068/蝉の死骸


 夏が終わる。

 じりじりと照りつける太陽が、背中を焼く。
 見下ろした視線の先には、道路の真ん中で、動かない、蝉。
 汗が、額からにじみ出てこめかみを伝う。

 たった2週間の、短すぎる生涯は、どうだった?
 何年も土の闇の中で過ごして、出てきた、この世界はどうだった?
 僕にはすべて、意味をなさないこの世界も、お前にとっては楽園だったかい?

 なあ、どうだった?

 僕は終わりにしたいよ、お前みたいに。
 世界なんて、もう、終わってるのに。
 僕はただ、終われない。

 遠くで、蝉が鳴いている。
 あの蝉は、あと何日の命だろう。
 それを自覚など、していないのだろう。

 クラクションに振り返ると、黒い軽自動車があった。迷惑そうな顔をしたドライバーが、こちらを睨んでいる。
 僕は道の端によける。
 軽自動車はひとつクラクションを鳴らして走っていった。

 タイヤを免れた蝉は、まだアスファルトの上に。
 僕はそれから視線を引き剥がして、歩を進めた。


(2003/08.23 389文字)



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