086/肩越し


 逃げる兄の肩越しに。
 見えた景色。
 真っ赤に燃える町、逃げ惑う人じゃない人。
 此処は何処?
 此処は?
 逃げる兄の肩越しに。
 見えた世界の形相は。
 まるでこの世のものではないかのよう。
 否、この世のものであるはずがない。
 どうして。
 どうしてこんな世界が許される?
 どうしてこんな世界が存在していていいというのだろうか?
―――たすけて
 声が聞こえる。
 唸り声。
 地響きにも似た。
 声。
 どうして、
 こんな世界が存在していて良いのだろうか。


 町に落ちた爆弾。
 ひかりとともに地獄を大地にもたらした。
 音とともに、灼熱を大地にもたらした。


 すべては。
 この世のものではないかのように。
 残酷で、
 凄惨で、
 ありえない。
「お兄ちゃん…」
 肩越しの兄に、問い掛ける。
「これ、一体、なんなん?」
 兄はこたえなかった。
 でもそれが、すべての解答のような、気がした。


 しばらくして、
 町には黒い雨が降った。


(2003/09.18 365文字)



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