002/階段


 玄関の、入ってすぐのところにある階段。
 あたしの特等席。
 今日もそこに座って、パパが帰ってくるのをじっと待っている。
 ママはキッチンで忙しそうに晩御飯を作っている。今日はビーフシチューだって。パパもあたしも、ママのビーフシチューが大好き。今日は特別にサイコロのお肉がたくさん入ってる。
 パパは"ガイコウカン"ていうお仕事してるんだって。
 忙しくて、なかなか一緒に御飯食べたり出来ないけど、今日はちゃんと帰ってくる。
 だって、今日はあたしの誕生日なんだもん。みんなでお祝いしようねって、約束した。
 階段に座って、じっと、玄関の扉を見てる。食卓で足をぱたぱたさせてると、パパやママに怒られる。行儀が悪いって。でもここは階段だから、良いよね。
 居間の鳩時計が、8回鳴いた。8時だ。
 パパ、遅いなあ。
 頬杖ついて、キッチンにいるママに声をかける。「パパ遅いねー」
「きっと忙しいのよ。でも大丈夫、パパは絶対約束は破らないわよ」
 どこか自信満々な言い方だった。パパは正直者なのよ、ていうのは、ママの口癖だけど。付き合ってるときから、パパは約束を破ったりはしなかったんだって。
 パパと、今日の約束をしたのは1週間前。そういえば、約束してからの1週間、パパに会ったのはほんの数回だ。朝は、あたしより早く家を出るし、帰ってくるのはあたしが寝てからだもん。
 じゃあ、パパとお話するのは久し振りだな。
 立ち上がって、とと、ととんっ、階段を上がった。特に意味はない。なんとなく、時間潰し。パパ、早く帰ってこないかな。
 とん、とととんっ。
 リズムを代えて、階段を降りた。
 とと、とんっ。
 あと3段のところで、降りるのをやめて座る。玄関に変化はない。
 ママがキッチンから顔を出した。
「みのり、階段で遊んだら危ないわよ」
「は〜い」
「それにしても、パパ遅いわね」
「お仕事?」
「うーん、そうかもね。でも大丈夫、きっともうすぐ帰ってくるわよ。―――さ、こっちいらっしゃい」
「ううん、ここで待ってる」
「そう。あんまりばたばたしちゃ駄目よ」
「は〜い」
 ママはまたキッチンに引っ込んだ。
 ママはあたしが階段で遊ぶことに対して、あんまり良い顔をしない。小さいころに、階段から落ちた事があるんだって。あたしは覚えてないけど。
「パパ、遅いなー」
 呟くと、こつこつって音がした。パパ?
 顔を上げると、玄関の扉が開いた。
「ただいま、みのり」
 おっきなくまさんを抱えたパパが、にこにこ顔で両手を広げた。
「おそいー」
 頬を膨らませると、パパはくまさんを置いて、あたしを抱き上げてくれた。
「遅れてごめんね、みのり」
「パパはしょうがないなー。でもいいよ、許してあげる」
 言うと、パパは笑った。


(2003/08.21 1090文字)



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