052/真昼の月
死体が見つかった。
学校の近くの、川、河川敷、雑木林の中から。
半分近く白骨化していたけれど、身元はすぐに判明した。
サエキチカゲ。14歳。
生きていたら、私と同い年の。こんな名前だけど男の子。
3年前。チカゲがいなくなったとき、周りはたいして騒ぎ立てるようなことはなかった。
賢い子だったけど、突然ふらりとどこかに言ってしまうような、いわゆる放浪癖のあるコドモだったから。
いなくなっても、そのうちまたふらりと帰ってくるだろう、みんながそう思っていた。
だけど彼がいなくなってから3年。チカゲが帰ってくることはなかった。
そして。
彼は微生物に分解されかけた姿で。
発見された。
「それは、どういう意味?」
学校の屋上で、フェンスを背にして、サエキヨウタは私に言った。何処か、諦めきったような、声で。
「ヨウタが、チカゲを殺したの?」
ヨウタの目はチカゲと同じ色をしている。当たり前かもしれない。彼らは双子なのだから。
「また、突飛な発想、だね」
「かもしれない。私自身、こういうのってどうかと思う」
「根拠とか、証拠とか、そういうのって訊くのはアリかな」
「はじめは、私なんかがことの真実を知ることなんか出来ないって思ってた。でも、根拠も証拠も、ヨウタがくれた」
彼はうっすらと目を細めた。それは、翳っていた陽が突然さしたからかもしれなかったし、そうじゃないかもしれなかった。
「こういうの、望んでいたのはヨウタ自身なんじゃないの?」
「…そうかも。しれないね」
前髪を掻きあげて、ヨウタはちいさくわらった。
おかしな行動はいくつもあった。
思わせぶりな態度。言動。疑いが確信に変わるための手がかりは、すべて彼自身が与えてくれた。
「そうかもしれない」
ずるりと、彼は座り込んだ。薄汚れた剥き出しのコンクリート。汚れきったのは一体何だったのだろう。
「制服、汚れちゃうよ」
「そんなこと、気にするんだ」
律儀だね、かすかにわらって、言った。
「でもね、ひとつだけ、気になることがあるの」
ヨウタと目の鼻の先まで歩み寄って、屈みこんで言った。
「全部、ヨウタひとりでやったの?」
「……そうだよ」
目は何も言わずに、口だけが声を発する。ねえ、それは真実なの?
どれが真実なの?
教えてください。
「本当に?」
「どうして嘘を言わないといけないの?」
「だって、ヨウタは誰を殺しても、チカゲを殺したりなんかしない」
「どうして? いちばん身近にいた人間だからこそ、憎しみだってあったかもしれないよ」
「それはないよ」
「………そうかもしれないけど、それはただの可能性だよ」
太陽が雲に隠れて、ひかりが翳った。
「僕のこと、どうするの?」
「警察に突き出す?」
「それが、良識ある人間のすることだよ」
「じゃあ、良識なんて要らない」
「放っておいたら、本当の事を知った君を、僕は殺すかもしれないよ。ひとりもふたりも、同じだから」
「そうしたら、また私の代わりを探すの? それでまた、殺すの?」
「繰り返すかもしれない」
「そうしたいなら、そうすればいいよ。私は、ただ、ヨウタの口から、本当のことを聞きたいだけだから」
「僕が、チカゲを殺して、埋めた。真実はそれだけだよ」
「……。わかった」
立ち上がると、ヨウタは私のほうは見ないで、コンクリートを見ていた。否、力なく垂れた掌を、見ていたのかもしれない。
そこには、何があるのだろうか。
私には見えない何かが、ヨウタには見えているのかもしれない。
ひとりになった屋上で、空を見上げる。
空の殆どが雲に覆い隠されたなかで、ぽつりと。太陽とは反対側に。月が。
月だけが、僕を見ていた。
真昼の、白い月が。決して自己主張をしない、だけどそこに確かにある、月が。
月だけが。
僕"たち"を見ていた。
「チカゲ」
呟くと、ココロにことばが染み込んで馴染んで、痛みが。
した。
ぴたり、
頬を打つしずくに、目を閉じた。
泣いている。
泣いているのは、誰だろう。
泣いているのは、誰だろう。
泣いている。
「―――響子、」
僕は。
僕は、
(2003/12.16 1608文字)
2003年、ジュヴナイルステークス年末グランドチャンピオンシップの草稿てか、原案。
いいとこしか書いてない。
めんどいとこは全部はしょって。最悪だあ…。
死体を埋める話。埋め「た」話。オチとしては最低ですな。
とはいっても、こんな話しかかけない私。筆を折れと?
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