051/携帯電話


 通話ボタンを押した。―――お終い。
 その瞬間、ココロの中でも何かが切れたような気がする。
 週に2回程度の電話。時間にして、30分くらい。携帯越しに、声を聞いて、なんでもないこと話して。
 それだけ。
 手の中の、携帯電話。
 こんなちっちゃなツールでしか、あたしたちは繋がっていられない。
 東京と大阪。
 距離は、残酷だ。
 こんなに好きなのに、なのに、会うことすらままならないなんて。
 最近じゃ、電話もあまりしない。メールも、しない。
 あたしが大学の受験を間近にしているから、たぶん気にしてるんだと、思う。じゃないと、じゃなかったら、どんな理由があるんだろう。あんまり考えたくない。
 彼は25歳、あたしは18歳。
 年の差、7歳。
 たいしたことないよ、言い聞かせるけど、社会人と学生って言うのは、結構痛い。まず基本的な時間帯が合わない。それに、状況も違うし。
 たとえば、―――今だってそう。
「……浮気とかじゃ、ないよね…」
 ぽつりと呟いて、唸る、あたし。
 いや、そういうことは、ないと信じたいけれどもけれどもけれども。
 相手はオトナだ。こっちはコドモだ。ナメられてたりして…。まさか。……まさか。
 携帯の着歴を見る。
 電話するのは彼だけだから、当然彼の名前ばかりがずらずらと表示される。ずらずら、とは言っても、まだ今月5回だけだけど。……今日はもう20日なんだけどな。たった5回かよ。ほんとに、あたしって愛されるのかなあ。
 そういえば、好きって、最近言ってくれない。いや、あたしも言ってないけど。
 さっきの通話時間、24分。
 ………少ない。
 これって我侭? ……そうでもないと思うんだけど。恋人に安心感を求めて何が悪い。そうだよ、あたし彼女なんだよ。なのに、何でこんなに切ないんだよ。
 メモリから、彼の名前を呼び出して、眺める。
「…ばか」
 莫迦らしい、電源ボタンを押して、画面をリセット。
 そのままベッドに横になる。
 今、何してるのかなあ。ひとり、だよね。ていうか、ひとりじゃなかったらそばには誰がいるんだろう。女の人、かな。でも一人暮らしの男の部屋に、女って。…それって、やることはひとつだよね。ひとつっていうか、なんていうか。
 そんなわけないじゃんって、言い切れないよぅ。
 女の子のトモダチ多いらしいし、基本的に、女の子にはやさしい人だし。
 ……………。
 ……凹んできた。
「!」
 携帯の振動に、跳ね起きる。メールじゃない、着信のバイブ。
 表示された名前は、―――彼のもの。
 なんだか気持ち悪くて、しばらく眺めるけど、切れると嫌だから、出た。
「もしもし…」
「もしもし?」
「…どうしたの?」
「ちょい、声…聞きたくなって」
 照れたような声に、毒気を抜かれる。
「え、何、さっき電話したばっかりだよ」
「いや、それはそうなんだけど……て、いいじゃん、好きな女の声、聞きたいって思うのは普通だろ?」
「………。そうだね」
 じわり、ことばが、胸の中で融ける。
 好き。
 久し振りのワード。
 電波越しなのが、ちょっとだけ残念だけど。
「ねえ、」
「うん?」
「すきだよ」
「………俺も」
「えへへ」
「な、来週さ、そっちに出張あるんだけど…会えないかな?」


(2003/08.07 1263文字)



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