018/ハーモニカ


 路上でハーモニカを吹くお兄さんに恋をした―――というと、トモダチはみんな夢見がちね、とわらった。
 今日も人の行き来するあの道で、お兄さんは優しい表情で、愉しそうにハーモニカを吹く。
 そんな表情がすきで。だけどあたしは何も言わずに、この気持ちは伝えずに、ただの一ファンとして、お兄さんのハーモニカを聴いている。
「毎日来てくれてるね」目を閉じて聞いていたあたしに、お兄さんがふいに声をかけてくれた。「気に入ってもらえたのかな、」
 あたしがとにかく愕いてしまって、がくがく頷くことしかできなくて。何か気の効いたことでもいえればって思うのに、いえないで。ああもどかしい…!
「良かったら、これ、もらっていただけませんか」
 そういって、お兄さんが差し出したのは、お兄さんのと同じハーモニカ。皮の袋に入っていて。「あの、」あたしが聞くと、お兄さんはにっこりわらって。「新品ですから。それに、あなたに、持っていてもらいたいんです」
 あたしはやっぱり何もいえないまま、何度もお兄さんとハーモニカを眺めて。比べて。
 ただ、頷くしかできなくて。
「あの、でも、大事なもの、とかじゃ…ない。ですよね。ああ、だって新品なんですよねあの、お金とか…」「要りません。持っていて欲しいだけですから」
 何もいえなくて。そのままあたしは、ぎゅうっと、ハーモニカを抱きしめた。
 家に帰って袋を開けると、銀色のハーモニカが現れて。その銀色の躰には、”Dear Shin”と筆記体で彫ってあった。
 “シン”というひとに贈ったものだということはわかったけれど、それがお兄さんのことなのか、それともお兄さんじゃない誰かのことなのかはわからなかった。
 次の日、いつもの場所にいっても、お兄さんは来なかった。
 それから何日経っても何週間経っても。
 お兄さんはもう2度と、そこには現れなかった。
 あたしの鞄のなかには、いつお兄さんに再会してもいいように、いつでもハーモニカが入っている。
 もう一度会える。あたしはそう信じている。
 新品のハーモニカだって、きっと、吹いてもらいたくて存在しているはずだから。


(2004/08.27  847文字)



ああ、意味がわからない(笑)



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