062/オレンジ色の猫


 いた。
 呆然と見送る。
 いるんだなあ、オレンジ色の猫。ほんとに。想像の産物だと思っていたよ。
 塀の上をするするっと音もなく。
 顔だけで見送る。
 珍しい。イイモン見たなあ。
 ちょっと得した気分で、家路をほてほて歩く。
 角を曲がって、もうすぐ家だ、というところで。
 目の前を、あの猫が横断していった。微妙な角度で上を向いた尻尾は遊覧船のようにゆらゆら。
 本日2度目の遭遇にして、人生2度目の遭遇。
 好奇心をそそられて、ととっと追いかけてみる。猫はまっすぐ、今度はアスファルトの上を優雅に歩いていく。
 その後ろを、つかず離れずの距離感で追いかけていく。
 猫はこちらに気づいているのかいないのか、むしろ我関せずって感じで。
 ついて行くこと数分。
 猫が立ち止まった。ひょいっと近くの塀に上がって、その敷地内に消えた。
 塀は肩までしかなかったので、中を覗いてみる。
 じいさんがいた。猫を持ち上げて、「たかいたかーい」とか言っている。耄碌じゃないよな?
 いぶかしんでいると、じいさんはふと猫の腹をまじまじと見だした。
「こりゃいかんのう」
 と、言ったかどうかは定かではないが、そんな感じで、家のなかに入っていくと、スプレー缶を持ってでてきた。猫をむんずと捕まえて、膝の上で腹を見せる格好にする。
 すると。
 ぷしゅー。
「………」
 絶句。
 なんだあのじいさん。猫の腹にカラースプレーとかかけちゃってますよ奥さん。
 ああ、どんどんオレンジ色に染まっていく。
 オレンジ色の猫。
 ちゃちいな、何だこのタネ証しは。
 じいさんがこっちを見た。睨まれる。
 にへー…とわらってごまかして、回れ右。
 空想がぶち壊しだな。染めてやがる。
 オレンジ色の猫。いないのかなあ、天然色の猫。
 いないんだろうなあ、現実味ありすぎだよ。


(2003/12.16 713文字)



空想とはかくも簡単にぶち壊されるもの。
オレンジ色の猫なんてマンガや小説の中だけのもの。私の認識。
夢がないね。そりゃどうも。



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