091/サイレン


 これで、終わる。
 これで、この一球で。
 額に汗が流れた。
 グラウンドが静寂に包まれる。
 遠くで蝉だけがうるさく鳴いていた。
 サイン。
 ちがう、それじゃない。
 サインに、首を振る。
 ちがう、それじゃ駄目だ。
 サイン―――数メートル先の指先と、塁を、視線が行き来する。
―――サイン
 よし、それだ。
 頷く。相棒は満足そうににやりと笑った。
 塁に目をやる。走塁の気配はない。あと一球。
 後一球で決まる。
 球を握る手に、自然と力が入る。
 まっすぐ、数メートル先の、ミットに向けて。
 これで最後だ。
 これで。
 両手を胸の高さまで上げる。ミットの、陰を睨みつける。
 振りかぶって。
 投げた。

 審判の声が、グラウンドに響き渡った。

 それと同時に、サイレンが鳴り響く。
 終わりを告げる、サイレン。
 守備に当たっていたチームメイトが、ぞろぞろと集まってきて、背中や肩を叩いた。
 帽子を脱いで、額をぬぐった。
 自然と笑みが零れた。

 1回戦、勝利。

 夏はまだ、始まったばかりだ。


(2003/08.21 399文字)



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