038/地下鉄


 地下鉄のホーム。
 人工的なあかりに支配された空間。
 ひかりがなければ、闇は無と同義。
 キイロイ線より手前でお待ちください。
 柱。
 売店。
 自販機。
 人。
 夕方の帰宅ラッシュ。
 みんな、何処に帰るの?
 帰る場所があるの?
 何処にもないよ。何処にもない。
 あたしには、そんなもの何処にもない。
 地下鉄。
 あかりのない、電気がなければ成立しない空間。
 音楽が鳴る。嫌に落ち込むような音楽。選局ミスだ。こんな曲。
 こんな曲。ありえないよ。
 ありえない。
 何がありえないの?
 わからない。
 考えようとも思わない。そんなのは考えることすらしない。意味がないよ。
 暗い穴の、先から刺すようなひかり。電車が振動と共にホームに入ろうと。やってくる。
 人は列をなして。入り口と表示された薄汚れた黄色いテープの上に立つ。
 中途半端な場所で、動かない私を、ごましおのおじさんがちらりと見た。最近の若者は、そう言いたそうな視線だった。
 何。見ないで。
 見ないで。
 電車がホームに入ろうと。流れ。こむ。
 ひかりが、瞳孔を縮小させる。急激な変化に、痛みを感じる。
 手をかざそう。としたその、とき。
 するりと、体温が足元から流れ落ちた。

 どうして生きているの?
 あたしには、それがどうしてもわからなかった。
 どうして生きているの?
 かといって、それを誰かに問い掛けることも出来ないで。
 どうして生きているの?
 ただ、のうのうと、無頓着な振りして、不感症な振りして。世界に無関心な振りをして。  どうして生きているの?

 わからない。考えようともしなかった。どうでも良かった。
 どうして生きているの?
 その疑問をもつことで、あたしはただ、生きていた。

 どうして死んじゃいけないの?

 こたえは表裏一体で。ちょっと角度を変えれば見える位置に。
 あったのに。
 気づかなかったのに。
 ふと。突然。唐突に。
 気づいてしまったんだ。


 悲鳴の前の、息を飲む音だけが。
 聞こえて。
 それが、あたしの、最期の認識。最期。おしまい。


(2003/12.16 789文字)



こんな感じのショートフィルムを作ってみたい。
思うだけですけどね。



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