044/バレンタイン
バレンタインなんか嫌いだ。
この世から消えうせてしまえ。
―――と、はっきり公言出来ないのは。
朝っぱらから中途半端に義理チョコなんか貰ってしまったからだ。課の女の子が。課の男全員に配っていた。もう少し演出きかせてもいいんじゃないかと思うが、単純な男はすぐに勘違いしてしまうので、コレくらいがちょうどいいのかもしれない。
明らかなる義理チョコ。いや、甘いものは好きですよ。
35にもなって、家庭はもとより彼女さえいないって言うのは致命的でしょうか。
最後に付き合ってたのが32のときだから、早いもので3年ほど完全なる独り身ですが。
いや、独りは独りで楽なんだよ。誰にも文句言われないし。お金だって面白いように貯まるしね。
まあ、それでも僕だって健全なる男の子ですから。お金ではない違うモノだってたまっちゃったりするわけですよ。何だか年齢制限してしまうような欲求だってあるわけですよ。
そんなふうにあれこれ思っていると、チャイムが鳴った。昼休みです。課の中でも、彼女持ちの倖せ者な一部彼らは颯爽と足取りも軽く部屋を出て行く。そうですね、そのまま車にでも轢かれてしまえこの轢死体が! とか、意味不明ながら残忍なことを思ってしまいます。でも神様違うの。これは僕が悪いんじゃない。かといって、セントバレンイタインが悪いのでもない。チョコレート企業に踊らされているお祭り大好きな日本人が悪いのだ。という僕も生粋の日本人ですが。
鞄の中から弁当を取り出す。一人暮らし暦17年。料理もずいぶん上手くなったなあ。弁当なんてもうお手の物。ふふん、彼女なんていなくってもおふくろの味なんて自分で作り出せてしまうのだ。何て経済的なの! ステキ!
「わー。課長のお弁当凄いですねー」
「……そう?」
今期の新入社員のカトリさんが後ろから覗き込んでいた。どうやらお茶を配っていたらしい。
「いやー。私なんて自宅だから料理とか全然駄目なんですよー」
「そうなんだ。慣れだよ、こういうのは」
「へー。あ、この卵焼き美味しそう。貰っていいですか?」
「……え、あ、いいけど」
「いただきまーす」
ひょい、ぱく。
「わー。やっぱりおいしー。ね、課長、今度料理教えてくださいよー」
「あ、うん。良いよ」
「やったー。やくそくですよー」
「………」
「課長…」
「…なんだいヤマシタくん」
ずずい、と数人の部下がデスクに詰め寄る。
「カトリさん、人気者ですよ」
「狙ってるやつとか沢山いるんですよ」
「そうなの、よく知ってるねえキジマくん」
「此処で課長がもってっちゃったりしたら刺されますよ」
「怖いこといわないでよオオタくん」
「で、どうなんです?」と、ヤマシタくん。
「どうもこうも。勘違いだから。絶対」
「いやいやいや、わかんないですよー。熟年が好みなのかも」と、オオタくん。
「35で熟年かい? 軽く失礼だよ」
少しむっとしたふりをする。いや、事実おっさんなのでそんなに腹は立たない。年をとるって哀しいね。
「何の話です?」
「あ、スドウ。カトリさんがさ、課長に気があるんじゃないかって話だよ」
「…へえ」
「なんだよ気がないなー。カトリさんだよ? 興味ないの?」
「いや、あの…彼女です」
「「「「………はい?」」」」
「いや、あの、カトリさんは、僕と付き合って、マス」
「…ほらね」
言うと、3人は一瞬黙ったあとに。
「ねえ、カトリさんてどんな感じ?」
「どんな感じ?」
「どんな感じ?」
と、一気にスドウくんを質問攻めにし始めた。
ああ、若いねえ…。若いねえ……あ、おじさんちょっと涙が…。
(2003/12.24 1426文字)
おじさんって好きだなあ。こういう好々爺的なおじさんが好きです。
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