COPENHAGEN ZOO コペンハーゲン動物園
長文注意
1998年に、コペンハーゲンzooをはじめ、いくつかデンマークの社会教育施設を
見学調査しましたので、そのときの報告書の一部をここに公開します。
この調査は、(財)ササカワースカンジナビアの基金の援助を受けて行われました。
以下では、1)小学生向けの体験教育プログラム
および2)
高校生向けのzoologyプログラムを紹介します。
1)コペンハーゲン動物園の体験教育プログラム−
−「家畜の世話の体験」−−
1998年9月15日、朝7時30分より正午まで、コペンハ−ゲン動物園の子ども動物園において、ヤギやラマ、ニワトリ、ウシ、ウマなどを用いた、小学生対象の「家畜の世話体験」という教育プログラムをひととおり見学させていただいた。小学校側の了解を得て、写真を撮り、子ども達について歩くことができたので、そのプログラムの概略と子ども達の様子を報告する。
1)朝6時に学校を出発した子ども達と先生
コペンハーゲンから南西に20kmほど離れたところにある「Greve」という町の「Holmeagerskolen」(小学校名)がら子ども達はやってきた。
彼らは1クラス28名で、4年生だ。引率の教師は2名、男性と女性、一人は担任(女性)でAnnete Bluur先生(女性)、もう一人は副担任(男性)で、学外移動の時は必ず複数で引率することになっているそうだ。
朝7時半にプログラムが始まるので、その15分前に通用口前に集合、そのためには遅くとも6時に学校を出て、40−50分間、電車に乗るのだという。コペンハーゲンの駅前からバスで10分、なるほどたいへんな道のりである。Annete先生自身はご自宅を5時半にでたとのこと。
それでも、長靴をはいた子ども達はとても元気で、これからの家畜の世話の体験学習を楽しみにしているようだった。 4年生は、ちょうど英語を習い初めて約1年とのこと、私が英語しかできないことを知ると、いろいろ英語で話しかけてくれた。自分の名前を名乗ったり、コペンハーゲン動物園の見所を教えてくれたり、なぜ日本からわざわざ来たのか質問をしてきたり、スタッフがそろう10分ほどのあいだに、私は少し子ども達と仲良くなれた。 朝早くから集まった子どもたち「グ、モーグ!」と覚え立てのデンマーク
語で、「お早う」というと、通じたらしく、子ども達から笑みがこぼれた。
子ども達の中には、最近イランやパキスタンなどから移民としてデンマークにやってきた家族の一員も数名おり、コペンハーゲンのみならず、郊外にも多くの外国からの家族が
生活していることがわかる。
「君は何の動物の世話をするの?」と問いかけると、それぞれ、「僕はウマ」「私はヤギ」など、即座に答えが返ってくる。あらかじめ学校で自分がどの動物の世話をするかを決めてきているようである。
2) 3グループに分かれての動物の世話
この4年生対象のプログラムは、1日1クラス限定である。週に2日までプログラムを組めるので、1週あたり2クラスまでとなる。
動物園の教育係としては、グループそれぞれに1名のEDUCATORを用意し、朝7時半から12時頃まで、半日間、4時間あまりこのクラスと過ごすことになる。
3つのグループには、あらかじめ、「ウマグループ」「ウシグループ」「ヤギ・ラマグループ」という名前がつけられており、子ども達は、自分が世話したい動物のグループに所属する。これは、動物園に教師が申し込みをして、打ち合わせの時に教師はそういうシステムであることを知らせてもらい、学校で子どもと相談をしてだれがどのグループに所属するかを決めているのである。
この3つのグループにそれぞれEDUCATORが一人ずつ付くのだが、教師の数が2人なので、ひとつのグループは、EDUCATORひとりで引率することになる。この日は、EDUCATORひとりで引率したのは、ウシグループであった。
以下、実習の大まかな内容を時間を追って紹介する。
*** A 共通プログラム ***
集まった子ども達は、最初に飼料庫を見学する。あまり細かい説明はないが、どんな種類の餌を動物園では使っているか、の説明を受ける。また、漫画入りの看板で、動物たちの使った寝わらがどこに運ばれるのか、そしてそれが作物の肥料になることも知る。
子ども達も引率の教師たちも、みんな長靴をはいていて、やる気十分である。少し長いトンネルをくぐると、そこは子ども動物園、ニワトリやウシの鳴き声が聞こえてくる。飼育係ももう仕事を始めている。
まずはじめは、間近でよく動物を見て、大事なことを知ってもらおう、ということで、「ウシのミルクがどうして搾れるのか」を子ども達に考えてもらった。
大きな雌牛がスタンチョンにつながれていて、ミルカーという搾乳の機械も備えてある牛舎に入る。EDUCATORが「おなかに赤ちゃんがいないとミルクが搾れないし、赤ちゃんが産まれないと、長い間ミルクを採ることはできない」ことを説明する。そばでは、ウシの飼育係が器用に手で搾乳し、ガラスのフラスコのような容器にその搾りたてのミルクを受ける。
子ども達は、暖かいガラスの容器を手にし、互いに顔を見合わせる。EDUCATORが、少し指先につけて舐めてみせると、子どもたちも真似してやってみるが、中には、指をそのままタオルで拭ってしまう子もいる。まるで汚い物をさわってしまったように。
感心したのは、飼育係はEDUCATORの説明にあわせて、流れるような作業で、無駄なく動物を誘導したり搾乳したりしていた事である。もちろん、何度も同じような手順での体験プログラムだからなのだろうが、リズミカルでEDUCATORとぴったり息のあった連携プレーは、見ていて美しく、心地よいものである。
この説明を受けた後、ウシたちは、ミルカーという電動式の搾乳器により、次々に搾乳され、目の前のガラスのタンクに泡立つミルクがあっという間にたまっていくのを子ども達は見届ける。もちろん、ウシたちをミルカーをつなぐ前に、飼育係がウシの乳首を消毒し、ミルカーの管もきれいにするところも見る。そして、最後は牛乳パックも見るのである。
最後は、ウシのお腹の中の磁石を子ども達に見せる。金属片が少しでも餌の中に入っていると、何度も咬み戻しをする、反芻獣の複雑な胃袋の壁に穴があいてしまうことがあるので、あらかじめ小さな磁石を胃に入れておくことで、その事故を防ぐのだとEDUCATORが解説する。子ども達はテニスボールくらいの磁石を手にして、しげしげと見ている。
ここまでで、約30分、次はようやく各グループごとの実習である。
*** B−1 グループ別実習(ウマのグループ)***
ポニーのいる厩舎に行く。プログラムは、ポニーの体に触れることから始まる。
馬の目は大きい。やってきた子ども達を見つけて、ポニーたちはその大きな目で挨拶をする。鼻を鳴らして、早く運動場に出してくれ、とせがんでいる。
一頭一頭、部屋が別れていること、「自分専用の」部屋があり、そこに名札がかかっていることも子ども達は知る。このグループは教師の引率がひとりとEDUCATOR一名、そして実際のウマの世話の時には、飼育係も少し手伝い、8名の子ども達を2、3人の大人が面倒を見ることになる。
運動場はあまり広くないが、実はウマは毎日、決まった時間に本園(子ども動物園からトンネルでつながっているコペンハーゲン動物園の本園のこと)までエキスカーションを兼ねて、運動に行くのである。だから、この子ども動物園のウマの運動場は、その時間まで餌を食べたり他のウマと一緒にいる時間を作るための場所である。
子ども達は、ひととおり、ポニーたちがそれぞれ部屋から運動場へと出た段階で、自分の道具を道具置き場から持ってきて、掃除を始める。
あらかじめ、掃除をすることはわかっているが、どんな道具を使ってどのように掃除をしたらよいかは、少し子ども達自身に考えてもらう。日本の動物園ように、厩舎の中を水で洗うことはせず、敷きわらを取り替えるしくみなので、要領よく、汚れたわらをすくって外に持ちだせるような道具が必要となる。
子ども達同士で、これにする、あれの方が使いやすい、など相談が始まり、しばらく大人はそれを見守る。そして、選んだ道具に対し、いちゃもんはつけない。ただ、迷っている子には何を迷っているか聞いて、アドバイスはする。
スコップを持つ子、大きなブラシ形のほうきを持つ子、小さな2輪車を持ち出す子など、さまざまだ。そして、ポニー3頭分、つまり3部屋がこの子ども達の担当となる。掃除が始まると、4年生とは思えない力強さで、ポニーのしたフンをひょいっとすくい上げたり、尿のしみこんだ重いわらを、器用に2輪車に積んだりしている。
EDUCATORは、子ども達を見守るだけではなく、他のポニーの部屋の掃除を始めた。教師は子供と一緒に掃除をする。飼育係も他の部屋の掃除にかかる。だれかが号令をかけて掃除をさせるのでなく、いっしょに鼻歌など歌いながら楽しんで部屋をきれいにしている。飲み水の用意は飼育係がした。
ポニーのブラッシングは一頭を2、3人でていねいに行う。ポニーはこの時間が好きらしく、子ども達にもっとやってくれとおねだりもしていた。
このあと、毎日のエキスカーションに、ウマを連れ出すが、毎日それは飼育係がするのだが、きょうはEDUCATORの仕事である。子ども達はみんなヘルメットをつけ、ポニー3頭に順番に乗りながらゆっくりと園路を歩いてくるのである。
わたしは、このエキスカーションには他のグループの見学もあって実際にはついていかなかった。
時間の配分は、部屋の清掃に40分、ブラッシングに20-30分、エキスカーションに30-40分であり、だいたい11時頃クラスルームに戻ってくるのが標準のようであった。
*** B−2 グループ別実習(ヤギのグループ) ***
このグループは、実際にはヤギとラマを担当する。部屋の掃除はヤギを、エキスカーションにはラマを使う。
始めに、ヤギの小屋に向かう。子ども達の中には、何度もこの子ども動物園を訪れた経験のある者がいて、どんな大きさのヤギがどのくらいいて、というような話を他の子に教えてあげていた。ここで飼われているヤギは、ヨーロッパの動物園ではよく見るのだが、「ピグミーゴート」といって普通のヤギの大きさに比べ、その名の通り体高(足から肩までの高さ)がわずか40-50cmしかないような小型の種類である。それが大きな一部屋(だいたい50平方メートルくらいの広さに、子ヤギも含め、70頭あまりが飼育されている。
ところどころに高さ1mくらいの台が置かれていて、よくヤギたちが登るらしく、斜めに渡り板も渡してあった。床は、コンクリートになっていて、そこに厚くわらが敷いてある。その部屋をやはり手作業で掃除するのである。
ヤギたちはいっせいに鳴き始める。飼育係が慣れた手つきで出入口の扉をあけると、だっと外にヤギは出ていく。どこからか、めんどりたちが下に降りてきて、わらに残る麦粒を盛んに食べている。小屋の上の梁にどうも寝泊まりしているらしい。
ヤギが一晩過ごした部屋は暖かく、しかし、臭気も漂っている。子ども達は、educatorといっしょに窓を開け、その汚れた部屋の様子を見てから、ポニーたちのグループと同様、道具を選びにいったん道具置き場に戻る。
やはり、思い思いに自分の使う道具を選び、仕事を始める。このグループも、educatorひとりと教師一人、それにときどき飼育係も加わり、大人3人で子ども達9人の面倒を見る。子ども達は、もくもくと働く。2輪車にわらを載せるときは、「よいしょ」と声をかけ、友達が載せたわらを落としてしまうと、少し文句を言ったりする。渡り板や棚台もきれいいにする。ポニーの糞と違って、ヤギのものはぽろぽろこぼれやすいので、大きなスコップととブラシ形のほうきが活躍する。
だんだん役割分担も整うようで、リーダーシップをとる子が「さあ、わらを捨てに行って」というと、同じ子が何度も2輪車を運ぶ。educatorが「ここまだ汚いよ」というと、ほうき係がさっととんでいって掃き始める。
20分もすると、疲れてきたらしく、ときどきちらっとヤギのいる運動場に目をやる。ヤギたちは朝ご飯の干し草を食べていて、食べる様子を見るのが楽しいらしい。
それを見ると、educatorは運動場に子どもを連れていき、ツノを持たせてみたり、体を触らせたり、足の蹄の様子なども見せる。そしてまた、小屋に戻り、掃除の続きをやらせる。こうした時間に余裕のあるプログラムは、子ども達のやる気をおこさせ、好奇心を満足させるのにとてもよいと思う。
汚れた敷きわらを、ヤギ小屋の裏の大きな箱(地下に埋めてある。それ自身が電動で地下からエレベータ式に上がってきて、フォークリフトに載せて処理場へ運ばれる)に次々と落としていく。それが終わると、新しいわらを小屋に敷き詰めにかかる。これは、掃除の手間の10分の1で済む。小屋から運動場への出入口を開け放しているので、ときどきヤギたちが小屋に入ってくる。新しいわらのにおいを嗅いで、また運動場に戻る。子ども達はそんなヤギにすぐ気づいて、さわりに行くのだが、ヤギはさっと身をかわして、まるで子ども達との追いかけっこを楽しんでいるように見えた。
道具についた汚れをブラシでよく落とし、それをもとの場所に返しに行くと、今度はラマと園内を散歩する時間である。ちょうど、ポニーを連れてのエキスカーションと同じ頃、ヤギグループの子ども達は、ラマを連れて歩くのである。educatorと教師がつき、子ども達は一緒にラマの手綱を引いて子ども動物園からトンネルを通って本園の方に向かう。
ラマは、気に入らないことがあると、耳を後ろに寝かせてペッと唾を吐きかけるので、要注意だ。そのことを子ども達に伝えてからでかける。
コースは決まっているわけではなく、あまり込み合うところは避けて、ゆっくりとあるく。道みち、いろいろなお客さんに声をかけられる。とくに、小学生がいっしょなので、彼らの誇らしげに手綱を持つ姿は人気の的である。このことで、小学生の体験実習のコースがあることも来園者の認識となる。ラマの毛は来園者に自由に触れてもらう。
クラスルームに戻ってくるのは、やはりだいたい11時頃である。
***B−3 グループ別実習 (ニワトリグループ)***
ニワトリは、子ども動物園内に放し飼いにされている個体もいるが、ヤギ小屋のとなりに、一応ニワトリ小屋もあり、そこには金網で10 程度の運動場が併設されている。子ども達は、まず小屋の中に入り、あちこち産み落とされている卵を拾う。中には、産み立てで暖かいものもあり、子供同士で手に乗せあってその暖かさを確かめている。ほおに近づけてみる子どももいる。
こうして、卵拾いが終わると、今度は育雛場と孵化場の見学である。この場所はニワトリ小屋のすぐとなりにあり、赤外ランプで暖められているたくさんのヒヨコと、孵卵器が2段重なった孵化場で、生まれたばかりのヒヨコを見ることができる。一度に10個ぐらいずつ暖めて、数日ごとにヒヨコが生まれるような仕掛けになっている。
このグループは、educator一人で全員の子どもの世話をする。教師はウマとヤギのグループに付いているためだ。educatorは、採れたばかりの卵をひとつお皿に割ってみる。そして、小さな白い点のような「胚」を子ども達に見せる。次に、孵卵器からひとつやはり卵を取り出し、そっと割ってみせる。すると、細長く延びた赤い血管が見え、小指の頭くらいの胚も見える。すでに目やくちばしがあるのがよくわかる。
こうして、発生の初期段階を見せると、あとはパネルで胚からヒヨコになるまでを説明するのである。
子ども達は、できかけの胚を見て、思わず声を上げる。卵黄の上を通っている血管を見ると、胚が卵黄から養分をもらって成長するという、鳥類の発生に共通の事実を目の当たりにするのだ。
さて、次はどのグループにもあるように、小屋の掃除と餌の準備である。ニワトリを全羽運動場に出し、ほうきとちりとり、小さなスコップなどでフンや床に敷いてあるチップをかき出し、新しいチップを敷く。ヒヨコ用の餌と親鳥用の餌は違うことを知り、中雛にも特性の餌を準備することを教わる。水は、雛たちがその中に入って汚さないように、少しづつビンから補給されるように工夫された、吸水ビンを使う。
ニワトリ小屋が終わると、子ウシの運動場へ行って、ウシたちが一晩過ごしたブース(小屋というよりも、屋根つきの囲いで、冬季はシャッターが降りるようになっている)の清掃もする。他のグループと同様、寝わらを交換するのだ。
こうして、ひととおり世話を終えると、このグループはクラスルームに戻り、ワッフルづくりを体験する。
あとで聞いた話だが、年齢の上のグループ、日本でいうと中学生のグループは、ニワトリを担当した場合、親鳥のつぶし方と解体の仕方を学ぶそうだ。ブタについても、解体と精肉のビデオを見る。「食べ物がどうやってできるのか」をこの家畜を使った「世話の体験プログラム」の重要なテーマとしているからである。
さて、クラスルームにやってきた子ども達は、トイレを済ませ、手を洗い、ワッフルづくりに挑戦する。といってもすぐにつくり始めるのではない。まず、ミルクと卵についてEDUCATORが子ども達に質問をしながら、よく考えさせる。始めに共通プログラムで行ったウシのお乳のことを思い浮かべてもらう。この時、冷蔵庫から牛乳パックを取り出す。そして、バターを見せる。絞りたての牛乳をガラス瓶に入れ、ふたをし、よく振ると、次第に白いクリーム状のバターができてくる。次に卵である。冷蔵庫からパック入りの卵を取り出し、子どもに割らせてみる。すると、そこには胚がない。有精卵と無精卵の違いを説明する。
そして、なんと、小麦粉の説明もする。始めに、オーツやカラス麦など、いくつかの標本を並べ、どれが小麦かをあててもらう。なかなかわからない。それぞれ、種の部分だけでなく、茎や葉の部分も含め、どのように種の部分ができているかを標本(乾燥標本)から教え、小麦がどれかも最後に教える。小麦粉は、そのカラをとって、臼でひいて粉にすることも絵で教える。
ひととおりそれぞれの原料を知ってもらってから、クッキングタイムとなるのである。この部屋には、大きな戸棚があり、その扉を開けると、プログラムに必要なグッズがひととおりきちんと整理されて納めてあるのがわかる。
食器、泡立て器、ペーパーナプキン、小麦粉や原料の標本などが一目瞭然でわかるようになっている。そして、この棚の素晴らしいところは、必要なとき以外は扉を閉めてしまえば、子ども達の活動を妨げないということである。どうしても、いろいろな標本を見れば、いじってしまいがちだし、食器などは陶製なので落とすと危ない。白い頑丈なとびらのおかげで、クラスルームは清潔なイメージとなる。
こうして、クッキングタイムが始まる。3つのテーブルに子ども達が分かれてすわり、卵をボールに溶き入れ、少しづつ牛乳と砂糖を入れ、EDUCATORが別室で溶かしてきたバターを少し加え、小麦粉を混ぜ込む。できた順に電気ワッフル型にそっと流し込み、しばらくするとほどよく焦げ目の付いたワッフルができあがる。3−4人で5枚ぐらいつくり、それをナイフで切り分け、お皿に盛りつけていく。たちまち部屋中がワッフルの甘い匂いでいっぱいになる。
全部できあがると、休憩だ。しばらくの間、子ども動物園の中を自由に見学する。この時、EDUCATORも休憩を採る。他のグループもポニーやラマのエキスカーションから帰ってきて、教師やEDUCATORたちもみんな11時頃から30分ほど、休憩時間となるのだ。
3人のEDUCATORたちにお話を伺う
この休憩時間を一緒に過ごすことを勧められ、私はいっしょにトーストとコーヒーをいただきながら(11時になると本当におなかが空く)、いくつか質問をさせていただいた。
このような学校の子供向けのプログラムは、子ども動物園が改修された後、数年の試行期間のあと、約10年前から本格的に始まったという。1月1日がその年のプログラム受けつけのはじまりで、予約が殺到するそうだ。対象年齢は日本でいう小学3年生から中学2年までのクラスで、1週間に2クラスまでを限度とするという。
ウェイティングリストもいっぱいで、人気の高さを物語っている。
このプログラムの大きな目的は、「食べ物がどこからくるかを子ども達に知らせること」だという。また、家畜という動物を飼うには何が必要なのか、どうしてか、を知ってもらうことも大切なことのひとつだそうだ。
そして、この体験プログラムでは、充分時間をかけて、実際に動物たちと触れ合う時間を多く持つことを心がけている。体験プログラムの大枠は決まっているが、その具体的に何にどのくらい時間をかけるかは、ある程度EDUCATORの判断による。その時の子ども達の人数や、彼らの持つ興味や関心事にあわせたり、フレキシブルである。
ただ、要所要所はキーパー(飼育係)との連携が不可欠なので(たとえばウシの乳搾りなど)、キーパーたちも今日来る子ども達がどの学年で何人なのか、それはよく情報を流して確認してもらっている。
また、電話などで予約を受け付けると、事前に引率教師との打ち合わせをする。これもEDUCATORの大切な仕事のひとつだ。内容を明示した解説書を手渡し、服装や時間、集合場所などを確認する。グループ分けが必要な場合はあらかじめ子ども達の希望に基づき、グループ作りをしてもらっておく。
だから、子ども達も先生も、自分たちが何をしに行くのかよくわかっていて、引率教師はEDUCATORの手助けをする立場に回る。この受け付けと事前打ち合わせがプログラムの成功を左右しているといっても過言ではないようだ。ただ、リピーター(教師の)が多く、一度体験すると、次の年も自分の担任のクラスの子ども達にまた体験させたいと強く思うらしく、また、受け付けのシステムも知っているので、はやめに予約がはいるそうだ。3月にはほぼその年の予約が埋まるという。
こうした、1クラス程度の実習が組めるのは、クラス担任の判断でクラス単位の動きがしやすいデンマークの学校制度の特徴にもよるところが大きいようである。日本では校外学習などは、学校行事として取り組む場合が多く、どうしても大がかりな学校移動の手段がないとできないが、もしクラス単位での移動教室が可能なら、これらの長時間に渡る自習もできるかもしれないと思う。
ところで、このプログラムに参加するには、今日のコースの場合、日本円にして約1万5000円がかかる。これは、3人のEDUCATORを半日以上雇う賃金に換算しているわけである。EDUCATORはだいたい1時間1200円くらいの時間給で動物園の教育部に雇われているからである。日本では、考えられない高額な負担である。学校としては、これらのお金を教材費というかたちで予算化しており、校外学習に充てる場合もそれを使うのである。
*** C クラス全員で楽しむ ***
この半日あまりの実習では、それぞれグループごとに実習内容が違ってくるので、最後のまとめの時間にならないと、お互いに違うグループが何をしてきたかわからない。
最後の約1時間は、ニワトリグループの作ったワッフルをいただきながら、お互いのグループ発表と、全員での「ポニー乗馬」である。
ヤギグループは、ヤギの頭骨と蹄の標本を使いながら、グループ代表の子どもがヤギの体の特徴の説明をした。上顎の門歯がないこと、下顎が横に回転するように草をすりつぶして食べることなども説明する。
蹄が2つに分かれていることや、その蹄が少し開くことで、安全に登ったり降りたりでき、敏捷に動けることなども解説する。ところどころは、EDUCATORの手助けを得ながら、10分ほどの発表をするのである。
ウマグループは、やはり頭骨と蹄の標本で、上下に大きな門歯があることや、足にはたった一本の指しかないことなどを説明する。反芻はせず、大きな盲腸を持つこと、健康を保つのに、飼われている馬はよく運動をさせることが必要であるなど、馬の飼育の基本的なことにも触れた。
最後はニワトリグループである。ウシのミルクとニワトリの卵、小麦粉でこのワッフルができたことをまず紹介する。ニワトリの場合、ヒヨコが21日で孵化すること、孵化したばかりのヒヨコには適度な湿度と保温が必要であることも説明している。ウシの頭骨を使って、ヤギと同じように上顎の門歯がなく、反芻獣であること、鼻環(びかん)をつけて人間が統御しやすいようにしていることも紹介した。
クラスルーム中に香ばしいワッフルのにおいが漂い、それをつまみながらの報告会はとても楽しい。それを平らげると、テーブルを拭き、イスをテーブルにあげ、手を洗って外に出る。最後のプログラム、乗馬がまっている。
馬場には、すでにポニーたち3頭を飼育係が連れてきていて、子ども達を待っている。
馬場といっても、子ども動物園の一角を芝生で少し被ってあるだけで柵などはなく、乗馬台があるだけだ。そこにヘルメットをつけて子ども達が並び、順番に飼育係に引きウマをしてもらいながら、ぐるりと一周してくるのである。乗るときはウマに挨拶を、降りるときはお礼をする。やさしく首筋をたたいてお礼を言うのである。
楽しい実習はこれですべてだ。荷物の置いてあるクラスルームに戻り、動物の毛やワッフルのできるまでが図示された説明書、動物の飼い方の図などがパッケージされた、教材パックを手渡される。EDUCATORたちは先生と子ども達に別れを告げ、子ども達も口々にさよならを言う。荷物を背にしながら、クラスルームを出ると、さっきお世話してくれた飼育係が自分の仕事に戻っていて、子ども達は彼らに口々にさよならをいう。こうして、朝7時半に始まった「動物の世話実習プログラム」は、だいたい12時を以て終了となるのである。 EDUCATORは、すぐ次のプログラムの準備にはいる。午後は、たいてい上学年のプログラムが入っているからだ。
2)−−10年生向けのzoologyプログラムについて
10年生は年齢でいうと、日本の中学3年ないし高校1年生にあたる。日本の中学校や高校ではZOOLOGY(動物学)は生物学に含まれるが、生きた動物、とくに哺乳類や爬虫類、鳥類といった「生きている高等動物」を用いたカリキュラムはない。15−6才という多感な時期に生き物と実際に触れ合うことには、大きな意味があると思われるが、動物園という特殊な場であるからこそこれらのプログラムが可能であるとも言える。
しかし、日本の動物園では中高生を対象とした日常的学習プログラムはなく(サマースクールなど特別行事として行うところもあるが)、この「動物学プログラム」は調査の価値が大きいと思われた。
調査地は「国立コペンハーゲン動物園」のワークショップが開催されている「教室」である。調査日時は9月14日午後1時から2時までの1時間。。実際に見学した部屋は、30人ほどの学生が充分座れるイスとテーブルがセットされていて、水槽に入ったヘビやカエル、カメなどが展示されているほか、手洗い場やトイレ、荷物置き場も整備された「教室」である。この教室はほかに2部屋あり、その目的に応じて部屋の内容が少しずつ違う。
この日の「ZOOLOGY」は、「雄と雌の行動比較」であった。
学校の教師は2名引率で付き添ってきた。あらかじめ予約された学校なので、内容についての事前の知識は教師も持っているが、学習の実際の進め方は動物園の教育スタッフ(現地ではEDUCATORと呼んでいる)が責任をもってあたる。これは、生きている動物を使用することや、長い経験のなかで動物園として厳選したプログラムの提供ということで、動物園側が責任をもって用意するからである。この日のEDUCATORは、ミス・パメラであった。
学校の教師がもつ役割は、生徒と一緒に学ぶことや、EDUCATORの指示を的確に生徒に伝えることである。
以下、これらの授業風景をビデオ録画したものをEDUCATORのひとり、キャサリン氏に英語で会話内容などを通訳していただいたのを参考に、主だった内容を時間を追って生徒達の言動をおりこみながら紹介する。
(Cは生徒を、EはEDUCATORを意味する)
C:(殆どの生徒がすわってEの来る方向を見ている)
E:(マウスやヘビの入ったケースを持って教室に来る)
C:ヤ−、ク−、(大きな声)
わー、、、さあ、聞こうよ。
E:きょうは「BEHAVIOUR」がテーマです。どうかあまりナーバスにならず、
「何を動物がしているのか」をよく見てほしい。
C:こわい
E:(ヘビをケースから取り出して)スネークです。
C:オ−−!
E:いい? 必ず行動を見て下さい。わーっと言わないでね。行動を見るの。
C:ワー
E:今まで大きなヘビについていろいろ話を聞いたりしたことがあると思うけど、
これは「毒」はないの。だいじょうぶ、(自分の手に巻き付けている)
C:(だれもがその手に巻き付いているヘビに注目している)
どうやってさわるの?
E:だいじょうぶ、これは人間に馴れている。からだの状態をよく見ると、安全かどうか
そのヘビが怒っているかどうかわかるから。
自分の手をぐるっとまわして(と前にいる生徒の一人に巻きとらせようとする)
C:こわそう!(と別の生徒)
C:何か食べようとしているの?(ヘビが舌を出しているので)
E:舌はにおいをかぎ取るところです。
C:(しばらくヘビをみつめる)
E:ヘビは人々が思っているような動物ではありません。
C:何も言わないしね。
C:なぜこわいの? 本当に人間に攻撃的じゃないの?
E:よくヘビを見てね。
(ちがう生徒の手に載せる)
C:(となりの生徒がそれを触る)
(見ながら)笑ってる。笑ってる。
−−少し騒ぎになる−−
E:(さわり方、のせ方をテーブルをまわって見せている)
C:やってみようかなあ。
E:こうやって、、そう。手に巻きついているのを見てね。
(あちこち見せて歩く)
E:(ガラスケースに入ったヘビの骨格標本を持ってくる)
どうやって歩けるかは、この骨にも関係があるの
(3匹のヘビをそれぞれのテーブルのケ
ースの中に入れていく)
C:(ヘビがケースから這い出てきたので)
キャーッ(と鋭い悲鳴)
C:筋肉、ていう感じ
C:(このヘビは)自分を見てほしいって言
ってるんだ
C:このヘビは幸せだぜ、おれに触られて
C:どこ行っちゃうの
C:まるでクモみたい。
(−−ここで、EDUCATOURのキャ
サリンさんのコメント「とてもポジテ
ィブな感じがする」とのこと−−−
C:これってぐにゃぐにゃする?
C:冷たいの?(触れない生徒の発言)
E:(ヘビの箱を見せながら)ヘビのこと
少しわかったかしら? こわい?
ここでは3日に1度、餌を与えています。
餌を食べて2日目なので(聞き取れず) ・・・・・・・・ これがヘビでした。
E:さて次は、「マウス」です。(マウスの入ったケースを持ってきて)
マウスのビヘィビィア(行動)のことを学習します。
C:ぼくは、マウスがかわいいって事知ってるよ。
E:今やりたいのは、オスとメスの行動についてです。
まずオスとメスのみわけかた、、、。そっとしっぽを持つようにしてね。ボディを持つと咬むことがありますから。
(それぞれのテーブルにひとつずつマウスのケースを置く。生徒はそこからテーブルに備え付け の大きなガラスケース−−先ほどヘビがいた−−にマウスを移す)
C:つかまえるの難しい。
C:さわって、、、(男子のひとりが尾をつかむ)これ見てよ。(手に載せようとする)
C:ああ、、くすぐったいよ
E:やさしく尾をこうやって持つのよ(やり方を見せる)
C:先生、来てよ。見て。(いろいろな声が飛び交う)
わー、こっち見て。 もっと大きくなるのかなあ。 もとにもどさないと、、、。
手の上でフンした! 野生のやつに違いない。
他に連れて行ってよ、お願い。マウスがジャンプしちゃう。これは、オス2匹なの?
E:よく見てね。(「オスとメス」と黒板に書く)
C:僕が思うに、茶色のこのマウスが一番強いよ。
C:これ、幸せ。 ひとつはオスで、、 ああ、登って来ちゃう。
C:こっちがいいやつだからね。(ととなりの子に渡す)
C:イー! (と倒れてみせる)
C:どれがメス? どれがオスなの?
C:こっちがメス。それオスだと思うよ。
E:OK。
C:どっちがメスかオスかは顔でわかるんじゃない?
C:この茶色の方がメスなの?
E:何かわからないことある?
C:2匹ともメスじゃない?
C:こっちがオスでこっちがメス。 もうわかった。
C:なんてにおいだ、 これは狂ってるぜ。 2匹のネズミ、、、(聞き取れず)
C:オスとメスでにおいが違うの?
C:これ、2匹の子どもだよ。
C:もっとマウスくださ−い。
C:何をやっているかわかったよ。 2匹のメスだよ、
E:(3匹目のマウスを配って歩く)
C:この部屋の中を走り回っちゃうね。
C:オスとメスを一緒にしてるところだね。
C:あーあ。
C:おもしろい。
C:どこで寝てどこで起きるの?
E:(テーブルを全部見て歩いて確かめている) さあ、みなさん。そろそろさわるのをやめて。 ちゃんと中に入れてみましょう
C:あああー
E:オスとメスの組み合わせだと思いますか?
C:(SEXのことを想像している発言)
C:ここにマウスがいるよ。
C:表情が何もない
C:オスとメスかあ、、、。
C:興奮しすぎて逃げちゃうよ。
C:レイプされるの? 愛し合ってるの?
E:じゃあ、間に板を入れて。分けて。
C:ああ、戦いだ。
C:そんなことしないで。
E:ちゃんとやってみて。
C:戦ってる。 殺しあってる!
C:ねえ、見てよ。この2人、仲悪い。
E:もし噛み合っているんなら、こうやって間に板をたてて分けてみましょう。
E:さあ、ではこのケースにマウスを戻して。
(実験観察に使ったマウスを回収する、引率教師も手伝う)
E:オスとメスの違いは尾の付け根のお尻を見るんだよ。
野生のマウスかも、と言っていた生徒がいたけれど、このマウスは野生ではない。
ふつう、動物の行動を見ていて、それが仲良くしていたら「オスとメス」かもしれないと考えるけれども、オスどうしというのは、いつも戦うのではありません。
互いにしっぽの具合がサインとなります。
自然界ではこういうことはあまりない。野生では、オスは互いを認めると、逃走するのが普通です。
オスが戦うのは自分のテリトリーを守るためです。メスがいっしょなら、長い時間をかけて自分のテリトリーを作り上げますから、それを守るために戦います。
さて、まとめてみましょう。
はじめの2ひきのマウスはメス2匹かオス2匹でした。そのときは何も起きません。
そこにオス1匹をメス2匹のなかに入れると、何らかの接触が見られます。
オス2匹のところにメス1匹を入れると、とたんにテリトリーを守る行動として、闘争が見られました。
動物を見るとき、その「行動」をよくみてください。 そしてディスカッションすることが大切です。動物の行動を見れば、その動物がどんな感覚を持っているかもわかります。たとえば、サルを見たら、オスの大きな声を聞いたらそれはなぜかを考えること、それが大事です。
C:テリトリーマーキングだということ?
E:そうです。もし、動物園を見学するなら、そのような目的を持つと有効なツアーとなるでしょう。
(終了: 全員でイスを片付け、手を洗う)
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子ども達の様子を観察して
授業が動物園の中で行われているという感じを持った。
子ども達(といっても日本の高校1年生)は、いつもとは違う教室の雰囲気そのものを楽しんでいる感じで、まわりのヘビやカメの水槽をしげしげと眺めている子どももいれば、窓から見える動物園の風景を眺めている子どももいた。自分の場所を決めるのも、とくにあらかじめグループ分けされているわけでもないようで、教室に入ってきた順番い好きなところに座っているようであった。
パメラが大きなヘビの入った箱を持ってくると、騒然となったが、パメラが実に堂々と「騒がないで」「ナーバスにならないで」と言ったひとことで、騒ぎがおさまるというのも素晴らしかった。
今日の授業目的が初めに語られ、生徒たちはノートを持たずに授業に参加していたが、「何か覚える」ための授業ではなく、「何かをする」授業なのだと言うことが私にもすぐわかった。
実際に触れる動物は、ヘビとマウスである。パメラの手に体を巻きつけているそのヘビが自分の目の前に来ると、女子の一人は悲鳴を上げたが、パメラは「よく見て」とそれを穏やかに諭す。そんなパメラの様子が安心感を与えたのだと思う。その女子は距離を置きながら、それでもじっとヘビを見ることができるようになった。
ヘビのさわり方は実に個性が出ておもしろかった。全く平気な生徒もいれば、においを嗅いだりあちこちつついてみたり、試す生徒もいた。さわらない生徒もいたが、となりの生徒の腕に巻き付くヘビをじっと見ていた。舌が何の役割をするかをパメラが説明しているときは、それまで「腹が減ってるのかな」と思っていた生徒も、「におい」を嗅いでいると知って、ヘビの舌の近くでいっしょにくんくんにおいを嗅ぐようなしぐさを見せた生徒もいた。 このいわば「ヘビの世界を共有しよう」というような動作(においを一緒
に嗅ぐという動作をさす)は、年齢に関わらず見られるように思われる。幼児や学童期にもこのような動作は見受けられ、高校生だからといってそのような行動が見られなくなるわけではなく、思わず出た自然な行動のようである。
このような「ヘビの感覚への理解」行動は、日本の中学や高校の生徒たちへの生物授業などには、おそらく見受けられないだろう。年齢に関わらず、直接的な「生き物」との関わり合いが、そして適切な指導や雰囲気がその子どもの「ヘビに世界に接近してみよう」
という気持ちをおこさせるのだと思う。
わずか10分足らずの「ヘビ」との触れ合いだが、充分馴れたところで、ヘビの骨格標本を手にして体の仕組みや人間の感覚器や運動のしかたと大きく違うところを知るなど、単に「さわる」だけでなく、動物としてのヘビの特徴を学習した。とくに、ヘビの骨格標本を使いながら体の動き(足を持たないのにどうして移動できるのか)を説明したことは、言葉だけでは示し得ない「どのような仕組みか」を理解してもらうのに非常に有効であったと言える。生きている動物とその標本の組み合わせが、こどもたちの「生き物理解」の気持ちをわきたたせるのによい効果があると実感した。
ハツカネズミの行動観察の方は、はじめにあまり解説がなく、すぐにネズミの観察からはいったので、子ども達自身による「ディスカッション」と「発見」を期待していたことがわかる。
中には、即座にどれがオスでどれがメスかを言い当てる子どももいたが、大半はネズミそのものへの興味が先行して、その動きのすばやさであるとか、においの嗅ぎ合い行動や追尾行動自体に惹きつけられていたようである。
しかし、パメラさんも含め、EDUCATORたちとの話によると、子どもが生きている動物たちがみせる思いもよらない行動やおもしろいしぐさ自体に興味を持つのは、動物学の原点でもあるから、充分時間をかけてその好奇心を大いに満足させてもらうのだそうだ。この時間をなくして「さあ、これがオスの特徴、これがメス。覚えてください。」などと結論を押しつけてしまうと、せっかくの「動物学」的なものの見方の訓練にはならないのだという。
まず、対象への興味を持って、自分の観察から推理されることや、考えを周囲の人とディスカッションしあうことが大切だと考え、そうしたプログラムを設定している。この点は、日本の生物学の授業などと関連させて考えると、多いに学ぶ価値があると思われる。
もちろん、生きている鳥類や哺乳類を用いた授業がないに等しい「生物学」が、現在の中学・高校に一般的であるが、教材として生きている動物を使うことが少ないことより、「観察した事と、そこから推理できる事を、子ども達どうしで互いに情報交換しあうことに価値をおく」という点は、日本の学校教育に最も欠けている点であろう。たとえ、小学校でウサギやニワトリなど生きている動物を使う授業があるにしても、「触れ合う」とか「世話をする」など体験学習的で、その動物の行動観察から「動物としての特徴を学習する」などはあまりない。中学や高校では「生きている鳥や哺乳類」を学校で飼育したり教材として利用するなどはほとんどとなく、動物を使う生物授業を学校外で行うことも残念ながらない。しかし、動物園における「動物学授業」は、1年間の予約リストがすぐ埋まってしまうほど、学校としても重視した取り組みとなっている。日本の中・高生にあたる年齢のクラスも人気がある。それだけ「生きている動物」に直接触れながら過ごす学習時間の価値を認めていることになるだろう。
取材したこのクラスでは、「動物の行動をよく見て」と呼びかけていた。また、よく集中して見てほしいとも呼びかけがあった。ヘビやマウスをあまり好きではないにしても、叫ぶなどナーバスにならず、見る努力をしてほしいと何度かパメラさんは言っていた。自分の手に触れた動物の生きた感触は、一生忘れがたい体験として残るが、それと結びつけて「動物」のそのままの姿をじっくり見る体験は、もっと心に焼き付くものになるだろう。 同時に、たっぷりとした時間もあり、引率教師もおり、クラスの人数も20人足らずとこじんまりしていた(デンマークではこれが当たり前)ので、こうした学習が成り立つのだと思う。
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