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定見(ていけん)を持つ  

 定見(ていけん)とは「他人の意見などにぐらぐらと左右されない、しっかりまとまった考え、あるいは意見」という意味である。日常的には「断固たる定見を持っている」などという使い方をされる。しかし、耳に蓋(ふた)をして他人の意見に耳を傾けようとしない頑迷固陋(がんめいころう)の頑固者のような人をいうのではない。

 よく似た言葉に「一家言(いっかげん)」という言葉があるが、これは単に「その人特有の理論あるいは理屈に基づいた独特の考え」という意味で、「一家言を有する人」というのは「一種独特のユニークな考えに拘っている人」ということになる。従って、正義あるいは合理性に基づいた考え方である「定見」とはかなり隔たりがある。ところが「葉隠」では、若者に「自分の定見を持つな」と説いている。

 一見、矛盾してるように見えるが、その意味するところは「若年にして凝り固まるな」という警告の意味で、相応の年齢に達したら「定見を持て」と示唆しているのである。士農工商の身分制度の中でいずれは人の上に立つことになる武士が他人の意見でぐらつくようでは到底人の上に立てる筈がないという訳である。従って、若い武士たちは幼少の頃から論語を読み始め、史書を読んで、中国の書籍から哲学を学んだ。

 人を説得するということは、机上の理論だけで他人を説得することは難しく、その人と同じ土俵の上で是非を論ずることが基本である。そのために彼らは、自らの理論の確立のために「常在戦場」の精神で現場に出て体験し実学を学んだ。

 今日においても、大企業では労働組合の幹部経験者が経営のトップになるケースはかなり多い。労働組合の幹部という現場を経験することによって働く人たちの心の中が見えるようになるのである。どんなに優秀な人でも、経営学や心理学を机上で学ぶだけでは現場の人たちの心まで理解することは出来ない。働く人たちの心の中は、自らを労働組合の中に置くことによってしか見えないのである。

 そういう意味では「可愛い子には旅させよ」という言葉通りである。「可愛い子には旅させよ」という言葉の意味は「いろいろな考え方に接し様々な経験を積んで物事の善悪や正義や本質を体得させよ」ということである。若い頃にはいろいろな人の考え方に接して試行錯誤の行動をすることが貴重なのである。

 このように経験と勉強の両方の蓄積によって少しづつ考え方の正しい基盤が築かれて行く。そして、その蓄積されたものが定見となる。「四十にして惑わず」という言葉もあるように、人間、四十歳ぐらいには揺るぎのないしっかりした自分の意見や考え方を持ちたい。

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