2005年3月1日
全国地域人権運動総連合
議 長 石 岡 克 美

2003年10月に3度の継続審議の末廃案になった人権擁護法案が、「メディア規制」の凍結(解除には新たな法律が必要)、法律施行後一定期間の後に見直す(3〜5年間)との修正だけで、骨格を変えずにこの通常国会に再提案されようとしている。
この修正内容は参議院先議で審議が行われていた時期に、政府・与党の側から提示されていたものだが、国内外の人権機関の在り方からして到底妥結できるものでは無く棚上げになっていたもの。
しかし政府与党は審議経緯や道理を無視し抜本的な見直しもせずに再提案するなど、国民世論軽視も甚だしい暴挙にでようとしている。
道理無き再提案に断固反対する。
法案の問題についてマスコミは、「メディア規制に加え、『法務省の外局では独立性が保たれない』との批判を受けて廃案に追い込まれた」と、この2点のみが問題であるかの報道を行っている。しかし問題はこれだけではない。
先の法案が広範な国民の反対により廃案となったのは、(1)国連が示す国内人権機構のあり方(パリ原則)とは異なる、(2)公権力による人権侵害を除外しており、最も必要性の高い救済ができない、(3)報道によるプライバシー侵害を特別救済手続きの対象としており、表現・報道の自由と国民の知る権利を奪うことになる、(4)「人権」や「差別」についての明確な規定なしに、「差別言動」を「特別救済手続」として規制の対象としたことが、国民の言論表現活動への抑圧であり憲法に抵触するとの批判を受けたこと、などによる。
今回、(3)を削除ではなく凍結にこだわる点に与党のマスコミ規制の執念があらわれており、(4)に関わる法案第3条の差別禁止規定の見直しに一切ふれないことは「解同」の要求を温存してのこと。
つまり問題は、言論・表現の自由に関わる領域に権力の介入を許すかどうかにある。
「解同」の新年度方針案は今もって「確認・糾弾」闘争を「運動の生命線」と位置づけ、部落差別取締法の早期制定を求めている。 この人権擁護法案は、「解同」が部落解放基本法制定要求で掲げた「規制」「救済」を取り込んでおり、「確認・糾弾」の合法化に役立つことから「修正」による成立にこだわるもの。
しかも「解同」試案の機構では中央・地方の人権委員会と人権擁護委員に変わる人権相談員を創設し、自らを差別の当事者として委員会や委員に入り込み、「差別」を口実に国民管理を行おうとするもの、ここに「解同」の狙いと意図がある。
2月9日の「解同」中央委員会は、報道によると、「実効性とは被差別部落出身者、女性、障害者、在日外国人などを人権委員にすることだ」と狙いを明らかにしている。
国民の人権擁護のためではないことは明らかである。
国民の畏怖・不快など感情に関わる諸言動まで「差別であるかないか」を判定する強大な権限を持つ行政機関の誕生を喜ぶのは、権力と「解同」でしかない。
もとより国民の人権救済のためには、国民の身近で頼りになる司法の民主的改革が基本であり、少なくとも政府から人事、運営、財政の各面で独立して活動できる人権救済機関の設置が必要であるが、人権委員会の帰属や格付けをも含む独立性の確保、民主的選任と国民の信頼をうる人権擁護委員の在り方でも十分な配慮が求められる。
さらに法案の土台である答申は、同和の特別対策の終結との関わりから審議会が設置され、とりまとめられた経緯があり、人権問題といいながら差別問題が中心であり、しかも同和問題を色濃く意識したものとなっていたが、その問題点が法案にも反映している。
つまり、同和問題に関わる結婚・交際問題のように、この分野で合意されてきた政府見解では、何が差別かを判定することは困難であり、法律などで罰したり規制することは、かえって啓発に反し差別の潜在化を招くと捉えていたが、この法案は明らかに問題解決に逆行する仕組みを内包している。
結婚・交際に際して、「差別」との断定のもとに、嫌がらせや侮辱などに「特別救済」を行うことは、国民の内心の自由への介入につながり、意に反する婚姻の強制など憲法が保障する婚姻の自由への行政権力の介入になりかねず、結果的に人権を侵害し、部落問題解決をも阻害するものである。
あくまで表現には表現で対抗することが近代社会の基本であり、定義できない「不当な差別的言動」「差別助長行為」などの表現行為に対して、曖昧な基準で「停止」「差し止め」など物理的、強制的な手段による対応を行うことは、言論表現の自由を侵害し、しかも自由な意見交換のできる環境づくりによる部落問題解決にも逆行する。
このように、この法案は、国民の希望してきた人権救済制度のあり方に十分応える内容になっていないばかりか、従来、国民生活に係わる私的自治やマスコミのような報道の自由が不可欠な分野へ新たな権力の介入に道を開き、しかも異議申し立てなどの反訴や黙秘権も明確に規定されておらず、新たな人権侵害を生み出しかねない危険性をはらんでいる。
よって第3条差別禁止規定の特別救済対象は公権力に限定すべきである。
一方、国連規約人権委員会は、「我が国の報告書に対する最終見解」で「警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について」と「児童の権利」に関して「調査及び救済を求める申立てができる独立した機関等を設置」することを求めている。 国連の方針がすべて正しいものではないが、関係当局は国内実状を一定反映した「勧告」を誠実に受け止め、各々指摘のある分野について個別法の改善整備を含む迅速な検討が求められている。
国連は(高等弁務官の2度の指摘も含め)、とりわけ「独立した機関」が必要と指摘している分野をこのように限定しており、人権侵害の元凶である公権力や社会的権力(大企業など)を規制することを曖昧にし、国民の私的領域や言論の分野に踏み込むような機関はもとより想定していない。
政府・与党が進めている修正論議は国内外の指摘に何ら真摯に応えていない。
あらためて「修正」法案の再提出に反対する。
自民党は憲法改悪をタイムスケジュールにのせ、その一環としてこの法を通じて国民の言論・表現・報道の自由に介在し人権抑圧攻撃を仕掛けている問題であり、「解同」問題を一掃する仕上げの課題として本質を暴露し、闘いを前進させるものである。
|