022/MD


 僕の音楽媒体はMP3だけど、彼女は好んでMDを使っていた。
 CCCDなんて関係ないし、扱いが性にあっているらしい。僕はどうにもタイトルを入れる作業が面倒で、勝手に表示されるMP3を重宝していたのだけど。
 部室にいるとき、食堂で会うとき、僕と彼女はふたりでいても、お互いにヘッドホンをしていることが多かった。僕はイヤホンで、彼女は密閉型。
 ほとんど会話なんてないに等しくて、たまにしても、今日の天気、とか何の色気もない世間話。音楽の趣味も異なっていた。彼女はPOPを好んで聴いたし、それしか聞かなかった。一方の僕は洋楽しか聴かなかった。なのに、音楽の話をしてあうわけがない。
 ある日、彼女が僕に一枚のMDをくれた。プレーヤーを持っていないと僕が言うと、そのうち機会があったらでいいよと、彼女はやさしく笑った。
 何にも変わらない毎日が、それからも淡々と過ぎていった。
 彼女にMDを貰ったのは夏休みに入る前で、気がついたら、卒業を目前にしていた。
 卒業式のあと、彼女は僕に彼女が愛用していたMDを差し出した。「あげる」
 どうしたの、見上げる僕に、彼女はなんとなくと、言っただけで。
 帰り道、僕はかばんに入れっぱなしになっていた、彼女に貰ったMDを、今日いきなりもらったプレーヤーに入れた。使い慣れないハードに、僕はなんだかどきどきする。新しい機械を使うときには、意味もなく手に汗をかいたりするものだ。
 数秒あけて、曲が再生される。タイトルも、もちろん声も、僕には聞いたことがない、やわらかい男性ボーカルとピアノメロディ。
 伸びやかな声が、別れの日を唄っている。
 何故だかわからないけど、勝手に涙が溢れてきた。
 彼女は何も言わなかった。さよならのことばが縦横無尽に行きかう教室のなかで、僕には何も。
 さよならなんて、言わなかった。
 唄声が言う。さよならに変わることばを僕は探していた――。
 彼女も僕も、お互いにさよならなんていわなかった。これから、もう会うことなんて、きっとないのに。
 言わなかったんじゃなくて、言いたくなかったのかもしれない。
 なにか変わることばを探していたけど、結局見つからなかった。
 MDにはたった1曲、これが入っているだけ。
 僕は袖で涙を拭うと、近づきだした春の空を見上げた。


(2006/04.01 900文字)




これは別にCD-Rでもカセットテープでもいいんですが、
プレーヤーがなかなかないという意味で、MDです。ちなみに私は持ってませんMDプレーヤー。



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