹本が再び校長事務取扱となり、その後、同年9月1日から同年11月26日まで校長を務めた。 (ウ) 平成13年5月1日現在での寒川高校の生徒数は、全体で763名(内訳は普通科585名、衛生看護科178名)、学級数は、1学年が6(普通科が4、衛生看護科が2)、2学年及び3学年が各8(普通科が6、衛生看護科が2)である。また、同日現在での寒川高校の教員数は、常勤教員43名、非常勤教員19名の合計62名である(甲2)。
(2)・ソフトテニス部員に対する傷害事件、・同傷害事件について、ソフトテニス部顧問の西本清巳講師及び校長の責任を問う告発状の撒布、・寒川高校の授業での差別用語使用を指摘する匿名の電話、・原告の元ソフトテニス部員に対する文書作成の指示、・原告、宮崎と杉原校長との口論に端を発した寒川高校へのパトカーの出動、・部落解放同盟香川県連合会が問題としたいわゆる差別発言事件、・原告、宮崎の香川県総務部学事文書課に対する申入れ
ア 平成12年2月ころ、寒川高校テニスコートの土盛り整地作業の際に、同校のソフトテニス部員であった池田某(以下「池田」という。)が、身体を土中に埋められ、頭にバケツを被せられ、頭部を負傷するという事件(以下「本件傷害事件」という。)が発生した。
イ(ア)池田の母親及び現場を目撃した生徒である真田昇平(以下「真田」という。)の母親は、平成12年6月26日、長尾警察署の生活指導課を訪れ、本件傷害事件について相談したほか、同年7月28日には寒川高校を訪れ、対応した竹下生徒指導主任、戸城に対し、ソフトテニス部顧問の西本清巳講師(以下「西本」という。)の指導方法等について苦情を申し入れた。
(イ)池田と真田は、平成13年3月に寒川高校を卒業したが、両名の母親は、同月30日、香川県総務部学事文書課(以下「学事文書課」という。)を訪れ、本件傷害事件について相談した。
学事文書課は、同日、寒川高校に対し、母親らの話を充分聞いてやってほしい旨を指導し、杉原校長は、西本に対しては文書での報告を促し、一方、池田の母親からも話を聞くこととした。
(ウ)原告は、同月31日、杉原校長から、本件傷害事件及びこれに対する保護者の抗議があることを聞き、同年4月3日、宮崎と共に、杉原校長に対し、本件傷害事件の究明と適切な処置を申し入れた。
(エ)そして、管理職である校長、教頭、その他原告を含む10名程で構成され、寒川高校での当初の企画運営を担当する校務運営委員会では、同月11日、本件傷害事件が議題となった(原告本人)。
原告は、校務運営委員会では、リーダー的立場であった(証人杉原)。
(オ)その後、杉原校長は、同月17日に口頭で、また同月18日付けの文書により、本件傷害事件に対する取組と経過につき、学事文書課へ報告した(乙1)。
ウ 平成13年5月26日、寒川高校保護者会(以下「保護者会」という。)の総会が開催されたが、同日の早朝、校内に告発状と題する書面(以下「本件傷害事件の告発状」という。)が多数撒かれるという事件が発生した。本件傷害事件の告発状は、本件傷害事件を起こしたとする西本及び校長等の責任を問う内容であった(乙3)。
エ(ア)平成13年5月30日、寒川高校に対し、同校3年生の保護者と名乗る匿名の女性から電話があり、その中で、同校の教職員が、賎称語、障害者・朝鮮人に対する差別用語を学校内で使用しており、同年2月ころの授業で何か問題があったのではないかと指摘された(以下「本件匿名の電話」という。)。また、同様の電話が学事文書課及び部落解放同盟香川県連合会(以下「解放同盟香川県連」という。)にもなされた。
(イ)被告による調査に対し、原告は、原告が担当する同年2月19日の世界史の授業中に、ある生徒が、ヨーロッパ封建社会の農奴は、日本の社会では何に当たるかとの質問に対し「えた」と答えたため、それは差別用語に当たるので使用しないように指導するということがあった旨の報告書を提出した(甲17)。
(ウ)寒川高校では、本件匿名の電話の内容について検討するために、平成13年6月1日に同和教育推進委員会を開催し、同月4日に学年団会議を、同月6日には職員会議を、いずれも、差別教育問題をテーマとして開催した(甲17)。
(エ)なお、上記職員会議において、杉原校長は、寒川高校教員に対し、自らが所蔵する同和関係の書籍を同和教育の職員研修用に読むことを勧めたが、原告と宮崎は、それら書籍が、杉原校長がかつて校長を務めていた盈進高校図書部の判が押捺されている古本であるにもかかわらず、杉原校長が寒川高校に定価で購入させようとしているとして、翌7日、寒川高校の坂上善則事務長に対し、異議を唱える申入れを行った(甲54)。
オ(ア)平成13年6月13日、杉原校長は、同人が一読を勧めた前記書籍を宮崎が所持していたことに対し、同書籍の返還を強く求めた。
(イ)また、同年6月13日、原告は、5時限目のロングホームルームの時間に、元ソフトテニス部員であり担任するクラスの生徒である鎌田剣次(以下「鎌田」という。)をベランダに呼び出し、本件傷害事件の目撃状況を聴取し、鎌田に本件傷害事件に関する文書を作成させた(甲41、乙2)。
鎌田の父親は、そのことを知って、同日の夕方、寒川高校を訪れ、鎌田が精神的に動揺しており、受験間際でもあるためこのようなことに巻き込んでほしくない旨の苦情を申し入れた(乙2)。
カ(ア)平成13年6月14日の職員朝礼後、杉原校長は、原告を校長室に呼び、鎌田の父親からの苦情の件を伝え、さらに、宮崎との間で、前記書籍の返還を巡って口論となり、宮崎が、長尾警察署に110番通報をし、パトカーを呼んだところ、長尾警察署から警察官数名がパトカー及び捜査車両で寒川高校に駆けつけた。
(イ)同年6月16日、宮崎は、長尾警察署に出向き、杉原校長に対する告訴状を提出した。
キ(ア)平成13年6月18日、解放同盟香川県連の岡田健吾副委員長(以下「岡田副委員長」という。)は、香川県丸亀市所在の部落解放・人権啓発センター宛に、同月16日付けで、原告が寒川学園の他の教師をいじめており、差別語を使っている旨の匿名の投書(なお、匿名の投書は、本件において、証拠として提出されていない。以下、これを「本件匿名の投書」といい、事件全体を「いわゆる差別発言事件」という。)があったとして、杉原校長、戸城、宮崎ら5名を前記部落解放・人権啓発センターに呼び出した。
岡田副委員長は、杉原校長らに、本件匿名の投書を示し、いわゆる差別発言事件についての調査と事実経過の説明を求める旨を申し入れ、杉原校長に対し、本件匿名の投書の内容調査・報告を約束させた(甲19、甲20)。
(イ)寒川高校では、同年6月19日から20日にかけて、職員会議、学年団会議、同和教育推進委員会(学校全体の同和教育を組織的に推進するための委員会)を開催し、いわゆる差別発言事件について協議し、同月20日には、杉原校長が、同時点までの調査結果を報告した。しかし、解放同盟香川県連の岡本書記長は、前記投書に記された差別的やりとりがあったことの確証があるとして、被告側に再度の回答を求めた(甲19、甲20)。
(ウ)同年6月20日、保護者会は、学校内で同校教師による種々の問題が多発しており、生徒、保護者にまで影響が及んでいるとの判断に基づき、同月23日に本部役員会を開催することとし、原告及び宮崎に対しても、これに出席するよう求める旨の文書を送付した(甲30)。
また、保護者会の会長である山田ひとみ(以下「山田会長」という。)は、同月21日、原告に対し電話でも出席を求めたが、原告はこれに応じようとしなかった(甲53、乙 7)。
ク 平成13年6月21日朝、原告は、体調不良を理由に年次有給休暇を取得する旨を被告に連絡した上で、午前10時50分ころ、宮崎と共に学事文書課へ赴き、「学園の許可を得た。」などと述べた上で、本件傷害事件及びいわゆる差別発言事件について、原告の主張を記載した書類を提出しようとした。
(3)保護者会及び解放同盟香川県連の動きと被告の対応
ア 平成13年6月22日、保護者会は、学事文書課に対し、学校の正常化に向けた取組を要請した。また同日付けで杉原校長が出勤停止処分となり(同年7月15日付けで退職)、竹本が寒川高校の校長事務取扱に就任した。
イ 平成13年6月23日、寒川高校の職員会議において、職員に対するアンケートが実施された。その内容は、・O先生がN先生をいじめたことがあるか、・O先生が差別的発言をしたことがあるか、・校外の人を中傷した職員はいるか、を尋ねるものであった。ちなみに「O先生」とは原告を、「N先生」とは西本を、それぞれ指すものと解される。
前記アンケートの結果、・については、ソフトテニス部の件で、原告が問題を掘り起こそうとしている、保護者、本人も理解し納得して問題がおさまり、学事文書課にも報告したにもかかわらず、職員会議で発言したことはいじめではないかと思う、原告が元ソフトテニス部の生徒から色々聞き出して憶測でいじめているといった旨の回答があり、・については、見聞していないとする回答が多数であったが、原告が先輩教員や教頭に対し、自分のいうことを聞かなければここにはおれないなどといったぞんざいな言葉遣いをする旨の回答もあった(甲50、甲51、甲64)。
ウ 被告は、平成13年7月1日付けで、原告を校外研修(長期間の県外研修)の扱いとした。但し、しかるべき施設での再研修の受講受入れ機関がないこと等の理由から、実質的にはいわゆる自宅謹慎と同様の扱いとなった(甲53、乙3、原告本人)。
また、原告は、同年7月4日、本件匿名の電話や本件匿名の投書が名誉毀損等に該当するとして、被告訴人を不詳とした告訴状を丸亀警察署に提出した。
エ(ア) 平成13年7月5日、解放同盟香川県連は、寒川高校から竹本、西本ら35名の教員及びPTA役員の出席を得て、いわゆる差別発言事件についての確認会(以下「本件確認会」という。)を開催した。本件確認会には、香川県同和対策室や学事文書課からも出席者があった(甲22、甲23、乙3)。
(イ)被告は、原告に対し、本件確認会に出席するよう求めたが、原告はこれに応じなかった。本件確認会では、原告のいわゆる差別発言の有無が問題とされ、竹本らが原告に確認した結果、問題となるような発言はなかった旨を報告したが、解放同盟香川県連はこの報告を直ちには受け入れなかった(甲22)。
オ 平成13年7月7日、保護者会の本部役員会が開催され、出席者からは学校改革のため招聘した杉原校長が辞めることに対する不満や、原告と宮崎が学校に残留することに対する不満などが表明され、宮崎はパトカーを呼んだ理由を説明すべきである、原告は子どもたちには信頼されているので信じられないなどの意見があった(乙3)。
同本部役員会では、同月14日に保護者会総会を開催することが決定されたが、その後、これは保護者会総会としてではなく、緊急保護者説明会として開催されることとなった。
緊急保護者説明会には、保護者等多数の者がこれに参加し、生徒たちの間に不安があること、職員室が荒れており、杉原校長、宮崎、原告の全員が辞めるなら理解できるが、問題を起こした宮崎と原告が残留するのはおかしいといった意見が出された(乙3)。
カ(ア) 平成13年7月21日、保護者会の臨時総会が開かれ、相当数の保護者が出席し、又は委任状を提出した。同臨時総会では、・原告が、本件傷害事件の状況を生徒に文書で記載させたこと、・原告が、杉原校長は宮崎を窃盗呼ばわりしたとして校内で騒ぎ、宮崎がパトカー出動を要請したこと、・原告が同行して、宮崎が杉原校長を告訴したこと、・原告が生徒に対し差別的発言をし、これに悩んだ生徒が学校を辞めたいと親に相談したこと、・杉原校長が退職に至ったこと、・原告は、校外研修扱いとなり、授業を担当していないこと、・原告の言動が原因となって、教師同士の関係が異常なものとなっていること、その他の事情について、報告ないし意見発表があった(乙3)。
(イ)また、同臨時総会には、退職した杉原校長も出席し、平成13年6月14日に寒川高校にパトカーが来たときの状況や校長を辞した理由等について説明し、西本も出席して本件傷害事件について説明をした(乙3)。
(ウ) 同臨時総会は、4項目からなる決議文を採択したが、その中には、杉原校長の再雇用と共に、「問題を起こした2名の教員(原告及び宮崎を指す者と解される。)について適正な措置を行い、再発を防止すること」が含まれていた。また、出席した保護者に対するアンケートも行われたが、回収された中には、原告及び宮崎を辞めさせるべきであるとの意見が数通含まれていた(乙3)。
キ 平成13年9月7日ころ、原告が担任していた生徒の自宅を中心に、原告の住所、氏名を記載した上、原告について「動く生殖器」、「生殖教師」、「ハラました女子生徒数知れず!」などと記載された匿名の文書が郵送された(甲49)。
ク 平成13年9月13日、解放同盟香川県連は、寒川高校の前で街宣活動を行い、いわゆる差別発言事件の経過、原告は自身の潔白を証明すべきこと、解放同盟香川県連はPTAや寒川高校教員と連帯し、決着まで闘うことなどを記載したビラ(甲23)を配布した。
ケ、平成13年9月20日、戸城と竹本は、事態を収束する目的で、原告及び宮崎に対し、いわゆる差別発言事件に関する説明会に出席するよう要請したが、原告らはこれを拒否し、さらに同月25日、高松地方裁判所丸亀支部へ、被告、戸城及び竹本を相手どり、解放同盟香川県連主催の確認会等への出席の強要禁止等を求める仮処分命令の申立てをした(乙5の添付資料5、以下「別件仮処分事件」、「別件仮処分申請」という。)。
コ 平成13年11月13日、解放同盟香川県連は、JR丸亀駅前及びJR神前駅周辺で街宣活動を行い、また、被告理事会に対する非難や、原告と宮崎のこれまでの解放同盟香川県連に対する言動を断じて許さないなどといった内容が記載されたビラ(甲24)を撒くなどした(甲25)。
サ なお、平成14年2月25日、いわゆる差別発言事件に関し、解放同盟香川県連主催の第2回確認・糾弾会が開催され、被告の常任理事や多数の教職員らが参加し、原告のいわゆる差別発言事件が討議された(甲59)。
(4)本件解雇に至るまでの経緯
ア 香川県及び被告は、平成13年10月5日、紛争を収拾するため、第三者としての「仲裁者」をたてることを了承し、同月12日、塚本修県議会総務委員長と太田彰一県教育委員の2名がこれに就任し、「学園の紛争の収拾(改善)策」をとりまとめた。これは理事長を除く4名の理事が退任し、新たな理事4名を選任すること、常勤講師を減らすこと、問題の2名の教員(原告及び宮崎を指すものと解される。)については、早い段階でしかるべき対応を図ることなどを内容とするものであった(乙8、乙12)。
イ(ア)平成13年11月、被告の理事長である藤井和昭(以下「藤井理事長」という。)は、藤井学園寒川高等学校就業規則(以下「被告就業規則」という。)70条に基づき、原告及び宮崎に関する事実調査や処分方針を、被告の賞罰委員会に諮問した(乙4)。
(イ)同委員会は、同年11月13日から15日までの間、原告や宮崎に関する懲戒事由の有無その他について審議し、原告については要旨下記の・ないし・の項目の事実が確認できるものとした(甲7、乙4)。なお、平成13年11月15日付け賞罰委員会委員である渡邊泰夫(以下「渡邊」という。)作成の「賞罰委員会審議の結果報告(資料)」と題する文書(甲7、乙4)は、その後、記載の数か所が変更されている(甲6)。
・ 保護者の信頼を損ねる行為
原告は、平成13年6月21日、山田会長が、電話で、パトカーの出動要請の件について事情説明を求めた際、山田会長を大声で威嚇し、恐怖心を抱かせた。
・ 生徒指導に対する苦情
平成13年6月24日には、PTAの会長ほか三役が来校し、「子どもたちが日常的に原告の差別発言を聞いて傷つき、学校を辞めたいという生徒もいる。」等の苦情の申入れがなされた。
・ 生徒に対する強要行為
原告は、平成13年6月13日、本件傷害事件に関し、担任クラスの生徒に文書作成を強制し、加えてその文責を強要した。
・ 学校への無届行為
原告は、平成13年6月21日朝、体調不良を理由に休暇を取得することを連絡しながら、管理職に無断で学事文書課に出向き、被告提出の本件傷害事件に関する報告書の閲覧請求を行った。
・ 学校の名誉を著しく損ねる事態を招いた怪文書の当事者であること
原告についての女性スキャンダル等を内容とする怪文書が生徒宅等に郵送され、また解放同盟香川県連によってその内容を含んだ街宣活動等がなされたことにより、教育現場に著しい混乱を招いた。
・ 学校長の業務命令に対する拒否
原告は、本件確認会へ出席するようにとの業務命令を拒否し、その後もいわゆる差別発言事件解決へ向けての出席要請を拒否し続けた。
・ 被告及び寒川高校管理職に対する訴訟行為
原告は、平成13年9月25日、竹本及び戸城を相手方として、別件仮処分申請に及んだ。
・ 上司に対する不適切発言及び同僚に対する日常的な恫喝等の不適切発言
・ 平成13年6月14日、職員室において宮崎を誘導しパトカーの出動要請をし、学校を著しく混乱させた。
(ウ)賞罰委員会は、上記の事実のまとめとして、原告については、同僚の教職員、保護者、生徒に対する恫喝的言動や行為が長期的に繰り返されており、被告及び寒川高校関係者の名誉を著しく損ねたばかりでなく、教育現場を大きく混乱させたことに対する責任は重大であって、管理職の再三の説得にも応じず、学園等を告訴した行為に対する反省は全く見られないため、懲戒解雇する以外には生徒、保護者、教職員の理解は得られないとの理由で、原告については懲戒解雇処分が妥当である旨を、平成13年11月15日付けで賞罰委員会委員全員の一致した意見として理事会に答申した(乙4)。
(エ)なお、賞罰委員会は、宮崎について、管理職の再三の説得にも応ぜず、教育現場を著しく混乱させると共に被告及び寒川高校関係者の名誉を損ねた行為に対する責任は重大であり、懲戒解雇が妥当であるが、宮崎の人柄や原告に誘導された部分が多分に見られることを考慮していくと、一定の条件(告訴の取り下げ等)付きで依願退職の勧告をするのも妥当である旨を、平成13年11月15日付けで賞罰委員会委員全貝の一致した意見として理事会に答申した(乙4)。
ウ 平成13年11月26日、前記「学園の紛争の収拾(改善)策」(甲28)基づいて、被告において新理事会が発足したが、4名の新理事の中には、学事文書課の出身者である藤本康夫(以下「藤本」という。)及び新田幹雄(以下「新田」という。)が含まれていた(乙8添付の参考資料)。
エ 被告理事会は、前記賞罰委員会の答申を受け、平成13年12月13日、18日、21日及び28日に協議を行い、うち18日には原告に対し、約1時間半にわたり、予め交付しておいた「お尋ねする事項」なる書面(甲8)に基づいて質疑応答を行い、その結果、原告には前記イの・ないし・の事実とほぼ同様の事実が認められるものと判断した。
その上で、理事会は、原告につき認定した事実は、被告就業規則73条6号「学校の校務運営を妨げ、または故意に非協力的な者」同17号の「故意または重大な過失により、学校の名誉または信用を失墜させた者」同18号の「指示、命令、通達に違反し、または専断的行為をなし秩序をみだした者」の各懲戒事由に該当し得ると判断したが、同年12月28日、最終的に、原告の一連の行為は、教師としての適格性の欠如を示すものであり、被告就業規則43条4号の「その他、各号に準ずる理由があるとき」に該当するとして、原告を普通解雇することを決定した(乙8)。
オ 平成14年1月7日、高松地方裁判所丸亀支部裁判官は、竹本と戸城が出席を求めた確認会は被告が主催するものであり、竹本及び戸城には、解放同盟香川県連主催の確認会等へ、職務命令でもって原告に参加を強要する意図はそもそもなかったこと、被告が主催する確認会についてはいまだ日時が特定され具体化されない段階であり、原告らの人格権が侵害されるおそれがあるとは認められないことなどを理由に、別件仮処分事件において原告らの申し立てを却下した(甲9)。
カ(ア) 平成14年1月15日、藤井理事長は、原告に対し、理事会において処分は普通解雇ということに決定したが、任意退職の途もあるので、どちらかを選択してほしい旨を口頭で告げた。
これに対し、原告は、事務長を通じて解雇理由を明示した文書の交付してほしいと依頼した。
(イ)同月18日午前、藤井理事長は原告に対し、同月15日付けの藤井理事長作成の「普通解雇の事由」と題する文書(甲10)を交付し、同日中に任意退職するかどうかについての返事をするよう告げた。同文書には、「このたびの、あなたの学校内外における一連の言動は、学校の秩序を乱し、さらには学校法人藤井学園の名誉、信用を失墜させたものと認められたため、当学園の理事会で協議した結果、『普通解雇』相当となったものである。」と記載されている。
(ウ)同日午後2時ころ、原告は、藤井理事長に対し、任意退職はしない旨を告げた。そこで、藤井理事長は、原告に対し、同日をもって解雇する旨の解雇通知書を交付した(甲11)。
(エ)なお、被告就業規則43条には、・精神または、身体の故障のため校務に堪えられないと認められるとき(1号)、・職務能率が劣悪で、矯正の措置を講じても向上の見込のないとき(2号)、・学校事業の縮小によって剰員となったとき(3号)、・その他、前各号に準ずる理由があるとき(4号)には、30日前に予告するか、平均賃金の30日分の手当を支払って普通解雇し得る旨の定めがある(甲4)。
キ 西本は、平成13年7月5日に開催された本件確認会において、1年間という講師使用期間を経ると教諭にするという話があったのに、11年間飼い殺しにされたと訴えていたが(甲22)、平成14年4月、講師の地位から教諭になることができた(証人西本)。
(5)本件解雇当時及びその後の原告の賃金等(甲4)
ア(ア)原告の月例賃金の計算は毎月16日から翌月の15日をもって締切り、その月の21日に支払う(賃金支払日が金融機関の休日になる場合は、その前日に支払う。)とされており、本件解雇時点における原告の月例賃金は、本俸部分が35万4460円、扶養手当2万7000円、住居手当6000円、及び通勤交通費3万1680円の合計41万9140円であった(甲43、甲77)。
(イ)その後、平成14年2月、原告の本俸部分が平成13年4月に遡って35万4460円から36万6170円に昇給した(甲44)。そのため、本件解雇後も雇用関係が継続するものとした場合、原告に支給されるべき月例賃金は、平成13年度(平成14年2月及び3月)で月額43万0850円となる。
(ウ)同様に、寒川高校におけるその後の昇給を踏まえると、原告に支給されるべき月例賃金は、平成14年度で月額43万3268円(うち本俸部分は36万8588円)、平成15年度で月額44万4423円(うち本俸部分は37万9743円)、平成16年度で月額45万5073円(うち本俸部分は39万0393円)である(甲77、甲78)。
イ(ア)被告就業規則中の賃金規定34条ないし36条によれば、寒川高校における教員の賞与は、本俸と扶養手当合計額を支給算出基礎額として、物価事情、社会水準および貢献度等を勘案して決めること、賞与査定の計算期間は、夏期が3月1日より5月31日までの間、冬期が6月1日より11月30日までの間、期末が12月1日より翌年2月末日までの間とし、その支払期日は、原則として、夏期につき毎年6月末日まで、冬期につき毎年12月末日まで、期末につき毎年3月末日までに支払うものと定められている。
(イ) そして、被告寒川高校事務長坂上善則作成の「小野真史氏の賞与の内訳について」と題する書面(甲79)によれば、本件解雇後に原告に支給されるべき賞与額は、平成14年度については本俸部分36万8588円と扶養手当2万7000円の合計額39万5588円が基礎額となり、夏期賞与についてはこれに2.05を乗じた81万0955円、同じく冬期賞与については2.10を乗じた83万0735円、期末賞与については0.55を乗じた21万7574円となる。同様に、平成15年度については本俸部分37万9743円と扶養手当2万7000円の合計額40万6743円が基礎額となり、夏期賞与及び冬期賞与についてはこれに2.05を乗じた83万3823円、同じく期末賞与については0.55を乗じた22万3709円となる。同様に、平成16年度の夏期賞与については、基礎額は平成15年度と同じ40万6743円となり、これに2.05を乗じた83万3823円となる。
(6)解雇予告手当 被告は、平成14年1月23日、原告に対し、30日分の平均賃金に相当する39万9170円を受領するよう催告し、原告が受領を拒んだため、同年3月8日、上記金額を高松法務局に供託した(甲15)。
3 争点 (1)懲戒解雇事由に基づく普通解雇が許されるか否か
ア 被告の主張
本件解雇は、被告就業規則43条4号に基づく普通解雇である。
被告就業規則43条4号は、同条1号ないし3号が定める場合に直接該当しないものの、これらに準じて雇用契約を継続し難い正当な理由がある場合には解雇し得る旨を定めたもの、すなわち同条は、普通解雇事由を例示的に定めたものと解釈するのが合理的である。
被告は、理事会における審議の結果、原告の一連の言動は、被告学園の秩序を乱し信用を失墜させ、校務の円滑な遂行を妨げるものであり、原告の教師としての適格性そのものに疑問があると判断した上で、懲戒解雇事由にも該当するのであるが、原告の将来を考慮して、被告就業規則43条4号の「その他、各号に準ずる理由があるとき」に該当するものとして、原告を普通解雇したものである。
イ 原告の主張
本件解雇は、実質的には懲戒解雇であり、被告就業規則における解雇事由に該当するか否かは普通解雇以上に厳しく吟味されるべきである。そして、被告就業規則43条は、就業規則の、予め解雇理由を限定して明示し、労働者の権利を保障するという機能に鑑み、制限的な列挙として限定的に解釈されるべきものである。したがって、懲戒解雇事由の該当性がないにもかかわらず、原告を解雇するために、同条4号を拡大解釈して普通解雇することは許されない。
(2)本件解雇の有効性
ア 被告の主張
被告は、次の(ア)ないし(キ)の事実に基づき、原告の一連の言動を総合的に考察した結果、原告の言動は、被告学園の秩序を乱し信用を失墜させ、校務の円滑な遂行を妨げるもので、原告の教師としての適格性を欠くと判断するに足りるものであると同時に、原告との雇用関係の基礎となる信頼関係を喪失せしめるものであると判断して、原告を普通解雇したものであり、本件解雇には合理性が認められる。
原告は、自らの問題行動を、解放同盟香川県連の影響の下でのやむを得ない対処である旨主張するが、本件解雇が解放同盟香川県連の影響の下に行われたとの事実はなく、原告の主張は、自らの問題性を隠蔽しようとするもので、議論のすりかえにほかならない。
(ア)パトカーの出動要請(以下「解雇理由1」という。)
平成13年6月14日朝、杉原校長が、原告を校長室に呼び出した際、原告は、杉原を大声で非難した上、同室していた宮崎に対し警察を呼ぶように要請した。宮崎がこれに応じて110番通報したため、寒川高校で重大な事件が発生したものと誤信した長尾警察署の警官数名がパトカー等で来校した。およそ校内に警察の出動を要請することは、校長が学校秩序の維持のため必要不可欠と判断した場合にのみ許されることであり、一教師の恣意的な判断でなすことは許されないものである。原告の当該行為は、単に学校に混乱を起こすことを目的とし、いたずらに学校の信用を傷つけるものであって、これにより、寒川高校の生徒や保護者に対し、少なからぬ不安や動揺を与えた。
(イ)生徒に対する強要行為(以下「解雇理由2」という。)
原告は、平成12年2月ころの本件傷害事件について、平成13年6月13日5時限目のロングホームルーム時、自らが担任する生徒である鎌田をベランダに呼び出し、同人が本件傷害事件を目撃した者であるとして「あれはいじめだったろう。」と一対一で詰問し、原告の思うとおりの文面による文書を作成することを強要した。
同日、鎌田の保護者は、原告の行為は教育者としてあるまじきものだとして、原告に対して指導責任を負う被告に、強く抗議をした。原告は、このように、教師としての地位を利用し、生徒に対しあるまじき行為をなし、耐え難い精神的苦痛を与えた。
(ウ)保護者の信頼を損ねる言動(以下「解雇理由3」という。)
保護者会は、前記(ア)のパトカー出動要請について、事情を聴くために、原告に対し、平成13年6月23日開催予定の保護者会本部役員会への出席を求めたところ、原告はこれに応ぜず、逆に、同月21日、電話で応対した山田会長に対し、大声で威嚇する発言を行った。
このように、原告は、校務運営委員会のメンバーであり、PTAと学校とのパイプ役を担う立場にありながら、正当な理由もなく保護者会本部役員会への出席を拒み、保護者会の要請を無視しただけでなく、山田会長を威嚇するなどして、被告学園の秩序を乱し、保護者会の被告に対する信頼を損なわせた。(エ)学事文書課への許可なき来訪(以下「解雇理由4」という。)
原告は、平成13年6月21日朝、体調不良を理由に年次有給休暇を取得する旨、被告に連絡しておきながら、同日午前10時20分ころ、宮崎と共に、被告の許可なく学事文書課を訪れ、校長の許可があるなどと虚偽の事実を告げて本件傷害事件に関する自己の主張を記載した書類を提出した。このように、原告は、何ら対外的に寒川高校を代表する立場にないにもかかわらず専断的な行為に及び、学校内秩序を乱した。
(オ)女子生徒等に対する不適切な行為(以下「解雇理由5」という。)
原告については、保護者会に対し、複数の女生徒の保護者から、「娘が原告から、つきあわんかと言われた。」旨の苦情が申し入れられている。また、原告を名指しした不適切な女性関係を指摘する怪文書が郵送されたり、ビラが多数ばら撒かれている。
当該怪文書等に記された原告の行為及び当該怪文書が出回ったことにより、被告は致命的な信用失墜を来しかねない事態を招いた。
(カ)上司や同僚に対する不適切発言(以下「解雇理由6」という。)
原告は、常々、藤井理事長との親密さを誇示し、上司や同僚に対し「僕の言うことをきかないと首がとぶ。」などといったり、上司を「あんた」と呼ぶなどといった不適切な発言を行い、被告校務の民主的な運営を阻害し、被告学園の秩序を乱した。
(キ)その他(以下「解雇理由7」という。)
上記以外にも、原告は、その言い分を聴くために開催された被告主催平成13年9月20日開催の説明会への出席を求める業務命令を拒否したこと、及び、同年10月2日、被告の理事である竹本及び戸城を相手方として別件仮処分事件を申し立てるなど、自己の保身を図り、被告学園全体の秩序維持に協力せず、校務の円滑な遂行を妨げた。
イ 原告の主張
原告は、被告において能力ある教師として評価されており、本件解雇当時まで、特段の落ち度なく勤務してきたものである。本件解雇は、西本の関わった本件傷害事件を問題にしようとした原告が、西本と強く結びついている解放同盟香川県連からの標的とされ、被告において解放同盟香川県連の影響を排除し得なかったがためになされたものであり、そもそも目的において不当な解雇である。
したがって、被告が解雇事由として主張する諸々の事実は、いずれも根拠のないものであるし、かつ、被告が主張する本件解雇の理由は、解雇当時から本訴に至る間に少しずつ変遷しており、合理性は認められない。また、原告について認められる事実を総合的に評価しても、原告が教師としての適格性を欠いているとはいえない。
(ア)パトカーの出動要請(解雇理由1)
原告が、平成13年6月14日朝、宮崎に対し110番通報を勧めた事実は認めるが、その余の事実は否認する。原告は、校長室において杉原校長を大声で非難したことはないし、また、同室していた宮崎が110番通報したのは、杉原校長が宮崎を「お前は窃盗か。」などと侮辱したことから、事の真相を明らかにするためであり、原告には、学校に混乱を起こす目的はなかった。また、杉原校長は、通報後、長尾警察署からの確認の電話に対し「どうぞ来てください。但し、サイレンは鳴らさないで。」などと述べ、自ら警察を学校構内へ招き人れた。しかも、当日出動したパトカーは1台であり、サイレンも鳴らさずに駆けつけたため、校務に支障を来すことはなく、したがって、寒川高校の生徒や保護者に対し不安や動揺を与えたこともない。
(イ)生徒に対する強要行為(解雇理由2)
原告が、平成13年6月13日の5時限に、鎌田をベランダに呼び出し、本件傷害事件に関する事情を聴取したこと、及び鎌田に文書を作成してもらったことは認めるが、その余の事実は否認する。本件傷害事件は、発生当時は、そのような事件が生じていたことすら一般教員には知らされておらず、かつ、一旦は収束したように見えたものの、平成13年3月末ころ以降、被害者本人の卒業を機に、その母親らが再び対応を要求するようになっていたのであり、決して寒川高校において十分な対応がとられ解決したといえる状況にはなかった。にもかかわらず杉原校長らは対応に消極的であったことから、原告において正常な対応を求めるべく、鎌田への事情聴取を行ったに過ぎない。また、原告は、鎌田に対し、何ら強要、強制をしたことはない。
(ウ)保護者の信頼を損ねる言動(解雇理由3)
保護者会から原告に対し、事情聴取のための本部役員会への出席要請を受けたが、原告がこれに応じなかったこと、原告が校務運営委員会のメンバーであったことは認めるが、その余の事実は否認する。原告が保護者会本部役員会への出席要請に応じなかったのは、当該要請の時点で、山田会長をはじめ、一部の保護者会役員は既に解放同盟香川県連の強い影響下にあったものであり、そのような異常な状況の中で出席が求められたためである。また、原告が、平成13年6月21日、山田会長に対し、電話で大声を出したことはない。
(エ)学事文書課への許可なき来訪(解雇理由4)
平成13年6月21日朝、原告が年次有給休暇を収得した上で、宮崎と共に学事文書課を訪れたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、自らに関する差別発言問題等に関する弁明のために、適法な年次有給休暇を取得した上で学事文書課を訪れたものであり、そのことを咎められるいわれはない。また、原告が学事文書課で、校長の許可をもらってきたなどと告げたことはない。
(オ)女子生従等に対する不適切な行為(解雇理由5)
否認する。被告の主張は、いずれも抽象的な主張に止まり、何ら具体的になされておらず、解雇の有効性を基礎づける事実として主張すること自体、そもそも不当である。
(カ)上司や同僚に対する不適切発言(解雇理由6)
否認する。
(キ)その他(解雇理由7)
原告が、平成13年10月2日、被告、竹本及び戸城を相手方として別件仮処分申請を行ったことは認めるが、その余の事実は否認する。また、原告が出席を求められた説明会は、被告ではなく解放同盟香川県連の主催によるものであり、しかも原告が同説明会に学校長からの業務命令をもって参加を命じられたことはない。
(3)本件解雇後の月例賃金、夏期、冬期、年末の各賞与の請求について
ア 原告の主張
(ア)平成14年1月21日から平成16年7月21日まで原告が、被告から、平成14年1月21日から平成16年7月21日までの間に支払われるべき月例賃金、夏期、冬期、年末の各賞与は、別紙請求金額一覧表記載のとおりである。
(イ) 平成16年8月以降
被告の対応から考えて、原告の地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務の提供を拒否し、その賃金等の請求権の存在を争うことが予想されるから、将来の月例賃金、夏期、冬期、年末の各賞与についての請求にも訴えの利益がある。また、寒川高校においては、年間3回、夏期、冬期及び期末の時期にほぼ一定の支給率で賞与が支払われており、原告が勤務を継続していた場合には、原告にも同様の割合で賞与が支給されるものである。
イ 被告の主張
争う。
第3 争点に対する判断
争点(1)について(懲戒解雇事由に基づく普通解雇が許されるか否か)
1 本件解雇は、被告就業規則43条4号に基づく普通解雇であるところ、原告は、本件解雇は、実質的には懲戒解雇であり、被告就業規則における解雇事由に該当するか否かは普通解雇以上に厳しく吟味されるべきである、また、被告就業規則43条は、就業規則の、予め解雇理由を限定して明示し、労働者の権利を保障するという機能に鑑み、制限的な列挙として限定的に解釈されるべきものであり、したがって、懲戒解雇事由の該当性がないにもかかわらず、原告を解雇するために、同条4号を拡大解釈して普通解雇することは許されない旨主張する。そして、前提事実(4)カ(エ)の認定によれば、被告就業規則43条には、・精神または、身体の故障のため校務に堪えられないと認められるとき(1号)、・職務能率が劣悪で、矯正の措置を講じても向上の見込のないとき(2号)、・学校事業の縮小によって剰員となったとき(3号)、・その他、前各号に準ずる理由があるとき(4号)、のいずれかに該当する場合には、30日前に予告するか、平均賃金の30日分の手当を支払って普通解雇し得る旨の定めがあるところ、これら1号ないし3号の各規定の趣旨としては、同条1号が被用者側の履行不能的な事情に基づき、同条2号が被用者側の債務不履行的な事情に基づき、同条3号が使用者側の経営上の事情に基づき、それぞれ雇用関係を継続し難い正当な理由がある場合につき規定したものと解される。ところで、被告就業規則43条には、解雇事由を、同規則に列挙された場合のみに限定する旨の明確な定めはなく、逆に、同条1号ないし3号に「準ずる理由があるとき」を同条4号として別立てで規定しているのであり、このような条文の体裁からしても、同条4号の解釈としては、同条1号ないし3号が定める場合に直接には該当しないものの、それらに準じて雇用関係を継続し難いと認められる正当な理由がある場合には被用者を解雇し得る旨を定めたものと解するのが合理的である。
2 そうすると、被告の原告に対する本件解雇事由につき、被告就業規則43条1号ないし3号が定める場合に直接には該当しないものの、それらに準じて雇用関係を継続し難いと認められる正当な理由がある場合には、普通解雇することは許されると解するのが相当である。
B 争点(2)について(本件解雇の有効性)
1 個別の解雇理由
(1)解雇理由1ないし4(パトカーの出動要請、生徒に対する強要行為、保護者の信頼を損ねる言動、学事文書課への許可なき来訪)
ア 前提事実及び該当箇所に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。次の認定に反する甲42、甲53、甲54、甲69、乙7、乙10、乙13ないし17、乙23、乙24の記載の各一部、証人西本、同杉原、同戸城の各証言及び原告本人尋問の結果の各一部は採用しない。
(ア)本件傷害事件とこれに対する原告の行動(甲53、甲69、乙1、乙14、乙15、証人西本、同杉原、原告本人)
a 平成12年2月に発生した本件傷害事件に関しては、同年6月以降、一旦は、被害生徒の保護者である池田の母親、真田の母親から、長尾警察署及び寒川高校に対し、相談及び苦情の申入れがなされたが、寒川高校においては、杉原校長が西本から事情聴取をするなどの対応がとられただけで、ごく限定された関係者のみにて処理された。
b 平成13年3月30日、池田の母親、真田の母親が学事文書課に出向き、本件傷害事件についての苦情を申し入れた。
原告は、同月31日、杉原校長から、本件傷害事件の発生と保護者が学事文書課に苦情を述べていることを聞き、同年4月3日、宮崎と共に、杉原校長に対し、本件傷害事件の究明と適切な処置を申し入れた。杉原校長は、本件傷害事件を同月11日に開催された寒川高校の校務運営委員会の議題とすることもあったが、その後引き続き校務運営委員会で検討することもないまま、同月17日に口頭で、また、同月18日付けの文書により、本件傷害事件に対する取組と経過につき、要旨次のとおり記載して、学事文書課へ報告をした(乙1)。・ 池田が埋められたりバケツを被せられたのは、ソフトテニス部員間での遊興が高じたものであること ・池田が頭部を負傷したのは、バケツの端で頭部を切ったためであること ・平成13年4月13日の夜に、戸城が、池田の母親と話し合った結果、十分に納得できたので水に流したいと宥恕する発言を受けたこと ・本件傷害事件は戸城、竹下、西本が同月18日に池田の自宅を訪問して謝罪するなどして最終的に解決されたこと
c 原告は、本件傷害事件から約1年4か月を経過した平成13年6月13日、5時限目のロングホームルームにおいて、自らが担任するクラスの生徒である鎌田に対し、同人が元ソフトテニス部の部員であったことから、同事件に関する目撃状況についての事情聴取を行い、鎌田にそれに関する文書の作成を要請し、同人はこれに応じて要旨次のような内容の文書を作成し、署名した(甲41、乙2)。「平成11年、1年生の時、2月か3月頃、テニス部で先輩の池田を西本先生が、穴の空いている所に埋めた(先生が埋めた)。それを見た他の先輩たちが、面白半分で埋めるのを手伝った。その後、先生だと思うがバケツをかぶせた。先輩達がその後、バケツにめがけて石をぶつけた。バケツを取ると、頭の後ろをけがしていた。その当時のテニス部は全員知っている。担任の衛生看護科の先生に埋めたことを西本先生が伝えた。」
d 同時間帯は、原告はクラスの各生徒に対し進路・生活指導についてベランダで個人面談を実施していたものであるが、鎌田に対しては、その個人面談を終了した後に、引き続いて当該事情聴取を行い、さらにその後、原告は放課後に鎌田を応接室に呼んだ上で、文書を作成させたものであった。また、本件事情聴取等は、杉原校長や校務運営委員会等に図ることなく、原告独自の判断で行われたものである。
e 西本は、ソフトテニス部副顧問の安延から、鎌田が原告からテニス部に関連した文書を書かされたことを聞き、鎌田宅へ架電した。同日夕方、鎌田の保護者である父親が、鎌田を伴って寒川高校を訪れ、当該事情聴取について苦情の申入れがなされ、要旨次のような内容の文書が作成された(乙2)。
「寒川高校校長殿 子供は進学のため試験勉強中です。今日6月13日の件で勉学に支障があった場合、どういう処分を当事者にしてもらえるのですか。また、子供が進路に対して悪影響を受けることも考えられます。今後の勉強、学校生活に問題がない様確約をお願い致します。小野先生に対しどの様な権限があって授業を受ける権利を侵害できるのか、この件により子供の精神的動揺をどの様に考えているのか、教育者としてはあるまじき行為ではないか学校関係者に今後どの様に指導して頂けるか、見させて頂きます。」
f なお、宮崎も、同年7月初旬ころ、本件傷害事件を目撃していた生徒である間島啓文から、要旨「西本やソフトテニス部の先輩達が一人の生徒を生き埋めにして、顔だけを出し、その顔にバケツとを被せ、石を投げている。」 旨記載した書面の提出を受けた(甲52)。
(イ) パトカーの出動要請への関与(甲42、甲53、甲54、甲69、乙15、証人杉原、原告本人)
a 杉原校長は、平成12年4月、寒川高校に校長として赴任したが、同和教育主任であった宮崎と意見が合わないことが多く、常々、宮崎に対し、批判的な発言を繰り返していた。
b 杉原校長は、平成13年6月6日に開催された同和教育現職教育の際に、自宅から取り寄せた「同和教育実践ノート」という数冊の書籍を教職員に紹介し、これを読むことを勧めた。その際、宮崎が、「同和教育実践ノート」を借り受けて所持していたところ、杉原校長は、同月13日、宮崎に対し、職員室で「お前、あの本持っとんか。本、返せ。お前は窃盗か。」と罵倒した。
c 宮崎は、同月13日夕方、被告の藤井理事長に対し、杉原校長とのそれまでのやりとりについて相談をもちかけ、藤井理事長と一緒に食事をし、杉原校長との今までのいきさつを話した。その際、藤井理事長は、宮崎に対し、杉原校長が警察での調査を希望しているのであれば、そうすればいい旨を述べた(乙9)。
d 宮崎は、同月14日、通勤途上の原告に前日の藤井理事長とのやりとりを説明し、杉原校長に抗議するために校長室に赴いた。一方、杉原校長も、同日午前8時40分ころ、原告を校長室に呼び、前日、鎌田の父親からなされた申入れに関して指導を与えた。その際、杉原校長と原告、宮崎との間で口論となり、宮崎は、原告の勧めもあって、杉原校長に窃盗よばわりをされたことを理由に、自分の携帯電話で、他の教員も数名所在していた職員室において、午前8時45分ころ長尾警察署に110番通報した。
e その後、長尾警察署から寒川高校に折り返し電話があり、杉原校長が対応し、その出動を断らずに、サイレンを鳴らさず出動するよう要請した後、午前9時05分ころ、前記通報に基づいて長尾警察署の警察官数名がパトカー及び捜査車両で寒川高校の校長室に到着した。
f その際、長尾警察署の警察官数名は、授業中に来て、杉原校長、原告、宮崎から事情聴取をした後、授業が終了しない間に帰ったので、パトカーが来たことを知らない教員もあった(乙3)。
(ウ) 解放同盟香川県連の関与(甲5ないし7、甲29、甲57の1、証人西本、証人杉原)
a 杉原校長は、寒川高校にパトカーが来るという事件が生じた当日である平成13年6月14日の夜、西本を伴って、解放同盟香川県連の丸亀支部事務所に出向き(甲18)、西本を解放同盟香川県連の役員に引き合わせ紹介をした(証人杉原)。
b 平成13年6月18日、岡田副委員長は、香川県丸亀市所在の部落解放・人権啓発センター宛に、同月16日付けで、本件匿名の投書があったとして、杉原校長、戸城、宮崎ら5名を前記部落解放・人権啓発センターに呼び出し、杉原校長らに、本件匿名の投書を示し、いわゆる差別発言事件についての調査と事実経過の説明を求める旨を申し入れ、杉原校長に対し、本件匿名の投書の内容調査・報告を約束させた。
c 被告の管理職は、解放同盟香川県連が主催する会合に出席し、あるいは解放同盟香川県連からの要請に応じて迅速に会合の機会をもうけている(甲18ないし20)。特に、平成13年6月23日、被告は、同年6月18日及び20日に、解放同盟香川県連から調査及び報告の要請に回答するために、いわゆる差別発言事件に関連して、寒川高校職員会議においてアンケートを実施し(甲50、甲51、甲64)、その結果に基づいて解放同盟香川県連からの質問事項に沿って回答した(甲66、甲67)。
d また、解放同盟香川県連が平成13年7月5日に開催した本件確認会には、被告の教員の半分以上にあたる35名が参加し、さらに、PTA役員等、関係者の多数が出席した(甲22、乙3)。しかも、平成13年6月16日の本件匿名の投書やいわゆる差別発言事件について同年7月5日に開催された本件確認会における発言に関連して被告が作成した文書中には、被告の管理職が、解放同盟香川県連から「ご指導いただいてからの2日間で本校全職員で取り組み、そして審議した内容について回答させていただきます。」(甲19)とか、「6月18日(月)にご提議いただいた差別事象について、学校に持ち帰り審議した内容をご報告に参りました。」とか、「厳しいご指導をいただきました。」(甲20)とか、「今回の確認会に参加して、ご指導いただく」とか、「ご指導を真摯にうけとめ、学校教育にあたりたい。」(甲22)等といった、解放同盟香川県連からの働きかけを積極的に容認する趣旨の記載が多々存在する。
e 被告の管理職は、原告に対し、解放同盟香川県連が主催し、あるいは参加する確認会等の会合への出席を再三にわたって要請した(甲22、乙4、乙16)
f 保護者会は、平成13年6月24日に、山田会長らPTA役員が竹本らと会談した際、竹本から、解放同盟香川県連の指導を受けている旨の説明を受けたが、その指導を認め(乙10添付の資料・)、また、同年7月21日に開催された臨時総会において、本件確認会につき、解放同盟香川県連の主張とほぼ同様の内容を詳細に報告するなど(乙3)、解放同盟香川県連の介入を抵抗なく受け入れていた。
g 本件確認会には、被告を監督、指導する立場にある学事文書課をはじめ、香川県同和対策室及び同和教育課の職員らも出席をした(甲62)。平成14年2月25日に開催された第2回確認会にも、香川県の関係者が出席をした(甲59)。
h 被告が、別件仮処分事件で提出した「答弁書」によれば、被告は、同和教育について、教職員の同和に対する意識改革を求めるために解放同盟香川県連と連絡を密にし、同和地区との交流会や、解放同盟香川県連主催の同和教育についての研修などに教員を派遣していること、学校内における差別事象が判明した場合は、まず事実を確認し、解放同盟香川県連を含む関係機関と連携して差別事象の原因及び背景を解明し、差別事象の根本的解決を図るように体制を整えている旨を主張している(甲48、証人杉原)。
i 平成13年11月15日付け賞罰委員会委員である渡邊作成の「賞罰委員会審議の結果報告(資料)」と題する文書(甲7、乙4)は、その後の時点で、記載の数か所が変更されているが(甲6)、その中には、原告に業務命令でもって出席を求めた平成13年9月20日開催の会合の主催者について、「香川県部落解放同盟香川県連連合会主催の差別発言疑惑確認会」と記載されていた箇所が「藤井学園寒川高等学校主催の差別発言疑惑事件説明会」と変更されている部分があるが、これについて、被告常任理事藤本及び当該文書の作成名義人である渡邊は、平成14年9月4日付け「陳述書」と題する書面により、これは単純な誤謬であり、後者が正しい認識である旨を説明した(乙5)。
j 部落解放同盟による確認会・糾弾会については、行政の同和問題への取組の中でも、従来から、これがかえって同和問題への対策を困難にしている面が再三指摘され(甲31ないし33)、平成元年8月4日付けの法務省人権擁護局総務課長作成の法務局人権擁護部長・地方法務局長宛ての「確認会・糾弾会について(通知)」(甲34)においては、部落解放同盟による確認会・糾弾会は、同和問題の啓発に通さないものとされ、法務省人権擁護機関としては、同確認会・糾弾会への出席をすべきでない旨、あるいは出席する必要はない旨指導していることが示されている。
平成2年には、高知市の朝倉中学校の校長が、部落解放同盟高知市連絡会から同和問題を提起され、確認会や糾弾会の開催等への対応に追われたことも一因となり、過労死するという事件が生じている(甲60、甲61)。
(エ)学事文書課への相談(甲53、甲69、乙16、乙17、乙23、乙24、証人戸城、原告本人)
a 平成13年6月20日の夕方、原告と宮崎は藤井理事長に面会し、それまでの経緯について報告をしたところ、藤井理事長は、原告らに対し、学事文書課へ行って本件傷害事件の真相を報告し、かつ、いわゆる差別発言事件についても弁明するようにとのアドバイスを与えた。そこで、原告は、今までの本件傷害事件及びいわゆる差別発言事件等について、学事文書課に相談することとして、翌21日朝、勤務時間前に、体調不良を理由に年次有給休暇を取得する旨を被告の坂上善則事務長に連絡し、同じく年次有給休暇を取得した宮崎と丸亀市内で待ち合わせ、学事文書課へ向かった。
b 原告は、同日午前10時20分ころ、再び被告に架電し、戸城に対し、本件傷害事件及びいわゆる差別発言事件についての真相を話すため、学事文書課に赴く旨を告げた。これに対して、戸城は、原告に、体調不良というのでないなら寒川高校に戻って授業を行うよう求めたが、原告は年次有給休暇の取得を理由にこれを拒み、電話の会話を終えた。
c その後、宮崎に対しては、寒川高校から、同日午後4時より職員会議を開く旨の連絡があり、それが宮崎から原告に伝わり、原告がそのことを確認するため、杉原校長に架電し、職員会議に出席しなければならないかどうかを問い合わせたところ、杉原校長は、出席しなくても良い旨を回答した。そこで、原告は、同日午前10時50分ころ、同じく年次有給休暇を取得した宮崎と共に学事文書課へ赴いた。
d 原告は、学事文書課において、勤務時間中になぜここにいるのかを質問した同課の参事であった新田に対し、年次有給休暇を取得してきたことを説明し、本件傷害事件及びいわゆる差別発言事件について説明すると共に、原告の主張を記載した書類を提出しようとした。しかし新田は、自分に権限がないことを理由にこれを拒み、その後に対応した学事文書課の笠原課長も、原告が手渡そうとした書類を、中身を確認することもなく返却した。
e 当日午後3時50分ころ、原告らは寒川高校に出向き、午後4時からの職員会議に出席した。また、翌22日、原告は、正式な年次有給休暇届を杉原校長宛に提出した。
f なお、被告就業規則24条によれば、寒川高校の教員が年次有給休暇を取得しようとする場合、事前(原則として前日の午前中)に校長に届け出なければならず、校務の都合上やむを得ない場合、校長はその時期を変更することができるとされている(甲4)。
(オ)山田会長との電話による応対(甲22、甲53、甲69、乙7、乙10、乙13、原告本人)
a 原告は、平成13年6月21日午後8時ころ、帰宅したところ、山田会長から、「本部役員会出席のお願い」と題する書面(甲30)が郵送されていた。同書面によると、原告と宮崎に対し、「本校教師による種々の問題」について話し合うために、同月23日午前10時から開催される保護者会の本部役員会への出席を要請するものであった。なお、同書面には、「当日、何の連絡もなく欠席という場合は、学校側の説明が妥当であると認めたものと解釈させていただきます。」などと印字されている。
b そこで、原告は、すぐに山田会長に架電し、山田会長に対し、上記本部役員会開催の趣旨、内容について質問し、山田会長がこれに答えるなどして会話した。しかし、原告は、本部役員会への出席を断り、出席しなかった。
イ 解雇理由1ないし4の判断
(ア)解雇理由1について(パトカーの出動要請)
パトカーの出動要請に関する原告の行為は、それが校務や生徒に与える影響等を十分冷静に判断した上でなされたものとは言い難く、教員として不適切な行為であるといわざるを得ない。しかしながら、前記認定の経過からも、原告が、単に学校に混乱を起こす目的でかかる行為に出たものとは認められない。また、被告は、杉原校長が、積極的にパトカーを寒川高校の校内に迎え入れることはあり得ない旨主張するが、宮崎は、前日、藤井理事長から、杉原校長が警察での調査を希望するなら、そうすればいい旨のアドバイスを受けていたこと、一般にパトカーや警察官が校内に立ち入るためには、管理権限を有する立場の者の承諾を要すること、杉原校長自身が、パトカーの出動に先だって長尾警察署の職員と電話でやりとりを行ったにもかかわらず、その出動を断らずに、サイレンを鳴らさず出動するよう要請し、警察官が来校していること、宮崎が自らの携帯電話で110番通報を行った際、職員室内には他の教員も数名所在したと認められるが、誰も当該通報を制止しようとしていないこと、到着した警察官らは、授業中に来て校長室へ赴き、杉原校長、宮崎から事情聴取して、授業中に帰ったもので、パトカーが来たことを知らない教員もいたことからすると、杉原校長自身にも、パトカーや警察官が校内に立ち入る事態を容認した面もあり、原告の行為のみが責められるべきではないし、パトカーが出動したことにより、寒川高校自体に大きな混乱が生じたことも認められないことからすると、原告の責任もそれほど重大であるともいえない。
(イ)解雇理由2について(生徒に対する強要行為)
原告の鎌田に対する事情聴取は、授業中に教室に隣接するベランダにて行われたものであり、そのタイミング、実施場所、聴取の方法等について最善
の方法を検討、選択して行われたものとはいい難く、クラス担任を受け持ち、その生徒に与える影響を何にも優先して配慮すべき立場にある教員の振る舞いとしては、いささか軽率であったといわざるを得ない。また、当該事情聴取及び文書の作成は、その後の経緯から見て、鎌田に何らかの心理的負担を与えたものである。しかしながら、本件傷害事件は平成12年2月ころに発生したものであるのに、それから1年以上も経過し、当事者が卒業を迎える翌平成13年3月30日に保護者から苦情の申入れがなされるという異例の経過をたどっていること、しかも、本件傷害事件は、当該苦情申入れがなされてはじめて他の教員らの知るところとなったことからも推察されるように、この間の被告の本件傷害事件についての調査、対応が十分なされていたといい得るかはいささか疑問であること、原告は、校務運営委員会のリーダーとしての立場にあったところ、同年4月11日に開催された寒川高校の校務運営委員会の席上で、杉原校長より、本件傷害事件に対する前記保護者からの苦情の問題が議題として持ち出されたのに、校務運営委員会では、その後引き続き検討されることはなかったこと、同年5月28日に開催された保護者会総会の朝、本件傷害事件の告発状が多数撒かれるという事件も生じていたこと等の事実も認められ、これらの事実に照らすと、原告が鎌田に対し、本件傷害事件に関する事情聴取をし、書面を書かせた行為は、教師として、本件傷害事件の真相を究明しようとした面もあると考えられるから、その方法に軽率な面はあるが、一方的に責められるべきであるともいえない。
(ウ) 解雇理由3(保護者の信頼を損ねる言動)について
原告は、平成13年6月21日午後8時ころ、山田会長に対し、架電したことは認められるが、それ以上に山田会長に対し、大声で威嚇するような発言を行ったとまでは認めることはできない。仮に、原告が上記のような発言をしたことがあったとしても、前記(1)ア(ウ)認定のとおり、保護者会は、遅くとも当該会話当日である平成13年6月21日以前に、既に解放同盟香川県連の影響下にあったと認められ、解放同盟香川県連が、いわゆる差別発言事件に関し原告を標的としていたことは明白であるから、原告が、そのような状況の中で、警戒のあまり、山田会長との電話において、自己防衛的な態度をとったとしても無理からぬ面があるし、また、一般に会話中の発言は、その相手との関係でさまざまに受け止められ、あるいは相手の発言によってその発言内容、口調や言葉使い、声の大きさ等が変化することは通常であり、それは電話でのやりとりについても同様であるから、上記発言をもって原告に対する本件解雇が合理的であるとすることはできない(仮に、原告が上記のような発言をした場合の本件解雇全体の合理性については、後記2で判断する。)。
(エ) 解雇理由4(学事文書課への許可なき来訪)
原告は、平成13年6月21日、年次有給休暇の取得を請求しており、本件全証拠によるも、校長によりその時期が変更されたと認めることはできないから、原告は、当日、年次有給休暇を適法に取得した上で学事文書課に出向いたと認められる。なお、被告は、乙24(戸城作成の「6/21」で始まる書面)を提出し、校長が、同年6月21日の時点で年次有給休暇の取得を許可していなかった旨を主張するようであるが、被告からは、時期を変更した旨もしくは翌22日の時点で原告が提出した休暇届を受理しなかった旨の明確な反論もなされておらず、本件全証拠によっても、当該年次有給休暇の取得が違法であると認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告が、当初、本来の目的とは異なる事由である体調不良を理由に同休暇を取得したことは、不適当であると考えられるが、前提事実によれば、当時の寒川高校内部は本件傷害事件及びいわゆる差別発言事件等を巡って混乱していたものであり、そのような状況のもとで、原告が、当事者として、その真相を話すために、学事文書課に赴くことは、自己を防衛する行動として、やむを得ないことであると考えられ、本件の解雇理由を構成するほどに非難されるべき点があるともいえない。また、前記(1)ア(ウ)認定のとおり、当時、既に保護者会が解放同盟香川県連の影響下にあったこと、原告は事前に藤井理事長に相談をし、そのアドバイスに従って学事文書課に赴いていること等の事情も認められるのであり、原告が戸城の制止を聞き入れなかったことをもって、原告にのみ非難を加えることはできない。
なお、被告は、原告が戸学事文書課の課員に対し、本件傷害事件に関する自己の主張を記載した書類を提出する際、「寒川高校の校長の許可を得た。」と告げ、もしくは寒川高校を代表して来課しているとも受け取れる発言を行い、虚偽の事実を告げたと主張するが、本件全証拠によっても、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(仮に、原告に非難されるべき点があるとしても、後記2において、本件解雇全体の合理性として判断する。)。
(2)解雇理由
5(女子生徒等に対する不適切な行為)
ア 前提事実及び証拠(甲49、甲53、甲9、乙6、乙10、乙11、証人戸城、原告本人)によれば、平成13年9月7日ころ、原告が担任していた生徒の自宅を中心に、原告の住所、氏名を記載した上、原告について「動く生殖器」、「生殖教師」、「ハラました女子生徒数知れず!」などと記載した匿名の文書が郵送されたこと、以前に原告に関する女子職員や女子生徒との親密な交際等がうわさとして取りざたされたことがあるとの事実が認められる。
イ しかしながら、この件に関する被告の主張は、いずれも抽象的なうわさの域を出ないものであって、当事者や時期、行為の内容等を十分に特定したものではないといわざるを得ず、当該文書に記載されもしくはうわさとして取りざたされたような男女交際に関する事実を認めるに足りる証拠はない。
ウ また、被告は、当該文書が生徒の自宅に郵送されるなどの事態を招き、あるいはうわさが取りざたされること自体、被告にとっての致命傷になりかねないとして、そのことをもって原告を非難するけれども、これらはいずれも原告に対する誹謗中傷の行為であって、原告自身も名誉を毀損される被告者の立場にこそあれ、当該誹謗中傷にかかる事実が認定されない限り、被告に対する関係においても非難の対象とされる立場にはないものというべきである。なお、証人戸城は、平成10年の2学期ころから、原告の女性関係についての良からぬうわさを耳にし、そのうち原告が女子生徒と不適切な関係をもっていたとするうわさについては、証人戸城自身が当該女子生徒に直接面接して尋ね、特に問題を認めなかったことを確認した旨、また、その他にもいろいろなうわさを耳にしていたものの、管理職として敢えてこれに対応しようとしなかった旨証言しているのであり、このような被告側の態度からすれば、前記うわさについては、その当時、いずれも単なるうわさの域を出ないものであると被告も認めていたことがうかがわれる。
エ 以上のとおりであり、この点に関する被告の主張は理由がない。
(3) 解雇理由6(上司や同僚に対する不適切発言)
ア 前提事実及び証拠(甲22、甲50、甲51、乙6、乙8、乙11、乙16、乙17、証人西本、証人戸城)によれば、原告が、上司、先輩教員、同僚教員等に対し、自らと藤井理事長との親密な関係や、その関係に基づいて自らがあたかも人事に関する影響力を有していることを匂わせる趣旨の発言を行っていたことが認められる。
イ しかしながら、本件解雇以前に原告の上記発言が寒川高校において特別に問題視された形跡もなく、また、甲22(平成13年7月5日開催の本件確認会のテープ反訳書)には、戸城が、そもそも寒川高校全体が、家族的なところもある旨を繰り返し発言する部分があり、甲50(被告が実施したアンケートの結果)には、原告の発言に対する職場での管理職の対応を非難するような意見やコミュニケーション不足を指摘するような意見も見られるのであり、むしろ寒川高校においては、従前からそのような発言を許容する職場の雰囲気があり、原告の前記発言もそのような雰囲気の中で行われたものと考える余地がある。
ウ したがって、上記イの雰囲気のもとでなされた原告の上記アの発言のみを取り上げて、原告に対する本件解雇が合理的であるとすることはできない(本件解雇全体の合理性については、後記2で判断する。)。
(4)解雇理由7(その他〔説明会への欠席及び別件仮処分申請〕)
ア 前提事実及び証拠(甲5、甲23、甲24、原告本人)によれば、原告は、その言い分を聴くために開催された平成13年7月5日の本件確認会及び同年9月20日の確認会への出席を求める被告の業務命令をいずれも拒否したこと、うち本件確認会は解放同盟香川県連が主催する会議であったこと、同年9月20日に開催された確認会は、必ずしもその性格が明らかにされぬまま、戸城から原告に対し出席するよう業務命令がなされたこと、原告を確認会に出席させるというのは解放同盟香川県連の強い意向でもあったこと、原告が、同年9月25日、別件仮処分申請を行ったことが認められる。
イ(ア)しかし、本件確認会は、被告主催にかかるものではなく、解放同盟香川県連の主催する説明会と認められるから、原告において出席せねばならない特段の事情がない限り、これを被告が原告に対し業務命令でもって出席を強いることはできないところ、本件において、上記特段の事情があったとは認められない。
(イ)同年9月20日に開催された確認会についても、必ずしもその性格が明らかにされぬまま、戸城及び竹本から原告に対し、出席が要請されたこと、原告を確認会に出席させるというのは解放同盟香川県連の強い意向でもあったこと、前記(1)ア(ウ)認定事実によれば、同日の確認会も、時期的に見て、本件確認会と同様、解放同盟香川県連の影響下に行われることが十分に予想されたこと等の事情があったと認められるのであり、それらを踏まえれば、同日に原告が戸城より業務命令をもってなされた確認会への出席要請に原告が従わなかったことにも、やむを得ない理由があると認められる。また、原告が、被告や戸城ら対し確認会等への出席強要禁止等を求める仮処分を申し立てた行為は、国民に認められた裁判を受ける権利を原告がその状況下において行使したものに過ぎず、その手続きによることが紛争解決以外の目的をもってなされたといった特段の事情に基づくものと認めるに足りる主張立証はないから、当該行為をもって原告に対する非難の理由とすることはできない。
2 本件解雇全体の合理性についての判断
(1)判断基準
ア 被告が本件解雇の理由として主張する事由に対する認定は、以上
の1(1)ないし(4)のとおりである。原告は、本件解雇は、解放同盟香川県連の影響下において、被告が解放同盟香川県連の意向のままに原告を排除しようとして行ったものであり、そもそも目的において不当であるから無効である旨主張する。
イ そして、前記1(1)ア(ウ)認定事実によれば、解放同盟香川県連から、本件解雇に至る経過等につき、次のような影響があったことが認められる。
(ア)a 被告は、平成13年5月末ころ以降、解放同盟香川県連から再三にわたり介入を受け、解放同盟香川県連からなにがしかの要請がある都度、それに対応して調査等に着手し、その調査結果等を報告していたこと、寒川高校の問題についての話合いの場に、複数回にわたって解放同盟香川県連の関係者が参加することがあったことが認められ、反面、解放同盟香川県連の介入に対し、被告においてこれを排除しようとした形跡があったとは認められない。また、被告に対し強く働きかけることのできる立場にある保護者会や学事文書課をはじめとする関係行政機関も、このような被告の方針に異を唱えることなく、むしろ解放同盟香川県連が介入するのを容認するところがあったものと認めることができる。そうすると、被告は、結果的には、寒川高校の運営等に関し、解放同盟香川県連からの働きかけを排除することができなかったものといわざるを得ない。
b この点、被告は、本件確認会において、いわゆる差別発言事件につき、竹本が被告を代表する立場で、原告に差別的発言はなかった旨説明したことをもって、解放同盟香川県連とは一線を画してきた旨主張する。しかしながら、この点についての被告の主張は、前記1(1)ア(ウ)hのとおり、別件仮処分事件においては、被告自身、解放同盟香川県連とは同和問題について日常的に連携をとってきたと主張していること、本件確認会における竹本の当該発言は、被告の他の教員からは必ずしも歓迎されず、その場において、解放同盟香川県連からの、それは被告学園の総意と受け止めてよいのかとの問いかけに対し、別の教員が竹本とは異なった趣旨の発言をしていること(甲22、甲23、甲29及び乙3各添付の議事録)、賞罰委員会の審議においては、本件確認会の主催者につき、前記1(1)ア(ウ)iのとおり、解放同盟香川県連か被告自身かが混同されていること等の事情に鑑み、にわかに信じ難い。
(イ)ところで、部落解放同盟による確認会・糾弾会については、前記I(1)ア(ウ)iのとおり、法務省人権擁護局において、これらへの出席については否定的に指導しているところであるが、被告も、また、被告を監督、指導すべき立場にある学事文書課をはじめ香川県の関係部署の職員らも、上記法務省の指導に沿わず、いわゆる差別発言事件に関し、解放同盟香川県連が主催しあるいは解放同盟香川県連の関係者の参加が予定されている確認会であることを認識しながら、自らそれに出席し、あるいは原告に対し出席を要請しているのである(甲5ないし甲7、甲48、乙16)。これら事実を踏まえると、少なくとも、平成13年6月ころ以降の時点において、被告が解放同盟香川県連と一線を画する対応をとっていたとは到底認め難い。
(ウ)そうすると、本件解雇が決定された当時、被告が解放同盟香川県連からなにがしかの影響を受けており、しかもその影響は、少なくとも被告学園の管理職をして優先的に対応を余儀なくされる程度に大きなものであったと認めざるを得ず、また、解放同盟香川県連が、原告を、いわゆる差別発言事件の当事者として厳しく問題視していたことは明らかである。したがって、本件解雇に対し、解放同盟香川県連の思惑が少なくとも間接的に介入したものといわざるを得ないから、本件解雇の有効性を判断するにあたっては、当該影響についても考慮されなければならない。
ウ しかしながら、上記1(1)、(3)、(4)のとおり、原告には一部不適切な言動が認められ、しかも当該言動の中には、原告の教師としての適格性に影響を与え得るものも含まれていることは否定し難いものといわざるを得ない。ところで、被告は、原告の一連の行為を総合的に考慮した結果、それは被告との秩序を乱し信用を失墜させ、校務の円滑な遂行を妨げるものであり、原告の教師としての不適格性を認定するに足りるものであって、ひいては被告との信頼関係を喪失せしめるものであると判断し、原告との雇用関係を継続し難い正当な理由があるとした旨主張する。思うに、教師として不適格とされる場合とは、それが教員に対する解雇事由として争われることに鑑み、当該教員の容易に矯正し難い持統性を有する能力、素質、性格等に基因してその職務の遂行に障害があり、または障害が生ずるおそれが大きいと認められる場合を指すものと解するのが相当である。したがって、本件解雇の合理性が認められるか否かは、前記1(1)ないし(4)で認定した事実及び事情を前提として、原告が教師として不適格と評価されるべきか否か、つまり、原告の容易に矯正し難い持続性を有する能力、素質、性格等に基因してその職務の遂行に障害があり、または障害が生ずるおそれが大きいと認められるか否かにかかることになる。
(2)判断
ア 被告にあっては、平成13年五月30日の匿名電話に始まる一連の騒動を生じる以前の段階においては、特段、校内において波が立つとか険悪と評価すべき問題を生じていなかった(証人戸城)。つまり、同日以前の原告の言動(すなわち、女子生徒等に対する不適切な行為及び上司や同僚に対する不適切発言)が、同日ころ以前の段階において特段、問題として取り上げられることはなかったものであり.しかも、本件全証拠によるも、原告が、本件以前において、被告から懲戒処分を受けた事実は認められない。
イ アで指摘した以外の事由(すなわち、原告の本件傷害事件に関する生徒への行為、パトカーの出動要請への関与、学事文書課への相談、保護者への対応)も、いずれも平成13年6月13日から同月21日のわずか1週間あまりの、ごく短期間に集中して生じており、原告に教師として不適格と評価されるべき事由、つまり、原告の容易に矯正し難い持統性を有する能力、素質、性格等に基因してその職務の遂行に障害があり、または障害が生ずるおそれが大きいと認められる事由の存在の有無を評価するには短期間に過ぎる。原告は、その直後である同年7月1日付けで被告より校外研修の扱いとなったところ、当該校外研修とは、形式的には「研修」の名目ではあるが、原告は、学級担任等の任をすべて解かれた上で実質的には自宅謹慎ともいうべき待遇を強いられたものである(甲53、乙3)。そして、原告は、当該校外研修の後、一度も職場への復帰の機会を与えられることもなく、本件解雇の通告を受けたものであり、本件解雇は、その手続においても疑問の余地がないではない。
ウ 原告の教師としての能力、資質については、杉原校長は、原告の能力を高く評価していたこと(証人杉原)、戸城も、原告が非常に有能な先生で、よく頑張っていたと評価していたこと(証人戸城)、また、平成13年7月7日に開催された保護者会の本部役員会においても、原告が子どもたちに信額されている旨の発言がなされており(甲29添付の本部役員会議事録)、また、平成15年2月ころ当時の在校生及び卒業生の中には、原告の復帰を希望する者も少なくない(甲39、甲40)。ところが、被告の賞罰委員会において原告の教師としての適格性が検討されたとされる場面では、そのような原告のこれまでの功績や教師としての優れた一面等、原告の有利に解される事情が考慮された形跡が全くうかがえないのであり(乙4、乙5)、この時期、被告が前記解放同盟香川県連の影響下にあったという事情も踏まえれば、同委員会における判断は、必ずしも公平になされたものとはいい難い。
エ そうすると、確かに、原告において認められる事由の中には、平成13年6月以降、被告において生じた著しい混乱に対して要因を与え、あるいは当該混乱を助長したと認められるものがないとはいい難いけれども、被告におけるこの著しい混乱は原告の言動のみによって招来されたものとはいえず、また、原告がこのような行動に出た背景として、その保護者会等を介して被告に働きかけを行っていた解放同盟香川県連の意向が存在していたこと、問題行動はごく短い期間に集中していること、同年7月1日付けで校外研修の扱いとされているものの、実質的には何ら「研修」と呼ぶにふさわしい内容の処遇、すなわち教員としての資質を涵養し、又は、被告との信頼関係を修復する機会を被告が与えた訳ではなかったものであり、しかも原告はその「研修」の成果を確認される機会すら与えられないまま本件解雇の通告を受けたこと等の事情を踏まえると、原告が教師として不適格であり、また被告との信頼関係が喪失されたと断定した被告の判断は、早計に失したものといわざるを得ない。
オ なお、被告は、必ずしも明確ではないものの、前記の事由以外にも、原告について、平成11年11月に寒川高校の2年生に在学中の生徒が自殺した事件に関し、平成13年9月になって同生徒宅を訪問し、学校側に何か問題があるかのように話し、再捜査を求め告訴するよう勧めたこと、同年6月24日に、PTAの代表から、生徒が原告より、日常的に差別的な発言を聞かされて傷つき、学校を辞めたいという生徒も出ているとか、原告が自分が担任するクラスの生徒や優秀なクラスの生徒ばかりを優遇するといった苦情があったこと、平成12年10月に行われた修学旅行の際、原告のクラスのみが集合時間に遅れ、他の生徒に迷惑をかけたのに、担任教諭である原告は他の生徒に謝罪もせず、担任する生徒を指導するということもなかったこと等を、教師としての適格性を否定する根拠として主張するようである。しかし、上記の点については、いずれも、証人戸城の証言及び同人の報告書(乙16、乙17)があるのみで、これらは証人戸城の伝聞した内容を述べたものでしかなく、直ちに信用することはできない。また、それ以外に、これら事実を認めるに足りる証拠はない。
3 小括
以上のとおりであり、本件解雇には合理性があると認められず、本件解雇の意思表示は効力を生じないから、原告が被告に対し、雇用契約上の地位を有することの碓認を求める請求は理由があることとなる。
C 争点
(3)について(本件解雇後の月例賃金、夏期、冬期、年末の各賞与の請求)
1 平成14年1月21日から平成16年7月21日まで
前提事実によれば、原告が、被告から、平成14年1月21日から平成16年7月21日までの間に支払われるべき月例賃金、夏期、冬期、年末の各賞与は、別紙の請求金額一覧表記載のとおりであることが認められる(なお、月例賃金のうちに含まれる通勤交通費については、一種の生活保障的な意味もあり、また、本件解雇が効力を生じないならば当然に支払われる金員であるから、これを本件解雇の意思表示が効力を生じない場合に請求できる賃金であると解する。)。したがって、原告の被告に対する別紙請求金額一覧表記載の月例貸金、夏期賞与、冬期賞与、期末賞与及び同各金員に対する支払い期日から支払い済みまで民法所定5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。
2 平成16年8月以降の将来の月例賃金の請求
(1)本件口頭弁論終結後で本判決確定前の将来の月例賃金については、原告の雇用契約上の地位の確認を求める部分が確定していないから、これを前提とする月例賃金もその支払が拒絶される可能性は十分にあり、これをあらかじめ請求をする必要があると認められる。したがって、この部分については、訴えの利益があることとなり、前提事実によれば、原告が被告に対し、平成16年8月から本判決確定に至るまで毎月21日限り45万5073円及びこれに対する各同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があることになる。
(2)本判決確定日以降の将来の月例賃金については、雇用契約上の地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務提供の受領を拒否して、その賃金請求権の存在を争うことが予想されるなどの特段の事情が認められない限り、あらかじめ請求する必要がないと解すべきである。そうすると、本件においては、全証拠によるも、この特段の事情を認めることができないから、本判決確定後の月例貸金請求は、訴えの利益を欠き不適法というべきである。
3 平成16年8月以降の将来の夏期、冬期、年末の各賞与の請求
(1)ア 本件口頭弁論終結後で本判決確定前の将来の夏期、冬期、年末の各賞与については、前記2(1)と同様、原告の雇用契約上の地位の確認を求める部分が確定していないから、これを前提とする夏期、冬期、年末の各賞与もその支払いが拒絶される可能性は十分にあり、したがって、これをあらかじめ請求をする必要があると認められる。
イ しかしながら、前提事実により認められる被告就業規則中の貸金規定34条ないし36条によれば、寒川高校における賞与は、夏期、冬期及び期末の年3度、その都度、本俸と扶養手当との合計額を支給算出基礎額とするものの、最終的には、物価事情、社会水準および貢献度等を勘案して決定されるのであり、原告の雇用契約上の地位に基づいて当然にいずれかの査定基準による賞与請求権が発生するものではなく、原告の被告に対する貢献度等の評価をもって確定するものである。そして、本件全証拠によるも、本件口頭弁論終結後で本判決確定前の将来の夏期、冬期、年末の各賞与につき、被告の貢献度等の評価がなされて具体的な支給率又は金額による支払の意思表示があったことが認められない以上、これらの支払請求権が発生したと認めることはできない。したがって、原告の本件口頭弁論終結後で本判決確定前の将来の夏期、冬期、年末の各賞与の請求は理由がないこととなる。
(2)本判決確定日以降の将来の夏期、冬期、年末の各賞与については、前記2(2)と同様の理由により、あらかじめ請求する必要がないと解すべきであるから、訴えの利益を欠き不適法というべきである。
D 結論
よって、原告の本件請求は、・雇用契約上の地位を有することの確認、・本件口頭弁論終結時である平成16年7月28日までに支払期日の到来した別紙請求金額一覧表記載の月例貸金、夏期、冬期、年末の各賞与及び同各金員の支払、・本件口頭弁論終結時から本判決確定日までの月例賃金及び同各金員に対する支払期日から支払済みまで民法所定5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し、・本件口頭弁論終結時から本判決確定日までの夏期、冬期、期末の各賞与及び同各金員に対する支払期日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由がないから棄却することとし、・本判決確定日以降支払期日の到来する月例賃金、夏期、冬期、期末の各賞与及び同各金員に対する支払期日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払の支払を求める部分は訴えの利益がないから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条ただし書を、仮執行の宣言につき同法259条を各適用して、主文のとおり判決する。
高松地方裁判所
民事部 裁判長裁判官 豊永多門 裁判官 山口格之
裁判官 角田康洋
(別表) 略
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