042/メモリーカード


「ちわーっす、記憶屋でーす」
「はいはい、いらっしゃい」
 ブルーカラーの作業着を着た青年に、僕は応答した。
「ていうか、早いですねー。前の交換は……えっと、2ヶ月前ですか。酷使しすぎるとハードのほうがぶっ壊れちゃいますよー」
「あはは、そんな洒落になってないから。」
 わらいながらこたえる。
「とりあえず、頼みますよ。メモリーカードの交換」
「はいな。」
 青年はその服には似合わないスーツケースのなかから、2センチ四方のICを取り出した。
 安楽椅子に座っている僕に、ソファーに移動するように言う。
「揺れるとミスっちゃいますから」
 はんなりと怖いことを言う。
 僕はソファーに座ると、目を閉じて、電源を一時オフ状態にする。

 生身の人間なんて、もうほとんどいないこの世界で。
 我が物顔に生活しているのは機械半分肉体半分の機械人間。機械とはいえ、睡眠だって出来るし、物を食べることも出来るし、排泄だって出来る。たいていは生身の人間と変わらない。見た目だって。全然。変わらない。
 だけど唯一出来ないのは、記憶能力。
 記憶だけは、出来ない。
 だから、人間で言う記憶中枢の変わりに、こめかみから挿入するメモリーカードに保存する。
 メモリーカードは生身も人間の記憶より、より正確なデータを残してくれる。おかげで、機械人間といわれる僕たちには記憶違いなんて初歩的なミスはありえない。

「はい、終わりましたよ」
 青年の声が聞こえて、電源をオフからオンに切り替える。
「ありがとう」
「じゃ、これ。使用済みメモリーカード。なくしちゃ駄目ですよ」
 彼は毎回言う。なくしちゃだめですよ、て。
 記憶。
 キオク。
 キヲク。
 なくしちゃ、駄目なもの。
「わかってるよ、」
 言うと、彼はにっこりわらって。
 スーツケースをもって腰からきちんと曲げた挨拶をすると、扉を閉めた。
 記憶。
 キオク。
 キヲク。
 メモリーカード。
 忘れないよ。
 ずっと。なにもかも。
 それが、
 僕たち機械人間にとっての、
 贖罪だ。


(2003/09.10 795文字)



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