動物園における親子コミュニケーション
 (風間書房刊)   終章より(抜粋)

展示のもつ二重性分析:意図伝達と利用者による解釈


目次                             
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序章
1 動物園来園者同士の交流への視座:知識の普及から対話的学びへ
2 動物園の転機と最近の展示改革
3 本研究で明らかにしたいことと理論的枠組み
4 調査のデザイン:展示の意図伝達の検証と展示解釈を知るための方法
5 動物展示のありかたへの提言と来園者理解の新しい枠組みの提案
6 本論の構成

第1章 博物館来館者研究からの示唆:「情報の受け手」から「探索者としての来館者」へ
1 博物館における来館者研究動向の概観と「来館者理解」のはじまり
2 社会構成主義による学習理論の博物館への応用
3 視覚重視の展示とコミュニケーション・システムとしての展示
4 来館者各人の認識特徴への関心
5 「交わり」の目的をもったコミュニケーション:来館者同士の交流

第2章 来館者相互の交流に着目した「交わりコミュニケーションモデル」の創出
1 学習の共同的側面:博物館教育研究における構成主義理論の導入
2 交わりコミュニケーションモデルの創出
3 来館者相互の「交わりコミュニケーション」の成立要件:展示を一緒に見る体験
4 交わりコミュニケーションの内容に「学習体験」を探るという視点

第3章 動物園における展示の発展過程と日本の新しい類人猿展示
1 動物展示法の変遷概観
2 日本の類人猿展示への影響
3 類人猿に対する来園者の興味の高さ

第4章 家族間での学習体験
1 幼児を含む子どもへの関心
2 本研究における「学習体験の理解」の定義
3 アメリカの博物館における「家族での学び」研究概観
4 幼児を含む「家族での学び」研究概観

第5章 家族連れ来園者の動物展示観覧の体験を理解するための方法
1 インタビュー法と会話採集法
2 家族間の発話の特徴
3 発話採集法を用いた先行研究
4 幼児を含む「家族連れ来園者」の会話採集法の問題
5 本論で用いた発話分類
6 予想されるカテゴリー別「発話」の展開
7 子どもの年齢の考慮

第6章 親子はどのようにチンパンジー展示を利用しているのか
    (新旧展示の縦断的比較)

1 方法
2 結果 その1 新展示に対する来園者の印象
3 結果 その2 展示意図に関連した分析
4 結果 その3 「交わりコミュニケーション」の展示間比較
5 総合的考察:「伝達」と「交わり」を左右する要素

第7章 来園者の能動性に依拠した動物展示法と解説のあり方への提言
1 動物への共感が触発される展示:間近さの演出
2 利用できる「展示物」の役割
3 「過ごしやすさ」の構成要素とその意義
4 展示者側から示されるべき情報の吟味
5 要約と課題

あとがき
文献
謝辞

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 終章より
(抜粋)

 (略)・・・筆者は、展示や展示に関連した活動がもちろん重要だと考えるが、「市民との対話のツールである」という立場のみでは、学習の支援は成立しないだろう。展示の役割を、それらを利用する人々の生活との関わらせて具体的に明らかにしていくこと、その緻密な作業が「支援」とよばれる内実であろう。展示や展示を通じた活動に、来館者が関わるのプロセス自体に含まれる、社会的交流の価値を重視したいと考える。とくに、生きている動物との出会いは、大げさに言えば、一生に一度の「生の体験」である可能性もある。人々は、常にそこに立ち返りながら、その体験の意味を自分の人生のそれぞれの時期において変化させていくものなのである。だからこそ、子どもの「初めての体験」は、子どもにとっての大事さと同時に、大人にとっても重要な意味を持つ。親子で動物園を訪れる、あるいは三代で訪れる、この動物園訪問体験はその家族に何らかの「確かな交流」「互いの理解」をもたらすのである。そこでの「学び」について、まだわれわれは、把握する術を十分には持っていない。「学び」の定義を「プロセス」とおくのか「所産」とおくのか*14、ということとも関連するだろう。またそれは、単に観察やインタビュー、事前・事後テストなどだけでつかめるものではなく、来園者自らが自らを語ること、その後の日常生活における影響を語ること、そういう「学びを語る」仕組みが社会に整うこととも関連するだろう。その仕組みを成立させる鍵は、来園者すなわち利用者が自ら「動物園利用研究」の主体として登場することである。研究主体として自らの学びを問うのである。逆に、そうした仕組みが整うということは、「場」を提供する側が、「場」のもつ役割を利用者の視点から常に問い直し、かつ、そこに展開する学びの諸相を自らの展示意図と関連させて再構成する力量が備わることでもあるだろう。
 その意味で、教育・保育・遊びの研究・自然と人間の関係哲学など、多領域の研究成果に学びつつ、展示を軸とした博物館教育の独自の研究を来館者ともに進めていきたいと考えるものである。展示者側の展示意図の再自覚化とそれに伴う展示改革は、来館者の展示観覧体験に学びつつ行われ、人々は、展示から学んだことがらや「ともに学んだ」社会的事実に依拠しながら、日常的実践にそれらが織り込まれていく過程を喜びとして体験する。・・・・(中略)

 最後に、展示の持つ二重性分析を、動物展示の特殊性に関連して考えておこう。
動物展示では、展示者側の意図とは独立した「生きている展示動物」の存在(つまり、ジオラマの一要素ではなく、そこに生活があるということ)と、利用者側の各人の意味構築に大きな役割を持つ「生きている展示動物」の存在(つまり、働きかけの対象であり同時に相手から働きかけられるということ)があるという、他の博物館諸施設にはない独自の特徴がある。「展示」という展示者側が表現した意図伝達のための「心理的道具」が、それを利用する側にとっては「道具それ自体との交流」という要素を含んでいる。道具との個別の関係を創り上げながら、その意味づけを変えていくのは利用者である。その意味づけが変わることを道具の提供者すなわち展示者側も具体的に把握しなければならない。動物展示における「展示の二重性」とは、こうした心理的道具の使われように、道具との交流という要素が含まれ、むしろそこに動物展示の本質が見いだせるということを認識すべきだろう
。・・・(後略)