040/小指の爪
「なにしてんの?」
しゃがみこんでいる姉に、声をかける。
「………」
姉は黙ったまま。反応しない。
「姉ちゃん?」
「………」
「………」
気持ち悪い。いつもなら何はなくても喧嘩に発展するのに。無反応だなんて。
「ねえちゃ…」
「っあー!!」
びっくりしてのけぞる俺。何だ何だ?
「ごちゃごちゃごちゃごちゃうっさいわねあんたは!! ほっといてよ!!」
「な、何だよその言い方! せっかく俺が心配してんのに!!」
むかっとして言い返す。そこではっとした。
「な、泣いてんの?」
姉の目には涙が浮かんでいた。
「え、ちょ、何で?」
動揺する俺。姉が泣いたのを見る何て一体いつ振りだ? 姉は滅多に泣かない。俺の方がよく泣かされているくらいだ。
「な、何かあったのか? 大丈夫?」
さっきの体勢に戻って、ふるふると頭を振る姉。
「も、もしかして…」
男に振られた、とかだろうか。姉はいつも振る側の人間だから、それで振られてショックなのかもしれない。ちょうどよく姉の傍に携帯が落ちているし。メールで振られたのか? うわあ、それはイタイ。
―――ありえる。
プライドの高い姉のことだ。充分ありえる。
「ま、まあさ。男なんて世の中いっぱいいるし。大丈夫だよ、な、平気平気」
「………」
「だからさーそうやって落ち込むなよー。なっ?」
「………」
「ねえちゃーんっ」
「うっさいのよあんたは…」
「は?」
「いい加減にしてよね! 傷に響くじゃないのよっ」ひくっと、顔が歪む。「〜〜〜」そして屈みこんだ。
「キズ?」
失恋の? 失恋の傷に声が響くなんて…姉は意外と詩人のようだ。
「だ、大丈夫だって、何言ってんだよ」
あはは、笑う飛ばそうとしたら、凄い顔で睨まれた。
「う。」
「救急箱取ってきて」
「は?」
救急箱?」
「早く!」
「なんで!?」
素直に取りに行けばいいのに、抵抗する俺。死に急いでるのか?
「良いから!」
「…はい」
救急箱を渡すと、姉は俺に退去命令を発した。
何故? とは言えなかった。いや、言ったけど。普通に無視された。
なんだ? ちくしょう。いつもにもましてなんて我侭なんだ。
あーイタイ。
ったく、やってらんないわよ。
あたりを見回して、弟がいないことを確かめる。
あいつ、何か勘違いしてたみたいだけど。
まったく、かっこ悪くて言わないわよ。
小指を箪笥の角にぶつけて小指の爪がはがれたなんて。
(2003/08.18 940文字)
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